その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

伊藤元重 『経済を見る3つの目』  (日経文庫)

2014-10-30 19:28:31 | 


 日本経済は潮目が変わったのか?今のアベノミックスをどう見るかは、エコノミストや金融関係にお勤めの方でなくても、非常に興味深い問題です。賛否はあれど、安倍首相の政策は、低迷した日本経済からの反転を計ろうとする「意思」が感じられる政策だと思います。ただ、一企業人としては、(3本目の成長戦略は別としても)マクロ経済政策に頼った経済はしょせんはメッキだと思うので、やはり企業がイノベーション、変革を起こして、競争力を高めていくことが王道でしょう。

 本書の著者は、マスコミにも頻繁に登場する著名な東大の経済学の先生。まさに、真の経済専門家が書くにふさわしい、誰にでもわかる旬の経済入門書です。

 筆者は経済を見る3つの目を軸に解説します。1つは、いわゆるマクロ経済としての「鳥の目」。金利や物価、名目と実質の違いを説明してくれます。2つめは、ミクロ経済としての「虫の目」。薬品価格、電力改革、米の値段を取り上げ、価格の動きを読み解きます。そして、3つめが、「魚の目」。経済の分岐点、潮目がどう変わるのかについて、石油ショックやバブル崩壊からデフレへの動きを追いながら解説してくれます。

 筆者は、今の日本経済が潮の変わり目とみています。長い間、苦しんだデフレからまさに潮目が変わってきており、日本人はそれに備える必要があると説きます。筆者に組するかどうかは読者の判断でしょうが、考えるフレームワークがこれ以上分かりやすくは書けないだろうというぐらい、分かりやすく書いてあるので、私のような初学者にお勧めです。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

第20回手賀沼エコマラソンを走る

2014-10-26 19:33:09 | ロードレース参戦 (in 欧州、日本)
 手賀沼エコマラソンに初めて出走しました。全国湖沼の水質ワーストワンだったという手賀沼の浄化をテーマに立ちあげられた大会と聞いていますが、今年で20回目という記念大会です。

 そのおかげか、スタート前のイベントでは何とサンプラザ中野くんさんとパッパラー河合さんが登場し、新曲と「ランナー」を歌ってくれました。いきなりのサプライズに狂喜。


《サンプラザ中野くんさんを生で見るのは初めて》

 走りのほうは、6月以来のハーフマラソンだったためかレース特有のハイ状態に陥り、1キロを5分15-30秒ぐらいのラップで、自分としてはかなりのオーバーペースとなってしまいました。来月に出走予定のフルマラソンに向けての練習レースなので、如何に余力を残してハーフを走りきれるかのつもりだったのが、ゴールした時にはもうあと1キロも走れないのではというぐらいの疲労度で、ダメダメです。


《スタート前。朝方はくもり空でしたが、レース中には太陽が覗き気温がぐっと上がりました》

 初参加でしたが、コース・運営・ボランティア・応援が素晴らしいのが印象的でした。コースは手賀沼沿いの長閑で開放感のあるコースで気持ちよい。一部、アップダウンのあるところもありますが、基本的に平坦で走りやすいです。エイド・ステーションもほぼ5kごとにあって、水とアミノバリューを提供してくれます。また、今日は私には想定外の暑さだったので、中盤以降のステーションでスポンジを提供してくれたのは本当に助かりました。沿道では地域の太鼓隊や地元の中高生によるブラスバンドの演奏などでランナーを励ましてくれます。


《秋の雰囲気を感じる沼畔です》


《整備されたサイクリングコースなのでとっても走りやすいです》


《地元中学生のブランスバンド演奏でファイト一発!》

 非常に気持ちのいい、好感度の高い大会でしたので、是非、来年もエントリーしたいと思います。


 タイム 1時間52分10秒(手持ちの時計)
 ラップ5k 26:18、10k 26:25、15k 26:18、20k 27:14
 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

華麗なる英国美術の殿堂 ロイヤル・アカデミー展 @富士美術館

2014-10-24 00:29:53 | 美術展(2012.8~)


