ノルウェー民族主義、再び

 
 
 ノルウェー写実主義絵画と言うとクローグが有名だけれど、ノルウェー絵画史の上では、クローグと対立した民族主義の流れのほうが、多分、主流だと思う。

 エリク・ヴェレンショル(Erik Werenskiold)を初めとして、テオドール・キッテルセン(Theodor Kittlesen)、クリスティアン・スクレスヴィク(Christian Skredsvig)、キティ・ヒェラン(Kitty Kielland)、ハリエット・バッケル(Harriet Backer)、ハンス・ヘイエルダール(Hans Heyerdahl)、ゲルハール・ムンテ(Gerhard Munthe)などなど、ノルウェー画家たちはミュンヘン、そしてパリを拠点に絵を学び、故国に帰ってからは、その農村風景や風俗を描いた。時代は19世紀後半、フランスではちょうど、バルビゾン派などの自然主義、そして印象派が生まれ、育った頃。 
 クローグに対して、ヴェレンショルらの流れが「民族主義」と呼ばれるのは、彼らがノルウェーの伝統的な田園を好んで描いたのに加えて、ノルウェー民話などからも題材を得たからだと思う。民族派を主導したヴェレンショルも、ノルウェー民話のための素描を制作し、ノルウェーでは挿画家として知られているという。そう言えば、彼がパリで、同時代の印象派に関心を寄せつつも、線描やフォルム描写を捨てることができず、印象派のスタイルを取らなかったのは、そのせいもあるのだろう。

 ヴェレンショルらはロマン派と同様、いかにもノルウェーらしいテーマやモティーフを取り上げてはいる。が、フィヨルドのような劇的な情景よりも、もっと身近な田園の情景を主題とした点や、リズミカルな諧調や動感によるムードよりも、情景そのものの描写に主眼を置いた点など、やはり、リアリズムが息づいている。色彩は、印象派と同じくらい明るい。
 クローグの絵に比べても遜色のない、自然主義的なディテール。何が違うかと言えば主題であって、そのため、ヴェレンショルらの絵は牧歌的、道徳的な感もある。が、こちらはこちらで、当時ノルウェーの、もう一つの情景だったのだろう、と思う。 

 それで思い出したが、学生のとき、相棒(そのときはまだ相棒じゃなかったけど)に、「牧歌的なのが好き」と言ったところ、「それじゃあ現実を見ていない」と、けちょんけちょんに批判されたことがあった。
 が、今では相棒も、「牧歌的なのが好き」らしい。曰く、
「牧歌的嗜好は、現実逃避を意味しない。要は、現実をリアルに見る眼を持てばいいだけのこと」

 私のこと、けちょんけちょんに言ったくせに。反省して。

 画像は、スクレスヴィク「テレマルク風景」。
  クリスティアン・スクレスヴィク
   (Christian Skredsvig, 1854-1924, Norwegian)

 他、左から、
  ヴェレンショル「テレマルクの少女」
   エリク・ヴェレンショル(Erik Werenskiold, 1855-1936, Norwegian)
  ムンテ「ミルクメイド」
   ゲルハール・ムンテ(Gerhard Munthe, 1849-1929, Norwegian)
  バッケル「洗濯女」
   ハリエット・バッケル(Harriet Becker, 1845-1932, Norwegian)
  ヒェラン「夏の夜」
   キティ・ヒェラン(Kitty Kielland, 1843-1914, Norwegian)
  ヘイエルダール「赤スグリを持った少女」
   ハンス・ヘイエルダール(Hans Heyerdahl, 1857-1913, Norwegian)
 
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