その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

土合駅って知ってます? (年末温泉旅行その2)

2017-12-31 07:09:33 | 旅行 日本
 宿のロビーで周辺の観光地図を眺めていたら、5キロ弱程離れたとこにある上越線「土合駅」に目が留まりました。日本一のモグラ駅として関東の駅百選にも選ばられた「知る人ぞ知る」駅とのこと。ということで、翌日の早朝ジョギングの目的地は、未踏の地、土合駅に決定!

 朝6:00過ぎに出発。まだ、周囲は暗く人気も全くないので、走っていても怖いぐらい。利根川に沿って、谷川岳に向かって走る国道291号線を淡々と上っていきます。だんだんと周りが明るくなると共に、雪景色の利根川と山々が浮かび上がり、言葉にできない美しさ。


《明るくなり始める微かな予感がする程度の暗さの中を走り始めます》



  30分弱程走って、土合駅に到着。上りホームは地上にあるのですが、丁度、6:38発の一番列車が入線してきました。全くの静寂の雪の無人駅に静かに現れて、そーっと停車し、すーっと走り去っていく列車には、旅情を掻き立てられます。駅には昨日の午後に溶けかかった雪が夜に再び凍って、大きなつららができていました。


《駅舎は意外にモダン》


《一番列車の入線》



 そして、最終目的地である、山をくりぬいて出来ている下りホームに向かってGo。連絡通路を渡ると、一直線に伸びる462段の階段(長さ338m)の頂上に立ちます。が、そこからは下りプラットフォームは真っ暗で先が見通せません。下り列車の一番電車は8:34なので、まだまだ時間があることもあり、誰もいない長いトンネル階段は結構怖いです。一気にかけ下がると、山の中の地底駅が現れます。


《先がどうなっているか見当つかず》





 東京の深ーい地下鉄駅と違うのかと問われると、やや答えに窮しますが、この山の中に抱かれたような素朴な地中駅の空気感は東京の地下鉄駅と全く違います。訪れる価値ありです。

 列車は当分通らないので長居をしていてもしようがないので、無人のやたら長いプラットフォームで短距離ダッシュの練習を2,3本こなし、帰路につきます。階段の上り口にはモグラ駅の紹介文もありました。階段の左わきには、もともとはエスカレーターを配置予定だったという1.5M巾ぐらいの地盤むきだしの側道らしきものがありますが、地下水がチロチロと流れ、これがまた不気味。それにしても、このホームから大きな荷物を持った人とか、脚が丈夫でない人には、改札口までたどり着くのに相当難儀しそう。というか、無理でしょ。







 一応、ランニングの練習も兼ねているので、一気に駆け上がって、外に出ました。



 外に出るとすっかり明るくなっていて、実に爽快な朝の山の空気です。澄み通って切れ味抜群な辛口の日本酒を飲むような、冷たくておいしい空気。それを噛みしめるように味わいながら、宿に戻りました。




《夏場にも訪れたい風景》




《誰が作ったのかな?》

 土合駅、一度、是非行ってみてください。レアな経験ができます。(ただし、朝方の女性一人での訪問は絶対お勧めしません)
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年末骨休め温泉旅行 @湯檜曽温泉

2017-12-29 08:00:00 | 旅行 日本
 今年も「ぼったくり第9演奏会ボイコット運動」は継続中です(別に自分以外に運動を広げるつもりは毛頭ないのですが、Twitter等でいつもフェアなコンサート感想を述べてらっしゃる多くのクラシックファンの方々が、嬉々としてぼったくり演奏会(それも複数の)に行かれている投稿を拝読するのは、私的には非常に複雑な気持ち。私はやっぱりマイノリティ・・・)。ここ数年は、第9演奏会の代わりにバレエを年末のイベントにしていたのですが、今年は個人事情でバレエ鑑賞も参戦困難となり、実に寂しい12月となってしまいました。そこで、一年のマイお疲れさんイベントとして、関東近郊温泉1泊旅行を敢行。群馬県の湯檜曽温泉に行ってきました。