 ロンドン駐在時に、ロイヤル・アカデミーには企画展では何度か足を運びました。が、何故か常設展は結局見ずじまいでした。今回、日本でロイヤル・アカデミー展があると知って、狂喜。珍しく、会期後半にずれ込むことなく、訪問です。


《こちらがロンドンのロイヤル・アカデミー》

 ロイヤル・アカデミー創設期(1768年)から20世紀初頭にいたるまで、会員やゆかりの人たちの作品が幅広く展示され、イギリス美術史を追っかけるように、イギリス人画家達の作品を鑑賞できます。ちなみに展覧会の英語タイトルは、"Genius and Ambition: The Royal Academy of Arts, London 1768-1918"。

 私には、前半にターナー、ゲインズバラ、コンスタブルなどの好みの画家・作品が集中していました。特に、コンスタブル(この展覧会では「カンスタブル」と表示)の《水門を通る舟》を見つけた時の嬉しさと懐かしさ。まさに、このフラットフォードのスツール川沿いをウォ―キングした時の風景がそのまま思い起こされます(当時の記事「コンスタブル・カントリーを歩く」はこちら→)。まさにこの絵にある、ロック(水門)の横を歩いていたのです。今も昔も、殆ど風景が変わらないイギリスの田舎。全くの自己満足なのですが、コンスタブルが描く風景(遠くに見える教会も)、人々、動物を見ながら、自分自身が絵の中に吸い込まれていくような気になりました。


ジョン・コンスタブル 《水門を通る舟》 1826年|油彩・カンヴァス|101.6×127.0cm

 このコンスタブルの絵も然りですが、今回の展示の多くの絵がロイヤル・アカデミーで学んだ画家たちのDiploma Work(=Works of art presented by artists upon their election as Member of the Royal Academy. 入会作品?)と額縁に記されているのが、印象的でした。ラファエル前派の創始メンバーとして有名なミレイによる《ベラスケスの思い出》もそうでしたし、ホーズリ《居心地のよい場所》、エルモア《「ヴェローナの二騎士」より》(これらの人の作品は、ラファエロ前派ではないですが、色使いや描写が似ているところがあると思いました)もそうです。Diploma Workらしい気持ちが入った作品と思ったのは、私の思い過ごしでしょうか。


ホーズリ《居心地のよい場所》1865年|油彩・カンヴァス|76.8×57.1cm


エルモア《「ヴェローナの二騎士」より》1857年|油彩・カンヴァス|70.1×53.9cm

 そのほかにも、ウォ―ターハウスらのラファエル前派、唯美主義の絵など、近代の英国美術を堪能できます。非常に良い企画展ですので、お勧めします。

 蛇足ですが、今回、初めて足を運んだ東京富士美術館。八王子の奥にあり、都心でもなければ観光地でもない、こんな不便なところに美術館があるのだろうと思ったら、池田大作氏(創価学会)所縁の美術館なのですね。このような私立の美術館が、これだけの企画展を主催するとは、流石、学会様。

 加えて、特別展と並行して常設展も鑑賞できるのですが、この常設展のコレクションに肝を抜かれました。ベリーニ、ティントレット、クラーナハ(父)等のルネッサンス期の作品からラ・トゥール、ブーシェ、ドラクロワなどのフランス画家、そして、マネ、ルノアール、ピサロとい言った印象派などがゴロゴロ。まさか、ロイヤル・アカデミーの展示意外にこんな作品群を鑑賞できるとは。思ってもみませんでした。改めて、学会のパワー、底知れぬ財力に恐れ入りました。脱帽です。ロイヤルアカデミー展に行かれる方は、常設展にも是非、立ち寄ってください。東京富士美術館のHPはこちら→

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

N響10月定期Aプロ ロジャー・ノリントン指揮/ ベートーヴェン交響曲 第7番 他

2014-10-21 00:22:38 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

《紅葉が始ったNHKホール前》

 ノリントンさんとN響によるベートーヴェン交響曲シリーズ。今回の7番が最後です。私自身は昨年の5番しか聴いていないのであまり感慨深きものはないのですが、昨年の《運命》のノリントン節にえらくたまげたので、今回の7番も大いに期待しておりました。

