その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

充実の展示: 神護寺展 @東京国立博物館

2024-08-20 07:30:50 | 美術展(2012.8~)

神護寺展へ出かけた。お盆休みのせいか、かなりの盛況。

京都の西北の深部に位置するお寺。5月に訪れた奈良国立博物館の「空海展」で、唐から帰国した空海が拠点として活動していた寺としてその存在を初めて認識した。「神を護る寺」という名前からして凄い。

空海との縁が深いこともあり、前半は空海や真言宗、曼荼羅関連の展示が中心。高雄曼荼羅や遣唐使の帰朝の目録など「空海展」と被る展示(全く同じかどうかは未確認)もあったが、復習にもなり興味深かった。

目を引いたのは、空海の「風信帖」と最澄の直筆の手紙「尺牘(久隔帖)」。並べて展示があったが、自由闊達な空海の書風と几帳面で丁寧な最澄の書風の違いが、(実際にどうだったかは知らないが)二人の性格の違いを示しているようで興味深かった。書に疎い私には、三筆の一人として名高い空海の書のどこが優れているのかも良く分からないのだが、こう比較してみることで違いは私にも分かる。

充実の展示と来訪者の多さに疲れ切った最後のコーナーが「第五章 神護寺の彫刻」。神護寺の仏像群が大フロアを埋めていて壮観だ。(「こうと知っていれば、こちらから鑑賞したのに」と少々後悔。)


(唯一撮影OKだった「二天王立像」(平安時代 12世紀)

チラシのメインキャラになっている薬師如来像(国宝)と脇侍の日光・月光の両菩薩(重要文化財)が中央に位置する。この薬師如来像、私がこれまで見たことのある薬師如来の中では、表情の厳しさ、怖さが群を抜いている。湧き出るようなアウラも強烈だ。逆に、両隣の日光・月光菩薩の穏やかさ、優しさが引き立つ。暫し、3つの仏さまを見惚れてしまった。

そして、壁沿いに立ち並ぶ四天王立像、十二神将立像の展示も見応えたっぷり。多くは江戸時代の制作のものだが、個々の立像の迫力たっぷり。更に、展示の演出が心憎い。立像の影が壁に映り、それが幻想的。立像の影絵が今にも動き出さんばかりのダイナミックで劇的な効果を生んでいた。博物館ならではの展示法だろう。

もう少し落ち着いた環境で鑑賞したかったという気持ちは残ったが、展示は十二分に満足。京都の中心部からかなり離れて位置する寺であるので遠いが、それ故の良さもあるに違いない。紅葉で有名とのことだが、季節にとらわれず、是非、一度訪れたい。

2024年8月16日


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学び多し!: デ・キリコ展 @東京都美術館

2024-08-18 09:21:07 | 美術展(2012.8~)

洋画の展覧会は年初めのポーラ美術館以来で久しぶり。

デ・キリコの作品は多くの美術館に少数展示してあることが多い印象で、寂しげな広場や彫像、夕暮れ時を思わせる色彩など記憶に残る作品が多い。シュールレアリスム的な象徴性が印象に残る画家だ。ただ、画家本人のこととなると全くと言っていいほど知らなかった。

今回の「デ・キリコ展」は「デ・キリコ芸術の全体像に迫る大回顧展」と宣伝するだけのことはある大規模な展示で、若き日から老年に至るまで年代を追って様々な作品を鑑賞できた。

個人的には、3つの学び・気づきがあった。

1つは、基本的なことだが、デ・キリコはシュールレアリスム一派ではなく、その先駆者的な位置づけとして、「形而上絵画」を描いていたということを初めて知った。恥ずかしながら、私はデ・キリコがてっきりシュールレアリスム一派だと思い込んでいたのだが、むしろそれに先行していた先輩だったのである。

後年の再制作も含めて多くの形而上絵画が展示されているが、頻出するテーマである広場やそこにある建築物を描いた絵は、遠近法の崩れや影の付き方の不自然さで、不安定な気持ちに誘う。また、マヌカン(マネキン)の作品はその没個性性に込められたメッセージを勘ぐる。デ・キリコならではの世界観に浸れる。

2点目は、シュールレアリスム一派と袂を分かつきっかけとなったのが、1919年ごろから始まった伝統主義への回帰ということなのだが、それらの作品もなかなか見応えあった。《闘牛士の衣装をまとった自画像》の自信に満ち溢れた表情は迫力満点。全盛期のレンブラントの自画像のような、プライドや自己顕示を感じる。静物画らも、その精緻でありながらダイナミックな描っきぷりは画家の力量を感じるに十分だった。

3点目は晩年の新形而上絵画とカテゴライズされている作品群を知った。私自身1910年代の「旧」形而上絵画の作品と後年の「新」形而上絵画の区別を意識して鑑賞したことは無かったので、その変化と違いが興味深い。「新」は色合いが薄く明るくなり、絵の重量感が失われ軽くなった感じがする。イラストに近いものがあって、個人的には「旧」作品の方が好みだった。

これら以外にも画家の工芸や舞台芸術の作品も展示されていて、画家の様々な芸術活動に触れられる。

人によって見どころは異なると思うが、訪問価値の高い特別展であった。なお、会場内寒いぐらいエアコンが効いているので、羽織るものを持参されたほうが良いかと思う。

2024年8月9日訪問

 

(日暮れもだいぶ早くなってきました)


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特別展「ほとけの国の美術」@府中美術館

2024-06-26 08:56:55 | 美術展(2012.8~)

