台本良し、役者良し、演出良しの3拍子揃ったレベル高い「オセロー」であった。
中でも、題名役の横田栄司の快演・怪演が強烈な印象を残した。横田さん、数年前のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の和田義盛役で存在感を放っていたが、暫く体調崩してお休みをされていたらしい。
この舞台では、とても休養明けとは思えない、ほとばしるエネルギーにただただ圧倒される(義盛役の時は、小柄な方なのかと思っていたが、全く誤解であった)。救国の英雄として誰もが羨む花嫁と結婚した絶頂期から嫉妬に狂い、破滅していくまでのムーアの武人を演じた。強さ、弱さ、可愛さオセローの人間的特質を演じ分け、オセローが乗り移ったにも見える迫力は見ていて怖くなるほど。
対する、スキャンダルの仕掛け人イヤーゴーを演じた浅野雅博はオセローの「動」に対して、「静」的なキャラで知能犯を安定感たっぷりに演じた(この方、新国立の「スカイライト」で蒼井優さんとの会話劇が今でも印象深い)。ちょっと、スマートすぎて、「毒」要素が抑えれれていた気がしたが、私の気のせいか、それともそういう演じ方なのかな。
初めて拝見するデスデモーナを演じたsaraは可憐な役を素であるように自然に演じていて、とっても好感度高い(初めてなので、何が「素」なのかわからないが)。
主要級3役以外の脇役陣も、エミリアの増岡はじめ、夫々安定感たっぷりで、隙が無い。私は初めてなので何とも言えないが、これが「文学座」の格とでも言うのだろうか。
演出は鵜山仁。昨年の新国立劇場での「尺には尺を」「終わりよければすべてよし」もそうだったが、ここ数年観るシェイクスピア劇の演出はかなりが鵜山さんによるもの。
舞台上の中央に4畳半規模の立体ケージが置かれ、夫婦の寝室など様々な場面で活用される。群青色をベースにした照明も美しく、背景のカーテンに漁火のようなライトが投影され、ベネチアであったり、キプロスの幻想的な雰囲気をうまく作っていた。役者さんは観客エリアも縦横に動き、私の通路横に着席されていたお客さんは、横田さんに凄まれてマジでびっくりしてた。
第5幕は小田島の翻訳を忠実に、場面、セルフカット無しに演じられた。クライマックスではあるのだが、自分の集中力が切れかかってたのか、少々冗長な印象はあった。死んだデスデモーナやエミリアが(生き返るわけではないが)動くのも私には良く理解できなかった。
それにしても、オセローはシェイクスピア悲劇の中でも、ちょっとかなり感情移入が難しい。オテロ―は思い込み激しいお馬鹿さんすぎるし、デスデモーナはあまりにも可哀そうすぎる。それでも、こうやって見に来てしまうのは、この作品の引力なのだろう。
余談だが、この日の観衆は大学生ぐらいの若い人多く、会場の雰囲気もフレッシュだった。関係するかどうかは分からないが、終演後の拍手はとっても大きく、スタンディングオベーションの方も多数いた。
(2024年7月5日)
文学座公演
『 オセロー 』
作:ウィリアム・シェイクスピア
訳:小田島雄志
演出:鵜山 仁
日程:2024年6月29日(土)~7月7日(日)
会場:紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
Cast
石川 武(ヴェニスの公爵)
高橋ひろし(ブラバンショー/グレーシアーノー)
若松泰弘(モンターノー)
浅野雅博(イアーゴー)
横田栄司(オセロー)
石橋徹郎(ロダリーゴー)
上川路啓志(キャシオー)
柳橋朋典(ロドヴィーコー)
千田美智子(ビアンカ)
増岡裕子(エミリア)
萩原亮介(役人 ほか)
sara(デスデモーナ)
河野顕斗(紳士 ほか)
□スタッフ
美術:乘峯雅寛 照明:古宮俊昭 音響:丸田裕也 衣裳:前田文子 ヘアメイク:鎌田直樹
アクション:渥美 博 劇中歌監修:高崎真介 舞台監督:加瀬幸恵 演出補:大内一生 制作:梶原 優、鈴木美幸 制作助手:畑田麻衣子
宣伝美術:三木俊一(文京図案室) 宣伝写真:佐藤克秋