 その7番は期待通りの、ノリントンさんらしい演奏でした。昨年、驚かされたテンポや強弱の変化は、私が慣れたのか、楽しむ余裕もできてノリントン節を堪能しました。テンポという意味では、第2楽章は今までに聴いたことの無い程てきぱき、サクサク進んでました。

 この日に印象的だったのは、管を倍に増やした編成。とっても音が厚く深みがあって、弦の切れの良いピリオド演奏と相まって、音が立体的に響いて、7番の音楽の面白さ、美しさ、魅力を目一杯引き出してました。強打されるティンパ二が、痺れるほどの強いアクセント。先月はブロムシュテッドさんと感動の演奏を聴かせてN響ですが、クラシック界の長老たち相手に、変幻自在の適応性を見せるところは流石です。
 
 前半戦も充実していました。特にベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番のピアノを弾いたフランチェスコ・ピエモンテージさんのピアノは非常に印象的でした。飾り気が無く素直な音でありながら、豊潤であり、かつ力強い。所々、モーッアルトも想起させる曲風にもすっぽり嵌った演奏でした。アンコールはドビッシーの前奏曲第2集から。ピアノ曲に疎い私はてっきり何かの現代曲かしらと思った程ですが、こちらも(きっと)凄いテクニックも披露して、聴衆を沸かせてくれました。間違いなくまた聴きたいピアニストです。


《センターのコントラバスの後ろに反響板(?)を置くノリントン形》




第1790回 定期公演 Aプログラム
2014年10月19日(日) 開場 2:00pm 開演 3:00pm

NHKホール

ベートーヴェン/序曲「レオノーレ」第1番 作品138
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲 第1番 ハ長調 作品15
ベートーヴェン/交響曲 第7番 イ長調 作品92

指揮:ロジャー・ノリントン
ピアノ:フランチェスコ・ピエモンテージ

No.1790 Subscription (Program A)
Sunday, October 19, 2014 3:00p.m. (doors open at 2:00p.m.)

NHK Hall

Beethoven / “Leonore”, overture No.1 op.138
Beethoven / Piano Concerto No.1 C major op.15
Beethoven / Symphony No.7 A major op.92

Roger Norrington, conductor
Francesco Piemontesi, piano

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

NHK音楽祭2014 ゲルギエフ指揮 マリインスキー劇場管弦楽団 《サロメ》

2014-10-18 19:37:22 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


 ゲルギーとマリインスキー劇場管弦楽団による「サロメ」!私にとっては、今シーズン一番のお楽しみコンサートと言っても過言ではありません。ゲルギーは、ロンドン滞在時にデイヴィスさん、パッパーノさんと並んで一番いろんな音楽を聴かせてもらったし、ロンドン響との練習も見に行きました。更に、マリインスキー劇場管弦楽団はそのゲルギーのオーケストラだし、そして「サロメ」は私の好きなオペラトップ5に入るお好みなのです。

 2年ぶりの再会となったゲルギーはいつもの不精(?)ひげに濃い顔立ちでオーラ出まくり。いつもは指揮棒なしか爪楊枝のような指揮棒だったはずですが、この日は普通(?)の(私には普通の指揮棒よりも長くも見えた)指揮棒だったのには意表を突かれましたが、蝶が舞うような左手のヒラヒラ動きは健在。なんか、とっても懐かしかった。

 さてパフォーマンスのほうですが、ちょっと期待感が大きすぎたのか、前半はやや拍子抜け。特に何かが悪いというわけではないのですが、なんかとっても普通。ナラボート役の水口 聡さんのテノールが綺麗だなあと思ったぐらいで、演奏も歌手陣も「あれ、こんなもんなのか~」と頭の中に???でした。

 しかし、暖機運転は終わりとばかりに後半から調子に乗って来ました。「七つのヴェールの踊り」くらいから、ドラマの盛り上がりとともに、ぐんぐんボルテージが上がってきました。繊細さというよりは、豪快さでグイグイ押す感じで、N響や都響らの在京オケとの違いを堪能。肉食系だなあ~。

