その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

寒かったけど、大阪街走りを満喫!:大阪マラソン2023 完走記

2023-02-28 12:02:47 | ロードレース参戦 (in 欧州、日本)

念願の大阪マラソンに出走してきました。以下、その一部始終になります。長文になりますが、よろしければお読みください。

【当日まで】
2015年以来東京マラソンは抽選外れが続き、「東京がだめなら、大阪へ」ということで昨年秋に申し込んだ。参加費約2万円は高額だったが、東京マラソンやロンドンマラソンの声援が今も耳に残り、あの楽しみを再び。

練習計画をこなし、12月には私用に併せて、2日にわたってテストランもしてコースの7割を下見済。レース1週間前まではほぼ完璧な練習・調整だったが、1週間前に風邪をひき、鼻・喉が不調で体もたるいまま、不安の中での大阪入りとなった(PCR検査は陰性)。

(前日の大会受付等模様は別エントリーで)

【当日:スタートまで】
6時に起床。コンビニおにぎり2個とホテルでの和朝食に加えて、エネルギーゼリーを1つを腹に収め、エネルギー源をたっぷり充填。7時55分に大阪城公園前到着。検温等を済ませランナーズエリアに入り、スタートまで1時間15分あるので余裕の到着のつもり。


<全国旅行割引のおかげでいつもより2ランク上の朝食>

会場ですぐに既に30m以上の列が出きていたトイレ(小用)に並ぶ。これに8時5分から8時30分まで結局25分もかかった。この待ち時間は時計とのにらみ合いでストレスたまった。トイレはここを含めてスタートエリアまで3か所あったが、この規模の大会としては圧倒的に数が少ない。大会関係者はトイレの重要性認識してるのかな???

更に、荷物預けてからスタートラインまでの導線には、途中狭い階段を上るところがあって大渋滞。ゲート締め切りに間に合わないんではないかと、これも相当イライラ。

<集合場所の大阪城公園へ>


<スタートエリアではありません。スタートエリアに向かうまでの導線が大渋滞>

9時前にギリギリ何とかスタートラインに並び、スタート前のアミノ酸ゼリーを食す。ランナーの全体像は見えないが、定員32000名近くが走るこれだけの大規模大会は本当に久しぶりで、ワクワク。

この日の3つの目標を唱える。1つ、とにかく大阪を楽しむ。2つ、体調万全でないので無理はしない。連続記録が続いているサブ4は2の次。3つ、練習の課題であったガス欠とトイレマネジメントを注意。


<スタートエリア。気温4.7℃とかなり寒い>


<いよいよ42.195kの旅の始まり>

【スタート~10k】
9時15分にスタートの号砲がなる。前半はとにかくペースを上げないように。スマートウオッチGarminを装着し、キロ5分30秒、心拍数を120台前半で走ることを肝に銘じる。

Garminの最初の1キロ通知が5分40秒。スタート直後の渋滞もあったにしては早いなあと思ったが、レースの1キロボードはまだ50mぐらい先に見えている。「ん?ってことは、6分越えるペースなのか?昨年10月の水戸黄門マラソンでもGarminとレース距離表示の差分はあったけど、最初の1kでこんなに差が出るか?」と、結構、動揺。

更に、4キロから5キロのGarminの1kラップは何と5分3秒。いくらなんでもそんなハイペースでは走ってないし、Garminの5k通知と5kの距離ボードの誤差は既に100m以上。「今日のGarmin、全く使いものにならぬ」と走りながら「怒」。(帰宅後に大会連携のアプリで照合したところ、5kラップは大会アプリで27分38秒、私のGarminは27分1秒と5キロで30秒以上の差があった)


<日本一長い天神橋筋商店街>

6k地点近辺は堂島・中の島エリアを走り、大阪の歴史的建造物などが沿道の左右にあり見所満載。五代友厚の銅像が証券取引所の前に堂々と立っていて、私的には大喜びで思わず1枚パチリ。「う~ん、大阪だ」。

6k過ぎから御堂筋に入る。大阪を代表する通りで、広く、走っていて気持ちが良い。東京マラソンの銀座通り並みの観衆を想像していたら、それほどではなかったが、大丸デパートやグリコの電光スクリーンがコースから見えて大阪感満載。


<取引所前に立派な五代友厚像>


<御堂筋爆走中。後続ランナーさんポーズありがとうございます。右下は忍者おじさん>


<NHKBSの撮影中のようです。「りさっち」ってタレントさん?>


<大阪と言えばこの「グリコ」>

【10k~ハーフ地点】
御堂筋を難波まで走り、千日前通に出て西に向かって走る。コブクロ小渕さんが走っていて、横を追い抜いた。大正橋を渡るとまた街の雰囲気が変わる。京セラドームなど新しい商業地域と、昔ながらの下町的な雰囲気が共存している。ドーム近くではおおくの応援団から声援を頂いた。

千日前通に戻って、大正橋を再び渡ると今度は右折して、なにわ筋を南下。道こそ広いが、新旧の小規模な住宅が左右に広がる。横に見える道は狭く、庶民的な家々が見える。応援の数は若干減った感じだが、レース前半の大事なところなのでしっかり走りに集中。一定のペースを維持して、まずはハーフまではしっかり走り切るが当面の目標。


<コブクロ小渕さんを抜く!>


<京セラドーム前の応援団。カメラを向けたら大声援送ってくれました。大阪ねえさんノリ良いです>


<大正橋を渡ってくだり。難波方面へ>

一方で、Garminと距離ボードとの誤差はどんどん広がるばかり。10k地点でGarminの誤差が150m以上になっていて(10.15k走ったことになっている)、自分のペースが適切なのかどうか混乱。Garmin10キロ地点の1キロラップがなんと4分47秒。あり得ないでしょう(こちらもレース後の検証では、10キロラップが大会アプリ54分12秒、Garminが53分18秒で1分近く違ってた)。Garminの距離・ラップタイムは信じず、とにかく心拍数を抑えて走ることに徹した。

