ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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金大中元韓国大統領 拉致事件以外にも、幾度も生死の岐路が・・・

2009-08-19 16:54:47 | 韓国の時事関係(政治・経済・社会等)
 昨8月18日金大中韓国元大統領が逝去しました。私ヌルボも思うところがいろいろあります。冥福を祈ります。
 予定を変更して、彼が85年の生涯で、何度も立たされた「生死の岐路」の一つについて記します。
 ネタの主な出所は、木村幹「韓国現代史」(中公新書)です。
  
 1950年6月25日午前4時、北朝鮮軍が38度線を越えて侵攻を開始した。朝鮮戦争の勃発である。当時金大中は、自ら経営する海運会社・木浦商船の仕事でソウルにいた。人民裁判を目撃して脱出を決意した彼は漢江を渡し船で渡り、直線でも320キロある木浦まで約20日かけて歩き通した。しかし彼が木浦の自宅兼会社に着いた時にはすでに北朝鮮軍は木浦に達していて、韓国軍の軍属だった弟や、町有数の資本家だった義父は連行され、金大中の家財道具も没収されていた。
 帰郷した金大中が家族と生活したのはわずか2日。<資本家>の帰郷を聞きつけた北朝鮮支配下の警察により連行され、2ヵ月の収監の後、9月18日に他の囚人とともに処刑場に送られた。しかし処刑予定の日、北朝鮮軍は木浦から突然撤退し、彼は九死に一生を得るのである。
 3日前の15日、米軍が仁川上陸作戦に成功したことがその背景にあった。
 金大中の回想によると、木浦で収容された「右翼反動分子」約220人中、助かったのは120名にすぎなかったそうだ。

 あるサイトには、「5回 の死ぬ峠と 6年の収監生活,10年間の軟禁そして亡命生活」とありました。
 1973年、東京のホテル・グランドパレスから拉致された事件は、多くの日本人の記憶に残っています。
※中薗英助がこの拉致事件に迫った「拉致」(現代教養文庫・新潮文庫)は映画「KT」の原作本(今は出ていない)。読み応えがある本ですが、どのあたりが事実とフィクションの境界なのかが私ヌルボにはよくわかりません。
   

 ※70~80年代、彼が軍事政権によって弾圧されていた頃は、日本のわれわれ(?)は金大中は親共政治家かなという先入観がありましたが、上記のようなことを知るとそれが錯覚だったことがわかります。

 その他の「生死の岐路」としては以下のものがあります。
 1971年。彼は交通事故を装った暗殺未遂事件に遭っている。
 1980年5月、政治権力を握った「新軍部」は、9月軍法会議で、光州事件を背後で企図したとして、彼に内乱陰謀罪等の罪名で死刑判決を下した。

 「5回 の死ぬ峠」ということは、上記以外にも何かあるのでしょうね・・・・?
 とにかく、文字通り波瀾万丈の人生としかいいようがないですね。しかし結局は凝りに凝ったスゴロクを<上がり>で終わったような人生です。それも<大統領>で十分すぎるほどの上がりなのに、<ノーベル賞>までつくとは・・・・

 最初にあげた木村幹「韓国現代史」はお薦め本です。
 ただ、このタイトルはダメ!
 韓国に関心がある人でも、これでは政治史の概説書かな?と思ってしまうのでは?
 私ヌルボもそう思って、買った後しばらくツンドクのままでした。
 が、たまたまチラッと真ん中あたりを開いて見てみるとオモシロイではないですか!
 北朝鮮軍侵攻の情報に接したとき、李承晩大統領は「魚釣りを楽しんでおり、・・・それをただちにやめなかったと言われている」とか、高麗大学の学生会長だった李正博の、朴正熙や鄭周永とのエピソード、金大中と金泳三との間のいろいろ・・・・。
韓国の戦後を代表する政治家たちの回顧録や伝記等を参考に、興味深い具体的事実に基づいて政治の流れをわかりやすく叙述しています。
 せめて「なるほど! 韓国現代史」ぐらいにでもすればよかったのに。最近の雨後のタケノコ的新書とは違うぞ!という中公のプライドが邪魔しちゃったのかな?