 上越新幹線で上毛高原駅まで行って、そこから宿のお迎え車に。利根川上流沿いの山あいに続く、前週に降った雪が残ったしなびた街道沿いの風景は、東京から来た人間にはなかなかの風情に感じられます。


《上毛高原駅にて。天狗のお山として知られる迦葉山(沼田市より16キロに位置する関東の霊域)の天狗のお面》

 初めて訪れる宿でしたが、川のせせらぎを聞きながら、ゆっくり入浴や読書で過ごすのは、短いながらも実に嬉しい時間でした。アルカリ性のお湯は優しく、実に柔らかい。当たり前ですが、自宅のお風呂やスーパー銭湯とは全然違います。夕食は、地元のワインと一緒に頂きました。


《周囲の風景》


《地元のワインを白・赤でいただきました》

 こうした非日常の時間はどんな時でも大切にしたいものです。皆様もこの一年、お疲れ様でした!

 2017年12月23日
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ヘルベルト・ブロムシュテット/ライプチヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団/ドイツ・レクイエム 作品45  @NHK音楽祭 

2017-12-28 08:00:00 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)
 1月以上前の演奏会ですが、記録のため。
 
 心洗われる合唱と演奏でした。今回の主役は明らかに合唱です。ウィーン楽友協会合唱団は楽友教会付のアマチュア合唱団とのことですが、その透明感あふれる合唱は大きなNHKホール一杯に響き、命の洗濯をしてもらっているような感覚です。

 演奏も素晴らしいものでした。個々のプレイヤーの個性と全体のバランスが程よく均衡しており、どちらかが目立ちすぎることがありません。合唱との調和も心地よいです。

 ブロム翁も元気いっぱい。迎える拍手、終演後の拍手ともに、これほど暖かい拍手があるでしょうか。翁は日本で最も愛されている現役指揮者と言って、全く過言ではないと思います。終演後は、ソロ・カーテンコールで何度も呼び出されていました。

 今年のNHK音楽祭は個性と実力を兼ね備えた指揮者、独奏者、オーケストラが出演し、15周年に相応しい実に充実した内容でした。今後の更なる発展を祈念したいです。


《この日は3階席中央の最前列でした》


《スタンディングオベーション!》


《楽員は去っても何度も呼び出されるブロム翁》

2017年11月13日 @NHKホール
NHK音楽祭 ライプチヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
                              
ブラームス作曲
「ドイツ・レクイエム 作品45」       
(ソプラノ)ハンナ・モリソン
(バリトン)ミヒャエル・ナジ
(合唱)ウィーン楽友協会合唱団
(管弦楽)ライプチヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
(指揮)ヘルベルト・ブロムシュテット

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大政奉還150周年記念スタンプラリー 2つ目 「近藤勇と調布の幕末維新」@調布市郷土博物館

2017-12-25 08:00:00 | 日記 (2012.8~)


 この間知った大政奉還150周年記念スタンプラリーの2箇所目として、調布市の郷土博物館を訪れた。京王線調布駅の次の駅、京王多摩川駅から歩いて5分弱で、住宅街の一角にある(建物自身も決して大きくないので、ちょっと探し当てるのが大変だった)。この企画に合わせたのか「近藤勇と調布の幕末維新」という企画展をやっていた。


《入口入ると近藤勇の像》

 展示そのものはこじんまりとしていて、小学校の一教室の三分の2ぐらいのスペースでの展示だ。ただ、内容はとっても興味深く、調布で生まれ育った新撰組局長近藤勇と幕末維新期の調布が、市内に残された古文書などで紹介されている。目を引いたのは、近藤勇が近藤家に養子に出た際の「養子縁組状」や維新期の「五榜の掲示」など。五榜の掲示を見ていて、維新政府も最初は「キリシタン禁制」だったことなどを思いだした。また、貨幣経済の進展を反映してなのか、調布、府中、三鷹の名士たちの「信用番付」なるものが、相撲の番付風に作られていたのも笑った。