岸里で折り返し。地元の人から大きな声援を貰う。ハーフ地点を通過し、まずは一安心。疲れはあるものの、状態は悪くない。時折太陽も覗き、もう少し気温が上がってくれればと思う。走っていても体が温まらず、手袋が離せない。後半のガス欠防止にウエストポーチに入れていたエネルギーゼリーを飲む。


<岸里で折り返し>

今回のテーマの1つはトイレマネジメント。トイレを気にしながら走るのは、走っていて楽しくないし、ストレスフルだ。いかにトイレの回数とロスタイムを最小限に抑えるかは、サブ4目指していつも秒の争いをしている私には死活問題でもある。ネットでトイレ対策として、ホカロンを下腹部に充てると良いと情報を得ていたので、今回試してみたが、これがとって効果あった。走っていても寒いような気候だが、下腹部はあったかくて心地よいのだ。

それでも、早めにトイレに行っておこうと考えていたら、22k地点ぐらいのトイレエリアで、女子高生らしきボランティアの女性が、「今、何番のトイレが空きました~」と空き状況をお知らせしてくれているのが耳に入る。急遽、早めにトイレに駆け込み、待ち時間なしでロスタイム2分弱だけで収まった。おねえさん、ありがとう!


<丁度、中間点にてグロスタイム4時間のペースメーカーに追いついた>

【ハーフ~30k】
千日前通りに戻る。ちょっと沿道の応援と距離があるのが残念だが、難波近辺の大声援は嬉しかった。丁度25k地点で、脚に疲労がたまってきたのを忘れさせてくれた。難波のアーケード街や黒門市場の横を通る。

そして下寺町の交差点を右折し、天王寺公園入口で再び折り返し、千日前通に戻る。下寺町近辺は寺院の集積地らしく、お寺が目につく。レースコースにもお香の匂いが漂う。お香の匂いは好きなので、気持ちが落ち着く。


<戎橋筋>


<12月に訪れた黒門市場>

Garmin上では1キロ5分30秒前後でラップを刻んでいるが、既に距離表示とGarmin通知で300mの差が出ているので、このラップはとても信じられない。もうラップタイムもあてにせず、時刻表示だけを見るようにした。スタートラインを超えるまでに4分弱のロスがあったので、ネットで4時間切るには13時19分までにゴールすればよい。このペースが続けば大丈夫そうだが、いつどこで足が止まるか、ガス欠になるかわからない。とにかく、動くうちはひたすら足を前に出すだけ。

このレース、エイドのスポーツドリンクや給水は十分な長さが取られていて取り漏れることはないのは有難かった。ボランティアの皆さんが掛けてくれる声もうれしい。「頂きます~。ありがとうございます~」と言うと、「頑張ってください~」と答えてくれる。そんな、ちょっとしたやり取りだけで元気を貰える。給食はスポーツ羊羹、お菓子、塩分飴などがあったが、給食コーナーは場所が小さく、羊羹と塩分飴以外は取り漏れた。


<天王寺公園へ。きっと学園坂近辺>

再び、千日前通に戻って、本コースの最も斜度のきつい上り坂。12月に下見で走った時は楽勝と思ったが、既に30キロ近く走った脚には応えた。皇居RUNの乾門近辺の上りに比べれば大したことないと言い聞かせ、何とか上りきる。坂を上った谷町九丁目の30k地点のところで家人が私を呼んでいるのが耳に入った。元気をもらう。

【30k~ゴール】
千日通りと別れを告げ、四天王寺方面へ。ここからも細かいアップダウンが続き、足が悲鳴を上げる。左ふくらはぎがぴくぴくし始めて、やばい予感。四天王寺の入口の門はカメラに収める。

35キロ地点過ぎて、今里筋へ。冷たい北風が疲れた体に直撃し痛い。37キロ過ぎで「残り5k」と残り距離のボードが見え始める。いよいよカウントダウン。脚もつらいが内臓が辛い。ウエストポーチに忍ばせた最後のエネルギーゼリーを食べた方が良いかと思いつつも、喉を通る気がしない。お好み屋さんの横を通ると強烈なソースの匂いも辛かった。今里の駅前で、地下鉄で移動してきた家人を再び発見。スマフォを向けてくれたので、力なく手を挙げて応えた。  


<四天王寺前 これ以降ゴール直前まで写真撮る余裕なし>

今里筋を曲がっていよいよ残り2k。長野マラソンなら千曲川の土手を降りて、スタジアムに向かう最後の道だな、と4月に走ったレースが頭をよぎる。あの時は脚がひと時動かず、止まってしまった。あれに比べれば今日は上等と思う。時折、霙のような氷の混じった水滴が風に乗って体にあたる。最後まで寒いレースだ。

最後の2kを走って、大阪城公園入り。大阪城を背景にフィニッシュ・エリア入りは絵になるなあ~と思ったが、カメラを取り出す元気はでなかった。なんせ4時間まであと2,3分しかない。過去のマラソンでもゴール100mまで足が痙攣起こして動けなくなったレースもあるから、最後の最後まで気は抜けない。ペースを落とさず、上げもせず、ヘロヘロになりながらも脚だけは動かす。「グロスでは4時間2分になります~」というアナウンスが耳はいった。そして何とかゴール!


