その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

読響/ スクロヴァチェフスキ/ ベートーヴェン交響曲第3番ほか

2012-09-30 17:59:31 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)
 1週間の癒しに箱根の日帰り温泉に行く予定にしていたのですが、台風接近のニュースを聞いて止むなく断念。どう1日過ごそうかと思案した結果、「当日券あり」のホームページ情報で、東京オペラシティコンサートホールで行われる読売日響のマチネ・コンサートに行くことにしました。

 今日のプログラムは名曲コンサート系。ベートーヴェンの交響曲2番と3番です。指揮は読響の桂冠名誉指揮者スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ(Stanislaw Skrowaczewski)さん。オペラシティコンサートールは4年ぐらい前に一度訪れたことがあります。ロンドンで言うとカドガンホールを一回り大きくしたぐらいの大きさで、ステージが近いので、奏者に親近感を感じられます。



 まずは、交響曲第2番。オーケストラは結構大きな編成で、私の位置から数えられたコントラバスで6名居ました。明るく豊かな演奏で、初期のベートーヴェンを堪能しました。特に、第2楽章の美しさは秀逸。

 休憩挟んでは、第3番「英雄」。これは、超骨太の熱演でした。スクロヴァチェフスキさんは、明後日89歳になられるそうですが、年輪を重ねた人ならではの正統派(?)の「英雄」です。細かい指示をするよりも、大きく音楽を作っていく様は、LSOのコリン・デイヴィス翁を思い出させてくれます。

 読響の演奏も素晴らしいものでした。弦はN響のような一糸乱れぬという感じではありませんが、厚みのあるアンサンブルは、N響とは違った迫力にあふれていました。自分としては金管陣に比べて、木管陣の突き抜け方が、もっとあっても良かった気がしましたが、終演後、スクロヴァチェフスキさんから最初に立たせられて称賛されていたので、きっと私の耳違いなのでしょう。

 それにしても、ホールによる音の違いは大きいことを実感しました。NHKホールもあの大きさの割には音は悪くないと思ったけど(ロイヤル・アルバート・ホールなんて、もっと悪かったし)、今日のようなコンサート専用ホールに来ると、その違いに愕然としました。このホールがどういう評判なのかは良く知りませんが、残響豊かでふくよかな音が楽しめました。

 ホールを出ると、雨がポツポツ降り始めていました。今日は、台風予想のおかげで、読響から元気を貰った感じです。



読売日本交響楽団
第147回オペラシティ・マチネーシリーズ
2012年9月30日(日) 14:00開演

会場:東京オペラシティコンサートホール  

指揮=スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ
ベートーヴェン:交響曲 第2番  ニ長調 作品36
ベートーヴェン:交響曲 第3番  変ホ長調 作品55 「英雄」

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

NHK交響楽団/ スラットキン/ ショスタコーヴィチ交響曲 第7番ほか

2012-09-29 05:48:37 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


 半期の〆の時期ということもあり、大事な仕事が並行して走り、今週はハードな毎日が続きました。久しぶりの日本的長時間労働で、もう昔のような体力がないことを実感。ちょっと、それはそれで自分としては物悲しいものがあります。来週後半には一段落つきそうなので、もう一息です。

 今週の仕事の仕込みで先週土曜は休日出勤。でも、思いの外、早く済んだので当日券狙いでN響演奏会に開演時間ギリギリに駆け込みました。1500円の3階自由席です。

 3階の自由席ゾーンは貧民席などと揶揄されることも多いですが、左右サイドは前にせり出しているので、思いのほか舞台にも近く聴き易いです。正直、その前の週に行った2階席中央奥(5500円!)よりも響きは良いと思ったぐらい。同じ自由席ゾーンでも中央ゾーンは3階席の奥になるので、かなり舞台から遠くなりますから、自由席券の場合はサイドの方が良いです。

 さて、さて、この日の演奏会ですが、飛び込みで行った割には大当たり。指揮はN響ではおなじみのアメリカ人指揮者スラットキンですが、プレヴィン先生の前週のコンサートと全く引けを取らない音楽を聴かせてくれました。

