ザールの珠玉の田舎町(続)

 
 ユースホステルというのは大抵、街中にはない。ので、暗くなる前にユースに到着しなければならない、というのが、ユースを利用する場合の旅の鉄則。

 幸いまだ暗くはないし、人の姿もちらほらとある。犬を連れた人は地元の人、ということで、相棒、犬を連れてアイスクリームを食べている、リンゴのようなお腹をした年配の夫婦に、ユースへの道を尋ねた。
「ユーゲントヘアベルゲ? OK!」
 元気そうな赤ら顔のその男性は、ニコニコしながら、道順を説明しようとした。が、「あー」と頭に手をやり、「ちょっと説明しづらいところにある」……奥さんも、そのとおり、とばかりに頷く。

 男性はアイスクリームのコーンを食べてしまうと、「着いてきなさい」と、指をクイッとやって、靴音高らかに、私たちの先を歩き出した。奥さん、犬を引っ張りながら、まあ、あなた、あそこまで歩くつもりなの? というふうに肩を竦めて、ニコニコとついてくる。

「どこから来たのかい?」
「日本です」
「オーッ! 私も仕事で日本に行ったことがあるよ。富士山には4回も登ったよ。高いところが好きでね」
「わあ、私たちはまだ一度も」
「仕事で来たのかい? 旅行で?」
「旅行で」
「じゃあ、ホリデーなんだね! 良いところに来たよ。美しい町だよ、ここは」
「そうみたい!」

 日本にはほとんど紹介されない、丘の上に古城を頂く、渓谷にうずもれた小さな中世の田舎町。親切なドイツ人夫婦。可愛らしい犬。ホッとして嬉しそうに笑う相棒。
 心が躍り、口許が綻び、言葉が素直に流れ出す。午前半日、午後半日と、一日歩き詰めだったのに、自然、足取りも軽くなる。

 To be continued...

 画像は、ザールブルク、街中のイースター・ツリー。

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