<ようやくFINISHゲートが見えてきた!>

ゴールしたがGarminを途中で見なくなったこともあり、ゴール後もしばらくSTOPボタンを押すのを忘れていた。なので、結果が分からずしまいで、喜んでいいのかどうかも分からない。呆然として、完走メダル等を受け取る。グロスで4時間2分と言っていたから、ネットではサブ4大丈夫だろうとは思ったけど、ストップウオッチ止め忘れるなんて・・・自分自身の阿呆さ加減に呆れた。(レース後の公式記録証でタイムは3時間58分台でした)

スタート前のストレスはあったものの、ボランティアや街の人の声援に背中を押された充実の大会だった。ランドマークになるような観光スポットはさほど多くはないが、大阪のいろんなエリアを巡り、多様さ、ディープさを感じ取れた気がしたのもうれしい。参加できて良かったわ~。


<完走タオル。大阪っぽい>


<完走メダル>

おわり

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初・ナマ小栗旬/ 彩の国 シェイクスピアシリーズ 『ジョン王』(翻訳:松岡和子/演出:吉田鋼太郎)

2023-02-25 08:29:11 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

小栗旬さん目当てでした。昨年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で主人公北条(小四郎)義時役でとっても印象的だったためです。日本史上とっても重要であるがキャラが分かりにくい義時の、青年期から晩年に至るまでの成長を見事に演じきってました。恥ずかしながら、私には名前こそ知っていましたが、小栗旬を主役として見たのはこのテレビドラマが初めてでした。そんな彼がシェイクピア劇を演じると知り、舞台ではどう演じるのか、埼玉・浦和に遠征しました。

演出と主人公のジョン王役は吉田鋼太郎氏。小栗さんは準主役と言える私生児フィリップ役で出演。物語は台本にもなっている松岡和子さんの訳本を事前に読んでおきました。

小栗さん、吉田さんはもちろんのこと、各役者さん達の熱演は素晴らしく、完成度の高い公演でした。シェイクスピアによるこの歴史劇の重み、面白さが浮きあがっていました。支配層の権力欲・名誉欲、家・家族の愛、人のご都合主義、そして支配層のご都合で右往左往し、虐げられる非支配者層たち。今も昔も変わらぬ人間社会の有り様です。演出では、劇の冒頭と最後に現代に空間・時間を持って来ていて、過去と現代との連続性を意識させるつくりになっていたのも説得感があります。

リアル小栗さんを初めて見た感想は、身体の切れが実に良いですね。演技も流石、堂々としていて華がある。第2幕の最後の権力者たちの私利私欲を嘲るモノローグには胸を打たれました。

シェイクスピア劇として少々驚いたのは、重要場面で役者さんのソロでの歌が入りました。それも日本のポップミュージック(私が知らなない、聴いたことのない音楽もありましたので、全て日本のものからは自信ないです)。「え、これってミュージカル?」と最初は仰天だったのですが、キーシーンに歌が挿まれます(全編で5曲ぐらいだった記憶)。皆さん(含む、吉田さん・小栗さん)しっかり歌われるし、劇効果を高めているのも確かなのですが、私自身は歌、要るかなあと感じたところはありました。(そういえば、蜷川「マクベス」ではクラシック音楽が挿入されていたことを思い出しました。あれも不要と思ったけど)

いずれにせよ、私にとってはシェイクピア劇を小栗旬とセットで観られたという非常に満足感の高い舞台でありました。(どうでもいい話ですが、観客の女性比率が7割以上(しかも若い)で、クラシック音楽コンサートやオペラとは全く違う観客層で、浦和という地域性もありかなりアウエイ感満載でした)。

 

日時 2023年2月17日(金)18:30 上演時間 約3時間(一幕 80分/休憩20分/二幕 80分)。
会場 埼玉会館 大ホール
作 W. シェイクスピア 翻訳 松岡和子
上演台本・演出 吉田鋼太郎(彩の国シェイクスピア・シリーズ芸術監督)
出演 小栗 旬 中村京蔵 玉置玲央 白石隼也 高橋 努 植本純米 櫻井章喜 間宮啓行 廣田高志 塚本幸男 飯田邦博 坪内 守 水口テツ 鈴木彰紀 堀 源起 阿部丈二 山本直寛 續木淳平 大西達之介 松本こうせい 酒井禅功/佐藤 凌(Wキャスト) 五味川竜馬 吉田鋼太郎
演奏:サミエル 武田圭司 熊谷太輔/渡辺庸介
<Wキャストスケジュール(子役)>
酒井禅功・・・18日 マチネ、19日、22日、24日
佐藤 凌 ・・・17日、18日 ソワレ、21日、23日

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西垣 通 『超デジタル社会』 (岩波新書、2023)

2023-02-23 08:11:20 | 

「日本でデジタル化が成功するための鍵は何か」についての論じた本です。

筆者の問題意識は明確ですが、議論はかなり蛇行が激しいので、本筋の理解には骨が折れます。また、学者先生の著作らしい抽象的、概念的な議論も大きく混ざるので、実務家の私としては労はあったがリアルに得るもの少なく、残念な印象な本となってしまいました。もともと実務を目的とした本ではないので無いものねだりなのですが、ハイデガーの実存哲学の概念でデジタル世界を論じたり、日本文化や社会的特質を丸山正男で説明されるところなど、教養主義の香りがするとっても「岩波」っぽいところがあり、私にはちょっとついていけず。

私のように、「何が言いたい?」とすぐ聞きたくなるせっかちな人は、結論部分であるp180からp187だけを読んでも良いと思います。

結論部分を一部、抜き書きします。

「DXはオープンなインターネットによって社会全体を変革すると言うことであり、メタバースは、さらに一歩進んで、AIを活用した仮想空間から、リアル空間を形成していくと言う未来志向の考え方である。いずれもアメリカニズムに由来している。現状のままでは、日本で受容され浸透していくとはとても思えない。1つの理由は外来文化の受容の仕方の変化である。」

「日本社会は、伝統的にクローズドで、人々は周囲の空気を読む言動を求められ「同質性・安定・階層性」という価値観を捨て切れない。移民からなるアメリカ社会はオープンで、人々は、独立したアイデンティティーに基づく自己責任の言動を求められるから、DXに抵抗は無い。「多様性・変化・平等」がその価値観だ。(中略)親密な共同体での気配り、コミニケーションが暗黙の了解に基づく完璧で安定した社会関係をもたらしてきた。こういう伝統的な価値観が、優れたICT潜在能力がありながら、日本社会でアメリカ流のDXが進まない。最大の原因なのである。」(p180-182)