(5月初旬に訪れた美術展の投稿忘れメモ)

会期最終日に府中美術館に特別展「ほとけの国の美術」に足を運ぶ。江戸時代の仏教関連の作品を中心にした展示である。

仏教関連の美術品は室町時代を境に、それ以降の品々にスポットライトが当たることは少ない気がするが、江戸時代は寺請け制度の下、表面的には「国民」皆仏教徒だったわけで、様々な仏教美術が残されていたようだ。

今回の展示では、来迎図、地獄絵、涅槃図が特に見ごたえあった。江戸時代のものなので、保存状態も良く、色彩も鮮やかだ。

土佐行広「二十五菩薩来迎図」(重要美術品 京都市・二尊院蔵)は優しい菩薩様が心を和ませてくれる。宇治の平等院を思い起こさせる。土佐行広はやまと絵の流派である土佐派の実質的な始祖である。

「地獄極楽図」(金沢市・照円寺蔵)は、地獄の様々なシーンが描かれる。子供の時に祖母が「悪いことすると死んだあと地獄に落ちて苦しむ」という話をやたら聞かされていたので、絵を見ながら祖母が思い出された。

「八相仏涅槃図」(名古屋市・西来寺(下の写真は絵葉書から))は個人的にも好きなテーマ。老若男女問わず、加えて動物も入って、仏様の他界を悲しむ世界観はとってもアジア的で、感覚的に馴染む。悲しい絵ではあるのだが、柔らかな温かさを感じるのが不思議だ。

過去に府中美術館で企画された「動物の絵」も多数展示されていた。徳川綱吉の絵もあった。日本の動物の絵は、西洋画のそれと違って昔から「かわいい」。画家の動物への愛がにじみ出ている作品が多く、ペットには縁がない私でも癒される不思議な力を持っている。

府中美術館の企画・展示は、国宝や重要文化財作品が満載ではないけども、公的な文化財指定は受けて無くても見どころある作品を興味部会切り口で紹介してくれるので、とっても楽しめる。各作品についた解説も適度に柔らかくて面白い。キュレーションの重要性を教えてくれる。

(2024年5月6日訪問)


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「法然と極楽浄土」展 @東京国立博物館

2024-05-24 07:39:59 | 美術展(2012.8~)

2024年は法然が開いた浄土宗が開宗850年を迎えるという。それを記念してかどうかは分からないが、東博で法然を特集した特別展が開催中であったので足を運んだ。法然ゆかりの宝物・文化財が多数展示されている。

昨年の京都で開催された「親鸞展」で釘付けになったが、個人的に興味を引くのは「絵伝」。当時の人々や風俗が描かれるので、想像を働かせて読み解くのが楽しい。今回も鎌倉期、江戸期の「法然上人絵伝」が多数展示してあり、江戸期のものは色合いも美しく保存されていた。たまたまかもしれないが、今回の展示は、市井の人々の描写は多くない場のものの展示が中心だったのは残念だった。それにしても、念仏唱えれば、だれもが極楽往生できる、というシンプルなメッセージは当時の人々には相当なインパクトだったろう。

東京会場の見どころとしてPRされていたのは、増上寺や祐天寺など関東の浄土宗寺院からの宝物。増上寺の狩野一信筆という「五百羅漢図」は色鮮やかで、表情豊かな羅漢様達が、飛び出してきそうなリアリティだった。まあ調べればわかることだが、浄土宗ってそもそも庶民が普及の担い手だったはずだが、徳川家の菩提寺が浄土宗の増上寺であるというのも興味深い。

印象的な展示は、最後のコーナーで展示されていた香川県法然寺にある立体涅槃群像。通常絵で絵が描かれることが多い仏の涅槃シーンだが、絵が彫刻になって、3次元に飛び出しているのである。東寺の立体曼荼羅さながら、立体涅槃像群は迫力エンタメとしても楽しめた。

会期は6月9日までです。

(以下、立体曼荼羅)




〈構成〉

第1章 法然とその時代
第2章 阿弥陀仏の世界
第3章 法然の弟子たちと法脈
第4章 江戸時代の浄土宗


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もうすぐ終わっちゃいます 「大吉原展 YOSHIWARA」 @東京藝術大学美術館

2024-05-11 09:04:37 | 美術展(2012.8~)

ここ数年で落語を聞くようになったので、落語とは切っても切れない縁の吉原。郭町としての吉原関連の美術品や史料を集めて展示した企画展「大吉原展」に行ってきた。ジェンダーや人権の観点から開催前から批判もあった本展であるが、江戸時代の特殊な風俗空間における光と影への理解が深まり、勉強になった。無事開催されて何より。

菱川師宣、歌麿、北斎、広重らの絵画や錦絵、写真、油絵、工芸品、出版物などなど、様々な作品や史料が展示される。吉原の歴史、街並み、関係者、風俗が理解できる優れた文化展である。人権やジェンダー的に問題があった制度ということは認識した上で、日本の近世における社会風俗の一つのリアルとして非常に興味深かった。文化の発信地であり遊郭としての異世界。遊女たちの格付けや昇進、客と店のお作法や流儀、町を盛り上げる年中行事(これはディズニーランド世界にも通じると感じた)など、一つのシステムが成り立っていた。そんな世界の史料を保存し、分析して、残すことは、意味あることだと思った。

