ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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「東アジア100冊の本」のリストを見て考えたこと

2009-11-22 22:18:10 | お知らせ、その他いろいろ
 全羅北道・全州といえばピビンパで有名。私ヌルボも昨夏行きましたよ。ピビンパもさることながら感動したのがテポチプ! まあここらへんの話はまたいずれ、としまして・・・

 その全州から帰って少し事後学習したら、いやーなかなか歴史と文化の町なんですねー。金沢と姉妹都市というのがうなずけます。

 現在も<全州国際映画祭>をやったり、いろいろ国際的な催しをやってるようですよ。
 11月19日の「毎日新聞」夕刊の記事によると、10月24・25日には第4回韓国首相杯世界アマ囲碁選手権大会(韓国アマチュア囲碁協会主催)がこの全州で開かれたそうです。結果はというと、第1・2回そして今回と韓国選手が3回優勝とのことです。韓国の囲碁についてもネタはいろいろありますが、それもまたいずれ、としまして・・・

 やっと本論。
 10月30日「毎日新聞」に2段の小さい記事で「東アジアの100冊 日本から26冊を選択」という記事がありました。
 日中韓など5地域の編集者が組織した「東アジア出版人会議」が東アジアで共有すべき人文書「東アジア100冊」を選び、29日同会議・全州大会で発表した、という内容です。
 100冊の国別内訳は、日中韓の3国がそれぞれ26冊、台湾が15冊、香港が7冊で、各国ごとに著者を選び、その主著を選定したとのことです。
 しかし、共同通信の記事を合わせても日本の本は26冊中の7冊しか書名がわからず、韓国は金九「白凡逸志」と李基白「韓国史新論」の2冊だけ、全貌はわかりませんでした。

 その後続報を待っていたのですが、やっと先と同じ19日「毎日新聞」夕刊に「東アジア読書共同体を」という見出しで<東アジアの100冊>の記事が載りました。そこでは日本については全26点が紹介されていましたが、他はごく一部だけ。で、<毎日jp>のサイトでようやく全リストを知ることができました。以下の通りです。

東アジアの100冊:全リスト
<日本>=全26点
●南北朝の動乱(佐藤進一・中公文庫)    ●講義録(丸山真男・東大出版会)
●共同幻想論(吉本隆明・河出書房新社)  ●苦海浄土(石牟礼道子・講談社)
●日本の古代国家(石母田正・岩波書店)  ●都市政策を考える(松下圭一・岩波新書)
●世界の共同主観的存在構造(廣松渉・講談社学術文庫)●自動車の社会的費用(宇沢弘文・岩波新書)
●文化と両義性(山口昌男・岩波現代文庫) ●影の現象学(河合隼雄・講談社学術文庫)
●狩猟と遊牧の世界(梅棹忠夫・講談社学術文庫)●無縁・公界・楽(網野善彦・平凡社ライブラリー)
●古典の影(西郷信綱・平凡社ライブラリー)    ●万葉集抜書(佐竹昭広・岩波現代文庫)
●戦時期日本の精神史(鶴見俊輔・岩波現代文庫)●精神史的考察(藤田省三・平凡社ライブラリー)
●都市空間のなかの文学(前田愛・筑摩学芸文庫)●分裂病と人類(中井久夫・東大出版会)
●意識と本質 精神的東洋を求めて(井筒俊彦・岩波書店)●字統(白川静・平凡社)
●全体を見る眼と歴史家たち(二宮宏之・平凡社ライブラリー)●天皇の肖像(多木浩二・岩波書店)
●自然の慈悲(伊谷純一郎・平凡社)     ●天皇の逝く国で(ノーマ・フィールド・みすず書房)
●小さなものの諸形態 精神史覚え書(市村弘正・筑摩書房)●精神史(林達夫・平凡社ライブラリー)

<韓国>=全26点
●白凡逸志(金九)               ●意味から見た韓国の歴史(咸錫憲)
●韓国医学史(金斗鐘)            ●韓国科学史(全相運)
●韓国音楽史(張師)            ●韓国近代文芸批評史研究(金允植)
●韓国数学史 数学の窓から見た韓国人の思想と文化(金容雲・金容局) ●知訥の禅思想(吉熙星)
●韓国儒学思想論(尹絲淳)         ●韓国社会史研究 農業技術の発達と社会変動(李泰鎮)
●ガリレアのイエス イエスの民衆運動(安炳茂)  ●韓国戦争の勃発と起源(朴明林)
●韓国の労働運動と国家(崔章集)     ●風流徒と韓国の宗教思想(柳東植)
●揺れる分断体制(白楽晴)         ●韓国史新論(李基白)
●古画鑑賞の楽しさ(呉柱錫)        ●時間との競争 東アジア近現代史論集(閔斗基)
●戦争と社会 私たちに韓国戦争は何だったのか(金東椿) ●韓国文学史の論理と体系(林熒澤)
●韓国美術の歴史(金元龍・安輝濬)    ●運化と近代(朴熙秉)
●韓国人の神話(金烈圭)           ●韓国文学通史(趙東一)
●眼と精神 韓国現代美術理論(金福栄)  ●風景と心(金禹昌)

