その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

今ここにある自分の差別意識は?:青年団 第94回公演『ソウル市民』(作・演出:平田オリザ)@こまばアゴラ劇場

2023-04-28 12:10:15 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

私としては2016年以来7年ぶりの青年団公演の観劇です。作品そのものは1989年初演ということなので30年以上前のものの再演。

1909年のソウルでの日本人商家のダイニングルームが舞台。「自由主義的な」篠崎家の面々、使用人、書生、訪問客の会話を通じて、植民地における支配する側の一般市民の差別意識が炙り出されます。

今となっては、この舞台で描かれるような、無意識なんだけど露骨な人種差別というのは少なくなっている気がします。むしろ、ヘイトスピーチのように正々堂々と表に出た形で攻撃的になっていたり、差別も姿や形を変えて複雑化し分かりにくくなるなど、二極化していると感じます。なので、「(初演の)1989年だと、こうした表現になるのかな」と初演時からの時間を感じるところがありました。(元森首相の性差別発言が家庭内に普通に飛び交っている印象で、今なら無意識/意識関係なく即OUTだよねという感じです)

一方で、本作品を通じて、自分が持つ認識・認知の世界観の限界、その外の世界からみた自分の差別って何だろうと考えさせられます。

小さな小劇場の最前列で観れたので、役者さんの息遣いまでわかる距離です。再演を重ねている舞台だからでしょうか。出演者は再演ごとに変わっているようですが、演技や動きが洗練されていたのが印象的でした。もう10年近く前になりますが、とあるワークショップでサポート頂いた石松さん(高井書生役)と立蔵さん(手品師の助手役)が出演されていて、はつらつとした演技をされていたのを拝見できたのも嬉しかったです。

平田オリザさんの演劇は、現代口語演劇として普通の日常を淡々と描くものをいくつか見てきました。私にとってはいつも不思議な気分になる舞台です。日常を描いているのだが、日常であるが故にドラマ性は高くなく、「演劇としては非日常」という落ち着かなさなとでも言うのでしょうか。今回も、その不思議さをたっぷり味わいました。

 

青年団第94回公演
『ソウル市民』
作・演出:平田オリザ

2023年4月7日(金)- 4月27日(木)

会場:こまばアゴラ劇場

出演      
永井秀樹 天明留理子 木崎友紀子 太田 宏 田原礼子 立蔵葉子 森内美由紀
木引優子 石松太一 森岡 望 尾﨑宇内 新田佑梨 中藤 奨 藤瀬のりこ 吉田 庸
名古屋 愛 南風盛もえ 伊藤 拓

スタッフ             
舞台美術:杉山 至
舞台美術アシスタント:濱崎賢二
舞台監督:中西隆雄 三津田なつみ
照明:三嶋聖子
衣裳:正金 彩 
衣裳製作:中原明子
衣裳アシスタント:陳 彦君
宣伝美術:工藤規雄+渡辺佳奈子 太田裕子
宣伝写真:佐藤孝仁
宣伝美術スタイリスト:山口友里
制作:太田久美子 込江 芳
協力:(株)アレス


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見どころたっぷり!これはお勧め!!:特別展 東福寺展 @東京国立博物館

2023-04-26 07:37:28 | 美術展(2012.8~)

京都の東福寺は名前こそ知っているものの訪問歴はない。久しく、仏さま見物にご無沙汰していることもあり、東福寺にはどんな仏さまがいらっしゃるか、見仏気分で東京国立博物館へ出かけた。するとすると、それがそれが、絵画・書・物・彫刻など禅宗美術の文物が、想像を遥かに超える質と量で展示してあった。国宝や重要文化財のオンパレードでもある。殆どが東福寺の所蔵であり、超がつくほど驚きだった。伽藍の写真等も掲示されていたが、錚々たる禅宗のお寺であることを初めて知るに及んだ。奈良の東大寺と興福寺からそれぞれ一文字を取ってつけられたというだけのことはある。