幕末期に日本を訪れた外国人が吉原の花魁たちを見て、「娼館の娼婦たちがこれほどまにリスペクトされている日本とはどんなところ!」と驚いたというエピソードが紹介されていた。花魁に昇格するには、文字の読み書きから、和文・漢文、短歌、俳句、唄、三味線、茶、舞・・・など様々な知識や実技に秀でていることが求められたというから、一流の教養人であったわけだ。ファッション、浮世絵、唄、出版など、文化の発信地でもあった。

一方で、多くの遊女たちが経済的にも身体的にも縛られた自由を奪われた、劣悪な生活をせざるを得なかったこと。性病を始めとしたさまざまな病気で健康を害していたこと。環境からの脱出を企てた放火が絶えなかったことなど、心痛む内容も多い。そういった中で、唯一のスマフォ撮影許可エリアで、吉原の妓楼のジオラマがあったのだが、その人形を作成した辻村寿三郎氏のコメントが掲示してあったのが胸を打った。(Xのフォロワー様が写真をアップしてくれていたので、そのコメントを下に書き起こした)

連休の谷間であったが、バックを預ける空きのコインロッカーを見つけるのに苦労したほど、混みあっていた。ぱっと見だが女性観覧者が8割近くで、通常の美術展以上に多いような気がした。今月19日までなので、少しでも興味のある方は是非。

(以下、「江戸風俗人形」ジオラマの解説パネルから引用)

吉原

華の吉原仲の町。

悲しい女たちの住む館ではあるのだけど、それを悲しく作るには、

あまりにも彼女達に惨い。

女達にその苦しみを忘れてもらいたくて、絢爛に楽しくしてやるのが、

彼女たちのはなむけになるだろう。

男達ではなく、女達だけに楽しんでもらいたい。

復元ではなく、江戸の女達の心意気である。

女の艶やかさの誇りなのだ。

後にも先にも、この狂乱な文化はないだろう。

人間は、悲しみや苦しみにも、華やかにその花を咲かせることが出来るのだから、

ひとの生命とは、尊いものである。

私は、置屋の料理屋で生まれ育ったので、こうした吉原の女達への思い入れが、

ひとより深いのかもしれない。

辛いこと、悲しいこと、苦しいこと、冷酷なようだけど、それらに耐えて活きてい

るひと達の、なんと美しいことだろう。

ひとの道に生まれてきて、貧しくも、裕福でいても、美しく活きる姿を見せてこそ、

生まれて来たことへの、感謝であり、また人間としてのあかしでもあるのです。

艶めいて、鎮魂の饗宴のさかもりは、先ず、吉原の女達から・・・・・・・・。

             (『ジュサブロー展』図録 作品解説、1992年より)


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「モダン・タイムス・イン・パリ 1925 ― 機械時代のアートとデザイン」@ポーラ美術館

2024-04-05 07:27:47 | 美術展(2012.8~)

年明けの1月7日に訪れたので、3ヶ月遅れのエントリーになりますが、箱根のポーラ美術館でおすすめできる企画展が5月19日まで開催中なので、今更ですがその時の感想をアップします。

毎年、お正月が明けた最初の日曜日に「ギャラリートーク駅伝」というイベントが開催される(一時期、コロナでお休み)ので、都合がつく限り行くようにしている。ポーラ美術館の学芸員の方が襷をつないで、選りすぐりの1枚を解説してくれるイベントだ。午前中は、開催中の企画展「モダンタイムスインパリ in 1925」の展示作品を中心に紹介された。

この企画展は、第一次世界大戦からの復興によって急速に工業化が進み、「機械時代」(マシン・エイジ)と呼ばれる華やかでダイナミックな時代を迎えたパリが舞台。美術における機械の受容について探求する。「1920-1930年代のパリを中心に、ヨーロッパやアメリカ、日本における機械と人間との関係をめぐる様相を紹介」(企画展HP)したものである。学芸員さんによると、産業機械に美しさ(芸術性)を求め始めた時代であり、第1次世界大戦後の大衆文化とモダニズムの時代である。

第1区は自動車。自動車や航空機が普及しはじめ、機械が何なる手段・道具としてではなく、そのデザインや美しさが追及され始めた時代だという。第3区はノルマンディ号のポスター。また、1900年前後のアールヌーボーの様式と1925年当時のアールデコの様式や時代背景の違いなど、ォ恥ずかしながら知らないことも教えていただいた。

展示作品は、絵画を中心としつつも、映像、ポスターや模型、ガラス工芸品、合金ロボット模型、パソコンを使ったメディアアートなど多種多様で、企画そのものがとっても興味深い。ギャラリートークの第1区では学芸員さんから、エットーレ・ブガッティの車模型「ブガッティ タイプ52(ベイビー)」が開設された。この時代は、自動車や航空機が普及しはじめ、機械が何なる手段・道具としてではなく、そのデザインや美しさが追及され始めた時代だという。

第3区はA.M. カッサンドルのポスター「ノルマンディー号」(第2区はポーラ美術館の建築について)。破格の大型客船の宣伝ポスターがいかにその大きさを表すための工夫がなされているかとかが説明された。第4区は、河辺昌久「メカニズム」。シュールレアリズムを機械文明に対する「人間の意識の下に閉じ込められている無意識」に光を与える運動として、日本での展開を紹介。コラージュがかかった作品の読み解きが楽しい。そして、第5区では、空山基のロボット、ラファエル・ローゼンダールのウッブ・サイトが紹介された。


エットーレ・ブガッティ「ブガッティ タイプ52(ベイビー)」


空山基 Untitled_Sexy Robot type II floating (中央)/ Untitled_Sexy Robot_Space traveler (左右)2022年