《展示室は小さいですが、興味深い地元史料がいくつも》

 こういう展示を観ていると当たり前のことに改めて気づかされる。我々が書籍で読むようなマクロの日本史には、各ローカル、ローカルでのリアルな歴史との相互作用であるとういことだ。お互いがお互いに影響を与え合っているというか、一体のものであるということ。展示規模や内容はいわゆるメジャーな博物館の展示には足元にも及ばないが、こうした郷土の博物館にはこういうところでしかわからないディテールがある。
 
 結局、スタンプラリーの応募期限は今年いっぱいなのだが、スケジュール的に2つしかスタンプは押せそうにない。
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荒木香織 『ラグビー日本代表を変えた「心の鍛え方」』 (講談社+α新書、2016)

2017-12-22 08:00:00 | 



 著者の荒木香織さんはラグビーのワールドカップ・イングランド大会で日本代表チームのメンタルコーチを務めた方。昨年読んだ、エディ・ジョーンズ前監督についての本『ラグビー日本代表ヘッドコーチ エディー・ジョーンズとの対話』の中でも、荒木さんがいかに重要な役割を果たしたかが紹介されていた。

 本書は、その荒木さんが、日本代表チームでの体験やメンタルの鍛え方について書いた本。昨年、地元の図書館で予約したのだが、一年かかってやっと廻って来た。

 本書の面白さは、学問的な理論と現場での実践を結びつける筆者のスポーツ心理学者としてのプロフェッショナルな仕事ぶりである。有名な五郎丸選手の「ルーティン」も、筆者の解説によると「プレ・パフォーマンス・ルーティン」と言って、「そのパフォーマンスを行うにあたって生じるであろう様々な雑念を取り払い、ルーティンを正確に行うことに集中するためのもの」であり、スポーツ心理学ではルーティンを持っている場合の方が成功率が高いことが実証されているとのことである。

 仕事にも応用できるアドバイスが一杯だ。たとえば、目標設定も(1)結果に対する目標、は大切だが結果はコントロールできないことが多いし、結果だけでは先週も不安になるので(2)(自分自身のパフォーマンス向上に向けた)パフォーマンスに関する目標、(3)(意欲を持ち続けることや集中するための)過程についての目標と3つの段階にわけて設定することが大切と言う。パフォーマンス目標と過程の目標を設定することで、結果がついてくるようになるということらしい。これは、そのまま仕事や日常生活でも使える。

 手軽に読めるし、お勧め。


目次
「ルーティン」はゲン担ぎではない
「平常心」は、いい結果を生まない
「緊張」するから、うまくいく
「成功体験」が足を引っ張る
弱気のときこそ、自分で「決める」
「自信がある人」になる方法
「完全主義」を捨てる
「オリンピックの魔物」の正体
訓練で「思考停止」を身につける
あえて「グレーゾーン」をつくる
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あり得ないけど、涙の駅伝物語:三浦 しをん 『風が強く吹いている』 (新潮文庫、2009年)

2017-12-19 08:00:00 | 


 家族の本棚に置いてあったのを拝借。陸上素人集団が、粘り強く優秀なリーダーと天才ランナーを得て、箱根駅伝に出場し、一波乱を巻き起こす青春スポーツ小説。

 大学駅伝関係者が読んだら、怒り出すんじゃないかと思うほどあり得ないシンデレラ・ストーリーだが、少年ジャンプを読んでいるように、純粋に感動して涙する。物語の早いテンポ、各登場人物の際立ったキャラ、劇的なストーリー展開など、読んでいる感覚はスポコン漫画を読んでいる感覚と変わらない。まさに「友情」「努力」「勝利」だ。

 この本を読んで「あり得ない~」と怒るのは、『巨人の星』や『ドカベン』を読んで「あり得ない~」と言っているの同じだ。そんな無粋な人間になってはいけない。

 読んだら間違いなく、正月の大学駅伝はTVかぶりつきで観るだろうし、予選会も行きたくなる(まさに家人がそうだ)。

 余談だが、中年サラリーマンとしては、主人公である清瀬灰二の行動を追って、なんかリーダシップ研修を受けてるみたいだなと思ってしまうのは、殆ど職業病。それでも、リーダーシップやコーチングのテキストとしても最適であることも間違いない。
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しぎはら ひろ子 『賢いスーツの買い方』(プレジデント社、2017年)

