その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

佐々木俊尚『現代病「集中できない」を知力に変える 読む力』東洋経済新報社、2022

2022-03-31 07:10:34 | 

ジャーナリストの佐々木俊尚氏が、自らの読書術、仕事術、情報見極め術、整理術など現代を生きるノウハウを惜しみなく開陳した1冊。インターネットメディアへの向き合い方もしっかり記述され、今の世に相応しい内容だ。正直、ついて行けない(とても自分には真似できない~)ところもあるが、活用できるところをつまみ食いするだけでも十分だと思う。

一番のなるほど部分は、今の世を「集中力を長時間、保てない時代」と割り切った現実的なアプローチ。集中する時間を確保しようとするのは止め、いかにスキマ時間を活用して本を読むようにするかを考える。本、PC、スマホ、タブレットなどのマルチデバイスをフル活用して、小刻みに読むことを推奨している。

そして、筆者の独自ノウハウである散漫さを逆利用した「散漫力」によるマルチタスクワーキングの方法が紹介される。やるべきことを棚卸する。それを「重いタスク」と「軽いタスク」にわける。そして「軽いタスク」から初めて、「重いタスク」と交互にこなす。その時間間隔(インターバル)は人によって違うので人次第だが、3分から初めて最大15分でセットするのがおすすめという。

自分には、このやり方も、段取りセットするだけでも手間がかかりそうでなかなかハードルは高そうだ。ただ、もうこの世の中、集中するのは無理。集中しなくても良い、その中でどう生産性を上げるかを考えるというのは、逆転の発想で新鮮だった。自分なりのやり方を考えるのだろう。

そんなのもありなのかと驚きのやり方もあった。「名著・難解な本を読むコツ」として、読む前に解説記事、アマゾンレビュー、入門書、マンガ・映画を順に進め外堀情報を得てから読むと良いとアドバイスされる。名著は多様な視点を学ぶための素材であり、血肉にするためにどう読むかが大切と説く。そして、「罪と罰」の読み方が具体例で示される。個人的には、かなり実利に振ったアプローチであることや、そもそもこんな読み方ですら、落ち着いて集中しないとできないのではと思えたが、この道のプロはこういう読み方をするのか~と感心した。

他にも様々な筆者の実践が紹介されている。取り入れられるかどうかは別として、世の中で情報のキュレーションを生業としている筆者のプロの仕事術・情報術を垣間見るのは勉強になる。機会があれば手に取られては。


【目次】
◆序章◆まずは現代の知的生産に必須の「5つの大前提」を知る
◆第1章◆まず「落とし穴」を見極め、「読むべきもの」を選別する──情報源をふるいにかける
◆第2章◆ネットは「何を」見ればいいのか──良質な「プッシュ情報」と「プル情報」を同時に手に入れる
◆第3章◆SNSをどう使いこなすか──「情報ツール」としてツイッターを使いこなす。SNSでの「プル情報」のとり方
★「情報ツール」としてツイッターを使いこなす秘訣
◆第4章◆選んだ記事をどう読み、どう整理・保存するか。情報整理の方法──「あとで読む」アプリを使う。「ポケット」が最強の理由
◆第5章◆本は「何を」「どう」読めばいいか──本の見つけ方&選び方、具体的な読み方、名著を読むコツ、電子書籍&リアル書店の活用法◆第6章◆知識や情報を活用するカギは「2つの保存」を使い分けることだ──「4つのステップ」で、自分のための「知肉」を育てる
◆第7章◆脳をクリアな状態にする「二刀流」のすすめ──日常の雑務を徹底的に効率化し、時間を捻出するために、ツールは何を使うか
◆第8章◆散漫力を活用し「最適なインターバル」で仕事を回す!「マルチタスクワーキング」の秘訣──タスクを組み合わせ、「短い集中」を積み重ねる


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日本三大清流柿田川の湧水群を楽しむ @柿田川公園

2022-03-27 07:30:44 | 旅行 日本

三島大社の後にして、隣町の清水町にある柿田川公園に出かけた。

柿田川は全長は約1.2kmで日本で最も短い一級河川で、大量の湧水を水源とする日本でも稀有な川らしい。長良川・四万十川とともに日本三大清流にも数えられているのだ(Wiki要約)。そして、柿田川公園は「富士山からの雪解け水が地上に湧き出る湧水群」(清水町のHP)にあり、公園内の遊歩道を巡ると柿田川の源流湧水群が楽しめるようになっている。



三嶋大社同様にこちらも想像以上の楽しさだった。地中から、温泉が吹き出すように水が湧き出ている。あちらこちらで川底の砂が水中で舞いあがるのが見える。そして、それがまとまって川になっていく。水がきれいなわけである。


《第一展望所 写真だと分かりにくいですが、この水、地下から湧いてきてます〉


《第ニ展望所から》


《水底の砂が舞い上がっています》

富士山からの湧水というのが、また日本人には特有に惹きつけるものがある気がする。すっかりブラタモリのタモリさんになった気分で、案内板にある地盤や地質の解説などを読みつつ、キョロキョロと湧水を確認しながら30分程度で1周できる遊歩道を楽しんだ。


《遊歩道》


《あちらこちらの湧水が集まり、あっという間に川になってます》

水に触れると、想像したほど冷たいものではなかったのは意外だった。(忍野八海の水は痺れるような冷たさだった記憶がある。)飲泉できるところもあるので、口に含んでみると柔らかく、微かな甘みを感じる水だった。

公園の入り口には、町の観光案内所に加え、湧水を利用したコーヒーが飲めるテラス付きのカフェや、湧水を使って作った豆腐料理を提供する古民家改造レストラン、豆腐アイスクリーム屋さん、地域の物産も提供するお土産屋さんなど、湧水を120%楽しめるようになっている。

のんびりゆったり気分で、自然のワンダーに触れることができるとっても良いスポットだ。お勧めできます。

2022年3月19日


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三嶋大社を訪れる @静岡県三島市

2022-03-23 07:51:51 | 旅行 日本

日帰りで静岡県の三島に行ってみた。今年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の舞台にもなった三嶋大社に行ってみたかったためだ。

入口の大鳥居をくぐると、予想以上に立派な社殿と落ち着いた境内が広がっている。大きな池では鯉がゆっくりと泳いでいる。小春日和の1日で、早咲きの桜も咲き始めだ。観光パンフの写真だと咲き揃う時期は、桜の花道になるようである。ちょっと早く来すぎたのが残念だが、その分まだ人出も少なくゆっくりできる。

神門をくぐると、舞電、本殿と続き、その精巧な建築物に魅せられる。本殿は慶応2年(1866)竣功の国指定重要文化財とのことで、立派で威厳ある。彫り物も立派で見応えたっぷりなのだが、鳥害予防のためか金網でカバーしてあって見えずらいのが残念。恵比寿様が御祭り神の一つのようである。


《拝殿の後方にある本殿がとっても立派》


《金網無しの彫り物を1枚》

宝物殿もあったが、神社なので仏像があるわけではないからパス。境内には頼朝と政子が座ったとされる石椅子や頼朝挙兵祈願の石碑など、頼朝ゆかりの見どころもある。小一時間たっぷり楽しんだ。

大社を出て、周辺を少し散策した。電線の地中化を行っているようで、見晴らしが良く、歩いていて気持ちが良い。街の至る所に流れの早い水路があるのも富士山ふもとの町らしい。

古い昔ながらの昭和の匂いがぷんぷんするお店が続いている。商売もなかなか厳しそうな雰囲気ではあるが、デザインされたお店の印が軒下から掛けられていて可愛い。三島の名物、うなぎ屋さんも目に付く。お昼にはまだ早いし、お値段もそれなりなので、今回は止めておいた。

2022年3月19日

(つづく)


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リッカルド・ムーティ指揮 東京春祭オーケストラ/ シューベルト交響曲第8番《未完成》

2022-03-20 07:30:02 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

ムーティの春祭オーケストラのチケットが残っているツイートを目にして、慌てて2日前にチケットを購入して、文化会館を訪れた。

個人的にムーティさんは2010年3月のフィルハーモニア管以来、12年ぶりである。4階席からオペラグラスで見るムーティさんは、ずいぶんお年を召されたなあ~というのが正直な印象。でも、その佇まいやオーラは壮年期と全く変わらず80歳を超えているようにはとても見えない。演奏前をマイクを取って、ウクライナの状況と音楽・音楽家について一言。「無垢な人たちが殺されている。そんな中で私たちは演奏し、聴く。・・・本来、音楽とは愛、平和を希求するもの。・・・ウクライナのために演奏したい」といった内容だった。世界の音楽界のリーダーの一人であるムーティさんらしい、真摯で、責任感溢れるスピーチだった。