 1曲目のリャードフ/8つのロシア民謡は、私は初めて聞く曲ですが、耳に優しい抒情性豊かな曲です。N響のアンサンブルも美しく、8つの小品を楽しみました。

 そして休憩挟んだ2曲目は、ショスタコーヴィチの交響曲 第7番「レニングラード」。生で聴くのは、2年前にローマでキリル・ペトレンコ指揮のローマ聖チェチーリア音楽院管弦楽団で聴いて以来、2回目です。

 熱演でした。弦は相変わらず美しく、管とのバランスもすばらしかった。第一楽章や第四楽章のクライマックスは迫力満点です。スラットキン氏は派手なところはないですが、スマートかつ明確に音楽の輪郭を示してくれるので、安心して聴けます。1曲目とは逆に、抒情性というよりも音楽の構造や機能を前面に出した音楽でした。

 敢えて注文をつけるとすると、ちょっとスマートでまとまりすぎりぐらい均整が取れていたことでしょうか。タコはCDは持ってないし、生でもそれほど聞いてないのですが、ちょっとぐらいバランスが崩れても、もっと荒々しさがあっても良い気がします
。これはスラットキンの芸風なのかもしれません。西欧帰りの値打ちこき風に聞えると本意ではないのですが、2回N響を聴いての感想は、良い演奏だなあ~とは思うのだけど、ハッとするような興奮や「そう来るか~」というような驚きは少ないです。これからを期待したいです。

 総体としてはとっても満足のコンサート。これで1500円はかなりのお値打ちです。


 ※どうでもいいことですが、昨日か一昨日前の日経新聞の夕刊に先々週のプレヴィン先生とN響のマーラー第9の批評が載っていました。べた褒めだったので、同じ感想だった私も嬉しかったのですが、新聞が2週間前のコンサートの批評載せるって、ちょっと遅すぎやしませんか?



NHK交響楽団 第1734回 定期公演 Cプログラム
2012年9月22日(土・祝) 開演 3:00pm
NHKホール

指揮:レナード・スラットキン

リャードフ/8つのロシア民謡 作品58
ショスタコーヴィチ/交響曲 第7番 ハ長調 作品60「レニングラード」
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

マイケル・ルイス (著), 東江 一紀 (翻訳) 『世紀の空売り』 文芸春秋

2012-09-25 22:50:28 | 


 金融危機をネタにしたノン・フィクションを読みました。アメリカでサブプライム・ローンの破綻をきっかけとした世界金融危機を予測し、当時の加熱するサブプライム・モーゲージ市場の逆に賭けていた3組の男たちを追ったルポです。2年前に出版されたようですが、日本でも随分、評判になった本のようです

 トピックスの話題性、登場人物たちの強い個性が強烈に読み手を引きつけます。出来の良い推理小説を読むような、興奮が味わえました。金融危機の背景、一面を知るための経済本としても、この市場に人生を賭けているともいえる登場人物達の強い個性がぶつかり合うヒューマンドラマとしても読めます。

 私としては、蓋を開けてみれば、完全な虚構の前提で成り立っていたサブプライム・モーゲージ市場の実情、投資銀行の行動原理、格付け会社のいい加減さなど、いろいろ勉強になりました。複雑化する現代経済社会で、騙されないようにするには、よっぽど賢くならなければいけません。それにしても、アメリカ人は、良くも悪くも、本当に個性的ですね。読んでいると、彼らの毒気に当てられて、自分がつまらない者に思えてしまいます。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大相撲9月場所(秋場所) 8日目

2012-09-22 19:11:03 | 日記 (2012.8~)


久しぶりに大相撲観戦に国技館へ行きました。

相撲に限りませんが、スポーツや舞台は生に限ります。

立会いの摩擦音や張り手の破裂音、行司や呼掛けの声の響き、シコ踏みの様式美、土俵に上る力士の映えなどの相撲の魅力は、テレビでは絶対にわかりません。


≪幕内土俵入り≫


≪横綱 白鵬の土俵入り≫

久しぶりに見る大相撲は、スポーツと言うより、やっぱり日本の代表的な伝統芸能です。


≪結びの一番≫


2012年9月17日

コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「大英博物館 古代エジプト展」/ 森アーツセンターギャラリー