個人的に特に印象に残ったものを3つほど上げると。

まずは、東福寺を拠点に活躍した絵仏師の吉山明兆(きっさんみんちょう、1352~1431)の作品群。名前は「日本史教科書の脚注にあったかな?」レベルの認識だったが、今回の目玉である五百羅漢図の作品群が素晴らしい。ずいぶん色合いが奇麗だなと感じたら、14年かけて修復作業が行われたとこのこと。館内には修復プロジェクトを紹介する3分程度のビデオも流されている。一つ一つの絵に物語があるので、それを想像するのも楽しい。いくつかには漫画解説(絵を使って台詞を入れた4コマ程度の漫画にしたもの)があって、楽しい見せ方と感心した。

期間限定展示の白衣観音図も素晴らしかった。縦が326.1cmある大きな絵の中央に座して黙想する観音様が描かれている。描かれた観音様自身は大きく描かれているわけではないようにも見えるが、絵の前に立つと、実に大きく見える。その静で凛とした佇まいには、聖なものを感じる。

続いて、東福寺開祖の円爾が博多の承天寺を開堂した際に宋の留学時の師匠であった無準師範が贈った一群の額字・牌字(はいじ)の作品群。字が持つ気迫、美しさが迫ってくる見事な書である。草書系の字は正直私には良いも悪いも分からないのだが、こうした楷書系の字はストレートで私でも感じるところ多いのが嬉しい。現在のお堂の額とかで残っているようなので、是非、東福寺を訪れた際には見ておこうと思った。

そして、お目当ての仏像である。さすがにご本尊様は引っ越しされてなかったが、脇侍の迦葉(かしょう)・阿難立像(あなんりゅうぞう)はユニークだし、さらに夫々の隣に立つ二天王立像(重要文化財、13世紀)が凄い。3mは超えていると思える。その力強さ、激しさには思わず後ずさりしてしまうほどだ。撮影可能エリアでは、火災で焼失した旧本尊の手である巨大な「仏手」が展示されている。手だけでこんなに大きいのだから、どんだけ本尊は大きかったのだろうか。


<写真撮影可能エリアで 寺院内を再現 今の時期は新緑、秋は紅葉が素晴らしいらしい>


<旧本尊の釈迦如来坐像(光背化仏) 鎌倉~南北朝時代 14世紀>



<仏手 東福寺旧本尊 1個 鎌倉~南北朝時代 14世紀 東福寺> 

普段は非公開であろうものもあるだろうから、東福寺を訪れても、これらの品をすべて見ることは叶わないと思われる。だが、この展覧会を行って、東福寺に行きたいと思わない人は居ないだろう。京都には5月までにもう一つ行かなくてはいけないイベントがあるのだが、もう一つ行くべきところが追加されてしまった。

2100円の入場料は高いが、この内容なら決して高すぎるとは思わない。5月7日までなので、見逃しはもったいないです。できれば私もゴールデンウイーク中に再訪するつもり。

2023年4月12日訪問

 

(構成)

第1章 東福寺の創建と円爾
第2章 聖一派の形成と展開
第3章 伝説の絵仏師・明兆
第4章 禅宗文化と海外交流
第5章 巨大伽藍と仏教彫刻

 


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パーヴォのフランスプログラム: パーヴォ・ヤルヴィ/N響 @NHKホール 

2023-04-24 07:31:45 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

パーヴォ月間の2本目。フランスもの小品3曲を集めた珍しいプログラムです。共通するキーワードは「新古典主義」とのこと(『フィルハーモニー』)。私にはどれもお初の曲目です。

最後のイベール《室内管弦楽のためのディヴェルティスマン》が最も印象的でした。「ウジェーヌ・ラビッシュの喜劇『イタリアの麦藁帽子』のために書いた付随音楽から抜粋した組曲」(『フィルハーモニー』)とのことですが、観たことも読んだこともない喜劇の様子が見えるような、愉快で楽しい音楽です。

メンデルスゾーンの「結婚行進曲」のパロディが埋め込まれていたり、ジャズで使われそうなパロディ的な音が発せられたりで、可笑しく、楽しく、幸せ気分一杯でした。終曲ではホイッスルの「ピー」という響きがホールに広がったのですが、「これ誰が吹いているの?」とステージ上を見渡してもそれらしい人はみつかりません。公演後のN響のツイッターで知ったのですが、何とパーヴォ本人が吹いていたとのことです。

