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ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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韓国の非識字者の問題(2) 成人人口の7%がハングルの読み書きできない(?) 

2011-04-30 23:56:29 | 韓国の時事関係(政治・経済・社会等)
 <韓国の非識字者の問題(1) 「オンマをお願い」「あなたを愛しています」等から>の続きです。

 韓国について何か調べる際の定石は、まずgoogle窓にハングルでキーワードを打ち込んで検索することです。
 韓国の識字の状況について、私ヌルボが最初に打ち込んだ言葉は「문맹(ムンメン)」です。漢字だと文盲。日本ではかなり以前から差別語にあたるということで、現在では非識字者とよばれるようになっています。
 しかし、韓国では「문맹」の語はまだ広く用いられているようなのでキーワードにしたというわけです。それはそれで正解だったのですが、最近は韓国でも差別語との認識から、少なくとも公的機関や専門家・教師等は日本で「識字」にあたる言葉を文解(문해.ムネ)」、「非識字」のことを非文解(비문해.ピムネ)」と言い替えるようになった、ということを知りました。したがって、読み書きのできない人は「非文解者(비문해자.ピムネジャ)」です。
 おそらく日本でも、「文盲率」ならわかっても、「非識字率」といわれてもピンとこない人はまだ多いのではないでしょうか? 韓国で문해・비문해の語がどこまで一般化しているかは疑問です。비문해자(ピムネジャ)を含む文章を自動翻訳すると「碑文垓字」などと意味不明の同音漢字に訳出(?)されてしまいます。

 さて、以下いろいろ調べてみてわかったことを列挙します。
 主に参考とした記事は次の3つです。
[a]2003年10月8日「ハンギョレ」の記事(韓国語)「成人の25%がハングルかけず・・・政府の対策「目が見えず」
[b]2008年12月24日「中央日報」(日本語版)の記事「ハングルの文章理解できない韓国人が260万人」
[c]2010年11月3日「OhMyNews」の記事(韓国語)「非識字 成人600万人・・・識字教育は民主市民養成目的」

※以下、韓国資料の「文解」の字は「識字」に換えてあります。

(1)韓国では、1970年頃から長く識字調査も行われず、政府が前向きに識字問題に取り組むようになったのは最近(21世紀)になってからである。

(2)2008年の調査によると、韓国では成人人口の7%の約260万人が非識字または半非識字者である。

(3)70~80年代、労働運動の高まりの中で識字運動が展開された。その延長で、現在も各地の夜学で、主に民間のボランティア教師によって識字教室が開かれている。最近になって、識字教育に関する法整備が行われた。

(4)地方農村の高年齢の女性にとくに非識字者が多い。しかし近年は、国際結婚によるいわゆる「多文化家族」で、ハングルの読み書きが困難であったり、激しい競争教育で自ら学校制度の枠組みから離脱した青少年もいる。


 2008年国立国語院は全国の成人(19~79歳)1万2137人を対象に基礎識字調査を実施しました。これは1970年に統計庁が人口総調査実施の際に非識字率を調査して以来38年ぶりの公式調査でした。
 資料[a]では、政府が古い調査結果を基に非識字率を低く見積もっていると批判しています。また前年(2002年)に韓国教育開発院が全国成人3千人を対象に調査した結果を紹介しています。それによると、初等学校6年レベルの読み・書き・計算が全く不可能な「完全非識字者」が8.4%、少し複雑な読み・書き・計算が困難な「半非識字者」16.2%を含めると、成人4人中1人にもなります。【下グラフ】

    

 また「完全非識字者」は60~70代老人については34~76%にも及び、農村は42%、女性の場合は男性の3倍にのぼる等、高齢者・農村・女性の非識字者が多いことが明らかになったとのことです。
 [a]の記事では、政府がこれらの現実に目を向けて、全国的な識字調査と、識字教育のための財政支援や教師養成・教材開発等の施策を求めています。

 資料[c]は昨年11月の記事ですが、なぜか2008年の識字調査ではなく、2005年の人口調査の際のデータをあげています。それによると、15歳以上の人口3800万余人中、初等学校教育を必要とする人が5.5%、中学校教育を必要とする人が10.3%で、合計15.7%(約600万人)に達した、とのことです。【下グラフ】

    

 この記事では、識字教育に関わっている教師たちに取材をしています。以前は識字教育といえば九老工業団地の夜学のように、昼間働く労働者たちに、大学生有志が夜教えるという概念でしたが、その後も識字教育は続いていて、現在全国には300以上の夜学があり、ボランティアの教師たちが数千人にも達するとのことです。
 さらに蔚山市の中区庁の支援で、全国夜学協議会が開催した識字教師研修会のことも紹介されています。講師の言葉として、識字教育は単に言葉の習得にとどまらず「目的は民主市民の養成にある」と強調しているのはまさに「OhMyNews」の記事らしいところ。
※本ブログで、以前<韓国ドラマ「英雄時代」を読み解く>シリーズの中で「ヴ・ナロードとハングル普及運動」について記しました。1930年代の韓国の「ヴ・ナロード」も、ハングルを教えることにより民衆の社会意識を高めようとした運動でした。

 資料[b]は、上述のように2008年に実施された基礎識字調査の結果です。【下グラフ】
 内訳は、非識字率は成人人口の1.7%(約62万人)。「これは1966年の8.9%、70年の7%に比べ大きく減っており、国連開発計画(UNDP)が95~2000年に調査した先進国の平均値1.4%に近づいている」とのことです。
 また半識字者の割合は5.3%(約198万人)。ハングルは読めても文章を理解する能力がほとんどない人たちで、国立国語院は「銀行や官公庁で書類を作成するなど日常生活に必要なことを他人の助けなしで処理するのが難しい人たち」と説明しています。
※主要調査内容は、姓名・住所を書く能力や、提示された語を読む能力の確認と公機関のサイトにありました。

    

 また国立国語院のサイト内の調査目的を記した文書中に、「ソウルの初等学校3~6年児童100人中3~4人がハングルを解読するのが困難であることが知られている」とあるのは少し驚きました。(日本は?)

 ・・・ということで、前の記事で記したように、小説や映画等で、地方の農村で育った年配の女性が読み書きができないということは、韓国では稀(まれ)というものではないようです。ただ、近年識字率は向上しているとみてよさそうではあります。

★日本は、すでに江戸時代後半には寺子屋の普及等でイギリスをも上回る世界一の識字率だったといわれます。
 現在でも、ウィキによると世界でトップクラスの99.8%という識字率です。
 しかし100%ではありません。
 たとえば差別等の厳しかった頃、家が貧しいため小学校教育からも取り残された人たちがいました。私ヌルボは、20年ほど前、59歳になって初めてで同和教育の一環として開かれている識字学級で文字を教わった藤岡善美さんという高知県の女性のことを知りました。(年を取ってから文字を習うということは、とても大変なことだそうです。) 今の日本にもさまざまな事情で読み書きができない人は相当数いて、また識字学級で学んでいる人たちも大勢います。たとえば→コチラ
 こうした人たちに対する行政施策は決して十分なものとは言えないようで、いくら99%以上だからといっても識字率の高さを誇るべきではないでしょう。

★日韓双方の識字学級間の交流があるんですね。最近の地震をめぐってのメッセージのやりとりが<NPO法人 日本希望製作所>のサイトで見つかりました。

※2009年3月施行の韓国の識字法については→コチラのブログ参照。

 →<韓国の非識字者の問題(3) 選挙は自書式投票ではなくスタンプを捺す>に続く。
コメント (2)
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