 歌手陣はヘロデのアンドレイ・ポポフさんが一番良かったです。王のイメージとは異なる細身の方で、聞き惚れるという声では必ずしもないのですが、迫真の演技と歌唱で舞台の緊張感を盛り上げていたと思います。サロメを歌ったムラーダ・フドレイさんは、前半は声が3階まで届きにくいように感じだったのですが、ヨカナーンの首を求めるあたりからエンディングに向けては、迫力満点で底力を見せてくれました。

 演奏会方式のオペラ公演というのは、演奏と歌に集中できるという点で好きな形式なのですが、この日に限っては、ちょっと違う印象を持ちました。やっぱり、《サロメ》では「七つのヴェールの踊り」を音楽と踊りをセットで見たい聴きたいし、ホール内の照明も明るめでサロメのおどろおどろしさや官能性がイマイチ表れて来ない。普段、我を忘れてサロメの世界に没入するのですが、この日はそこまでの投入感が自分の中に出てこなかったのは、ちょっと残念でした。

 自分としてはやや不完全燃焼感は残るものの、まあ、今回はゲルギーと再会したことで良しとしよう~



NHK音楽祭2014 管弦楽の黄金時代~後期ロマン派の壮大な調べ《マリインスキー劇場管弦楽団~大管弦楽を突き抜けて届くサロメの苦悩と歓喜!》


NHKホール

指揮―ワレリー・ゲルギエフ 
ムラーダ・フドレイ ラリサ・ゴゴレフスカヤ(以上S) アンドレイ・ポポフ 水口聡(以上T) 他

●R.シュトラウス…楽劇《サロメ》(字幕付原語上演、演奏会形式)

【指 揮】ワレリー・ゲルギエフ
【ソプラノ/サロメ】ムラーダ・フドレイ
【バリトン/ヨカナーン】ミヒャエル・クプファー
【テノール/ヘロデ】アンドレイ・ポポフ
【ソプラノ/ヘロディアス】ラリサ・ゴゴレフスカヤ
【テノール/ナラボート】水口 聡

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

生誕200年ミレー展 愛しきものたちへのまなざし @府中市美術館

2014-10-15 19:57:46 | 美術展(2012.8~)


 閉会期が間近に迫ったミレー展に府中市美術館まで出かけました。(なんで、いつもこうギリギリにならないと行かないのだろうか?)生誕200年ということで、丸の内の三菱一号館美術館でもミレー展をやるようですから、今秋はミレー祭りですね。

 今回の特別展は、いわゆる「『農民画家』としてだけでなく、ひとりの「人間」としてのミレーの姿にも焦点を当てて」(展覧会HP)、初期から晩年までの作品を幅広く展示する内容になっていました。あまり今まで見た記憶がない肖像画なども多数展示され、ミレーの原点を見るような気になります。

 明治の時代からミレーの絵は日本人にとっても人気があるそうですが、私もその一人です。素朴でありながら、労働の厳しさや人間の尊厳がにじみでていて、押しつけがましくない程度に暖かさを感じるところがあるからです。《子どもたちに食事を与える女(ついばみ)》や《慈愛》などは初見でしたが、ストーリーが絵から飛び出してきそうな物語性も魅力の一つです。


《子どもたちに食事を与える女(ついばみ)》


《慈愛》

 今回のサプライズは、神話に基づいた大作も描いているのをを知ったことでした。《春(ダフニスとクロエ)》や《冬(凍えたキューピッド)》は暖かさは共通するものの、今まで見たミレーの絵とは異なるダイナミックな迫力がありました。前者は国立西洋美術館蔵、後者は山梨県立美術館蔵ですから、見ているはずなんですけど、どうして今まで気づかなかったのか不思議。


《春(ダフニスとクロエ)》


《冬(凍えたキューピッド)》

 都下の美術館ではありますが、会期末ということもあってか、会場は混みあっていました(まあ、それでも上野の美術館とはの混み方とは比較になりませんが・・・)。10月23日までですので、まだの方にはお勧めです。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「オルセー美術館展 印象派の誕生ー描くことの自由ー」 @国立新美術館

2014-10-12 08:36:12 | 美術展(2012.8~)