2017-12-17 07:30:00 | 


 恥ずかしながら、40になるまで、スーツの選び方など気にしたことが無かった。幸い、それまではスーツを買うお店はほぼ決まっていて、店員さん的確なアドバイスをもとに購入していたので、きっとそんな大外れことはして無かったと思いたい。ただ、40歳過ぎて、急にスーツを意識し始めると、いろいろな基本ルールを初めディテールに至るまで、この世界の深みがあることを知った。もうスーツを着るのも明らかに後半戦になってしまった今から振り返ると、もっと早くから面白さを知っていれば、ちょっと手持ちのラインナップも違ったものになってたかもという思いはある。

 そういった意味で、本書はそのスーツの選び方、買い方の基本の指南書として最適な一冊だと思う。スーツを買う目的を販売員に伝える、スーツの前にシャツを買う、パターンオーダーのシャツを作ってみる、スーツをランク分けして買うといった腹落ちするアドバイスがたくさん書いてある。まあ私も含めてあまり得意な男性は多くは無いのかもしれないが、スーツを買うということは、まさに販売員さんとのコミュニケーションなんだということが良くわかる。

 本書を読んで、(今は間に合ってるんだけど)新しいスーツが買いたくなってきた。

  
【目次より抜粋】
◆第1章◆ビジネススーツは、センスではなくルールに従って買いましょう
01…店に行く前に知っておきたい、ビジネススーツ選びのポイント
02…スーツを買う「目的」を販売員に伝えましょう

◆第2章◆スーツの前に、まずシャツを買いに行きましょう
03…シャツは何枚持っていればいいのでしょうか?
04…3900円のシャツを買いに、スーツ量販店に行ってみましょう
05…百貨店でパターンオーダーのシャツをつくってみましょう

◆第3章◆いよいよスーツを買いに行きましょう
06…ビジネスマンに必要なスーツは、これだけです
07…まずはスーツの試着に行きましょう
08…百貨店で7万円の勝負スーツを買いましょう
09…スーツ量販店のイージーオーダーで5万円のスーツをつくりましょう
10…スーツ量販店で3万円の既成品を買ってみましょう

◆第4章◆コーディネートを左右するネクタイ、靴……などの揃え方
11…ネクタイは自分で選ぶものです
12…ネクタイはワイン系とブルー系の2パターンを持ちましょう
13…靴、ベルト、バッグは2系統で揃えましょう

◆第5章◆ネクタイ不要なオフィスが増えている!? 失敗しないジャケパンスタイルの基本
14…ビジネスで相手に好感を持ってもらうジャケパンスタイル
15…ジャケパンスタイルにふさわしいシャツを買いましょう
16…夏こそ「ジャケパン」スタイルをおすすめします
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吉村 昭 『陸奥撃沈』  (新潮文庫、1979)

2017-12-15 08:00:00 | 



 昭和18年(1943年)年、日本海軍の戦艦「陸奥」が瀬戸内海で突然の爆発により沈没した事件を追った「ドキュメンタリ小説」(出版社の記載がこうなのだが、なぜ本書が小説なのかは私には良くわからない。完全なノンフィクッションに読める)。単行本の初版は昭和45年(1970年)ということなので、半世紀近く前に書かれた作品である。

 事件があったことは既知だったが、1121名もの人命が奪われ、海軍が世間には軍事機密扱いとして、徹底的な情報隠蔽を測っていたことなどは、全く初めて知った。そして、日本海軍には、それまでにも同様の軍艦事故が相当数起きていたことも。

 筆者の視点は、常に人間にある。軍艦事故も多くが海軍関係者による故意・過失による事故であったようだ。どんなに精巧で、頑強な軍艦も、一人の人間がしでかす過ちの前には無力であることを示している。そして、その犠牲になるのも同じ人間である。彼らの無念さを想像すると胸が痛む。