「この国の産官学のリーダーたちは、相変わらず直輸入したアメリカニズム一点張りでやれDXだ、やれメタバースだと、喧伝するだけだ。いま求められるのは、それらの概念を日本人の国民性に沿った形で再編成し、活用する方向を模索していくことなのである。例えば、小規模なチームプレイを積み上げ、ボトムアップの本格的集合知をネットで形成する努力は有効だろう。また、仮想空間ではなく、あくまでリアル空間に立脚したAIロボットの開発が、21世紀の国民生活を豊かにしていく可能性もある。」(p183)

 最後に筆者は「具体的」な提案として、2つを上げます。一つは、「一般の人々が安心して利用できるネット環境の整備」。GAFAMに基本的なところを握られているのはおかしな話で、「政府のリードでプラットフォーム関連の国内企業が結集し、信頼できる安全なサブネット領域を建設することは公益上望ましい」と言います。
 そして、2つめは、長期的な提案として「情報教育の進化と見直し」です。「情報とは本来、「意味」をもつものであり、その「意味」をもたらすのは生命活動の流れである。デジタル社会で上手に暮らしていくには、機械化の是非をめぐる直観力がもっとも大事なのだ。情報教育はまず、この基本原則から始めなくてはいけない。」とします。
 最後は「ベルグが言うように、日本文化は技術を通じて自然を再認識し、リアル世界を本業にする視点を有してきた。日本のデジタル化が目指すべきなのは、そういう方向性の探求ではないだろうか。」(p186-187)と締められます。

決して、本書の主旨に異を唱えるものではないのですが、本書の主張は大所高所すぎて、個人の行動や社会の変革を促すものになるかと言うと、厳しいなあというのが率直な感想でした。というか、そういう(薄っぺらい生産性・効率性重視の)私みたいな日本人ばっかりだから、日本のデジタル化はうまくいかないんだと言われているのだろうと思うのですが、かといって本書が現実的な変革のドライバーになるかというと、それも怪しく、一体、どうすれば良いのか迷うばかりであります。

【目次】
はじめに

第一章 DXとはオープンネット化
 デジタル敗戦
 行政デジタル化の挫折
 DXの本質
 オープンネットの弱点
 デジタル庁の役割

第二章 メタバースの核心
 超世界のなかのAI
 AIユートピア
 シンギュラリティと超人間主義
 AIディストピア
 メタバースと意味の不在
 ソサエティ5・0

第三章 ネット集合知をうむオートポイエーシス
 インターネットの分権思想
 集合知を問い直す
 ポストモダニズムとデータ科学の矛盾
 新実在論の限界線
 主観が客観をつくる
 ネオ・サイバネティクスと閉鎖性
 オートポイエーシスから基礎情報学へ

第四章 分断深めるデジタル大国アメリカ
 トランプ現象とQアノン
 集合知シミュレーションの教訓
 デジタルな魔術的支配
 多文化主義の陥穽
 没落する中間層
 ポスト・アメリカニズムへの渇望

第五章 日本はデジタル化できるのか
 輸入される知
 トップダウンDXの危うさ
 オモテナシの裏側
 内むきの完璧主義
 日本人とロボット
 安心サブネットと情報教育深化


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國光 宏尚 『メタバースとWeb3』(エムディエヌコーポレーション、2022)

2023-02-21 07:56:04 | 

どこで本書を知って興味を引かれたのか忘れてしまいましたが、地元図書館で予約して手元に来るのに数か月を要したので、それなりに読まれているのだと思います。(2023/2/20現在、Amazonのレビューも500以上もついています)

メタバースとWeb3について、この業界の実業家である著者なりの解説・見立てが記されています。レベルとしてはいわゆる入門書の類いなのですが、ゲーム会社等の起業家であるだけあってテックライターや学者さんが書いたものと異なり、実務家らしいオリジナリティのある書きっぷりが面白いです。

例えば、こうしたバズったテクノロジーには「お金が集まるので、ある程度バブルはしょうがない」と言い切っていたり、メタバースはVR、AR、MR、ミラーワールドのリブランディング、Web3は仮想通貨、暗号資産、ブロックチェーン、クリプトのリブランディングとい大胆な定義も苦笑い。

ベースの世界観としては、これからは「ヴァーチャルファースト」の世界になる。そして、メタバースで人類史上はじめて「人生が見た目に左右されなくなる」というのはなるほどと思います。

ただ、ビデオゲームを全くやらない私にはメタバースもどうもピンとこないところがあるのは否定できません。ワクワクするような実感がないのですね。インターネットに初めて触れたとき、ブログを初めて自分で立ててみたとき、SNSで連絡が途切れていた友人とどんどんつながっていった時のような、興奮がメタバースやWeb3にはあるのでしょうか。まさに習うより、慣れろで、まずはゲームではなくとも経験してみるのが大事なのでしょう。

この世界になじみのある人には物足りないと思いますが、平易な語り口なのでとっかかりとしては良いかと思います。

 

〈本書の構成〉
INTRO:メタバースやWeb3がバズった本当の理由
CHAPTER1:これまでの流れを知ると、Webが行き着くゴールが見えてくる
CHAPTER2:メタバースとは何か?
CHAPTER3:次世代インターネットWeb3を徹底解説 
CHAPTER4:メタバースとWeb3が辿り着く未来の姿
LASTCHAPTER:メタバース、Web3の事例から見るビジネスチャンス

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記憶に残る好演!:ヴェルディ〈ファルスタッフ〉@新国立オペラ

2023-02-19 08:00:58 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

初めて観るオペラです。原作の「ウインザーの陽気な女房たち」の舞台は見たことありますが、あのコメディにヴェルディがどんな音楽を付けたのか、ヴェルディ最後にして2作目というこの喜劇の観劇を心待ちにしていました。

一言で言うと、歌唱、演奏、演出の3拍子が揃って、非の打ちどころがない、期待を大きく上回る高水準なパフォーマンスで、幸せ感いっぱいでした。

歌手陣は、これをはまり役と言わずに何と呼ぶかと思うほど、題名役のアライモが演技・歌唱ともに素晴らしかった。声はずっしりと太く落ち着いた美声で、良く通ります。タンホイザーのグールドも良かったけど、甲乙つけがたい素晴らしさ。演技も好色、酒好き、見栄っ張り、自信家のキャラを統合させてお見事でした。

そして、脇役陣も素晴らしい。フォード夫人のマンテーニャ、クイックリー夫人のピッツォラート、ナンネッタの三宅、フェントンの村上、何れも聞き惚れる美しい歌声でした。歌だけでなく、演技も堂に入ったもので、舞台全体が実に活力に満ち溢れ、オペラへの投入感がどんどんと高まっていく舞台でした。

パフォーマンスとは全然、別の話なのですが、個人的に残念だったのはページ夫人役の脇園さんの出番が少なかったこと。脇園さんファンとしては、「ページ夫人にもっと歌を!」と何度心の中で叫んだことか。

ピットに入ったのは、タンホイザーと同じ東響ですが、音楽の勢い、切れが素晴らしい。音楽と舞台がしっかりと噛み合っていて、活力あるシナジーが生まれていました。正直、タンホイザーよりもずっと良かったです。私は初めてでしたが、フィラデルフィア・オペラの音楽監督を務めるロヴァーリスの持って行き方が上手いのでしょうね。

ミラーの演出は16世紀オランダ風に舞台を作り上げて、光の効果を上手に活用し、品があって美しい舞台でした。移動式のセットで場を作ります。作品や音楽の雰囲気を相乗的に高め、かつ舞台が過剰に主張しない。私好みの演出です。

原作の良さもあるのでしょうね。シェイクスピアの喜劇は人のダメさや良さの描き方が素晴らしいですね。(原作にはないですが、)ラストシーンでのファルスタッフが歌う「人生はみな冗談」。最近、どうも力が入りすぎていると思う私自身の肩を揉みほぐしてくれるようでした。

是非、また再演をお願いしたいです。

 

2022/2023シーズン
ジュゼッペ・ヴェルディ
ファルスタッフ Falstaff / Giuseppe Verdi
全3幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉
2023年2月12日(日)

予定上演時間:
約2時間35分(第1・2幕80分 休憩25分 第3幕50分)

スタッフ
【指 揮】コッラード・ロヴァーリス
【演 出】ジョナサン・ミラー
【美術・衣裳】イザベラ・バイウォーター
【照 明】ペーター・ペッチニック
【再演演出】三浦安浩
【舞台監督】髙橋尚史

キャスト
【ファルスタッフ】ニコラ・アライモ
【フォード】ホルヘ・エスピーノ
【フェントン】村上公太
【医師カイウス】青地英幸
【バルドルフォ】糸賀修平
【ピストーラ】久保田真澄
【フォード夫人アリーチェ】ロベルタ・マンテーニャ
【ナンネッタ】三宅理恵
【クイックリー夫人】マリアンナ・ピッツォラート
【ページ夫人メグ】脇園 彩

【合唱指揮】三澤洋史
【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京交響楽団

 

2022/2023 SEASON
Music by Giuseppe VERDI
Opera in 3 Acts
Sung in Italian with English and Japanese surtitles

OPERA PALACE
10 Feb - 18 Feb, 2023 ( 4 Performances )

CREATIVE TEAM
Conductor: Corrado ROVARIS
Production: Jonathan MILLER
Set and Costume Design: Isabella BYWATER
Lighting Design: Peter PETSCHNIG

CAST
Sir John Falstaff: Nicola ALAIMO
Ford: Jorge ESPINO
Fenton: MURAKAMI Kota
Dr. Cajus: AOCHI Hideyuki
Bardolfo: ITOGA Shuhei
Pistola: KUBOTA Masumi
Mrs. Alice Ford: Roberta MANTEGNA
Nannetta: MIYAKE Rie
Mrs. Quickly: Marianna PIZZOLATO
Mrs. Meg Page: WAKIZONO Aya

Chorus: New National Theatre Chorus
Orchestra: Tokyo Symphony Orchestra

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レギュラー入り希望!: フルシャ/N響 ブラームス 交響曲第4番ほか

2023-02-17 09:14:09 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

フルシャさん指揮の第2弾はサントリーホールでのBプログラム。

前半は、チェコとポーランドの音楽。チェコ出身のフルシャさんによるご当地モノということで期待高しでした。

私にとっては2曲とも初めてでしたので新鮮でした。特に1曲目の「フス教徒」は劇的で、民族的な香り、歴史的な重みを、表題見ずとも感じられる音楽です。ドヴォルザークの祖国への強い愛をN響の重厚な響きが燻し出すようで、いきなり心臓パクパク。

続いての、シマノフスキ/交響曲第4番は東欧の匂いも香らせながら、様々に変化に富んだ音楽でした。 私には、掴みどころが分からないまま進んで行ったところはありましたが、ピアノ独奏のアンデルシェフスキさんの丁寧で繊細でありながら芯の通った感じがする演奏を堪能。ただ、私の位置するステージ後ろP席からでは、オケがフルに鳴る曲面ではピアノの音がかき消されてしまうところがあるので、そこは残念ですが致し方なしです。第2楽章でのヴァイオリンとヴィオラによる呼応も聴きごたえ満点です。

アンデルシェフスキさんのアンコールはバルトーク「シク地方の3つのハンガリー民謡」。しっとりと聴きいり、重厚なメインのあとの親しみやすいデザートを楽しみました。

後半のブラームス交響曲第4番。フルシャさんの大きくダイナミックな音楽つくりにN響がしっかり応えた名演でした。フルシャさんの音楽は大きな河の流れを感じます。時に急流だったり、水面が輝いたり、ゆったりとしたり、うねったり、様々な様々な表情を見せますが、常に一定の流れが底流にあって澱まない。安心して流れに身を委ねる感覚です。特に第2楽章は重厚さの中に繊細さな美しさをのぞかせ、ゾクゾク来ました。