 会期終了が迫って来たオルセー美術館展に行ってきました。今回は、ミレーの《晩鐘》、マネの《笛を吹く少年》、モネの《かささぎ》・《サン・ラザール駅》など、オルセーの中でもとりわけ私の好きな作品が来日しています。金曜日は午後8時まで開館していますので、終業後に足を運びましたが、それでも館内はそこそこ混みあっていました。

 オルセーと言うと印象派のコレクションが有名ですが、今回の展示では印象派の他にも、同時期のアカデミア系の作品も展示されているのが興味深かったです。過去にオルセー美術館には何度か訪れていますが、目玉である印象派系の作品の鑑賞で時間とエネルギーを使いきってしまうので、なかなかそれ以外の作品は、注意して見れていなかったことが分かりました。今回の展示を見ていて、こんな作品があったのだと改めて気付かされることが大いにありました。

 中でも、印象的だったのは、モローの《イアソン》、ブグローの《ダンテとウェルギリウス》。《イアソン》はその細部に至る細かい描写や色合いの神秘的な美しさとともに、何かの象徴と思われる小物も一杯で、立ち止まってしばらく時間を過ごすのに最適の一枚です。また、《ダンテとウェルギリウス》は「神曲 地獄篇」の地獄の様を描いたもので、先日読んだダンブラウンの「インフェルノ」が蘇り、夢に出てきそうな恐怖感を感じる程の迫力とおどろおどしさです。


ギュスターヴ・モロー《イアソン》


ウイリアム・ブグロー《ダンテとウェルギリウス》

 7時半を過ぎると人も鑑賞者もぐっと減ってきますので、それまでに一通り見て、最後の30分を気に行った絵の前で、ほぼ独占状態で見るというのがお薦めです。会期終了の10から20日までは、毎日8時まで開館しています。

 2014年10月10日

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

月村 太郎 『民族紛争』  (岩波新書)

2014-10-09 22:19:58 | 


 昨今のパレスチナ、イスラム国、ウクライナ、サラエボ・・・、紛争ではないがスコットランドと、頻発発生している民族を巡ってのコンフリクトの理解の助けになるかと思い手に取った。世界で続発する民族紛争について、6つのケーススタディと民族紛争を理解するためのフレームワーク(理論)の2部構成となっている。

 必ずしも当初の目的を直接的に果たしてくれるものでは無かったが、知らなかったことが多く勉強になった。ケーススタディでは、スリランカ、クロアチアとボスニア、ルワンダ、ナゴルノ・カラバフ、キプロス、コソヴォの6つのケースが紹介される。スリランカ、クロアチアとボスニア、ルワンダのケースはこれまで書籍や映画を通じてある程度知識があったが、その以外は新聞でちら見した程度で、殆ど中身を知らなかったことに気付いたのは発見だった。

 理論編は、紛争発生要因、予防のための施策、紛争の発展プロセス、紛争の終了の4つの章立て説明される。私としては、特に、紛争要因として、必要条件としての構造的要因(居住分布)、政治的要因(民主化)、経済的要因(貧困)、社会・文化的要因(歴史、宗教)と十分条件としての当事者が感じる恐怖、民衆の行動、リーダーシップの3点で説明されたことは、今後、民族紛争を見ていく枠組みとして有益だった。

 新書版であるため、扱うテーマの重さ、大きさから考えると、より詳しい解説が欲しくなるのは致し方ないだろう。いわゆる入門書として、適切な一冊である。

《目次》
序章 民族紛争とは何か

1部 世界各地の民族紛争―六つの事例
スリランカ―言語政策と民族紛争
クロアチアとボスニア―民族紛争予防の失敗
ルワンダ―ジェノサイドの実際
ナゴルノ・カラバフ―体制変動と民族紛争
キプロス―本国の介入
コソヴォ―国際社会の介入