 必要な情報のみを淡々と記録する筆者の文体は、直球、しかも剛速球であり、読む者の注意を逸らさない強さがある。一気に引き込まれて、読んでしまう一冊だった。
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大政奉還150周年記念 スタンプラリー

2017-12-11 08:00:00 | 日記 (2012.8~)


 10月に水戸の茨城県立歴史館に行った際に、今年は大政奉還150周年にあたることを知った。更に、先日、仕事の関係で日比谷図書館に出かけたら、京都市が主催して関連都市に呼びかけて、「大政奉還150周年プロジェクト」なるものをやっていることも知った。そのプロジェクトの企画の一つに「幕末維新スタンプラリー」なるものがあり、大政奉還150周年記念プロジェクトに参画する幕末維新ゆかりの全国22都市を2017年1年かけて巡ろうというもの。残念〜、知るのが遅すぎた。(スタンプラリーについてはこちら→www.taiseihokan150.jp/stamprally/

 ちなみに、その日比谷図書館もスタンプの設置場所になっている。併設されているミュージアムにスタンプが置いてあるのだが、常設展示「千代田にみる都市の成立と展開」をやっていて、ちょっと覗いてきた。まさに原始時代から現代に至るまでの、千代田の歴史が史料で語られる。


《展示会場の様子》

 さーっと見れば30分もかからない展示内容で、その中でも幕末・維新期の展示は全体の中ではわずかなものだが、当時広まったペリー提督の似顔絵とか、黒船で来航した外国人による日本の記録などが展示してあり、当時をしのばせる。



 とりあえずスタンプ1個押して後にした。



(2017年12月1日訪問)
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新国立オペラ/R.シュトラウス 『ばらの騎士』 (指揮:ウルフ・シルマー)

2017-12-10 08:00:00 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


 今年は7月に二期会による「ばらの騎士」を楽しんだばかりで、普通なら同じ年に同じ演目のオペラを観るようなことはしないのだけど、ジョナサン・ミラーの演出ということで、これはMust seeということでお出かけ。

 期待通り、ミラーの舞台は実に上品で、洗練されており、ウイーン貴族の生活を想起させるものだった。オーソドックスなのだけど、古さよりもむしろ現代性を感じる不思議なプロダクションである。音楽と歌が自然に引き立つように作られていて、舞台が変な自己主張をしない。プロダクションこうあるべきと言う感じだった。

 歌手陣はずば抜けた歌唱というものは無かったけど、役柄と言う意味で、元帥夫人のリカルダ・メルベートとオクタヴィアン役のステファニー・アタナソフが良かった。メルベートは気品あふれる佇まいで、元帥夫人の自尊心、気位、哀しさを十二分に表していたし、アタナソフのズボン役ははまり過ぎぐらい似合っていた。あの男っぷりには、男でも惚れる。ユルゲン・リンが演じたオックス男爵も、下衆男ぶりが見事。それにしても、トランプ大統領ってオックス男爵そのものだな。

 オケは1幕は管楽器が精彩に欠いた感があったけど、尻上がりに調子を上げた。ただ、全般的にオケと歌のバランスが悪い(オケの音が大きすぎ、または歌手のパワー不足)と感じられたのは残念。

 改めて、この作品は、音楽の美しさが群を抜いていることを実感した。オケや歌手に多少の不満はあっても、この作品全体の中では大きな問題ではない。3幕のラストの三重唱などはまさに涙涙だ。今年最後のオペラを締め括るのにふさわしい作品だった。


スタッフ
指 揮:ウルフ・シルマー
演 出:ジョナサン・ミラー
美術・衣裳:イザベラ・バイウォーター
照 明:磯野 睦
再演演出:澤田康子
舞台監督:大澤 裕

キャスト
元帥夫人リカルダ・メルベート
オックス男爵ユルゲン・リン
オクタヴィアン:ステファニー・アタナソフ
ファーニナル:クレメンス・ウンターライナー
ゾフィー:ゴルダ・シュルツ
マリアンネ:増田のり子
ヴァルツァッキ:内山信吾
アンニーナ:加納悦子
警部:長谷川 顯
元帥夫人の執事:升島唯博
ファーニナル家の執事:秋谷直之
公証人:晴 雅彦
料理屋の主人:加茂下 稔
テノール歌手:水口 聡
帽子屋:佐藤路子
動物商:青地英幸


