中村さんは、アフガニスタンで、長年、人道支援を続けている医師ですが、安倍政権の戦争法案に、反対している意見の記事がでていました。これは、是非広く読まれるべきだと思います。全文を、転載します。
(以下記事内容)
安保法案が成立すれば日本の一つの時代が終わると感じています。アフガニスタンから一時帰国して安倍さんの熱にうかされたような演説を聞き、はっきり言って正気なんだろうかと思いました。
自衛隊が国際NGOを救出できるようにする、駆けつけ警護するという想定があり得ないことだし、そんなことをすると、助かる命も助からない。支援は、その国の人たちの願いと保護を受けてやれることです。地域の住民や行政と信頼関係を築いて、自分たちの安全を保ってきました。それを無視することです。
法案をまっすぐに見ると結局は、アメリカをはじめとする連合軍に日本も参加するということです。「”平和”安全法制」「積極的”平和”主義」 ・・・平和が泣いています。
2001年の米軍による空爆から始まったアフガニスタンへの軍事介入の際、日本は憲法の制約から自衛隊を出せませんでした。だが、殺りくと残虐を平気で行ったあの仲間にだけは、死んでもなりたくない。
アフガニスタンでは、いまだに国民の半数が栄養失調状態です。人口増加に加えて、気候変動による干ばつで農業生産が著しく低下しています。
各家庭にライフルが1丁ずつあるような”兵農未分化”の社会ですから、住民は兵士にも農家にもなります。食べるものがなく、それでやむなく傭兵(ようへい)になるという人が、圧倒的に多いのです。
武力より食料
ペシャワール会が支援する平和医療団・日本(PMS)では、「緑の大地計画に取り組み、アフガン東部の一角に安定的に農業用水を供給しようとしています。
すでにクナール河からのマルワリード用水路27キロをはじめ、建設した取水設備で、耕作地1万数千ヘクタールを潤しています。水さえあれば日差しが強いので野菜がよく育ちます。いまの季節はスイカやトマト、キュウリなどがとれます。20年までにこの地域周辺の65万人が安心して生きていけるようにしたいと思っています。
この地域の治安は他の地域よりも非常によくなっています。みんな、三度のご飯を家族に食べさせ、故郷で暮らせさえすれば、銃は握りたくないのです。武力ではなく、食料がアフガニスタンの平和には必要だということです。
私たちの事業そのものは本来、テロ対策でも平和運動でもありません。タリバン政権下で00年に計画を開始した当時、餓死線上100万人という中でさえ、治安は良好でした。アメリカが「テロとのたたかい」といって軍事介入し、連合軍が国をぐちゃぐちゃにしました。
米軍が使ったクラスター(集束)爆弾は、人間の殺傷だけを目的に、子爆弾をばらまく非人道的な兵器です。ひとの国土をなんだと思っているのかという戦争でした。タリバンの幹部を殺すのに、建物を丸ごと爆撃して関係のない人もで殺しました。米兵2千人以上が亡くなり、地元では何十万人もが殺され、謀略と分裂工作が日常化しました。地元民を助けるはずの「治安維持活動」が、治安を破壊したのです。
ドイツの禍根
日本は空爆を支持しインド洋で米艦船への給油をしましたが、その活動はアフガン人にはあまり知られず、私たちの活動に幸いしました。軍服を着た自衛隊が目の前で歩き回ることがなかったので、信頼関係を辛うじて維持できたのです。
日本と似た立場だったドイツは、国際治安支援部隊(ISAF)に参加して兵士50人以上が亡くなったうえ、敵をつくりました。事実上、米軍の”助っ人”となっただけでした。ドイツ国内でのイスラム系移民への差別問題も重なり、取り返しのつかない禍根を残しています。
「米軍などの後方支援をする」といいますが、それは昔「輜重(しちょう)隊」と言い、権力そのものになるということです。自衛隊は当然攻撃され、日本国内でも破壊工作が行われるでしょう。私が敵なら、そうします。米軍と同様、現代戦の常とう手段だからです。その覚悟があるのでしょうか。つくらなくてもいい敵をつくり、イスラム教徒に対する偏見を共有し、危険な火遊びに運命を託すようです。
憲法9条は自衛隊の武力行使を制限してきました。これまでは、「ともかく戦争だけは嫌だ」という国民的な合意が、自民党だろうと、共産党だろうとあったと思います。今回の法案でその枠が外れてしまいますから、確実に破局を共にします。
法案に反対して声をあげる若い人たちが、「アメリカみたいになりたくない」と拒否するのは、事態を正確に見抜いているからです。日本ほど治安がいい国はないのに、なぜそれを自ら投げ捨てるのでしょうか。国益と称して何でもやる。武器を売り、国を売り、誇りを捨て、生命を軽んずる。欧米に迎合する卑屈な動きは、日本人として、とうてい耐え難いものがあります。多少の豊かさか命の安全か、どちらも選ぶかの岐路だと思っています。
(本田祐典記者)
しんぶん 赤旗 日曜版 2015年7月12日号掲載