2部 民族紛争を理解する為に
なぜ発生するのか
予防はできないのか
どのように成長するのか
紛争の終了から多民族社会の再建へ


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

神奈川フィル/ 指揮 現田茂夫/ マーラー 交響曲第8番「千人の交響曲」

2014-10-06 21:10:04 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


 私にとっては、初の生マーラー8番。8番は聴きたい、聴きたいと思いつつ、いつもチケット購入に乗り遅れて機会を逸してきました。やっとです。

 今回はマーラー8番だけでなく、演奏の神奈川フィル、指揮者の現田茂夫さん、ホールの神奈川県民ホールと初物づくし。特に、神奈川フィルは前常任指揮者だった金聖響さんの本(「マーラーの交響曲」講談社現代新書)を読んで、金さんとマーラー・シリーズをやっていたことも知っていたので、否が応でも期待が膨らみます。

 接近する台風の影響による雨の中、「電車が止まりませんように」と祈りながら、3度乗り継いで1時間半かけて県民ホールへ。今回は、神奈川県民ホールリニューアル&ホール開館40周年のコンサートということで、寄贈されたお祝いの花が飾られるなど祝祭気分満載の会場でした。

 ホールに入ると、既に合唱団が入場し始めていて、神奈川県内の団体から集まった総勢500名を超える合唱団は実に壮観です。舞台を合唱団が大きく占めるので、オーケストラが前に大きくせり出しています。持参したオペラグラスで見ると、合唱団のメンバーは、少年少女から70才は優に超えているような人も何人も参加していて老若男女が揃っています。これほどの色んな人たちが一緒にマーラーを歌うなんて、何かとっても羨ましいです。


《合唱団が順番に入場》

 ただ、演奏に入る前に、2つほど気になったところがありました。一つは、コンサートマスターが入場して準備が整ったところで、出てきたのは指揮者でなくて黒岩神奈川県知事。まあ、記念コンサートのスポンサーということなのでしょうが、水を差されました。「神奈川県は文化で人を惹きつけたい」という趣旨のご挨拶でしたが、演奏が始まる直前にわざわざ言うようなことでしょうか?2つめは、アナウンスでは「運営上の理由」とのことでしたが、第1部と第2部の間に20分の休憩が挟まれたこと。「運営上の理由」というのが良く分かりませんが、これって、作曲家の意図と違うじゃないのか?と開演前から不安な気分に・・・

 そして、演奏の方は、私が初マラ8ということもあって、自分自身の中で消化できませんでした。500名の合唱はそれはもう凄い迫力で、広いホールが狭く感じるほど響いていたのですが、それが独唱者やオーケストラとのバランスと言う意味では、全体としてまとまりきれていない。もともと、マーラーの8番のような大交響曲をまとめて行くのはそう簡単なことではないとは思うのですが、合唱の勢いに、オーケストラが押されちゃってる。指揮者からもどんなマーラーを創りたいのか、今一つ伝わってこない。独唱・演奏を含めて、目の前で展開されるパフォーマンスは瞬間瞬間では素晴らしいと思うのだけど、何か全体を貫くメッセージのようなものを感じない。1部と2部が分かれているのも、休憩挟んで別々の曲を聴いているようで、やっぱり首を傾げてしまう。そんな感じでした。まあ、これは演奏者というよりも、聴き手としての私の未熟さ要因である可能性も大ですが、私にとっては期待が大きかっただけに残念でした。

 ただ、こうした地域のオーケストラと合唱団が、記念すべきタイミングで、最高レベルに難易度の高い曲にチャレンジするということ自体が素晴らしいことだと思います。まさに、神奈川県民ホールリニューアル、開館40周年の決意表明に相応しい、未来に向かった挑戦の意欲に溢れる気合を感じます。一見さんの分際で、全くもって、差し出がましいですが、是非、これからも色んな新たなチャレンジを期待したいです。



神奈川県民ホール リニューアル&開館40周年記念 マーラー 交響曲第8番「千人の交響曲」 (開催日 2014年10月5日)

公演日時 2014年10月5日(日曜日) 15:00 開演(14:15開場)
公演場所 神奈川県民ホール
指揮者 現田茂夫
共演者 横山恵子(ソプラノ) 並河寿美(ソプラノ) 菅英三子(ソプラノ) 竹本節子(アルト)
小野和歌子(アルト) 水口聡(テノール) 宮本益光(バリトン) ジョン・ハオ(バス)
県民ホール特別合唱団 湘南市民コール 洋光台男声合唱団 小田原少年少女合唱隊
主な演目 マーラー/交響曲第8番変ホ長調「千人の交響曲」