終演後はもちろん大拍手。チェロの方がお一人退団されるのでしょうか?チェロチームから花束を贈られ、フルシャさんも労います。あたたかな雰囲気がステージに漂いました。来シーズンの登壇は無いようですが、フルシャさんのレギュラーな招聘をお願いしたいです。

 

 

定期公演 2022-2023シリーズBプログラム
第1979回 定期公演 Bプログラム
2023年2月16日(木) 開演 7:00pm [ 開場 6:20pm ]

サントリーホール

曲目
ドヴォルザーク/序曲「フス教徒」作品67
シマノフスキ/交響曲 第4番 作品60「協奏交響曲」*
ブラームス/交響曲 第4番 ホ短調 作品98

指揮 ヤクブ・フルシャ
ピアノ ピョートル・アンデルシェフスキ*

 

Subscription Concerts 2022-2023Program B
No. 1979 Subscription (Program B)
Thursday, February 16, 2023 7:00pm [ 6:20pm ]

Suntory Hall

Program
Dvořák / Hussite Overture, Op. 67
Szymanowski / Symphony No. 4 Op. 60, Symphonie concertante*
Brahms / Symphony No. 4 E Minor Op. 9

Conductor Jakub Hrůša
Piano Piotr Anderszewski*

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シェイクスピア (著), 松岡 和子 (翻訳)『ジョン王』ちくま文庫、2020

2023-02-15 13:50:26 | 

今月、彩の国シェイクスピア・シリーズ『ジョン王』を観劇予定なので、原作を読んでみました。シェイクスピアの戯曲はそれなりに読んでるつもりですが、本作は初めてです。ジョン王については、世界史の知識としても、失政多いイングランド王で、それがマグナカルタの契機になったというぐらいしか知りません。更に、Wikiによると「現在ではシェイクスピア作品の中でももっとも有名でない作品となり、上演されることも稀である。」とのこと。一体どんな話なのか興味津々でありました。

フランス王フィリップとイギリス王ジョン(当時はフランスの一部も領有)の二国間戦争を背景にした本作は、歴史劇として十分面白いと思いました。タイトルこそ「ジョン王」ですが、登場人物夫々が個性的で、主人公としての科白量が突出しているわけではありません。登場人物夫々にシェイクスピアならではの、修辞たっぷり、聞かせどころ満載の科白が与えられています。役者がこれらをどう語り、どう演じるのか、芝居が楽しみです。

個人的には、当時のイングランドにおける王と貴族の力関係、フランスとイギリスの国際関係、ローマ教会と各国の王との関係性も理解できたところが嬉しかった。骨だけの歴史的知識に肉が付いた感じです。

松岡さんの訳注も非常に知的興味をそそられます。訳語ではわからない場面場面でのYou、Thouの使い分け等を解説し、状況での登場人物の社会的・心理的立場を明らかにしてくれます。これ以外にもいろんな英語上のニュアンスや史実の対比、版による違い等も触れてあり、通して講義を受けたいぐらいです。

演劇における戯曲(台本)は音楽の楽譜のようなものなのでしょう。この台本がどういう舞台になるのか楽しみです。

 

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マンボ!: フルシャ/N響 バーンスタイン「シンフォニックダンス」ほか

2023-02-12 07:39:42 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

フルシャさんとN響コンビの演奏会は2019年4月以来4年ぶりです。2025年からは(個人的にとっても思い出深い)ロイヤルオペラの音楽監督に就任予定で、世界で絶賛活躍中フルシャさんが登場するとことに加え、2つの交響的舞曲を据えたプログラムの面白さもあって、この演奏会とっても楽しみでした。予報では大雪警報が出る可能性もあるとの天気は、幸い午後には冷たい雨に変わっていましたが、悪天候のためか、聴衆が少な目に見受けられたのは残念。

スタートはバーンスタインの「シンフォニック・ダンス」。多種多様な楽器と奏者が並ぶさまは、広いNHKホールの舞台が狭く見えるほど。メロディアスな音楽からジャズ風味が効いたものなど、多彩な音楽が目まぐるしく展開されます。フルシャさんのキレキレの指揮に、N響のメンバーが食らいついて実に鋭角的な演奏を聴かせてくれました。マンボでは、楽員さん揃って「マンボー」の叫び。楽員さんもノリノリでした。

続いてはラフマニノフの交響的舞曲。こちらもフルシャさんの大きく、柔らかく、かつ切れのある指揮に、管・打楽器陣の個人技や弦の美しいアンサンブルが噛み合って素晴らしい演奏でした。サックスやフルートのソロ、打楽器陣の活躍はとりわけ印象的。この曲も、様々な楽想が現われますが、N響のバランスよく有機的な演奏がしっかり聴かせてくれました。豪快でありながら端正なんですよね。最後の長い銅鑼で締めくくりを余韻とともに味わいました。

カーテンコールでフルシャは楽員さん各々を讃えます。彼が30歳代前半(2014年4月)だった時に都響を振ったのを初めて聴いて、若いのに実に堂々としているなあと感じたのですが、40歳前半となった今や、風格さえ加わったように見えます。1月に振ったソヒエフ(フルシャより4年年長)と併せて、躍進著しい「若手」指揮者たちを、N響は是非、これからも継続的に招聘してほしいです。来週の木曜日はブラームスを聴きます。こちらも楽しみです。

第1978回 定期公演 Cプログラム
2023年2月10日(金) 開演 7:30pm(休憩なし) [ 開場 6:30pm ]
NHKホール

曲目
バーンスタイン/「ウエスト・サイド・ストーリー」からシンフォニック・ダンス
ラフマニノフ/交響的舞曲 作品45

指揮 ヤクブ・フルシャ

 