恥ずかしながら、1900年前後の自然で曲線的な「アールヌーヴォー」様式と、1925年当時の都会的で直線的な「アールデコ」の違い(しかも「アールデコ」は後世の命名)や、アンチ機械としての「シュールレアリスム宣言」(1924年)といったことも初めて知った。時代と芸術の関係史のお勉強になる。

また、こうした20世紀前半の機械文明の興隆を振り返ると、必然的に「今」に目が行く。今のAI、特に生成AIらの新しいテクノロジーの隆盛は、芸術活動や人間・社会にどのような影響を与えるのか。100年後に、今回の企画展のような、AIと芸術、AIと人間・社会の新しい関係を振り返る展示会が行われたら、どんな展示になるのだろうか。そんなこともつらつらと考えた。

これから新緑が美しい箱根。ゴールデンウイークにでも足を運ばれることをお勧めします。

余談ですが、4月1日から強羅~ポーラ美術館間に無料送迎バスが運行開始するとのこと。1日13往復もしてくれるそうなので、アクセスもぐっと良くなりそうです。

 

※帰路は小田原によって、お刺身定食


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これは必見!:特別展「やまと絵-受け継がれる王朝の美-」 @東京国立博物館

2023-11-03 07:49:59 | 美術展(2012.8~)

東京国立博物館で開催中の特別展「やまと絵」。金曜日終業後に夜間開館時間帯に訪れた。

平安時代から室町期の逸品を揃えた質・量ともに充実の日本美術の展示である。何度でも足を運びたくなる素晴らしさだった。

屏風はややガラス窓で隔てた奥に設置されているので細部を見るには単眼鏡が欲しくなるが、絵巻系はすぐ手に取れるような距離で細部まで鑑賞できる。鑑賞者の流れを堰き止めては周囲に迷惑なのだが、どうしても見入ってしまう。

個人的には、当時の市井の人々や生活が描かれている画が好みなので、一遍聖絵、信貴山縁起絵巻、餓鬼草子、法然上人絵伝らは特に時間をかけた。当時の人々の様子や動きが生き生きと伝わってくる。ざわめきや歓声、話し声までが聞こえてくるようである。丁度、読みかけ中の網野善彦「日本の歴史をよみなおす」で、<一遍聖絵>を参照し、当時の賎視されていた乞食や犬神人が詳細に説明されていたのだが、展示されていた巻第七にはまさにそうした人々が描かれていた。今にも動き出すんではと思う程である。書籍の理解度もあがる収穫付きだった。

また、「風俗画」とは異なるが、日本の肖像画のキングともいえる絵に初お目見えしたのは感激だった。神護寺三像として「伝源頼朝像」「伝平重盛像」「伝藤原光能像」がそろい踏みしている展示は、鳥肌が立つほどのオーラ。各像とも横幅1メートルを超し、ほぼ等身大。歴史学的には、描かれた人物は源頼朝でないというのが今の定説らしいが、ここに描かれている人物の威容は只者ではないことは誰にでもわかる。歴史の教科書や資料集に載っている絵写真では到底伝わらない迫力が重くのしかかってくる。「これは凄いわ~」と思わず、唸ってしまう。

好きなものだけじっくり見ているだけであっという間に2時間経過し、閉館時間となってしまった。展示期間ごとにかなり展示が変わるようだし、まだまだじっくり見たい品も多い。再訪を期したいが、会期末に向けて益々込み合うこと必至だろうなあ。

(余談)

偶然にも、ミュージアムコンサートが閉館後に開催されるということで、残って聴いてきた。心地よい、秋の夜。本館前の特設ステージで、吉田兄弟による津軽三味線の演奏。初めて生で聴く津軽三味線だ。民謡だけでなく、オリジナルの現代曲、ロック調だったり、バラード調だったりで、テクニック、音の切れ、響き、激しさがとっても新鮮だった。なんか海外に観光に来ているよう。とっても幸運の金曜日夜であった。

2023年10月27日 訪問


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ローマの香りを嗅ぐ: 永遠の都ローマ展 @東京都美術館

2023-09-30 17:33:44 | 美術展(2012.8~)

2010年にローマを訪れたが、3日間の滞在中、多数の遺跡、充実の美術館・博物館に圧倒されっぱなしだった。そのローマのカピトリーノの丘に建つ、世界的にもっとも古い美術館の一つといわれるカピトリーノ美術館のコレクションが展示されるということで、早速訪れた。ローマ訪問時は、とにかく見どころばかりで、観光疲れで、カピトリーノ美術館は行けなかった。

建国神話から古代ローマからルネッサンスを経て17世紀にいたるまで、彫刻・絵画・コインなどの遺物(複製品も含まれるが気にならない)が展示されている。たっぷりとローマ世界に浸れる。私には、絵画よりも彫刻がローマらしく、強烈な引力に引き寄せられた。

中でも、目玉作品の一つである《カピトリーノのヴィーナス》の美しさは別格。初来日であることはもちろんのこと、海外に出て展示されたのは3回しか無いという逸品である。そのリアリティある豊かな肉感の美しさは格別。さらに、胸や恥部を隠す仕草が仄かに官能的。エロおやじに見られるのは癪だが、その場を離れることを許さないような磁力があった。この作品を見るだけでも、本展に来る価値があると思う。


(ポスターから)