初めて聴く春祭オーケストラ。若手演奏家を本音楽祭に合わせて募っているとのことだが、ステージに登場したメンバーは確かに若手の方だが、普段拝見しているN響の主要メンバーが沢山いらしたので驚いた。そして、モーツァルトの交響曲39番が始まると、その美しく、清明な音色にびっくり。音大オケ+αぐらいなのかと思っていたら、桁違いの巧さだった(終演後にWeb見たら、在京オケの首席クラスの人たちが沢山名を連ねていたので、今更のように納得)。一方で、N響や他のプロオケのような普段から一緒にやっているメンバーならではの調和ではない化学反応も感じらる。サッカーに例えるとオーケストラの定期演奏会がクラブチームのリーグ戦である一方、春祭オーケストラはワールドカップのナショナルチームのような印象だった。

前半のモーツァルトも素晴らしかったのだが、悶絶したのは後半のシューベルト〈未完成〉交響曲。この曲を生で聴いたのは10年以上ぶりで、これが私の筆力ではとても表現できない素晴らしさだった。弦の厚いが重くないアンサンブル、オーボエをはじめとした管の耳が自然に立つような調べ。微に入り細に入った気づかいはありつつも、小手先の調整ではなく、正々堂々、王道を直進し、音楽そのものを聴かせてくれる。ムーティさまさまである。食い入るように聴いた。

ラストのイタリア風序曲は、〈未完成〉交響曲後のアンコール曲をあらかじめプログラムに入れておきましたという感じ。軽妙で、明るい音楽が、お口直しのデザートのように耳に心地よかった。

チケット買って、本当に良かった。空席情報を上げてくれたフォロアーさんにも感謝。

2022年3月18日(金)19:00開演
東京文化会館 大ホール

出演
指揮:リッカルド・ムーティ
管弦楽:東京春祭オーケストラ

曲目
モーツァルト:交響曲 第39番 変ホ長調 K.543
シューベルト:
 交響曲 第8番 ロ短調 D759《未完成》
 イタリア風序曲 ハ長調 D591

Riccardo Muti Conducts Tokyo-HARUSAI Festival Orchestra

Date / Place
March 18 [Fri.], 2022 at 19:00(Door Open at 18:00)
Tokyo Bunka Kaikan Main Hall

Cast
Conductor:Riccardo Muti
Orchestra:Tokyo-HARUSAI Festival Orchestra

Program
Mozart:Symphony No. 39 in E-flat major K.543
Schubert:
 Symphony No. 8 in B minor D759 “Unfinished”
 Overture in C major D591 “In the Italian Style”


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圧巻、中村恵理さんのヴィオレッタ: 新国立劇場オペラ/ヴェルディ〈椿姫〉

2022-03-14 07:20:00 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

「椿姫」を観るのは10年以上ぶり。物語として悲しすぎるので、進んで足を運ぶことは無くなっていたのですが、今回は代役として中村恵理さんが登場すると耳にして、急ぎ、初日のチケット購入しました。ロイヤルオペラのヤングアーティストプログラム在籍時から自称ファンですが、この前の「蝶々夫人」はスケジュールの都合がつかず仕舞い。代役出演万歳で、私にとってはリベンジです。

そして、「買っておいてよかった!」と快心の笑みがこぼれる、恵理さんの素晴らしいパフォーマンスを始めとした充実の公演でした。

きっと誰もが認めるこの日のMVPは恵理さん。そのソプラノはうっとりする美しさ。繊細な歌声にしっかり芯が通っていて、全く乱れがないです。表現力も抜群で、ヴィオレッタの喜び、惑い、悲しみがこもってました。演技も迫真の熱演。正直、パリの高級娼婦ヴィオレッタの役柄と恵理さんのイメージはややアンマッチではないか(私的にはリューとか蝶々夫人とかがはまり役)と心配だったのですが、全くの杞憂でした。

アルフレードのマッテオ・デソーレ、ジェルモンのゲジム・ミシュケタも良かった。デソーレは柔らかいイタリアテノールで耳にやさしい。良家のおぼっちゃま君のイメージともぴったり。そして、ミシュケタの重量感・安定感たっぷりのバリトンにも痺れました。この主要3役がハイレベルで安定していたおかげで、地に足がついた締まった舞台となってました。

そ以外の歌手陣も夫々しっかり仕事してましたし、合唱団はいつものハイレベルな合唱で、主要3役と一緒に舞台を盛り上げてくれました。

ピットに入った東響も良かったです。初めて接するユルケヴィチの指揮も満足(この方、ウクライナ出身の方とのことです)。東響からダイナミックレンジの広い音楽を引き出してました。

新国立劇場では何度か使われているプロダクションのようですが(私は初めて)、シンプルで美しい色彩に満ちた舞台も物語・音楽とマッチしていて好みでした。ただ、いつもの4階席からなので舞台は全景を捉えきれず欲求不満は残り、舞台につり下がった傘とか、ピアノが様々な用途で使われる意味合いとかは、理解しかねるところはありました。(本当はここが分からないとこの演出の本旨は理解できてない可能性大です・・・)。

終演後は9割がた埋まっているように見える客席から、大きな拍手が寄せられ、カーテンコールも普段を上回る回数。恵理さんをはじめとするスタッフ、キャストを称える気持ちを共有でき嬉しい。

久しぶりの「椿姫」でしたが、改めて定番オペラとしての強み・良さを再認識。どの音楽も美しいし、歌手の見せ場も多い。物語も典型的なメロドラマ。「椿姫」の世界の余韻にどっぷり浸りながら帰路につきました。

2022年3月10日[木]19:00

ジュゼッペ・ヴェルディ 椿姫
全3幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉
予定上演時間:約2時間45分(第Ⅰ幕・第Ⅱ幕1場75分 休憩30分 第Ⅱ幕2場・第Ⅲ幕60分)

スタッフ
【指 揮】アンドリー・ユルケヴィチ
【演出・衣裳】ヴァンサン・ブサール
【美 術】ヴァンサン・ルメール
【照 明】グイド・レヴィ
【ムーブメント・ディレクター】ヘルゲ・レトーニャ
【再演演出】澤田康子
【舞台監督】斉藤美穂

キャスト
【ヴィオレッタ】中村恵理
【アルフレード】マッテオ・デソーレ
【ジェルモン】ゲジム・ミシュケタ
【フローラ】加賀ひとみ
【ガストン子爵】金山京介
【ドゥフォール男爵】成田博之
【ドビニー侯爵】与那城 敬
【医師グランヴィル】久保田真澄
【アンニーナ】森山京子
【ジュゼッペ】中川誠宏
【使者】千葉裕一
【フローラの召使い】上野裕之

【合唱指揮】三澤洋史
【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京交響楽団

 

Music by Giuseppe VERDI
Music Drama in 3 Acts
Sung in Italian with English and Japanese surtitles
OPERA PALACE
10 Mar

CREATIVE TEAM

Conductor: Andriy YURKEVYCH
Production and Costume Design: Vincent BOUSSARD
Set Design: Vincent LEMAIRE
Lighting Design: Guido LEVI
Movement Director: Helge LETONJA

CAST
Violetta Valéry: NAKAMURA Eri
Alfredo Germont: Matteo DESOLE
Giorgio Germont: Gezim MYSHKETA
Flora Bervoix:KAGA Hitomi
Visconte Gastone: KANAYAMA Kyosuke
Barone Douphol:NARITA Hiroyuki
Marchese D’Obigny:YONASHIRO Kei
Dottor Grenvil:KUBOTA Masumi
Annina:MORIYAMA Kyoko
Giuseppe:NAKAGAWA Masahiro
Commissionario:CHIBA Yuichi
Domestico di Flora:UENO Hiroyuki

Chorus: New National Theatre Chorus
Orchestra: Tokyo Symphony Orchestra


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人新世の「資本論」 (集英社新書、2020)  

2022-03-10 07:29:42 | 

2021年の新書大賞(どういう位置づけの賞かは未調査)第1位と言う帯に相応しい、読み応えのある1冊でした。

 

「人新世」(Anthropocene)とは、ノーベル化学賞受賞者であるバウル・クルッツェンが、地質学的に見て、地球は新たな年代に突入したとして名付けた概念です。「人間たちの活動の痕跡が、地球の表面を覆いつくした年代と言う意味」(p4)だそうです。人類の経済活動が地球を破壊し、環境危機を招いた時代との位置づけです。現在、世界的にSDGsなどの取組みが推進されているものの、危機の根源となっている資本主義における成長や生産性という「罠」を脱しない限り危機は克服されない。そして、その処方箋は、晩期のマルクスの思想に基づいた「脱成長のコミュニズム」にあると主張します。

