夢の話:新しい特殊能力 その2

 
 念じることで、何かの物質に自分の身体を吸い込ませる、あるいはそれを通り抜けさせる、という感覚を憶えてからは、さらにもう一つ、新しいことができるようになった。それが、瞬間移動。

 私の場合、厳密に言うと瞬間移動ではない。追いかけてくる奴らにつかまりそうになったとき、どこか、もっと安全な場所を一心に念じる。すると、その場所に身体が吸い寄せられる。まるで上昇気流に乗ったときのように、物凄い力、物凄いスピードで、ギュイィィーン、と吸い寄せられる。ので、結果的に、あっちの場所からほぼ一瞬のあいだにこっちの場所へと移動した、ということになるわけ。
 この、あっと言う間に吸い寄せられるという感覚は、空を飛んでいるハエが運悪く掃除機に吸い込まれるときのごとく、当惑と自暴自棄の感覚であって、愉快さはない。それこそ、ヒエ~ッと思ううちに、さっきの場所とは別の場所へと運ばれている。

 これもかなり有益な能力だった。奴らに見えるところに移動してしまったときには、奴らも懲りずに追いかけてくる。
 が、随分と能力を使い慣れてくると(夢のなかでは積極的に特訓もしたのだ)、まったくの遠隔地に移動したり、あるいは、そばを走っている電車のなかに移動したりできるようになった。こうなると、もう奴らには手も足も出せない。実質上、夢をリセットしたのと同様、先とは全然違った、楽しい夢を見ることができたりする。

 私は、高校生になった頃から、この瞬間移動の能力を最も重宝するようになった。私が念じたのは、場所ではなく、人だった。その人を念じると、私はいつでも、瞬時にその人のそばに行けるのだった。
 家族も学校も進路も何もかも放って、夜空を駆って、ひたすらに、あの人のもとへ行こう、行こうと一心に念じる、泣きたいような切ない気持ちを、今でも私は夢に見る。

 To be continued...

 画像は、ジェローム「夜」。
  ジャン=レオン・ジェローム(Jean-Leon Gerome, 1824-1904, French)

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