歴代ローマ皇帝たちの彫像も素晴らしい。有名なヨーロッパの美術館に行けば必ず置いてあるものだが、久しぶりにアウグストゥス帝、カラカラ帝、ハドリアヌス帝らの再会は懐かしい。《コンスタンティヌス帝の巨像》もその大きさに圧倒される。貪って読んだ塩野七生さんの『ローマ人の物語』がまた読みたくなった。


(パネル)

トラヤヌス帝記念柱関連の展示も良かった。ローマで現物を見ているはずなのだが、とにかく遺跡が多すぎて、何をどこまで見たのか記憶がぼやけている。ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ《トラヤヌス帝記念柱の正面全景》のエッチングの精巧さは目を見張るし、トラヤヌス帝の偉業が彫られた柱の一部の複製展示も、彫り込まれたその時代の出来事に想像が及ぶ。


モエシアの艦隊(トラヤヌス帝記念柱からの石膏複製)


デケパルスの自殺(トラヤヌス帝記念柱からの石膏複製)

展示品の数は80程で、さほど多くはなく、金曜の夜間開館時間帯に訪れたので、とっても落ち着いて鑑賞できた。ローマ好き、イタリア好きの人には堪らない展示である。

2023年9月29日訪問


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終わり間近ですが、是非! テート美術館展 「光」 @国立新美術館

2023-09-26 07:00:29 | 美術展(2012.8~)

国立新美術館で開催中のTate美術館展に足を運びました。「光」をテーマにターナーから現代美術に至るまでの多種多様な作品の展示です。

ロンドンのTate Britainは大ファンなのですが、今回はTate Moern等の作品等も含め展示の半分は現代美術と聞いていたのと、2200円の入場料に少々尻込みをしていました。が、思い切って行って大正解でした。

前半は18,19世紀の絵画で、Tateらしくイギリス人画家中心の展示です。ターナー、ウイリアム・ブレイク、コンスタブルからミレイ、バーン・ジョーンズ、ハントなどのラファエロ前派などの作品が並び、見ごたえありました。私が好きなコンスタブルも、彼の原画を元にした版画((彫版(デイヴィッド・ルーカス))が展示されていて、イギリスの風景が懐かしかった。光と言えば、印象派は避けて通れないので、モネ、シスレー、ピサロなどの作品も展示されてあるのですが、脇役的な配置になっていたのは、Tateらしく苦笑い。


ウイリアム・ブレイク<善の天使と悪の天使>1795‐1805年頃 色刷り、インク、水彩/紙 43.2×59.4


ジョン・コンスタブル<ハムステッド・ヒースのブランチ・ヒル・ポンド、土手に掛ける少年>1825年頃、油彩、カンヴァス、32.7×50.2


ジョン・エヴァレット・ミレイ<霜に濡れたハニエダシダ>1889-90、油彩/カンヴァス、173.2×123

余談ですが、このコンスタブル原画の風景版画(↓)きっと、2011年12月に訪れたコンスタブル・カントリーの写真と同じ風景。200年近く立っても変わらない村の風景って、驚きです。


ジョン・コンスタブル<製粉所わきの小川>1831年刊、メゾチント/紙、14.1×19


詳細は、弊ブログ記事<コンスタブル・カントリーを歩く>2011.12.11投稿

現代ものは、リヒターなどの絵画に加え、写真やオブジェなど様々な表現形態の作品が展示されています。色付きの台車を並べただけに見えるデイヴィッド・バチェラー「私が愛するキングス・クロス駅、私を愛するキングス・クロス駅」とか正直、何故これが芸術なのか全く意味不明な作品もありましたが、これはこれで楽しめます。時間限定展示であるオラファー・エリアソン《黄色vs紫》はエンターテイメントとしての驚きもありました。


デイヴィッド・バチェラー「私が愛するキングス・クロス駅、私を愛するキングス・クロス駅」2002-2007

光と色彩が密接に結びついていて、モチーフをどう表現するか。自然の中の光や色と都会のそれらはどう違うのか。普段、考えることもない切り口です。芸術家たちの様々な創意工夫を凝らした作品を観て、驚かされたり、感心したり、はたまた理解不能で首を傾げたり、作品それぞれに自分の反応が違うのも楽しい。脳のいろんな領域がチクチクと刺激される感覚でした。Tate美術館はロンドン以外にもリバプールやコーンウォールとかにもあったのですが、現代もの中心だったので敬遠していたことを少々後悔。

一部の撮影禁止作品を除いては、基本撮影OK。8月に訪れた古代メキシコ文明展もそうでしたが、撮影OKは良し悪しあります。というのは、スマフォ撮影OKだとどうしても写真撮影に気を取られるところが出てきて、作品を目に焼き付けるぞ~という気合が弱まるんですよね。また、撮影する人に気を遣って、作品近くで鑑賞するのを遠慮してしまうのも、なんか違う感じがします。段々と新様式に慣れていくのかな。

東京では10月2日まで開催です。閉幕間もないですが、おすすめします。

 

2023年9月8日訪問


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これはお値打ち!: 古代メキシコ文明展 @東京国立博物館

2023-08-19 08:11:58 | 美術展(2012.8~)

テオティワカン、マヤ、アステカの文明からの様々な出土品をもとに古代メキシコ文明を紹介する特別展。

非常に見応えあった。修復努力の賜物だとは思うが、どの遺物も状態良く保存されている。

全般的に日本の繊細で柔らかい文化との違いが印象的だ。スケール大きく、硬質な印象を受ける。対象となった時代が紀元前1500年から紀元後1600年という広範囲にわたる上に、未だ分かっていないことも多いとされる古代メキシコ文明なので、出土品から勝手に当時の様子や人々の想像を膨らませるのが楽しい。