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

青年団若手自主企画 伊藤企画 『アリはフリスクを食べない』 作・演出:伊藤 毅 @アトリエ春風舎

2014-10-04 09:01:01 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


 8月の「ヒューマン・エラー」に続いて、青年団若手自主企画のお芝居を会社帰りに見に行きました。今回の劇場は、アトリエ春風堂というところで、東京メトロ有楽町線の「小竹向原」という駅から徒歩3分のところにあります。19:00開演に合わせて18:30には下車したのですが、10月に入りもう既に廻りは暗いし、案内表示もないので、閑静な住宅街の中から探し出すのは、結構苦労しました。辿りつけないんではと思ったぐらい。フーフー汗をかきながら、3分のはずが15分かけてなんとか到着。

 普通のマンションと言うか、アパートというか、雑居ビルのような建物の地下1階にあるアトリエ春風堂は、アゴラ駒場劇場よりも更に狭く、座席数は30程しかありませんが、手が届くような距離に舞台があり、客席もそれなりの余裕があって感じのよいシアターです。文字通りアングラ劇場。入場したら、既に今回の主役級のお兄さん役をやる石松さんが、舞台上でTVゲームに耽り、開演前からこれからの騒動の始まりを予感させます。

 お話は、軽度の知能面での障害を持つ兄とその弟、そして兄弟を取り巻く友人・恋人達の騒動です。ユーモアも交じるものの想定外のシリアスなヒューマンドラマでした。今回は全くストーリーが未知であったこともあって、次の展開が読めず、ドキドキしながら、舞台に釘付けの90分となりました。

 障害者役の石松さんと女友達/恋人役(?)の舘さんのペアが好感度大でした。お二方とも独特の雰囲気を持つ役者さんです(尤も舘さんは演出家の方が本業のようですが)。石松さんは「ヒューマンエラー」でも情緒障害の少年(少女)を演じていましたが、外見の2枚目で外交的なイメージとは異なる内省的で傷つきやすい役柄が上手いですね。舘さんは、どこまでが役柄で地なのかが、良く分からない程のテンポやリズムがあり、私にはとっても好みでした。物語後半ちょっと重いストーリー展開になっていたのを、最後のクロージングで、この二人が、ホンワカ明るい将来を期待させる内容になっており、この物語のその後がとっても気になります。

 弟役の海老名理さんは、堅実で誠実な演技で、兄と結婚相手との板挟みになって、苦渋の決断を迫られる弟を演じてました。自分だったらどうするかって、自分もかなり感情移入。そのほかの俳優さんも個性豊かで、其々のキャラが立って楽しませてくれます。

 今回は普段は俳優さんである伊藤毅氏の初演出作品とのことです。プロットや脚本も自然でありながら、観客の想像力を想起させるつくりになっていて面白かったし、舞台作りも凝って作りこんでありました。気になった所と言えば、タイトルの意味(暗喩)が良くわからない、登場人物のひとりであるマンションの隣人の必要性などがありましたが、良く出来た処女作だったと思います。また、次作を期待したいです。



《開演前の様子》


2014年10月3日 観劇

青年団若手自主企画 伊藤企画
アリはフリスクを食べない
作・演出:伊藤 毅

出演
長野 海 石松太一 伊藤 毅(以上、青年団) 
舘そらみ(ガレキの太鼓) 海老根理(ガレキの太鼓)
横島 裕(電動夏子安置システム) 江原大介(elePHANTMoon) 朝比奈竜生(無隣館) 中本 恵

スタッフ
照明:伊藤泰行
音響:泉田雄太
制作:伊藤企画
舞台:澁澤 萌
総合プロデューサー:平田オリザ
技術協力:大池容子(アゴラ企画)
制作協力:木元太郎(アゴラ企画)

日時
2014年9月26日[金] - 2014年10月5日[日]

アトリエ春風舎
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする