ザールの珠玉の田舎町(続々々々々々々々々々々々)

 
 こうした景色が普通にあると知った後に、そしてまた、ごく当たり前にそこに暮らす人々もいると知った後に、コンクリートとアスファルトに覆われた貧弱な自然の日常で、人はどうやって暮らしていけるのだろう。
 私はごく素直に感嘆の溜息を吐いた。何て美しいんだろう、と陳腐で月並みな感想を述べた。それきり、食い入るように車窓の景色を見つめていた。ハンスさんもまた、これがこの辺りのティピカルな田舎の風景だよ、とだけ言って、あとは何も喋らずに運転していた。

 ルクセンブルクの農場をまわってから、ハンスさんはザール川に沿って車を走らせた。ザールブルクへ戻ったときにはもう、3時間も経っていた。
「午後はザール城や旧市街を見てまわったらいいよ。ザール城まで送ろうか、それともユースホステルまで?」
「ユースホステルまで」
「OK」

 だがハンスさんはユースには向かわずに、山上へと車を走らせる。まだ葉のないブドウ畑の傾斜の道を登り切ると、そこにも、ルクセンブルクと同じ、だがもっともっと素朴な、農家と果樹の点在する一面の緑の農場が広がっていた。
 ハンスさんが嬉しそうに私たちを眺める。ルクセンブルクの農場を案内したときの私たちの様子に、気を好くしたハンスさんが、ザールブルクの近隣の村にも、遠回りして寄ってくれたのだった。

 もし、ドイツで最も印象に残った景色はどこかと訊かれたら、私はこの、アイル(Ayl)という村の名を答えるだろう。ほんの一瞬、偶然の幸運によって連れられて、思いがけず眼にすることのできた、小さな村の名前を。

 To be continued...

 画像は、ザールブルク、ザール城近く。

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