個人的に最も印象的だったのは、目玉出品とも言えるマヤの都市国家パレンケのパカル王の妃とされる赤い辰砂に覆われて見つかった通称「赤の女王」の遺物。7世紀に埋葬された女王の棺が現代に開かれるって、時間の封印を解く緊張感がたまらない。本人に被せてあった、ややくすんだエメラルドグリーン色のマスクが、観る者に何かを語りかけているように見えた。


赤の女王のマスク・頭飾り・冠・首飾り:マヤ文明 7世紀後半(パレンケ、13号神殿出土)

展示の仕方も工夫が一杯で多くの人が楽しめるように企画されていた。例えば、個人利用目的の写真は撮り放題。鑑賞よりも撮影に熱心な方が沢山いたのは微笑ましかったが、面白い試みだと思う。以下、いくつか個人的に気に入ったブツのスナップ。


モザイク立像:テオティワカン文明 200~250年 (黒曜石)


嵐の神の壁画:テオティワカン文明 350~550年


トニナ石彫171:マヤ文明、727年ごろ


猿の神とカカオの土器蓋:マヤ文明 600~950年


鷲の戦士像:アステカ文明 1469~86年

会場内も大スクリーンによる遺跡の映像投影や壁に遺跡風景をはることで、あたかも遺跡の中に居るような雰囲気を出してくれたのも、気分が盛り上がって良い。「赤の女王」は石室の棺に納められように展示がしてあり、女王の遺体の大きさ(思いのほか小柄)がよりリアルに感じ取れるともに、納棺に居合わせているような臨場感もある。

日本ではなかなかこうした中米の歴史や遺物に触れる機会は無いので、とっても貴重な展覧会だと思う。大混雑という程では無かったが、家族連れ、外国人観光客も多数で、大変賑わっていた。東京では9月3日までなので、少しでも興味のある方にはお勧めします。

2023年8月12日 訪問

 

(構成)
▼第一章古代メキシコへのいざない
▼第二章テオティワカン 神々の都
▼第三章マヤ 都市国家の興亡
▼第四章アステカ テノチティトランの大神殿


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駒場キャンパスでホガースと学生気分を満喫:「東京大学経済学図書館蔵ウィリアムホガース版画(大河内コレクション)のすべて」

2023-06-22 07:19:31 | 美術展(2012.8~)

東大駒場キャンパスで開催中のウイリアム・ホガースの銅版画展を訪れた。フォローしてるブロガーさんの記事で知ったのだが、自称ホガース好きの私にはたまらない企画だった。

東大駒場キャンパスは人生2度目の訪問。本郷キャンパスのような広大さはないが、緑いっぱいで若い学生さんが行き会う環境は青春映画の一幕のようである。土曜の午後とあって、キャンパスにはクラブ活動の学生さんたちが行き来したり、図書館帰りのような学生さんが本を歩きながら読んでいた。その場に居るだけで、数十年、時間が戻った感覚になったり、急に勉強したくなる。学校は不思議な力を持っている。

今回のホガース展は、展覧会ホームページによると東大経済学部で「長く教鞭をとられた大河内一男・暁男両教授が、親子二代にわたって収集されたもの」で、「経済学図書館・経済学部資料室の貴重なコレクションの一つ」ということだ。(大河内一男先生ってどっかで聞いたことあるなあと記憶を辿ったら、学部時代の「社会政策」の授業テキストの著者であったことを思い出した)


<駒場博物館前>

入館して、充実の展示に驚いた。展示目録がない(たまたま品切れ?)のが残念だったが、優に50は超える版画が展示されていた。想像以上に多くの作品、それも有名どころが展示してあって一枚一枚じっくりと鑑賞した。ホガースの絵は当時のイギリス風俗を風刺的に描いているので、その読み解きが楽しい。≪ジン横丁≫・≪ビール街≫、≪放蕩息子一代記≫、≪娼婦一代記≫などなど、著名な作品群だ。

興味深かったのは、各作品について、見学者(きっと多くは学生さん)のコメントや疑問を付箋紙で作品の下にペタペタと張り付けている。その付箋コメントを見ては、「こんな見方もあるのね。」「ここは気づかなかった。」とコメント読み比べも楽しかった。所々、先生が書いているのだろうか。色の違う付箋紙で質問付箋紙に回答しているようなメモも張り付けてあった。様々な見方が、作品と同時に楽しめる、大学美術館ならではのやり方で感心した。


<絵の下の付箋紙に感想や質問が>

博物館自体はさほど広いものではない(高校の小体育館ぐらいかな?)が、キャンパスの中にこんな博物館があって、無料で見学できるなんで、なんと羨ましい。確かに、以前訪れたハーバード大やオックスフォード大、ケンブリッジ大なんかのキャンパスには、信じられないような素晴らしい美術館・博物館があった。大学は「知」の拠点であるはずなのだから、「知」の継承の場としての博物館や美術館はその大学の歴史や風格が現われるのだろう。

博物館を出ると、キャンパス内にあるカフェテリア(イタ・トマ!)で、読書したり、勉強してたり、だべったりしている学生さんたちに交じって、コーヒゼリーを頂いた。昔の時間がフラッシュバックする。

とっても贅沢な時間だった。

6月25日までです。

2023年6月3日訪問

 