個人的に学びが多く勉強になりました。今のSDGsの取組、グリーン・ニューディール、環境技術開発らではとても手に負えないほどまでに大きくなっている地球環境破壊や気候変動の状況はよくわかります。そしてその原因となる二酸化炭素は富裕層・先進国が巻き散らしており、国際的な不公正がますます拡大していること。環境にやさしいはずのグリーン技術は、その生産過程まで視野に入れると二酸化炭素の削減効果も、期待されるほど効果はあがらない。マスメディア、ネット等で断片的には目にはしていても、こうした書籍で整理された情報に触れると、頭の中でクリアに整理されます。

ただ、勉強にはなりましたが、資本主義が招いた気候変動・環境危機の解決策がコミュニティの自治と相互扶助に基づいた「脱成長コミュニズム」と言われると、ちょっと身構えてしまいます。筆者は、マルクスが「人間と自然の亀裂の修復する唯一の方法は、自然の循環に合わせた生産が可能になるように、労働の領域を抜本的に変革していくこと」との分析を重視します。それに基づき、気候危機を乗り越えるためには、労働の変革として「使用価値経済への転換」、「労働時間の短縮」、「画一的な分業の廃止」、「生産過程の民主化」、「エッセンシャル・ワークの重視」の5つの構想が脱成長のコミュニズムの柱となると考えます。そして、その萌芽を気候非常事態宣言を出したバルセロナの取組に見ます。

パーツパーツではなるほどと納得はするものの、資本主義の「成長」の呪縛に囚われて、日々もがいている自分には現実感が薄いと言わざる得ません。確かにバルセロナの取組などは画期的なものであるのかもしれませんが、こうした取り組みが地球規模で広がり、気候変動を変える力になるかと言うと、俄かには信じがたいですね。人間は欲深いし、自分勝手だし、ご都合主義です。筆者の議論は非常に知的好奇心が刺激され、引き込まれるのですが、自由な思考ができた学生時代なら大いに感化されたでしょうが、ひねた大人となってしまった今となっては勉強以上のものにはなりませんでした。なので、今回の私のなりの結論は、脱成長のコミュニズムは大いに結構。ただ、残念ながら現実への影響はないのでは。それを推し進めると、人間はまさに滅亡に向けてまっしぐらなのかもしれないという、きわめて悲観的な結論となりました。

読み方は人それぞれになる本かと思います。学生時代に戻った感覚を味わえるのも嬉しいです。一読をお勧めします。

 


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アントネッロ/指揮:濱田芳通/演出:中村敬一/G.F.ヘンデル オペラ『ジュリオ・チェーザレ』 アントネッロ〈オペラ・フレスカ 7〉

2022-03-06 07:30:00 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

2019年8月にアントネッロ/濱田のバロックオペラ「オルフェオ」を見て、ユニークな企画や完成度高い公演がとっても印象的だった。しかも、今回は演目が一度は観たいと思っていたヘンデル「ジュリオ・チューザレ」だったので、迷わず川口まで遠征。オミクロンで座席数制限をしていたのか、購入した後方席は利用しなくなったとのことで、なんと最前列(座席的には前2列を明けているので第3列)に移動となった。これは開演前からラッキー。

事前に何の予習もしてなかったので、会場入り口に終演が午後10時10分頃と書いてあったのを見て仰天したが、実際は3時間半を全く感じさせない(お尻だけは痛かった)、時間を忘れるほど没入できた公演だった。

歌手陣はそれぞれ出番があり、気持ち入った美声を聴かせてくれたが、筆頭はクレオパトラ役の中山美紀さん。そのソプラノは曇りないもので、ホール一杯に響く歌声は、小柄な彼女がホールを支配しているような力を感じるものだった。演技も溌溂としていて、少女から大人に成長するクレオパトラのほとばしる生命力が現われていた。

チェーザレの家来ニレーノを演じた彌勒忠史も印象的。カウンターテナーの美しい歌声とコミカルな演技が舞台の存在感抜群で場を盛り上げた。

濱田芳通が指揮するアントネットのアンサンブルも古楽器特有の音色に魅かれる。聴く者を安心させる優しい音色が穏やかな気分にさせてくれる。

舞台中央にオケが陣取り、歌手陣がオケの前方で簡単な小物の舞台装置とステージ後ろのスクリーンに映した映像での舞台仕立ても、必要十二分の演出と感じた。硬い歴史劇というより柔らかいコメディタッチのアプローチも違和感なく、(他の演出を知らないので比較はできないが、)3時間半を集中して観劇できた一因だと思う。