No. 1978 Subscription (Program C)
Friday, February 10, 2023 7:30pm [ 6:30pm ]
NHK Hall

Program
Bernstein / Symphonic Dances from West Side Story
Rakhmaninov / Symphonic Dances Op. 45

Conductor: Jakub Hrůša

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新国立オペラ ワーグナー「タンホイザー」(指揮 アレホ・ペレス ,演 出 ハンス=ペーター・レーマン)

2023-02-09 07:30:23 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

2019年の新国立オペラで同じ演出で見ています。今回は後半になるにつれて舞台がグーっと盛り上がった印象で、最後は満足度の高い公演となりました。

中でも歌手・合唱陣の活躍が目立っていました。特に、私には題名役のステファン・グールド、ヴォルフラム役のデイヴィッド・スタウト、そして合唱陣の活躍が刺さりました。

グールドははまり役なうえに声量、声質ともにずば抜けていました。彼を新国で過去に3度聞いていて、毎回印象深いのですが、今回も素晴らしかったです。ノーマークだったのに、感動したのはスタウト。安定した美声で演技も上手。3幕のソロやグールドとのやり取りは舞台の緊張感が凄まじく、4階席から食い入るように見ていました。そして、合唱団はいつもながらハイレベルなのですが、今回の巡礼者たちの合唱は物語の特に大事なパーツであることもあり、その活躍が引き立っていました。クライマックスはもう涙モノ。日本人歌手陣も舞台をしっかり締めるヘルマン役の妻屋さんや牧童役の前川さんをはじめとして、いい仕事してました。

ピットには東響が入ってましたが、指揮者の芸風なのかオケの演奏のせいなのかわかりませんが、序曲からなんか私の好みと合わず。ワーグナーならではの緊張感やスケール感が足りなく、緩い演奏に聴こえてしまいました。2年前に聴いたヴァイグレ/読響の繊細さとスケール感がミックスされた素晴らしい演奏がまだ耳の記憶に残っていたこともあったかもしれません。ただ、2幕以降は調子を上げて、引き締まった感じでしたので満足です。

過去も観ているはずの演出なのですが、記憶には殆ど残っておらず、新鮮な気分で楽しめました。比較的オーソドックスで特に奇をてらったところが無いからでしょう。照明の色合い・使い方が、夫々の世界観を表すように上手く活用されていて、効果的でした。

1幕に挟まれるバレエも美しく、1粒で2度おいしい感があっていいですね。

今年のオペラはじめ。幸先良いスタートとなりました。2月以降「フォルスタッフ」、「アイーダ」と観劇予定で、こちらも楽しみ(本当は「ホフマン物語」が一番の好みなのですが、スケジュールが合わず今回は断念。)

 

リヒャルト・ワーグナー
タンホイザー
Tannhäuser / Richard Wagner

全3幕〈ドイツ語上演/日本語及び英語字幕付〉
公演期間:2023年1月28日[土]~2月11日[土・祝]
予定上演時間:約4時間5分(第1幕75分 休憩25分 第2幕65分 休憩25分 第3幕55分)

スタッフ
【指 揮】アレホ・ペレス
【演 出】ハンス=ペーター・レーマン
【美術・衣裳】オラフ・ツォンベック
【照 明】立田雄士
【振 付】メメット・バルカン
【再演演出】澤田康子
【舞台監督】髙橋尚史

キャスト
【領主ヘルマン】妻屋秀和
【タンホイザー】ステファン・グールド
【ヴォルフラム】デイヴィッド・スタウト
【ヴァルター】鈴木 准
【ビーテロルフ】青山 貴
【ハインリヒ】今尾 滋
【ラインマル】後藤春馬
【エリーザベト】サビーナ・ツヴィラク
【ヴェーヌス】エグレ・シドラウスカイテ
【牧童】前川依子
【4人の小姓】和田しほり/込山由貴子/花房英里子/長澤美希

【合唱指揮】三澤洋史
【合 唱】新国立劇場合唱団
【バレエ】東京シティ・バレエ団
【管弦楽】東京交響楽団
【協 力】日本ワーグナー協会

 

2022/2023 SEASON

Music by Richard WAGNER
Opera in 3 Acts
Sung in German with English and Japanese surtitles
OPERA PALACE
28 Jan - 11 Feb, 2023 ( 5 Performances )

CREATIVE TEAM
Conductor: Alejo PÉREZ
Production: Hans-Peter LEHMANN
Set and Costume Design: Olaf ZOMBECK
Lighting Design: TATSUTA Yuji
Choreographer: Mehmet BALKAN

CAST
Hermann: TSUMAYA Hidekazu
Tannhäuser: Stephen GOULD
Wolfram von Eschenbach: David STOUT
Walther von der Vogelweide: SUZUKI Jun
Biterolf: AOYAMA Takashi
Heinrich der Schreiber: IMAO Shigeru
Reinmar von Zweter: GOTO Kazuma
Elisabeth: Sabina CVILAK
Venus: Eglė ŠIDLAUSKAITĖ
Ein junger Hirt: MAEKAWA Yoriko
Vier Edelknaben: WADA Shihori, KOMIYAMA Yukiko, HANAFUSA Eriko, NAGASAWA Miki

Chorus: New National Theatre Chorus
Ballet: Tokyo City Ballet
Orchestra: Tokyo Symphony Orchestra

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尾高忠明/N響 日本・ポーランドの20世紀音楽、尾高尚忠 チェロ協奏曲 他(チェロ宮田大)

2023-02-06 07:30:18 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

日本人作曲家と二人のポーランド人の作曲家の音楽で組んだユニークなプログラム。尾高尚忠、パヌフニク、ルトスワフスキの3名は同世代でかつ「それぞれに学友として切磋琢磨した間柄」(「フィルハーモニー」)とのことです。演奏機会は多くないだろうし、私自身も定期会員でなければ進んで聴きに来ることはない気がしますので、会員であったから経験できたプログラムでした。そして、それぞれに心動かされる3曲で、とっても満足感の高い演奏会でした。