東京大学経済学図書館蔵ウィリアムホガース版画(大河内コレクション)のすべて
 「近代ロンドンの繁栄と混沌(カオス)」

 

コメント (2)
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見どころたっぷり!これはお勧め!!:特別展 東福寺展 @東京国立博物館

2023-04-26 07:37:28 | 美術展(2012.8~)

京都の東福寺は名前こそ知っているものの訪問歴はない。久しく、仏さま見物にご無沙汰していることもあり、東福寺にはどんな仏さまがいらっしゃるか、見仏気分で東京国立博物館へ出かけた。するとすると、それがそれが、絵画・書・物・彫刻など禅宗美術の文物が、想像を遥かに超える質と量で展示してあった。国宝や重要文化財のオンパレードでもある。殆どが東福寺の所蔵であり、超がつくほど驚きだった。伽藍の写真等も掲示されていたが、錚々たる禅宗のお寺であることを初めて知るに及んだ。奈良の東大寺と興福寺からそれぞれ一文字を取ってつけられたというだけのことはある。

個人的に特に印象に残ったものを3つほど上げると。

まずは、東福寺を拠点に活躍した絵仏師の吉山明兆(きっさんみんちょう、1352~1431)の作品群。名前は「日本史教科書の脚注にあったかな?」レベルの認識だったが、今回の目玉である五百羅漢図の作品群が素晴らしい。ずいぶん色合いが奇麗だなと感じたら、14年かけて修復作業が行われたとこのこと。館内には修復プロジェクトを紹介する3分程度のビデオも流されている。一つ一つの絵に物語があるので、それを想像するのも楽しい。いくつかには漫画解説(絵を使って台詞を入れた4コマ程度の漫画にしたもの)があって、楽しい見せ方と感心した。

期間限定展示の白衣観音図も素晴らしかった。縦が326.1cmある大きな絵の中央に座して黙想する観音様が描かれている。描かれた観音様自身は大きく描かれているわけではないようにも見えるが、絵の前に立つと、実に大きく見える。その静で凛とした佇まいには、聖なものを感じる。

続いて、東福寺開祖の円爾が博多の承天寺を開堂した際に宋の留学時の師匠であった無準師範が贈った一群の額字・牌字(はいじ)の作品群。字が持つ気迫、美しさが迫ってくる見事な書である。草書系の字は正直私には良いも悪いも分からないのだが、こうした楷書系の字はストレートで私でも感じるところ多いのが嬉しい。現在のお堂の額とかで残っているようなので、是非、東福寺を訪れた際には見ておこうと思った。

そして、お目当ての仏像である。さすがにご本尊様は引っ越しされてなかったが、脇侍の迦葉(かしょう)・阿難立像(あなんりゅうぞう)はユニークだし、さらに夫々の隣に立つ二天王立像(重要文化財、13世紀)が凄い。3mは超えていると思える。その力強さ、激しさには思わず後ずさりしてしまうほどだ。撮影可能エリアでは、火災で焼失した旧本尊の手である巨大な「仏手」が展示されている。手だけでこんなに大きいのだから、どんだけ本尊は大きかったのだろうか。


<写真撮影可能エリアで 寺院内を再現 今の時期は新緑、秋は紅葉が素晴らしいらしい>


<旧本尊の釈迦如来坐像(光背化仏) 鎌倉~南北朝時代 14世紀>



<仏手 東福寺旧本尊 1個 鎌倉~南北朝時代 14世紀 東福寺> 

普段は非公開であろうものもあるだろうから、東福寺を訪れても、これらの品をすべて見ることは叶わないと思われる。だが、この展覧会を行って、東福寺に行きたいと思わない人は居ないだろう。京都には5月までにもう一つ行かなくてはいけないイベントがあるのだが、もう一つ行くべきところが追加されてしまった。

2100円の入場料は高いが、この内容なら決して高すぎるとは思わない。5月7日までなので、見逃しはもったいないです。できれば私もゴールデンウイーク中に再訪するつもり。

2023年4月12日訪問

 

(構成)

第1章 東福寺の創建と円爾
第2章 聖一派の形成と展開
第3章 伝説の絵仏師・明兆
第4章 禅宗文化と海外交流
第5章 巨大伽藍と仏教彫刻

 


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美術展<レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才> @東京都美術館

2023-03-27 07:30:48 | 美術展(2012.8~)

もう1月が経ってしまいましたが、2月下旬にエゴンシーレ展を訪れました。エゴンシーレを初め、クリムトなど同時代のウィーン分離派の画家の作品も多く、100点を超す充実の展示です。

28歳で早逝したシーレですが、その作品群は実に個性的で、観る者を引き付ける魅力に溢れています。その題材、表現、タッチ、色彩などなど、絵から才能がほとばしっているのが、私のような素人にも感じられます。狂気を感じるところも多々あります。絵の前に立つと、相当の衝撃に襲われ、普段使わない脳の部位が刺激されます。

個人的には<母と子>、<悲しみの女>などの女性像がお好みでした。夫々の表情に内包される感情に考えを寄せ観ていました。過去に見た記憶にない風景画も多数展示されていて、こんな絵も描いていたのだと学びました。


風景画だけは撮影可。《モルダウ河畔のクルマウ(小さな街IV)》エゴン・シーレ、1914年 油彩、黒チョーク/カンヴァス、レオポルド美術館蔵

分離派展のポスターや同時代の画家たちの作品も興味深かった。画家によって個性、画風が異なるのは当たり前なのでしょうが、時代の転換期の不安定さと新しい時代を切り開こうとする意志の微妙なバランス感など、共通した時代の空気を感じました。