この日は事情で土曜日から金曜日に振替。仕事帰りに、肩肘張らず、サクッと楽しめるプログラムで良いですね。客入りが寂しかったのは残念ですが、嬉しそうなパーヴォと一緒に楽しんだ聴衆との一体感ある雰囲気でNHKホールは大いに盛り上がりました。

第1981回 定期公演 Cプログラム
2023年4月21日(金) 開演 7:30pm(休憩なし) [ 開場 6:30pm ]
NHKホール

ルーセル/弦楽のためのシンフォニエッタ 作品52
プーランク/シンフォニエッタ
イベール/室内管弦楽のためのディヴェルティスマン

指揮:パーヴォ・ヤルヴィ

 

No. 1981 Subscription (Program C)
Friday, April 21, 2023 7:30pm [ 6:30pm ]
NHK Hall

Program

Roussel / Sinfonietta for String Orchestra Op. 52
Poulenc / Sinfonietta
Ibert / Divertissement for Chamber Orchestra

Conductor: Paavo Järvi


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豪華絢爛!:新国立劇場 開場25周年記念公演 ヴェルディ〈アイーダ〉

2023-04-22 07:54:16 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

私自身、2017年以来2回目のフランコ・ゼッフィレッリ演出の「アイーダ」(新国立劇場では開館5年ごとの節目に再演しているとのことです)。

今回も前回同様に、昭和時代の角川映画やハリウッドの「超娯楽大作」を彷彿させる豪華絢爛な「アイーダ」に圧倒されました。舞台セットのスケール、出演人数の多さ、煌びやかな衣装やメイク、本物の馬までが登場する重厚長大な演出は、見栄えも、見ごたえもたっぷりです。

演出に目が奪われがちですが、カルロ・リッツィさん指揮の東フィルの演奏が秀逸でした。金管陣の大活躍はもちろんのこと、3幕、4幕では多彩でデリケートなアンサンブルが素晴らしかった。ヴェルディの音楽を堪能しました。

外国人歌手陣は図抜けた歌い手は居ませんでしたが、皆さん堅実なパフォーマンスです。アイーダ役のファルノッキアさんは役柄のせいと思うのですが、期待ほど目立ったところが無かったような気がしました。一方で、アムネリスのロバーツさんは表現豊かな演技と伸びる歌声が素晴らしい。ラダメス役のアアロニカさんのテノールはもう少し柔らかさが欲しいなとは思いつつ、第4幕は声量たっぷりに聴かせてくれました。

日本人歌手陣も活躍。妻屋さんはいつもながらの安定感。アモナズロ役の須藤さんが熱演かつ張りのある低音で存在感発揮です。

そしていつも素晴らしい新国合唱団。いったい何人いるのかと思う大合唱も数に物を言わせる風はどこにもなく、繊細な美しささえ感じるところあり、レベルの高さが伺えます。

バレエ陣の踊りも優雅で、とっても良いアクセントですね。

ドラマとしては、派手な前半に対して、後半は落ち着き、心理劇といった趣ですが、前半戦の賑やかさがどうしても残像として残り、個人的には切り替えが難しかったです。満席の聴衆からは幕ごとに盛大な拍手と「Bravo!」、「Bravi!」、「Brava!」が寄せられました。

「オペラは総合芸術」とか言うととっても敷居が高く聞こえますが、今日のようなアイーダを見れば、敷居が高いなんて思うことは無いんじゃないかな。「オペラ楽しいじゃん」、「オペラ、すげー」っていうことでファン層拡大にはもってこいなのではと思います。

新国立劇場 開場25周年記念公演
ジュゼッペ・ヴェルディ
アイーダ

全4幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉
2023年4月5日(水)~4月21日(金)

予定上演時間:約3時間50分(第1幕45分 休憩25分 第2幕45分 休憩25分 第3幕35分 休憩20分 第4幕35分)

