その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

塩野七生 『ローマ人の物語 15 パクス・ロマーナ (中)』

2010-10-10 22:53:04 | 
 カエサルの遺志を継いだアウグストゥスが45~57歳であった統治中期にとった諸政策を描きます。「少子対策」「安全保障政策」「税制改革」など、ローマによる平和体制の確立を次々と進めた手腕を打ち手の的確さには驚くほかありません。

 アウグストゥスの政策の特色を「平衡感覚」と捕える筆者は、

 「平衡感覚とは、互いに矛盾する両極にあるところの、中間点に腰を据えることでないと思う。両極の間の行き来をくりかえしつつ、しばしば一方の極に接近する場合もありつつ、問題の解決により適した一点を探し求めるという、永遠の移動行為ではなかろうか」(p31)

 と言います。平衡とは運動であるとの捉え方は、なるほどと思わせます。

 そして、アウグストゥスの目指すものが「平和」であり、それを平和の祭壇という見えるもので訴えることで、アウグストゥスのメッセージが伝わったと考えます。

 「統治とは、統治される側の人々までが納得する何かを与えない限り、軍事力でおさえつけようが反対者を抹殺しようが、永続させることは不可能事だからである」(p70)

 今の英米のアフガンにおけるタリバン戦にそのままあてはまるような一文です。

 最後に、筆者がIV巻でも紹介したイタリアの普通高校で使われている歴史教科書の一文。

 「指導者に求められる資質は、次の5つである。知性、説得力、肉体上の耐久力、自己制御の能力、持続する意志。カエサルだけがこの全てを持っていた。」(p148)。

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