先日久しぶりに金沢21世紀美術館に入った。中には観光客が大勢いた。21美は円形の建物になっていて、「正面」という概念はなく、いろいろな場所からの入り口がある。市役所側からの入り口で「チケットをください」と言うと、「きょうは休館日です」との返事。すかさず、「交流ゾーンでは作品が無料で見れますので、どうぞ」と丁寧な対応だった。休館日でもこれだけ人が入るのかと思うくらいのにぎわいだった。
せっかくなので無料ゾーンで楽しんだ。館内の市民ギャラリ―の壁に描かれている、色鮮やかな花や植物の文様。台湾のアーティストであるマイケル・リン氏の作品=写真・上=。金沢市民だったら、おそくらイメージが沸く。加賀友禅の模様だ、と。推測だが、マイケル・リン氏が金沢を訪れて加賀友禅の着物に描かれた文様が気に入ったのだろう。模様は加賀友禅の中でも古典的な図案のモチーフだ。そして、「加賀五彩」と称される藍、臙脂(えんじ)、黄土、草、古代紫の5色を基調に描いている。かなりのめり込んだ作品だ。
手前には壁と同じモチーフのロッキングチェアがある。この美術館を共同設計した妹島和世氏と西沢立衛氏によるデザインのイス。そして、このイスに座ると見えてくるアートが、空に向かって定規をあてる姿を描いたブロンズ像「雲を測る男」。ベルギーの作家ヤン・ファーブル氏の作品だ=写真・中=。作品目録によると、ヤン・ファーブル氏はあの有名な昆虫学者ファン・アンリ・ファーブルのひ孫という。
作品は映画「アルカトラズの鳥男」(1961年・アメリカ)から着想を得た、とある。サンフランシスコ沖のアルカトラズ島にある監獄に収監された主人公が独房で小鳥を飼ううちに、鳥の難病の薬を開発したという実話に基づく。映画の終わりの場面で「研究の自由を剥奪された時は何をするか」と問いに主人公が答えたセリフが「雲でも測って過ごす」だったことからこの作品名がついたとか。昆虫学者の末裔らしい、知的なタイトルではある。
これは自身の個人的な見立てなのだが、雲を測る男が白い布をまとうときがあり、これが空に映えてまるで生きた人物のような存在感がある=写真・下、2004年9月撮影=。何しろ屋上に設置されているので、大型の台風が接近すると倒れるかもしれないと、美術館のスタッフが布を胴体に巻いて、その上にワイヤーを巻いて左右で固定し、台風一過で取り外すそうだ。レアな日でしか見ることができない、「白い布をまとう男」になる。
⇒8日(水)午後・金沢の天気 はれ時々くもり