2012-09-19 23:17:07 | 美術展(2012.8~)


 最終日間際になって、「大英博物館 古代エジプト展」に行ってきました。これは、数年前にロンドンの大英博物館で企画展"Book of the Dead"として展示されたものですが、私は見逃していたので、是が非でも行きたいと思っていたものです。

 最終日間際だったので入場に30分待ちの混雑ぶりでしたが、内容は非常に充実したもので、大変楽しめました。全長37メートルにわたるグリーンフィールド・パピルスの「死者の書」を中心に、そこに書かれてあるイラストを解読しながら、古代エジプト人の死後の世界観にアプローチするというものです。古代エジプトの人形棺、埋葬品などもあわせて展示してあります。


《入室は30分待ち》

 紀元前1000年代という3000年も前の時代の文書やモノを目の当たりにすると、この3000年間が一挙に縮まったような気になります。一つ一つのイラストを追いながら、当時のエジプト人が考えていたこと、恐れていたこと、望んでいたことを想像するのは、何とも楽しい興奮です。全長37メートルの死者の書は、保存上、今は分割されてしまっているのは、ちょっとがっかりでしたが、それでも会場の壁を取り巻くようにつながれた死後の世界を描いた絵巻物「死者の書」は一見の価値があります。

 東京での展示は今週月曜日で終了。その後、10月6日から九州の福岡で開催されます。

 ※展覧会のHPはこちら→


  2012年9月16日訪問

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

藤原てい 『流れる星は生きている』 中公文庫

2012-09-18 22:21:33 | 


 連休中に読んだ本です。随分と有名な本のようですが、恥ずかしながら、私には初めてでした。敗戦とともに満州から朝鮮半島を縦断して日本へ帰国した、日本人一家の記録です。筆者の藤原ていは、作家新田次郎氏(故人)の奥様で、数学者の藤原正彦氏(ベストセラーとなった「国家の品格」の著者でもある)は新田次郎氏と藤原てい氏の次男です。

 凄まじい体験談です。赤ん坊を含めた幼い子供3名を連れての逃避行(特に第3章「魔王」)は、涙なしでは読めません。母として子供を守ろうとする強い気持ち、生きることへの執着、意思を行動に移す実行力と判断力らが、運を含めて、この一家に味方したのでしょう。

 この本には、生死のギリギリまで追い込まれた、さまざまな日本人、日本人家族が描写されます。もちろん、利己的で卑しい人たちも居ます。しかし、恵まれた現代日本人の立場から、安易にこれらの人を批判することは難しいです。はたして、自分がこのような立場・環境に立たされたとき、どのような行動を取ることができるのでしょうか?

 倫理として人間の尊厳、道徳、倫理感について読んで考えることと、また60数年前の日本のアジア・太平洋戦争敗戦の一コマとして歴史について考えること、いずれの読み方もできますが、日本人として一度は読んで、追体験すべき一冊です。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

NHK交響楽団/ アンドレ・プレヴィン指揮/ マーラー交響曲第9番

2012-09-15 20:21:28 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


 帰国後、初のクラシックのコンサートに足を運びました。東京にはロンドン以上にプロのオーケストラがあるので、どのオケをベースにしようか迷いましたが、とりあえず、指揮者の顔ぶれ(秋はプレヴィン、マゼール、エド・デワールド(この人は知らない)です)、週末に定期的に定期演奏会をやっているN響をベースにすることにしました。

 N響の演奏会はロンドン滞在前からちょくちょく足を運んでいましたが、今回は4年ぶり。バカでかいNHKホールや聴衆の平均年齢の高さは4年前と変わることはなかったですが、オーケストラのメンバーは随分、若返った印象でした。本日の演目は、アンドレ・プレヴィン指揮によるマーラーの交響曲第9番。ロンドンでも、いろんなオケで3回程聴いた曲なので、プレヴィンとN響がどんな音楽を聞かせてくれるのか、とても楽しみでした。