スタッフ

【指 揮】カルロ・リッツィ
【演出・美術・衣裳】フランコ・ゼッフィレッリ
【照 明】奥畑康夫
【振 付】石井清子
【再演演出】粟國 淳
【舞台監督】斉藤美穂

キャスト

【アイーダ】セレーナ・ファルノッキア
【ラダメス】ロベルト・アロニカ
【アムネリス】アイリーン・ロバーツ
【アモナズロ】須藤慎吾
【ランフィス】妻屋秀和
【エジプト国王】伊藤貴之
【伝令】村上敏明
【巫女】十合翔子

【合唱指揮】三澤洋史
【合 唱】新国立劇場合唱団

【バレエ】東京シティ・バレエ団
【児童バレエ】ティアラこうとう・ジュニアバレエ団

【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

2022/2023 SEASON

25th Anniversary Production
Music by Giuseppe VERDI
Opera in 4 Acts
Sung in Italian with English and Japanese surtitles

OPERA PALACE

5 Apr - 21 Apr, 2023 ( 7 Performances )

CREATIVE TEAM

Conductor: Carlo RIZZI
Production, Set and Costume Design: Franco ZEFFIRELLI
Lighting Design: OKUHATA Yasuo
Choreographer: ISHII Kiyoko

CAST

Aida: Serena FARNOCCHIA
Radames: Roberto ARONICA
Amneris: Irene ROBERTS
Amonasro: SUDO Shingo
Ramfis: TSUMAYA Hidekazu
Il Re: ITO Takayuki
Un messaggero: MURAKAMI Toshiaki
Sacerdotessa: SOGO Shoko

Chorus: New National Theatre Chorus
Orchestra: Tokyo Philharmonic Orchestra


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お久しぶり! パーヴォ・ヤルヴィ/N響/R.シュトラウス プログラム 〈アルプス交響曲〉ほか

2023-04-17 09:13:03 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

3月の定演お休み期間を明けて、春シーズンに突入。久しぶり(2021年9月以来?)のパーヴォさんの登場とあって、特に楽しみにしていたこの日の演奏会でした。

この日はキャリア後半期のR.シュトラウス・プログラム。それぞれ大編成のオケからの輝く合奏を楽しみましたが、特に後半のアルプス交響曲が圧巻でした。

ステージ一杯に広がったN響の弦・管・打楽器のメンバーが繰り出す音が縦横無尽に広いNHKホール一杯に広がり、これこそ家では味わえない生演奏会の醍醐味です。

音楽自体、各曲にお題もついてますので、とってもわかりやすいし、曲自体も明るく楽しい。パーヴォさんの創り出す音楽は機能的でありながら、アルプスの情景が目に浮かぶようですし、オペラのように物語付きのようなダイナミックでドラマティックなものでした。ステージ上、ステージ裏・横で合計何名いるかも分からない位の大編成の楽団を、一つの有機体としてまとめるパーヴォさんの力量は流石です。

マロさん・郷古さんのダブルコンマスが揃った弦楽器、オーボエの吉村さんを初め個々のプレイヤーと金管チームの妙技、滅多に見ない打楽器も駆使して音楽に活力与えてくれた打楽器群、個とチームのシナジーが素晴らしく、オーケストラの妙味を味わい尽くしました。

それにしても、パーヴォさんの次期シーズンのプログラムに登場予定がないのは、不思議としか言いようがありません。いろんな事情があるのでしょうが、残念で、悲しい。今月のあと2回の演奏会をしっかり味わっておきたいです。

定期公演 2022-2023シーズンAプログラム
第1980回 定期公演 Aプログラム
2023年4月16日(日) 開演 2:00pm [ 開場 1:00pm ]

NHKホール

  1. シュトラウス/「ヨセフの伝説」から交響的断章
  2. シュトラウス/アルプス交響曲 作品64

指揮:パーヴォ・ヤルヴィ

Subscription Concerts 2022-2023Program A
No. 1980 Subscription (Program A)
Sunday, April 16, 2023 2:00pm [ 1:00pm ]