前半最後に、家来3人衆の幕間劇が挿入されていたが(ここだけ日本語)、これが大笑いできる小芝居で、作曲当時のイギリス政治の状況も抑えつつ、このドラマの歴史劇というより人間劇としての面白さを引きたてた。

きっと他のお客さんも満足感一杯だったのだろう。終演後の拍手も大きく、暖かいもので、「楽しませて頂きました~」という気持ちが籠っていた気がした。濱田芳通とアントネットの次の企画が楽しみだ。

 

日時:2022年3月3日(木)18:30開演(17:45開場)
指揮:濱田芳通  演出:中村敬一
演目:G.F.ヘンデル作曲 オペラ「ジュリオ・チェーザレ」(原語上演字幕付き)
会場:川口総合文化センター・リリア 音楽ホール 

キャスト: 
ジュリオ・チェーザレ:坂下忠弘 
クレオパトラ:中山美紀  
トロメーオ:中嶋俊晴  
アキッラ:黒田祐貴  
コルネーリア:田中展子  
セスト:小沼俊太郎 
クーリオ:松井永太郎 
ニレーノ:彌勒忠史  
 
舞踏:聖和 笙  
 
管弦楽:アントネッロ 
     バロック・ヴァイオリン:杉田せつ子・天野寿彦・遠藤結子  
     バロック・ヴィオラ:佐々木梨花  
     バロック・チェロ:武澤秀平  
     ヴィオローネ:布施砂丘彦  
     テオルボ:高本一郎  
     バロック・オーボエ:小花恭佳  
     フラウト・トラヴェルソ/リコーダー: 中島恵美  
     ナチュラル・ホルン: 大森啓史・ 藤田麻理絵・ 根本めぐみ・ 松田知  
     チェンバロ&バロックハープ: 曽根田駿  
     オルガン:上羽剛史  
     パーカッション:和田啓 


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最近のマイブーム 角上魚類

2022-03-02 07:30:26 | 日記 (2012.8~)

テレビなどのマスコミでも紹介され既に有名なお店ですが、最近の我が家のマイブームは「日本一の魚屋」を目指す鮮魚スーパー〈角上魚類〉での魚の大人買い。

昨年、八王子に向かって日野バイパスを走っていた時に、偶然目に留まり駐車場に吸い込まれるように入って以来のファンです。月に1回は車走らせて通ってます。新潟県寺泊発の会社で、今も本社は寺泊にあるよう。東京では日野、小平、赤羽、南千住など、郊外に出店しています。


〈店内〉


何が、そんなに良いのか?

まず、雰囲気。活気があって目茶、楽しい。いわゆる魚市場的な活気と買い物の楽しさが大きなワンフロアの店内で存分に楽しめます。このコロナ禍の中、こんなに混んでていいのだろうかと思うほど、週末は賑わってます。殆ど観光気分です。

そして、魚。獲れたて、入荷したての光輝く旬の鮮魚たちが所狭しと並んでます。そして、旬の鮮魚はお値段もお手頃です。鮮魚だけでなく、干物、西京漬け、刺身、乾物、寿司、天ぷら、揚げ物などなど海鮮品は殆ど取り揃えてるんじゃなかな。

更に、旬の鮮魚を売り込むおばさん、おじさんたちとの会話も楽しい。かみさんは、このお店でお初の魚を買っては、調理法も聞き込んで購入します。この間はニギスというキスに形が似た小魚を皿一杯買ってきたのですが、おばちゃんに調理方法を聞いたところ「お湯で煮るだけで、ポン酢つけて食べて美味しいよ」とのアドバイス。これが、さっぱりして、本当に旨かった。

今回は生のホッケの開きを買ってきて、家で塩焼きに。干物は買ったことあるけど、開きを焼いたのは初めて。これが身が厚くて、ほっかり焼けて、口いっぱいに魚の甘みが広がり、最高でした。これが1尾250円でしたから、驚きです。


〈旬の鮮魚たち。美味そうじゃないですか!〉

干物など定番ものも、お値段はスーパーと同じぐらいで、質はスーパーより1ランクは上。もともと魚好きの我が家ですが、角上魚類のおかげで改めて魚食の楽しさ、美味しさを再認識しています。

是非、一度、足を運んでみてください!


〈あんこうのあんちゃんです〉

コメント (2)
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