《開演前》

 終わってみての感想は、良かったところあり、もう一歩に感じたところありの、痛み分けというところでしょうか。まず弦のアンサンブルが、均整が取れていて美しいのは驚きました。マーラーですので相当数の奏者がいるのですが、其々の楽器軍のまとまり、チーム力が素晴らしい。一つの楽器のように揃い均整のとれたハーモニーを紡ぎます。これは純粋に感動しました。また、金管が4年前と比べて随分良くなった。N響の金管には、しばしばがっかりさせられた記憶があるのですが、今日のトランペットやホルンの響きや鳴りは、美しく迫力もあり、失礼ながら「へえ~。N響の金管もこんな音が出るんだ~」って感じです。メンバーが変わったのでしょうか?いずれにしても、個々やチームの演奏力は素晴らしいと思いました。

 一方で、これは何に起因するものか私には解明不能なのですが、演奏全体からなんかパンチや思いのようなものが感じられないという印象が、特に第1楽章から3楽章までは強く残りました。第2楽章の「やや武骨で粗野に」、第3楽章の「きわめて大胆に」というサブタイトル(?)は感じられない、スマートと言えばスマート、特徴がないといえば特徴のない演奏で、私としてはついてくのがつらかったぐらいです。危うく、落ちそうになりました。今日の席が、2階席の奥のほうだったからかなあ(それでも5000円以上しますけど・・・)。

 でも第4楽章はとても良かったです。弦のアンサンブル、管のアクセントが絶妙に組み合わさり、かつ、その日そこまではなかった表現豊かな、胸にジーンと来る演奏でした。プレヴィン先生は、椅子に座っての指揮な上に、猫背なものですから、遠くの2階席からはどう指揮されているかは殆どわかりませんが、きっと第4楽章には何かあったでしょう。

 というわけで、最終的にはとても満足した日本復帰第一弾のコンサートでした。

 蛇足ですが、N響の人はもう少し気持ちを顔とか態度に出してもいいじゃないでしょうか?みんな、能面のように淡々と演奏しているように見えて、演奏していて楽しいとか、悲しいとか、そういう気持ちがほとんど伝わって来きません。コンサートホールに足を運ぶ楽しみの一つは、演奏中の奏者の表情を追うことも大きいので、皆が内田光子さんになる必要は無いと思いますが、気持ちが前に出てくれたらあと思います。音楽を聴くだけならCDで、十分ですので。


NHK交響楽団
第1733回 定期公演 Aプログラム
2012年9月16日(日) 開演 3:00pm

NHKホール

マーラー/交響曲 第9番 ニ長調

指揮:アンドレ・プレヴィン
コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ポール・デルヴォー 夢をめぐる旅」展/ 府中美術館

2012-09-15 20:19:05 | 美術展(2012.8~)
 「夢に、デルヴォー」。美術館の企画展のキャチコピーとしては破格の駄洒落。デルヴォーの幻想的な絵にこのキャッチ。駅ナカのポスターを見て、これは行かねばならぬと思い、開幕後最初の土曜日に府中美術館を訪れました。


《府中美術館入り口》

 期待以上に楽しめた企画展でした。まず、週末でありながら、押しあい、圧し合いの都心の美術館と違い、一部屋の来館者は両手で数えられるほど。実にゆったりとマイペースで見ることができます。やっぱり、絵を鑑賞する環境はとっても大事です。

 また、企画展としての展示の仕方も面白かった。年代順に並べて、画風の変化を知るだけでなく、後半はデルヴォーの絵画のモティーフとして頻繁に使われた「女性」、「機関車・トラム」、「神殿・神話」といったテーマごとに作品を展示することで、デルヴォーの世界に接近します。デルヴォーの幻想的な世界に、ぐっと近づくことができた気になります。