前半の尾高尚忠(指揮の尾高忠明氏のお父さん)のチェロ協奏曲は楽曲と演奏の双方がすばらしい。音楽は映画音楽のようなドラマティックさに加えて、日本的な香りを節々に感じます。そして、宮田さんのチェロの音色が深く濁りなく美しいこと。曳き立てのコーヒー豆を上手く淹れた時の一杯をしみじみと味わうような落ち着きを感じます。そして、時としてとっても情熱的。うっとりでした。

後半の1曲目のパヌフニクの「カティンの墓碑銘」は「第2次世界大戦中に「カティンの森」で虐殺された1万5000人のポーランド人の戦争捕虜たちに捧げられた作品」(フィルハーモニー)。(なぜか「フィルハーモニー」には誰に虐殺されたのかの記載が抜け落ちていますが、(Wikiではありますが)ソ連政府自身がソ連によるものと1990年に認め、ロシア政府が1992年には証拠文書を公開しています)8分程度の小品ですが、冒頭のヴァイオリンのソロから張り詰めた厳粛な音楽で、現在のウクライナ情勢も重ね合わさり、胸を打たれました。

最後のルストワフスキ「管弦楽のための協奏曲」は、以前、パーヴォ/N響で聴いていますが、記憶にはあまり残っていませんでした。ポーランドの民族音楽を取り込んでいるというこの音楽は、各楽器の見せ場もふんだんにあり味わい深いです。尾高さんの捌きでN響の各パートがしっかり嚙み合って充実の演奏でした。

プログラム的に空席もそれなりにあった観客席でしたが拍手は盛大。カーテンコールの途中で、尾高さんからポーランドの虐げられた苦難の歴史と現在の戦争終結を祈る平和祈念メッセージもありました。地味なプログラムではありましたが、こうした意図を感じる企画型プログラムは良いですね。内容濃く、充実感一杯でNHKホールを後にしました。

第1977回 定期公演 Aプログラム
2023年2月5日 (日) 開演 2:00pm
NHKホール

尾高尚忠/チェロ協奏曲 イ短調 作品20
パヌフニク/カティンの墓碑銘
ルトスワフスキ/管弦楽のための協奏曲

指揮 : 尾高忠明
チェロ : 宮田 大

 

No. 1977 Subscription (Program A)
Sunday, February 5, 2023 2:00pm [ 1:00pm ]
NHK Hall

Hisatada Otaka / Concerto A Minor Op. 20
Panufnik / Katyń Epitaph
Lutosławski / Concerto for Orchestra

Artists
Conductor: Tadaaki Otaka
Cello: Dai Miyata

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オリバー・バークマン (著), 高橋 璃子 (翻訳)『限りある時間の使い方』かんき出版、2022

2023-02-03 07:30:31 | 

通常のタイムマネジメント技法とは一線を画す、時間に対しての向合い方を説く本です。

生産性や効率化、コスト・パフォーマンスといった今どきの価値観やノウハウの対極に立つことで、幸せな時間、幸せな人生を送ることを説きます。復古主義的に取れるところもなくはない(日本企業でやっていた(る?)集団ラジオ体操もポジティブ評価されてたりしていて微笑ましい)ですが、行き過ぎた効率化の罠にはまった現代人に立ち止まることの大切さに気付かせてくれる良書だと思いました。

わが身を振り返りながら、思い当たるところがいくつもありました。

・今と言う時間が未来のゴールにたどり着くための手段に変わってしまった。今を犠牲にし続けると大事なものを失ってしまう。今を生きることができなくなり、未来のことしか考えられなくなる。(p34)

・時間をうまく使おうとすればするほど、今日明日という日が、理想的な未来にたどり着くための単なる通過点になってしまう。これは時間の道具化とも呼べる問題。時間が何か別のことをするための手段になってしまう。(p148)

・余暇を有意義に過ごそうとすると、余暇が君みたいになってくる。それでは仕事とまるで変わらない。何かを達成するためではなく、ただ歩くために歩く。それは目標に向かう活動が多すぎる日々の中で大きな救いになるかもしれない。何の為でもないことをする。(p180)

・純粋な趣味は、生産性や業績を重視する文化に対する挑戦状だ。平凡でも構わない。むしろ、平凡である方が良い。(p187)

筆者は、「今」を生きること、今の苦痛から目を逸らさずむしろ楽しむこと、自分に期待しすぎないことを強調します。この境地に至るのには、それなりのトレーニングが必要な気もしますが、まずは考え方や気の持ちようとして意識するだけで、違った風景が見えてきそうな気がします。現代人としての私たちの最適解な生き方は、「生産性・効率性」と本書の間にあると思いますが、普通にしていると効率性に引っ張られるので、対局を意識するところに本書の意義があると感じました。ソフトな語り口ですが、内容はかみしめて読みたい一冊です。

 
【目次】
PART 1 現実を直視する
第1章 なぜ、いつも時間に追われるのか
第2章 効率化ツールが逆効果になる理由
第3章 「時間がある」という前提を疑う
第4章 可能性を狭めると、自由になれる
第5章 注意力を自分の手に取り戻す
第6章 本当の敵は自分の内側にいる
PART 2 幻想を手放す
第7章 時間と戦っても勝ち目はない
第8章 人生には「今」しか存在しない
第9章 失われた余暇を取り戻す
第10章 忙しさへの依存を手放す
第11章 留まることで見えてくるもの
第12章 時間をシェアすると豊かになれる
第13章 ちっぽけな自分を受け入れる
第14章 暗闇のなかで一歩を踏みだす
エピローグ 僕たちに希望は必要ない
付録 有限性を受け入れるための10のツール
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