ザールの珠玉の田舎町(続々々々々々々)

 
 蛇行して流れるザール川は、ここメトラッハ(Mettlach)でほぼ180度に湾曲し、流れてきたのと同じ方向へと流れてゆく。森に覆われたこんもりとした山の背と、それを取り囲む川が、こちら側にめり込んでいるように見える。
 このザール川の湾曲(ザールシュライフェ)は、後で調べてみると、ドイツで最も美しいループと言われ、自然の造形美として、国内では有名な景勝地であるらしい。確かにドイツ人観光客らしい人々が、入れ替わり立ち替わりやって来ていた。

 ユニークな自然の壮観に眺め入った東洋人二人、そしてその様子を喜ばしそうに見つめるドイツ人一人は、ここでもまた長いあいだ立ち尽くしていた。

 ところで相棒は、発音が聞き取りやすいから、と、英語よりもドイツ語のほうを好んで使う。それに相手にとっての母国語を話したほうが、その旅行者に対する相手の印象や対応が全然違ってくる、という主張も加わって、十分に喋れも聞き取れもしないくせに、まず一声、ドイツ語で尋ね、あるいは答えようとする。

 それを疑問に思っていたらしいハンスさん、「なぜあなたは、片言のドイツ語を話すんですか?」と相棒に尋ねる。相棒はただただ笑っている。……いつも笑っている(が実は鋭い)、というのが、第三者の若者たちのあいだに密かに広まっている、相棒の評価。
 で、代わりに私が答える。
「彼はドイツ文学が好きなんです。ゲーテとか、マンとか、カロッサとか」
「オー!」ハンスさんが感心して、それから、自分は最近、本を読まなくなった。眼が疲れるから。その代わりにDVDを観るのだ、と喋り始める。

 ドイツ人がこうやって、何かと自己紹介・自己主張するのにも、全然辟易しないのは、自分と他人との人格(personality)の境界がはっきりとあって、そうした他人との関係があくまで対等で、自己評価と同じ評価を他人にも求めるというところがないからだろう。

 To be continued...

 画像は、メトラッハ、ザールシュライフェの展望台。

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