<中国>=全26点
●詩論(朱光潜)                ●中国建築史(梁思成)
●中国法律と中国社会(瞿同祖)       ●中国哲学略史(馮友蘭)
●中国文化要義(梁漱溟)          ●原儒(熊十力)
●漢語史稿(王力)               ●魏晋玄学論稿(湯用彤)
●中国歴史概要(翦伯贊編)         ●中国の伝統美学(李澤厚)
●仏教と中国伝統文化(蘇淵雷)       ●簡明な中国歴史地図集(譚其驤)
●近代中国社会の新陳代謝(陳旭麓)    ●古代を疑う時代を脱する(李学勤)
●村落からみた文化と権力(王銘銘)     ●明清時代の士大夫研究(趙園)
●寒柳堂集(陳寅恪)              ●談芸録(銭鍾書)
●郷土中国(費孝通)              ●現代中国思想の興起(汪暉)
●儀礼のなかの美術(巫鴻)          ●兵は詐を以て立つ 「孫子」を読む(李零)
●アヘン戦争から五四運動まで(胡縄)    ●中国文学史新(章培恒、駱玉明)
●中国政治経済史論 1949-1976(胡鞍鋼)  ●東亜儒学九論(陳来)

<台湾>=全15点
●政道と治道(牟宗三)            ●中国文化の展望(殷海光)
●中国芸術の精神(徐復観)         ●日據下における台湾の政治社会運動史(葉栄鍾)
●中国人の性格 総合学際的検討(李亦園、楊国枢編) ●中華民族の花果零落れを説く(唐君毅)
●歴史と思想(余英時)            ●中国哲学の精神とその発展(方東美)
●中国の青銅器時代(張光直)        ●思想と人物(林毓生)
●万暦十五年(黄仁宇)            ●幽暗意識と民主伝統(張灝)
●現代精神と儒家伝統(杜維明)       ●台湾歴史図説(周婉窈)
●世紀にまたがる風采と文才 現代小説二十家(王徳威)

<香港>=全7点
●中国歴代政治の得失(銭穆)         ●自由と人権(張佛泉)
●香港と中西文化の交流(羅香林)      ●黄土と中国農業の起源(何炳棣)
●中国現代小説史(夏志清)          ●中国の古代服飾の研究(沈従文)
●新・中国文明起源の探求(蘇秉)

さて、このリストからわかることは・・・

 日本の26冊、やはり<名著>が並んでいます。私ヌルボは5冊くらい読んだかなー、難しいので挫折した本も何冊か・・・。
 しかしガチガチの学術書ではなく、外国の読者にも受け入れられるような普遍性といったものをもつ、そして何よりも内容的に深みのある書物、という観点からみるとそれなりに妥当な線ではないかと思われます。
 ただ、26冊中岩波が8冊、平凡社が7冊というのはちょっとお手盛りという印象も受けてしまいますが・・・。
※<東アジア出版人会議>に関わっている出版社は、日韓のみをみると、日本では岩波書店・平凡社・みすず書房・筑摩書房の4社、韓国では創批社・四季節・ハンギル社・トルペゲ社・一潮閣・ジホ出版社の6社のようです。

 10月30日韓国の「中央日報」は比較的くわしく報道していましたが、その中で「 韓国選定図書の「偏向性」に対する指摘もあった。咸錫憲、白楽晴、崔章集、金東椿ら進歩的人物たちの著述が多数選ばれた」とあるのはナルホドといった感じ。安炳茂も<民衆神学>の創始者だし・・・。あとは韓国の各分野の通史のオンパレード。<進歩派&民族主義>と簡単にレッテル貼られそう?

 日韓以外の中国・香港・台湾は、それぞれ<国家的な思惑>が読み取れそうですね。

 中国はさすがに格調高そうな本が並んでいますが、現政府からクレームのつきそうな近現代関係の生々しいテーマの本は入っていません。あ、そういう本は選定以前に出版自体が問題になる?
 香港・台湾もそれぞれに中国をにらみつつ、かつ自らのアイデンティティを考慮しつつ考えたのでは、ということがなんとなくうかがわれるような書目のようです。

 「毎日新聞」の記事によると、「「次は文学の100冊」(台湾)など、未来志向の提案も議論された」とのこと。ヌルボとしてはそちらの方を期待したいところです。
 日本の小説は村上春樹はじめ東アジア諸国にいろいろ訳されているのに、逆方向はホントにわずかですからねー。
コメント
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