アヌンツィアータを描き始めた。
人物画はモデル探しにいつも悩む。ことに聖母マリアは、創世記のイヴを超えて、神の被造物の中の最高傑作だから、腕によりをかけて美しい少女にしたいと、いつも願う。
2000年来、数多の巨匠が自分たち好みの聖母を描いてきた。イタリアルネサンスの画工たちが描いたマリアは、まるでユダヤ系の顔ではなく、金髪青い目だったり、ふっくらと庶民的にあどけない顔だったりする。
だから私も日本的な聖母マリアを描きたいと思う。
それにしても聖母の人生は辛いものだ。主の婢女として神の子を産み育て、最後にはその我が子が無実の罪で裁かれ、拷問を受け、磔される一部始終を全て見届けなければならなかった。
容姿の美しさもさりながら、そうした苦難に耐えられる精神力を含めて「神の最高傑作」である所以なんだろうけれど、マリアを描きながら、私はさまざま考える。今描いているこの子は、無残なものをたくさん見て、悲嘆の極限を舐めなければならない。
聖母マリアは、もちろん最後には昇天するのだけれども。
愛と感謝。