合唱指揮:三澤洋史
児童合唱:TOKYO FM 少年合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱:新国立劇場合唱団


20th Anniversary Production
Der Rosenkavalier

Staff
Conductor Ulf SCHIRMER
Production Jonathan MILLER
Set and Costume Design Isabella BYWATER
Lighting Design ISONO Mutsumi

Cast
Die Feldmarschallin Ricarda MERBETH
Der Baron Ochs auf Lerchenau Jürgen LINN
Octavian Stephanie ATANASOV
Herr von Faninal Clemens UNTERREINER
Sophie Golda SCHULTZ
Marianne MASUDA Noriko
Valzacchi UCHIYAMA Shingo
Annina KANOH Etsuko
Ein Polizeikommissar HASEGAWA Akira
Der Haushofmeister bei der Feldmarschallin MASUJIMA Tadahiro
Der Haushofmeister bei Faninal AKITANI Naoyuki
Ein Notar HARE MASAHIKO
Ein Wirt KAMOSHITA Minoru
Ein Sänger MIZUGUCHI Satoshi
Eine Modistin SATO Michiko
Ein Tierhändler AOCHI Hideyuki

Chorus New National Theatre Chorus
Orchestra Tokyo Philharmonic Orchestra


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今年読み応えNo1の作品・・・若桑みどり『クアトロ・ラガッツィ ―天正少年使節と世界帝国(上)/(下)』(集英社文庫、2008)

2017-12-09 08:00:00 | 
 

 単行本の初版は2003年なので15年近く前の作品であるが、今年読んだ本の中では最も読みごたえがある作品だった。この秋に訪れた東京富士美術館の美術展で特集していた「天正遣欧少年使節」が興味深かったので、このテーマで書かれた本を物色していたところ行き着いた。

 表題をそのまま訳すと「四少年」。16世紀後半に、キリシタン大名から天正遣欧少年使節として日本から欧州に送られ、ポルトガル、スペイン、イタリアを巡り、ローマではローマ法王から歓迎を受けた日本人4少年(出発当時は13~14歳とされる)を巡る歴史書である。歴史書ではあるが学術書ではなく、文体もソフトなので「物語」を読むような感覚で読め、読んでいる感覚は塩野七生の「ローマ人の物語」にかなり近い。

 テーマは天正遣欧少年使節ではあるが、直接的にこの四少年についての記述は、全体の半分くらいではなかろうか?司馬遼太郎なら「余談だが・・・」として描かれる、その時代に関連する歴史ネタの解明にページが多くが割かれる。キリシタン大名がローマ法王にあてた文書の偽造疑惑、宣教師たちのキリスト教の伝道方法、「本能寺の変」の真実などといったネタで、興味のある人には面白いだろうが、そうでもない人には読み進めるのが辛いところもある。私自身、上巻では、大航海時代のポルトガル人の冒険家・事業家・医師であり、最終的には日本での宣教師となったルイス・デ・アルメイダにまつわる話が冒頭から100頁近く費やされ、読み進めるペースが掴めず苦労した。

 それにしても、この時期(1582年2月に出発し、帰国は1590年)に、四少年が極東の日本から、香港、インド、アフリカを廻って欧州までの旅に出し、無事生還するなど、本当に奇跡としか思えない。旅の苦労や彼らが受けたカルチャーショックが、史料を基に丹念に読み解く本書から生き生きと伝わって来て、読者は強く引き込まれる。

 本書は様々なことを教えてくれる。一つは、歴史を解明することの面白さ。日本、欧州の両サイドの史料をあたり、時代を解き明かしていく。史料の書き手の立場、時代背景等を理解したうえで、史料を読み、それを解釈し、仮説を立て、歴史のピースに埋め込む。歴史学の面白さを存分に味あわせてくれる。