NHK Hall

Program

  1. Strauss / Symphonic Fragments from Josephs Legende
  2. Strauss / An Alpine Symphony Op. 64

Conductor:Paavo Järvi


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やばい〈物語・沖縄現代史〉:柳広司『南風に乗る』(小学館、2023)

2023-04-14 07:41:44 | 

山之口獏(詩人)、瀬長亀次郎(政治家)、中野好夫(英文学者)という3人の沖縄縁の人(瀬長と山之口は沖縄出身)を通じて、沖縄の戦後史を描いた物語。

本土復帰、基地問題、自立に向けた沖縄の闘いが、東西冷戦・日米関係を軸にした国際政治、経済優先の国内政治の文脈の中で、3人の生き様とともに熱い筆致で描かれる。

小説ではあるが、題材が現代史なのでノンフィクション部分、歴史テキスト的な部分も多い。なので、登場人物への共感や感情移入だけでなく、読者の歴史的思考や解釈が求められる。読みやすくページは進むが、歴史としてのファクトと物語としてのフィクションの区分け、また、登場人物への感情移入や作者の支配層への強い批判的立場に振り回されない歴史の見立てや判断が必要で、読み方はなかなか難しい本であるとの印象だった。

本書では、主要人物たちの沖縄の当事者としての行動や向き合い方が描かれる。私のような沖縄アウトサイダーにとっては、机上のお勉強や知識でないリアルな沖縄現代史を感じ取ることができたのが一番の収穫だった。

歴史教科書レベルで、沖縄は1972年の返還まで講和条約の「犠牲」としてアメリカの「占領地」であったことや様々な基地問題が発生していたことは知識として知っている。だが、それが沖縄の人々にとって、日々の生活の中ではどういう意味なのか。どこまで肌感覚として理解できているのか。軍用機や毒ガス等の配備が住民に与える脅威と危険、警察権・裁判権を市民が持たないことの影響、参政権の重要性、本土への渡航でさえ制限を受けるなどなど、本書で追体験できる内容は広いし、重い。現在の問題でもある基地問題等についても、より思考や想像の幅が広がった。

あえてアウトサイダーとして言うと、本書が提起する問題の難しさは、人により、何に価値を置いて、誰の幸福のために考えたり、行動するのかのポジショニングが異なること。それにより良い・悪い、正しい・正しくないが変わってくることだろう。

国内外の政治や国の安全保障の現実と、現地市民の人権や幸福の追求のバランスはどうあるべきなのか。相似形の問題は我々の周囲にも色々転がっているが、沖縄はその矛盾が一番露骨に顕在化し、国益という名のもとに地域が犠牲にされてきたことは間違いない。

そんな中で、私自身は本書を通じて、何を考え、どう行動できるのか、すべきなのか。一人ひとりが考えるしかないのだが、これはなかなか難しい。AIや、ChatGPTが答えを出すべき課題、出せる課題ではないのは間違いない。

コメント (2)
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爆演!: 東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.14《ニュルンベルクのマイスタージンガー》

2023-04-10 07:30:39 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

春祭の目玉公演の一つ。N響によるワーグナー・シリーズ。毎年楽しみにしているプログラムです。昨年に続きヤノフスキさんをお迎えして、演目は<ニュルンベルクのマイスタージンガー>。

前奏曲からドキドキの演奏でした。快速テンポに、音の迫力がいつもの相当パワーアップしているように聴こえます。このスタイルは5時間半通して貫かれました。

コンサートマスターのキュッヒルさんのキレキレの音が私の5階席にもバンバン飛んできます。その影響か、ヴァイオリンをはじめとして弦チームの音がとっても筋肉質に引き締まってます。武骨とも感じるほどで、痺れました。

管陣も良かったですね。第3幕にオーボエがいつの間にか吉村さんから吉井さんに代わって、「吉村さん、体調不良?」と勘違いして動揺しました。遅まきながら、ホルンも福川さんに代わっているのを終盤になってやっと認識し、N響の働き方改革なのだろうと勝手に納得。代わった吉井さんのオーボエの柔らかくて通る音色が出色でした。まるで、WBCでのダルビッシュから大谷へのスーパーリレーのようでしたね。

