自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★金沢名所めぐり~「金沢の玄関口」鼓門とドームの威容~

2023年03月05日 | ⇒ドキュメント回廊

   JR金沢駅に到着した知人たちを乗用車で迎えに行くとき言葉は決まって、「鼓門(つづみもん)の下で待ち合わせ」である。個人的というより、市民の間ですっかり馴染んだ言葉ではないだろうか。何しろ、鼓のカタチをした、高さ14㍍ほどの2本の太い柱に支えられた門構えは圧巻である=写真・上=。待ち合わせ場所としてはとても目立つ。列車で金沢を訪れた知人たちは必ずといっていいほど、ここで記念写真を撮影を。そして、「JRはすごい投資をしているね」と。

   「鼓門」のデザインのもととなっているのが、金沢で盛んな伝統芸能である能楽「加賀宝生」の鼓とされる。そして、鼓門とセットになっているのが、3019枚の強化ガラスで造られた「もてなしドーム」=写真・下=。中は広場になっていて1万9400平方㍍(東京ドームの半分足らず)の広さ。ドームのサイドにバスターミナル、タクシー乗降場などが連なる。雨や雪の多い金沢で、「駅を降りた人に傘を差し出す、もてなしの心」を表現したドームだ。鼓門とドームは2005年3月に完成し、その10年後の2015年3月に北陸新幹線の金沢開業が始まる。で、この金沢駅東口広場を整備したのはJRではなく金沢市で、投資額は170億円にもなった。

   JRは民営化(1987年)以降、徹底したコスト主義を経営の柱に据えていて、金沢だからと言って特別なフォルムの駅はつくらないし、つくれないのである。北陸新幹線の駅はどの駅ものっぺりしとした、ワンパターンの建物である。そこで、金沢市が先手を打って、駅の玄関口に170億円を投じた。「金沢の玄関口」に見合う立派な母屋=駅をつくってほしいとのメッセージをJRに対し送ったのだった。

   この投資がなく、金沢駅をのっぺりとした新幹線駅にしていたら、JRと同時に行政にも批判が沸き起こっていたに違いない。一方で、「新幹線の駅が完成していないのに、170億円もの税金を先行的に投入してよいのか、他に税金を回すべきではないのか」といった議論も議会で白熱した。

   結果論で言えば、先行投資は奏功した。東京駅で赤煉瓦の駅舎をイメージするように、鼓門とドームが金沢駅のシンボルにもなった。また、2011年にアメリカの旅行雑誌「TRAVEL + LEISURE」の「世界で最も美しい駅」14の一つに選ばれた。鼓門の写真とともに掲載された記事では「未来観を醸し出したデザインの玄関」をその理由にあげた。ちなみに、1位はベルギーのアントワープ中央駅。2位はイギリスのセント・パンクラス駅などで、金沢駅は6位。こうした効果もあって、2012年ごろから欧米からのインバウンド観光客が徐々に増え始め、2015年の北陸新幹線の開業でさらに増えることになる。

⇒5日(日)夜・金沢の天気      くもり

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