 2点目は、「宗教」や「信仰」の強さと怖さ。良い、悪いの判断は差し置いて、信仰が人間の行動や生き方に与える影響度の強さはすさまじい。色んな思惑はあったにせよ、イエズス会の宣教師たちやキリシタン大名から庶民レベルに至るまでの日本人クリスチャンたちの、信仰に基づく行動が如何に人を強くしたことか。現代に十分通用するテーマであり、信仰を持たない自分には怖さを感じさせる。
 また、話は飛ぶが、鎖国が無かったら(キリスト教が受容されていたら)日本はきっと今とは全く違う国になっていたのだろうと思わせた。

 3点目は、人の命が綿のように軽かった戦国時代の人命感覚や人生観。大名たちの信長や秀吉といった主君への気の遣いようはすさまじいものだし、施政者・主君の思いひとつで人の命がこうも安く扱われるものなのかというのは、軍記物に近い歴史小説を読んでも決して分からない。そして、キリシタン弾圧の非情さ、非人道性。

 万人受けする読み物ではないことは明らかだが、是非、多くの人に本書を知ってもらいたいと思った。


目次
(上巻)
第1章 マカオから大きな船がやってくる(船長アルメイダ
府内の孤児院 ほか)
第2章 われわれは彼らの国に住んでいる(違いがわかる男
ザビエルの失望 ほか)
第3章 信長と世界帝国(血塗られた京都
最初の禁教令は天皇から ほか)
第4章 遥かに海を行く四人の少年(東方三賢王の礼拝
所詮行ってみなければわからない ほか)

(下巻)
第5章 ローマの栄光(「インド公子」到来
踊るマンショ ほか)
第6章 運命の車輪(不吉な彗星
わたしが神である ほか)
第7章 迫害(右近追放の夜
ポルトガル人の奴隷狩り ほか)
第8章 落日(帰路の荒波
変わり果てた日本 ほか)
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N響 12月定期Aプロ/指揮:シャルル・デュトワ/ラヴェル 「ボレロ」ほか

2017-12-06 12:00:00 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


 デュトワさんがラヴェルを振るということで、もうお約束中のお約束の名演が予想されたためか、ここ数か月結構空席があったNHKホールのN響定演もこの日はほぼ満員でした。満員のNHKホールと言うのは独特の熱気があり、とかく批判を受けることの多いホールではありますが、私は大好きです。

 私も期待感一杯で出かけたのですが、どうも数日前から体調が思わしくなく、残念ながら楽しみきれませんでした。前半は全く集中力を欠き、居眠りしているわけでは無いのだけど、音が体に残らずに、スーッと抜けていってしまう状態。楽しみにしていたピエール・ロラン・エマールさんのピアノも、うわの空で、聴いているんだか、聴いていないんだかのような状態。

 ただ後半は何とか多少持ち直し、「スペイン狂詩曲」と「ボレロ」は堪能しました。皆さん仰ってますが、デュトアさんが振るとN響の音がキラキラと輝きます。

 生「ボレロ」は久しぶりでしたが、この曲こそ生で聴くべきですね。オペラグラスを覗いていると、特に前半の管のソロパーツは奏者の皆さんの緊張感が手に取るように伝わってきました。デュトワさんとっても恐そうだし。そのせいか、やや安全サイドに立ってないかあなあと思われるソロ演奏部分もあった気がします。でも、中盤から後半には、曲が生き物のようにうねって展開していくのが何とも面白く楽しめました。ボレロは生に限る。

 ホールを出ると青の洞窟が。もうこんな季節になったんですね。今年の私の定期演奏会も来週で聞き納めです。



日中帯の代々木公園界隈





第1873回 定期公演 Aプログラム
2017年12月3日(日) 開演 3:00pm
NHKホール 

~ラヴェル没後80年~
ラヴェル/古風なメヌエット
ラヴェル/組曲「クープランの墓」
ラヴェル/左手のためのピアノ協奏曲 ニ長調

ラヴェル/道化師の朝の歌
ラヴェル/スペイン狂詩曲
ラヴェル/ボレロ  

指揮:シャルル・デュトワ
ピアノ:ピエール・ロラン・エマール

No.1873 Subscription (Program A)
Sunday, December 3, 2017  3:00p.m.
NHK Hall

The 80th Anniversary of Ravel’s Death
Ravel / Menuet antique
Ravel / “Le tombeau de Couperin”, suite
Ravel / Piano Concerto for the Left Hand D major
 
