気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

草色気流  笠井朱実 

2010-11-06 17:56:25 | つれづれ
シーソーがたがひちがひにかたむけり亡きひとに逢ふ四月公園

花を落す小石を落す空井戸に草色気流しづかに生るる

軒下に麻葉のきもの吊されて雨なり門家(もんや)古道具店

るす番のあねとおとうと子りすにてちんと正座し椎の実を分く

農学部前乗る人をらずポスターの赤毛のアンの麦わら帽子

秋列車眠れるピノキオ女子高生細き手脚のすとんと伸びる

職人が襖はずして横抱きにせり薄墨の滝があふるる

まんじゆしやげ束ねて置きし人消えてゆるゆる蛇行する川の土手

(笠井朱実 草色気流 砂子屋書房)

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「音」の笠井朱実氏の第一歌集を読む。
お会いしたことはないが、歌集の内容から見て、四十代の主婦の方かと思う。
現実をしっかり行きながらも、どこか自分や家族を遠くから見ている目を感じさせる。そのために表現がナマにならず、草色といったパステルカラーの紗がかかったような上品なものになっている。

歌に出てくる語彙は、シーソー、子りす、赤毛のアン、ピノキオと童話的で温かい。垢ぬけていてセンスの良い歌集である。

三首目の「門家古道具店」といった固有名詞の使い方もおもしろい。
七首目の襖の歌は、視点が新鮮。
時折、歌に夫も登場し、幸せな家庭生活を謳歌しておられるようで、うらやましい限り。