ギリシャ神話あれこれ:アルテミス

 
 昔、亡き友人がふと口にした少女のことを、勝手に「ダイアナ」と名づけて呼んだ。私は彼が彼女に恋しているのだと思い込み、そこに奇妙な安堵を得、だから彼は私に恋心を抱かないはずだと決めつけて、彼の前で、無防備に、あけすけに、自分を全開し、さらけ出した。
 結果は、大誤算だった。「ダイアナ」は、さほど魅力的な人物ではなかったらしい。

 アルテミス(ディアナ、ダイアナ)は、狩猟と光明(のちに月)の女神。また、出産を司り、野獣や子供の守護神でもある。アポロンとは双子の姉弟。
 
 アテナと同じく処女神ではあるけれど、アテナが戦争や英雄の守護神として、男性に立ち混じって自分の権能をこなしているのに比べて、アルテミスのほうは山野に引っ込んでしまっている。彼女は、山や森のニンフ(妖精)や猟犬たちを従えて、あるいは鹿や熊を連れて、山野での狩猟に日々を過ごす。自分に連なるニンフたちにも、処女の厳しい誓いを立てさせる。
 他の処女神のなかで、アルテミスだけは、男嫌いの潔癖症、という感を受ける。実際、彼女に接触のある男性は、弟アポロンくらい。
 で、姉弟と言うよりむしろ恋人のようなこの双子神。弟アポロンの複雑な性格と、黒星続きの恋愛遍歴は、姉アルテミスが処女神だったことが一因かも知れない。

 乙女の上に、山野や月のイメージが加わって、アルテミスと言うと、うら若い、清らかな、凛然たる麗人の姿が思い浮かぶ。が、実際には弟アポロンと同じく、かなり複雑な性格をしている。自分に忠実な者には慈悲深いが、そうでないと分かると、情状酌量の余地なく冷酷に断罪する。
 彼女の憤怒は、嫉妬のようなものからは出てこない。大抵、尊厳を傷つけられた屈辱から出てくる。そのせいか、ギリシャ神話のなかで最もプライドが高い神のような気がする。

 子供の頃には、最も気高い女神のように映ったこのアルテミス、学生のときに読み返してみると、かなり偏った、不自然な女神だった。

 画像は、ブーシェ「水浴を終えたディアナ」。
  フランソワ・ブーシェ(Francois Boucher, 1703-1770, French)

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