Ravel / Alborada del gracioso  
Ravel / Rapsodie espagnole
Ravel / Boléro

Charles Dutoit, conductor
 
Pierre-Laurent Aimard, piano
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神宮外苑 いちょう並木 紅葉も今年最後か~

2017-12-03 07:30:01 | 日記 (2012.8~)
 天気に誘われて、久しぶりに青山界隈を散歩。外苑の銀杏並木の紅葉にもギリギリ間に合った感じ。



 絵画館に寄れば寄るほどもう散っていたのですが、青山通り側はまだはっとするような黄色の葉が楽しめました。





 凄い人出ではありましたが、銀杏の絨毯の上を歩くのも気持ちよかった。



 外苑をふらふらした後、青山通りを渋谷まで歩いて帰路につきました。街はもうクリスマス一色ですね。


 2017年12月2日
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南 和気 『世界最強人事 グローバル競争で勝つ 日本発・人材マネジメント』 (幻冬舎、2015)

2017-12-02 09:59:21 | 


「日本型グローバル人事を明らかにしていく」という本書の問題意識に共鳴し、手に取ってみた。筆者は、欧米型でも日本型でもない第3の道を8社のグローバル企業の人事担当者と一つの大学の研究室へのインタビューを通じて明らかにしようとする。

結論として、筆者は「第3の道」に重要な3つのポイントを上げる。
①人事と経営が一体化して、空間的な視野をグローバルに持つことはもちろん、時間的な視野を持ち「未来を見ること」
②全世界で通用する共通化され、透明性のある「基準」が必要
③組織力を高める

そう簡単に答えなどでないことは誰にも分かっているが、この結論はちょっと一般化されすぎていて、迫力に欠ける感は否めない。人事とは、各社の事業戦略、組織カルチャ、業界構造と密接に結び付いた個別性の高いものであるから、理解はできるが抽象度が高まった途端に絵に描いたお餅的に見えてしまう。

そういう意味では、語りつくされていない不満は残るものの、各社の人事担当者のインタビューの方が具体的で、首肯できる点は多い。各社のインタビューを踏まえて、自分の頭で考えることが良さそうだ。


目次

【はじめに】

【第1章】グローバル競争から取り残された日本企業の人事
・最もグローバル化が遅れた日本人の「人」と「人事」
・孤立した日本企業の人事
・グローバル化の機会を逃した80年代 ほか

【第2章】「日本の伝統的人事」でもなく「海外企業のモノマネ」でもない
日本企業の「人事が目指すべき「第3の道」はあるのか?
・「日本的人事」という特異なシステム
・日本企業の人事のグローバル化は不可能?
・日本の会社員の大きな「謎」 ほか

【第3章】「経営と一体化」した人材マネジメントを実行する
・現地での緻密なコミュニケーションがグローバル化を支える―コマツ
・経営と事業に寄り添う人事を実現するために―コニカミノルタ

【第4章】社員のパフォーマンスを最大化し、グローバル人材を育成する
・人材管理ではなく「人に活力を与えること」が人事の役割―LIXILグループ
・「共感力」と「説明力」を兼ね備えた人材を育成するきめ細やかな仕組み―BASFジャパン
・採用から育成までを一つのフィロソフィーで貫く―スターバックスコーヒージャパン
・自主的な「学び」が人と組織の成長をもたらす―SAPジャパン

【第5章】全体的な組織力をいかに高めるか―グローバル人事に求められる「組織開発」
・「グローバル憲章」によって世界中の社員が活躍する組織になる―ブラザー工業
・人と人とのグローバルな「のりしろ」が一体感を生み出す―堀場製作所

【第6章】「人」を見つめる緩やかなグローバル人事が道を開く
・柔軟で、緩やかで、人間的なグローバル人事を― 一橋大学大学院教授・守島基博氏に聞く

【おわりに】

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