このN響のスーパー演奏は、歌手陣を覆い隠す勢いでしたが、歌手陣も実力発揮してくれました。柱のザックスを歌ったエギルス・シリンスとポークナーのアンドレアス・バウアー・カナバスは安定の低音で、舞台がしっかり支えてくれました。

ヴァルターを演じたデイヴィッド・バット・フィリップはリッキー・ジャーヴェイス(私が好きなイギリスのコメディアン)をスリムに格好良くした感じ。前半、声量的にオケに負けていた印象は拭えませんでしたが、第3幕の「夢解きの歌」は柔らかく美しいテノールでした。

私の5階右サイドの席が残念だったのは、ベックメッサー役のアドリアン・エレートの演技が見切れて殆ど楽しめなかったこと。公演後のツイッターでは彼の芸達者ぶりが一番の評判だったので、そこを見逃したのは痛かった。

女性歌手陣と東京オペラシンガーズの合唱も文句無しの素晴らしいものでした。

今回は特に映像演出も無く、時折、舞台の照明の色が変わる程度。中途半端な映像演出は、却って興を削ぐ時もあったので、むしろこれで十分と思いました。

「マイスタージンガー」は好きなワーグナー楽劇の1つですが、丁度、最近NHKのドキュメンタリー「映像の世紀」<戦争の中の芸術家>を見たばかり。ナチス・ドイツ下で指揮活動をつづけたフルトベングラーの映像と併せて、ドイツ精神を賛美する「マイスタージンガー」の音楽が目と耳に残っていて、音楽を聴きながら、音楽とは多少異なる思いが頭をよぎりました。

例えば、1939年ワルシャワ生まれでドイツ育ち、お父さんがポーランド人、お母さんがドイツ人のヤノフスキさんにとっては、この楽曲を演奏することは何か特別な意味を持つのか、とか。一度、伺ってみたいトピックです。

なにはともあれ、「マイスタージンガー」の持つ強力な磁力とオケ・歌手陣・合唱団に引きつけられっぱしの5時間半でした

東京・春・音楽祭
東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.14
《ニュルンベルクのマイスタージンガー》(演奏会形式/字幕付)

日時・会場
2023年4月6日 [木]
東京文化会館 大ホール

出演
指揮:マレク・ヤノフスキ
ハンス・ザックス(バス・バリトン):エギルス・シリンス
ファイト・ポークナー(バス):アンドレアス・バウアー・カナバス
クンツ・フォーゲルゲザング(テノール):木下紀章
コンラート・ナハティガル(バリトン):小林啓倫
ジクストゥス・ベックメッサー(バリトン):アドリアン・エレート
フリッツ・コートナー(バス・バリトン):ヨーゼフ・ワーグナー
バルタザール・ツォルン(テノール):大槻孝志
ウルリヒ・アイスリンガー(テノール):下村将太
アウグスティン・モーザー(テノール):髙梨英次郎
ヘルマン・オルテル(バス・バリトン):山田大智
ハンス・シュヴァルツ(バス):金子慧一
ハンス・フォルツ(バス・バリトン):後藤春馬
ヴァルター・フォン・シュトルツィング(テノール):デイヴィッド・バット・フィリップ
ダフィト(テノール):ダニエル・ベーレ
エファ(ソプラノ):ヨハンニ・フォン・オオストラム
マグダレーネ(メゾ・ソプラノ):カトリン・ヴンドザム
夜警(バス):アンドレアス・バウアー・カナバス

管弦楽:NHK交響楽団(ゲストコンサートマスター:ライナー・キュッヒル)
合唱:東京オペラシンガーズ
合唱指揮:エベルハルト・フリードリヒ、西口彰浩
音楽コーチ:トーマス・ラウスマン

曲目

ワーグナー:楽劇《ニュルンベルクのマイスタージンガー》(全3幕)[試聴]

上演時間:約5時間30分(休憩2回含む)