非常に力の入った見所満載の企画展であること間違いないです。既に多数の入場者を記録しているところと思いますが、関心はあるがまだ行ってない方には、4月9日までですので、訪問を強くお勧めいたします。


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美術展 「パリ・オペラ座ー響き合う芸術の殿堂」 @アーティゾン美術館

2023-01-19 07:18:24 | 美術展(2012.8~)

パリのオペラ座をテーマに17世紀から現代に至るまでのオペラ座の歴史、芸術、関連する社会史を紹介した企画展です。

質量ともに充実した展示で、普通に鑑賞するだけで優に1時間半はかかります。各エリアでのパネル解説文もしっかり書きこまれていて、読むだけでオペラ座通になれるのではと思うほど。展示品も絵画、下絵、設計図、模型、楽譜や小道具、衣装の実物など美術展というより総合博物展の風です。欧州の芸術史を学ぶ人には絶好のケーススタディになる展示です。

どれも興味深い内容なのですが、私には「グランド・オペラ」を中心するフランスオペラの変遷やオペラにも影響を及ぼしたジャポニズム、社交場としてのオペラ座の位置づけなどなどが興味を引きました。うろ覚えでしたが、以前読んだ岡田暁生氏の『オペラの運命』(中公新書)で学んだ所を思い出すところもあって、再読してから行けばよかったと少し後悔。

(帰宅後、パラパラと読み返してみたら、パリは「19世紀オペラ史の首都」であり、「近代市民社会におけるオペラのありようについての決定的なモデルを示したのがパリであった」として、「第三章 グランドオペラ、または、ブルジョアたちのヴェルサイユ」において一章を使ってパリのオペラを巡る状況について、詳しく解説してくれていました。「読んでから行くか、行ってから読むか」、お好みで。)


〈ジャポニズムの影響がみられるオペラ「夢」のポスター>

時代を追うだけでなくて、画家、台本作家、音楽家、舞台装置担当、演出家、等の役割の視点で展示が構成されているのも面白いです。終盤に、現在のバスティーユでのオペラ座上演の映像を流していましたが、〈コジ・ファン・トゥッテ〉や〈椿姫〉のような古典的オペラの定番も、かなり奇抜な現代的な演出が施されており、伝統と今がつながる感覚も味わえます。

バレエ関連の展示も多いためか女性の鑑賞者が通常の美術展より圧倒的に多い印象でした。新装オープンして初めて訪れたアーティゾン美術館もゆったりとした空間と展示でとっても落ち着いて鑑賞できます。2月5日まで開催。お勧めです。

 


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素晴らしい企画!:ポーラ美術館開館20周年記念展「ピカソ 青の時代を超えて」& ギャラリートーク駅伝

2023-01-09 11:11:46 | 美術展(2012.8~)

お正月中は特に遠出もしなかったので、3連休の中日に箱根に足を運びました。主目的は大好きなポーラ美術館訪問です。毎年、この時期に箱根駅伝に引っかけて、学芸員の方がリレー方式で展示作品について解説してくれるギャラリートーク駅伝目当てです。


《海辺の母子像》1902年 ポーラ美術館

今年はギャラリートーク駅伝もさることながら、もうすぐ(1/15まで)閉幕となるポーラ美術館開館20周年記念展「ピカソ 青の時代を超えて」が圧巻でした。「青の時代」を超えてキュビズム、円熟期・晩年に至る作品を展示し、その制作過程に焦点を当てた展示が、驚きと感心の連続でとても刺激的な鑑賞でした。

絵画の分析技術、画像技術を駆使して、ピカソの絵が何重にも違った絵が描かれていたことが解明されたり、(これは既存の映画とのことでしたが)「ラ・ガループの海水浴場」が積み重ねに積み重ねを重ねて今の最終形に至ったかの映像は、絵画の価値とか完成といったものがどういう意味なのかを考えさせられます。


《ラ・ガループの海水浴場》1955年 国立近代美術館

また、QRコードでスマフォでアクセスして聴く作品トークが超秀逸。お笑いコンビチョコレートプラネットと学芸員の東海林さんのトークが、芸人さんのとっても素直で楽しい絵の鑑賞・感想に学芸員の専門的な解説が掛け合わせられるという、通常なオーディオ解説を遥かに超えた面白さで、絵を見ながら、オーディオ聴いて笑ってしまうこと数回。時間がどんどん過ぎていきます。

もともとのお目当てのギャラリートークも健在です、今年11回目を迎えるというこの企画(コロナで一時中断あり)、私は確か3回目ですが、普段、通り過ぎてしまう絵を、時代背景や画家の交友、絵の着眼点などの話を聞きながら鑑賞するのは、「へえ~」の連続です。特に、現代美術作品などはただ眺めていても唸るだけですので、作品解説を伺い「なるほど~」と少しわかった気になるのでした。


ギャラリートーク駅伝の一コマ 学芸員の人は襷かけてますが写ってないですね。絵は田中敦子《'89A》

午前早いうちに入館してお昼過ぎまでじっくり、ゆっくり。いたるところに椅子も配置され休めるので、本当に居心地良い環境です。ガラスまどから見える真っ青の箱根の空と葉の散った木々や山の風景も素晴らしい。

小田原に降りて、15時前の遅めの昼食は日本酒と海鮮丼を頂き大満足。落ち着くようで落ち着かないお正月明けの連休の1日を楽しませてもらいました。



2023年1月8日 


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