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歩くことが唯一の趣味ですから。

是川縄文館

2021-05-01 | Weblog
すみません回送中です、と電光表示したバスが行ってロータリーを回ってきたやつに乗り、
30分ぐらい揺られて終点で下りると目の前に是川縄文館があった。



平成9年(1997年)6月に出土した合掌土偶が平成21年(2009年)3月19日に国宝指定
されて、平成23年(2011年)7月10日に開館したのがこの施設だ。開館10周年にあたる。
もっとも、それ以前に昭和38年(1963年)開館の是川考古館など埋蔵文化財の保存管理と
展示を行う施設がいくつかあり、国宝指定を受け機能を集中させたらしいことがチラシに
書いてある。



順路の通り進むと最初に展示してあるのが漆塗りの弓(写真の上のほう)と漆塗りの太刀
(写真の下のほう)だった。そういえば縄文時代に漆器が既に作られていたという。千葉
の国立歴史民俗博物館でそんな展示を見たことがある。弓は狩に使われただろうけれど、
太刀は狩に使わないし、戦闘用とも考えにくいから太刀も弓も祭儀用だろうか。



木胎漆器があった。木の器に漆を塗ったもの。塗る前に、縄文のような模様が彫ってある。
ずいぶんと手間のかかる工芸品をこの当時の人たちは拵えたものだ。



漆塗りの土器もあった。これなどは縄文土器を焼いた上に漆を塗ったのだろうか。木器でも
土器でも似たような紋様が彫ってある。千葉の歴史民俗博物館では、編みカゴを模した文様
ではないかと学芸員さんが言っていた。カゴは残りにくいけど、土器は残りやすいから多数
出土しているのだろうと。



漆器も木製より土器のほうが残りやすいのだろう。こちらの土器にも漆が塗られているけど、
よく見ると赤いところと黒いところがあり、2色でデザインしてある。素焼きみたいな土器
や、煤けた土器は見慣れているけど、こんな明確なカラーリングは珍しい。



黒びかりした土器は、焼き上げた直後の熱い土器を落ち葉などで覆い、土器の熱で焦がして
炭素を器に吸着させたものと考えられている。是川中居遺跡の大洞式土器の多くは、表面を
丁寧に磨いてあって土器とは思えないほど黒びかりしている。漆を塗ってツヤを出したもの
まである。それらも祭祀用だろうか。



赤色の顔料は、赤鉄鉱などのベンガラが多く使われていて、土器の全体を赤く塗ったものや、
黒く焼いた上から文様の部分だけを赤く彩色したものがある。さっきの赤黒コントラストは
そうやって仕上げたものだろう。手間のかかることを……!



ちなみに漆は塗装だけでなく、破損した土器の継ぎ目を接着する目的でも使われているので、
出土する土器の継ぎ目に漆が付着していることがよくあるそうだ。同じ目的でアスファルト
もよく使われ、土器の継ぎ目についているのが見つかる。



さて漆のほうは自然に生えているものだけでなく、栽培した漆が使われていた。木胎漆器の
木材も、自然に生えている樹木だけでなく漆器用に栽培した樹木が用いられていた。石器で
伐採して加工していたことになる。



伐採して得た木材をこのように石器でくり抜いて器の用に適した形に整える。職人さんだ。
農家さん武家さん商家さん以前に職人さんが現れた。狩猟漁労採集職工は、百姓や武士や
商人より古い仕事かもしれない。古い職業を新興の階層が見下す。



丁寧に文様を彫っていく。見下したかと思えば急にクールジャパンとか持ち上げたりする。
漆器は英語でジャパンだから、縄文時代からやってる漆器づくりの伝統はクールジャパン
にそれこそ相応しいかも。



文様を彫った上から漆を塗って仕上げる。こうして出来た木胎漆器が1万年以上も埋もれて
何かの加減で腐らずに残り遺跡調査で発掘されるのを待っていたわけか。



ところで国宝はといえば国宝展示室に一体だけ、つまらなそうに体育座りして待っている。
よく見ると体育座りではなく、胸の前で手を合わせているので合掌土偶という。浣腸土偶
に見えなくもないので、ケースの周囲をぐるっと回って見定めようとしたら!



このタイミングで自分のスマホから警報音が出たので、ケースに近づきすぎてアラームが
鳴ったのかと思ったが、スマホで警告されるのも変な話である。画面を見ると地震速報で、
それなら心配ないと感覚が麻痺しているので土偶とさらに向き合う。



合掌土偶の背後に回ったとき、揺れが届いた。見物している人は他にいない。土偶と自分、
人型の2体が対峙している。というか後ろから襲いかかり、どさくさ紛れに盗もうとする
かのような按配だ。ケースがガタガタ揺れる。周囲に倒れやすい物もないので、慌てずに
背後から狙いを定める。



こっちからのほうがいいだろうか? 目を光らせていると、さすがに職員さんが(国宝の)
様子を確かめにきた。「大丈夫ですか?」と声をかけられ、何が大丈夫なのかと思いつつ
「はい」と我ながら異様な声で答えた。地震が怖いわけでもないのに、あんな声を発して
疑われなかったろうか?



平静を装いながら、身の危険を感じたのか両手を合わせて何かをお祈りしている合掌土偶
と1対1の対面を続け、地震も収まったし、津波の心配もないようだから、帰りのバスの
時間が来たらニセモノとすり替えたホンモノを持って帰った(ウソ)。


関連記事:   加曽利貝塚

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