Spring Festival in Tokyo
Tokyo-HARUSAI Wagner Series vol.14
"Die Meistersinger von Nürnberg"(Concert Style/With Subtitles)

Date / Place

April 6 [Thu.], 2023 at 15:00(Door Open at 14:00)
Tokyo Bunka Kaikan Main Hall

Cast
Conductor:Marek Janowski
Hans Sachs(Bass-Baritone):Egils Silins
Veit Pogner(Bass):Andreas Bauer Kanabas
Kunz Vogelgesang(Tenor):Noriaki Kinoshita
Konrad Nachtigal(Baritone):Hiromichi Kobayashi
Sixtus Beckmesser(Baritone):Adrian Eröd
Fritz Kothner(Bass-Baritone):Josef Wagner
Balthasar Zorn(Tenor):Takashi Otsuki
Ulrich Eisslinger(Tenor):Shota Shimomura
Augustin Moser(Tenor):Eijiro Takanashi
Hermann Ortel(Bass-Baritone):Taichi Yamada
Hans Schwarz(Bass):Keiichi Kaneko
Hans Foltz(Bass-Baritone):Kazuma Goto
Walther von Stolzing(Tenor):David Butt Philip
David(Tenor):Daniel Behle
Eva(Soprano):Johanni Van Oostrum
Magdalene(Mezzo-Soprano):Katrin Wundsam
Ein Nachtwächter(Bass):Andreas Bauer Kanabas

Orchestra:NHK Symphony Orchestra, Tokyo
Chorus:Tokyo Opera Singers
Chorus Master:Eberhard Friedrich, Akihiro Nishiguchi Musical Preparation:Thomas Lausmann

Program
Wagner(1813-83):”Die Meistersinger von Nürnberg”


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聖金曜日に受難曲を聴く:指揮 鈴木雅明/バッハ・コレギウム・ジャパン @東京オペラシティコンサートホール

2023-04-09 07:30:55 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

聖金曜日にBCJの受難曲を聴くのは、コロナ禍前の2018年以来です。字幕が無い時に備えて、その時のプログラムを持参しました。

いつもながらではありますが、いつものクラシック音楽の演奏会に行くのとは一味も二味も違う音楽体験の場でした。

クリスチャンでない私が、神聖で厳粛な気持ちにさせられます。音楽を聴きながら、体が清められていくのです。体の様々な部位に沈殿した老廃物が洗浄されます。

そして、まさに西洋文明の一つの根っことも言えるキリストの受難の物語はなんと厳しいものなのか。多神教で宗教的に大らかな私のような日本人には想像はできても、実感覚にはとっても遠いこの徹底的に追い詰められる切迫感。息が詰まるようです。

鈴木パパ指揮によるBCJの演奏・合唱は、これもいつもながらではありますが、素晴らしいの一言。とりわけ合唱の美しさには言葉が見つかりません。パパ鈴木の熱い指揮に応えた熱演でした。

独唱陣も充実。エバンジェリストのトマス・ホッブスさんが安定したテノールで安心して音楽の展開に身を委ねられます。印象的だったのはアルトの久保法之さん。繊細で美しい男声アルトがホールに響きました。イエスのマーティン・ヘスラー、ルビー・ヒューズさん・松井亜希さんの両ソプラノも十八番という感じで文句無しです。

バッハの宗教音楽にはオペラシティコンサートホールは雰囲気と言い、規模と言いぴったりですね。まるで教会にいるような感覚になります。

毎年、この時期に受難曲を、それもこれだけのワールドクラスの演奏が聴ける日本って、なんか不思議な国ですね。身の幸運すら感じます。個人的には、毎年聴くにはちょっと重すぎる受難曲なのですが、これからもBCJが公演を続けてくれる限りは、数年おきには聴いていきたいと思います。

 

受難節コンサート2023《マタイ受難曲》(聖金曜日)
第154回定期演奏会

2023年 4.7(聖金曜日)18:30~
東京オペラシティ コンサートホール

J.S. バッハ:《マタイ受難曲》BWV 244

指揮:鈴木雅明

エヴァンゲリスト:トマス・ホッブス
ソプラノ:ルビー・ヒューズ、松井亜希
アルト:久保法之、青木洋也
テノール:谷口 洋介
バス:マーティン・ヘスラー、加耒 徹

合唱:バッハ・コレギウム・ジャパン、東京少年少女合唱隊
管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン

 

St. Matthew Passion

154th Subscription Concert

2023 . 4.7(Good Friday)18:30-

Tokyo Opera City Concert Hall: Takemitsu Memorial

  1. S. Bach: St. Matthew Passion, BWV 244

Conductor: Masaaki Suzuki
Evangelist (Tenor): Thomas Hobbs
Jesus (Bass): Martin Häßler
Soprano: Ruby Hughes, Aki Matsui
Alto: Noriyuki Kubo, Hiroya Aoki
Tenor: Yousuke Taniguchi
Bass: Toru Kaku
Soprano in ripieno: The Little Singers of Tokyo

Chorus & Orchestra: Bach Collegium Japan

 


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新潟行ったら是非ここへ: 佐渡廻転寿司 弁慶 ピア万代店 

2023-04-06 07:30:16 | 旅行 日本

先日、家の用事で新潟を訪問。しとしと冷たい雨が降る天気で、自由時間も殆ど無かったので、「せめて食事ぐらいは」ということで、日本海の海の幸目当てで寿司屋さんへ。

10時前に新潟駅に着いて、10時半開店のお店に直行。開店15分前に到着した際には既に30メートルを超える開店待ちの行列が。一巡目には入れず、二巡目に。それでも30分強待ちで席に着けました。

お寿司屋さんと言っても回転寿司(お店の名前は廻転寿司)ですが、これがもう超がつくサプライズの素晴しさ。

とにかく、ネタが大きくてどれも新鮮。それも地元佐渡沖で獲れた魚介が中心です。回転寿司でこんな瑞々しい海鮮が味わえるなんて、北海道以外では滅多にあるわけないと確信できる美味しさ。もう感動で、ボンボン頼んじゃいました。のど黒とかの高級魚も美味しかったのですが、私には活だこ、真いかが超新鮮で、目茶旨くて、思わず涙。

お店は新潟市内の観光みやげ屋さんが集まる市場(マルシェ)。でも観光客目当てのぼったくり寿司屋さんではありません。裏には日本海につながる船着き場もあり、ちょっとした新潟風情も味わえます。


(ピア万代店内)

新潟市内に4店ほどあるようですし、帰京してネットで知ったのですが、なんと東京にも出店してるらしい。新潟にお出かけの際は、是非お立ち寄りください。おすすめです。

 

2023年3月26日


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「いやぁ、漫画って本当にいいもんですね~」: 荒川弘『銀の匙 Silver Spoon 1~15』小学館(少年サンデーコミックス)、2011-2020

2023-04-03 07:30:58 | 

昨年夏の北海道旅行で帯広畜産大学を訪れた際に、本作の映画版のロケが当地で行われたことを知った。映画の方はすぐにAmazonで視聴したのだが、原作の漫画本も読んでみたく、地元の図書館でリクエストしたところ7ヵ月経ってやっと廻ってきた。待ち続けていたこともあり、1巻から15巻までを一気読みした。

作品は2011年から2019年まで「週刊少年サンデー」に連載されていたそうだ。札幌の進学中学校から十勝地区の田舎の農業高校に進学した男子高校生の努力、友情、恋が描かれる成長物語である。

元気がいっぱい貰える漫画である。登場人物たちに思いっきり感情移入して、励まし、泣き、喜べる作品だ。人のために汗をかくこと、友人をリスペクトすること、人のつながりを大事にすること、いろんな生きてくうえで大切にしたいことも教えてくれる。題材も優れていて、読みながら北海道の畜産業や酪農業についての知識も得られてお勉強にもなる。

久しく漫画本を手にすることは無かったが、改めて漫画のメディアとしての訴求の強さや、ストーリーと表現の豊かさに感心した。これからも、地元図書館に所蔵の漫画をちょくちょく手に取ってみようと思う。


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