 府中美術館は世田谷美術館と並んで、興味深い企画展を開催してくれる自治体運営の美術館なので、時折足を運びますが、この美術展は間違いなくお勧めできます。11月11日までです。

 ※企画展のホームページはこちら→




《展示室入り口》


《エペソスの集い2》 1973年 ポール・デルヴォー財団蔵



 2012年9月14日 訪問
コメント (5)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

安永雄彦 『日本型プロフェッショナルの条件』 (ダイヤモンド、2009)

2012-09-14 23:53:03 | 


 日本に帰国して、3年半前と同じ経路、同じ電車での満員電車での通勤が再開されたのですが、ロンドンでの通勤より良い点に一つ気づきました。通勤時間が20分延びた分、読書の時間が生まれたことです。日本語の本へのアクセスもぐっと良くなったし、せっせと読書に励み始めています。

 今回も地元の図書館で見つけた本。銀行員としてキャリアを始めながらも、20数年で退職し、その後、エグゼクティブ・サーチ・コンサルタント、企業経営者、経営大学院の教授、僧侶、エグゼクティブ・コーチと多様な顔を持つようになった筆者によるキャリア論です。ビジネススクールのクラスの最後に話す「法話」をもとにまとめたという本書は、タイトルにあるようなプロフェッショナルになるためのノウハウ論というよりは、むしろプロフェッショナルになるための心得ともいうべき、仕事に対する心構えや姿勢を説いたものです。

 筆者のいう「日本型プロフェッショナル」というのは、「同じ会社にずっといようとも、転職しようとも、常に自分なりに専門性を磨き、高い倫理観と規範を持ち、公益に寄与するという観点から自分がなすべきことを決断し、実践していく」ような生き方をしている人(p19)です。そして本書では、そのための心構えが、筆者の経験、心理学、先人の教え等をもとに紹介されます。語られている心構えそのものは、他の類書でも触れられるものですが、具体的な筆者の失敗談も含めた経験談が誠実に語られているのも、出張に説得力を持たせます。

 いくつか以下、引用します。 
・道に熟達するためには、比較優位の世間から離れて、自分の信じる道を進んでいくことが不可欠です(p37)
・現実の比較優位の世界に身を置きつつ、その中でそれぞれの個性化の道を模索していくというのが、私たちにできるアプローチでしょう。(p47)
・組織は一つのロジックで動いている以上、そのロジック体系を理解していないと、自分が組織を動かす立場になったときに人々を動かすことはできません。(p83)
・規定集や手引きに書いてある一行一行には、会社がたどってきた歴史や経験を通して得た知恵が集約されている(p84)
・(MBOの)振り返りの機会について、単に会社が評価のために用いる手段としてではなく、自分の思考を整理するものとして捉えれば、向き合い方も変わってくるはずです。・・・・MBOのシートや自己評価の書類には恐ろしいことに、思っている以上に、本人の力量が表れてしまうものです。(pp89-90)
・多面的に物事を捉え、自分がトップにたったら何をしようかと常に準備していれば、どんな状況にも対応できます。自分の視点をしっかりと持ち、思考力を鍛えることが、個性化そして一流への道なのです。(p96)

 どちらかといえば、20代、30代のビジネスパーソン向けだと思いますが、私のようなオジサン読者にも、改めて自分の行動や構えを見直す機会を与えてくれる良書です。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高木 晴夫 『組織能力のハイブリッド戦略』 (ダイヤモンド社 2012)

2012-09-13 22:22:17 | 


 地元の図書館の新刊コーナーに置いてあった本です。パラパラめくったところ、序章の記述が私の問題意識にも合致するものであったので、借りて読んでみました。

 問題意識とは以下のようなものです。
・「この先、日本の大企業は、グローバルな競争のなかで勝ち残っていくことができるのだろうか?」(p10)
・「新たな競争環境に適応するための組織能力を、日本の特に大企業は、進化させることができていないのではないだろうか。」(p11)
・「日本企業の組織能力の進化の方向性を探っていきたい。(略)グローバル競争の中で、日本企業が組織の強みを最大限に活かしていくためには、何を残し、何を修正しなくてはならないのかを明らかにしていきたい」(p13)
・「組織のアーキテクチャーという観点から、日本企業が今後求められる組織能力を獲得していくための課題と対策について考察していきたい」(p19)

・[本書で言う組織能力とは、①環境変化の方向と度合いを事前に見通す能力、②経営活動の方向性を示す意思決定の速さ、③決定されたことの実行の速さ、の3点を指しています]

 筆者は、組織アーキテクチャ―を日本企業の「人ベース」のアーキテクチャと米国企業の「仕事ベース」のアーキテクチャに類型化し、日本企業が「人ベース」の組織で出発しながらも、近年はその両者の間を振り子のように振れながら、ハイブリッド化の道を歩んでいることを、アンケートによる定量調査と5社の個別インタビューによる定性調査を分析しながら検証します。

 そして、筆者は日本企業の取るべき道筋として、まず、「人ベース」組織の強みである「優秀者が形成するネットワーク(人脈)」を再生すること。そして、「仕事ベース」組織の強みである「戦略トップダウン」と「組織OS(全社で共通化された標準化された業務遂行の仕組み)」の仕組みを取り入れたハイブリッド化の道を歩むべきと言います。そして、人のスペックと仕事の標準化とオープン化が「人ベース」の組織の弱み部分を補うのです。

 問題設定には大いに賛同するものでしたが、分析、提言については、もう一歩踏み込みが足りないという印象でした。定性分析として紹介された5社のケースも、ケース自体は興味深かったものの、無理に「人ベース」と「仕事ベース」の枠組みに振り分けていている印象が拭えません。そして、そこから得られる提言も「何をどうすればいいのか」という点で、もう一歩具体性に欠けています。

 ただ、私自身の学びとして、この枠組みを自分の会社にあてはめて考えてみると、人事の色々な仕組みが、仕組みにより人ベース、仕事ベースを使い分けてはいるものの、仕組み全体(本書で言う「システム」)として相互補完したり、相乗効果を得るような設計にはなっていないと言うことに気付いたことがあります。そういう意味では、一つの視座を与えてくれたと言えます。

 5点満点の星2つ半というところでしょうか。




  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

古賀茂明 『日本中枢の崩壊』 (講談社)

2012-09-10 21:57:38 | 


 昨年5月に発刊された当初は随分と評判になった本のようなので、今さら私が紹介するまでもないかもしれませんが、現役の経済産業省のキャリア官僚が、日本の官僚、政治を批判した暴露本とも言える内容です。

 まずは、現役のキャリア官僚がこうして公に自らの見解をオープンにし、自組織の批判も恐れず記していることに敬意を表したいです。よっぽどの信念と度胸がないとできることではありません。

 興味深かったのは、公務員制度改革や「純粋持ち株会社の解禁」を巡る政治家と官僚の駆け引き。官僚側の抵抗や交渉の仕方は、日本の政治の世界における改革の難しさを表しています。本当にこれで日本は大丈夫なのか?

 縦割り組織の中で、省益の最大化に走る官僚の行動原理は、いろんなところで紹介されていますので今さら目新しくはないですが、内部の人が見ても同じというのは、残念でやりきれない思いになります。きっと、官僚サイドには官僚サイドの言い分があるのでしょうが、そうした議論がオープンになされない不透明さが、ますます私のような普通市民が疑義の目を向けたくなる一因です。

 いささか筆者の思いが走りすぎの感がある文体には、読んでいて、引いてしまうところがありますが、実情を知るという意味で勉強になります。読んでの学びは、「我々、市民は賢くならなくてはならない。国に頼ってはいけない」ということでした。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ベルリン国立美術館展/ 国立西洋美術館

2012-09-08 18:50:24 | 美術展(2012.8~)


 今月17日に終了するベルリン国立美術館展に行ってきました。ベルリン国立美術館から15~18世紀の美術品を展示し、「ヨーロッパ美術を総覧」(チラシより)したものです。「学べるヨーロッパ美術の400年」というサブタイトルがついているとおり、西洋美術史のお勉強にもなります。

 マウリッツ美術館展ほどは混みあってはいなかったので、入館するのに待つということはありませんでしたが、土曜日の午後ということもあってか、人をかき分けて絵を見るという状況はあまり変わりません。

 目玉のフェルメールだけでなく、期待以上に充実した作品群で大満足でした。各時代区分で、質の高い絵画が集められている上に、私の好きな北方ルネッサンスの絵も展示してありデューラーやクラーナハの絵があったのは、驚きであると同時に嬉しいものでした。


クラーナハ(父)《ルクレティア》

 絵画よりも多くの出展があった彫刻も興味深かったです。どうしても通常は絵の鑑賞が中心になりがちですが、木彫というのもなかなか味わい深いものです。

 ベルリン国立美術館は滞欧中に一度訪れましたが、多くの欧州の美術館がそうであるように、この美術館も大きいので、すべてしっかり見ようとしたらとても1日では足りません。今回のような引っ越し美術展は、展示数は本館に比べれば、ごくごく一部なのですが、逆に1点、1点をじっくり鑑賞できるという意味では、悪くないなと思います。

 17日で終了なので、まだの人は是非。(10月からは九州で開催予定)

 ※美術展のHPはこちら→

 2012年9月8日 @国立西洋美術館

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

梨木 香歩 『春になったら苺を摘みに』 (新潮文庫)

2012-09-06 23:02:12 | 


 恥ずかしながら、筆者の梨木 香歩という作家のことはほとんど知りませんでしたが、とっても有名な児童文学作家とのことです。家族が読んだままテーブルに置き放しになっていたので、なんとなくページをめくっていたら、引き込まれるように読み切ってしまいました。

 本書は、筆者が学生時代に下宿していたイギリス、エセックス州のS・ワーデン(検索してみたけど、綴りが違うのか、場所は特定できず)の大家さんウェスト夫人と取り巻く人たちについて描いたノン・フィクッション(随筆?)です。スマートに切り取った夫人との交流エピソードは、とても読みやすく、微笑ましいものですが、筆者の思考の射程は異文化・異民族理解、差別、コミュニティ、人について注がれ、読む者にいろんな事を考えさせます。
 
 全編を通じて、人に対する筆者の温かい眼差しと高い感受性、そして、洗練された文章が印象的です。古き良きともいえるような市井のイギリス人ウェスト夫人を通して、イギリス人の懐の広さも上手く表現されています。

 作者の文章を通じてウェスト夫人の行動や筆者の考えを追っていくと、異文化、異民族というものは簡単に理解できるものではない(むしろわかることはない)ということを理解し、それを受け入れることが、如何に大切であり、難しい事であるかということに改めて気付かされれます。3年半ばかしイギリスで生活したぐらいで、「イギリス人はさあ・・・」とか「イギリスはねえ・・・」と分かったような顔をして語る自分を恥じ入ること大でした。

  読みやすい本ですが、味わい深い一冊です。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

4年ぶりの神宮球場

2012-09-01 22:31:12 | 日記 (2012.8~)
 以前の同僚たちと神宮球場へヤクルト対中日戦を観戦に行きました。なんと4年ぶりの神宮球場、プロ野球観戦です。



 やっぱりいいわ、夏の神宮球場は。やや湿ってはいるものの東京ではなかなか味わえない天然風、ナイターのライトが反射する人工芝、湿度の高い東京の夜にぴったりの冷えた辛口ラガービール。昔の同僚たちとビールを飲みながら、近況や昔話をしたり、野次を飛ばしたり。一人で2,3席分を占領しつつ、のんびりほろ酔い気分。

 やっぱり日本の夏には、ロンドンとは別の楽しみがあるんだなあ~、と再確認。ああ~、楽しかった・・・。

 2012年8月31日 @神宮球場
(試合は4対4の9回引き分け)

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする