その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

小澤征爾/村上春樹 『小澤征爾さんと、音楽について話をする』 (新潮社)

2012-03-28 23:33:45 | 
 村上春樹さんが小澤征爾さんを、村上さんのレコードを一緒に聴きながらインタビューした記録。ベートーベンピアノ協奏曲第3番、マーラーの交響曲、バーンスタインとカラヤン、音楽教育などが遡上に上り、世界有数の指揮者と(きっと)世界有数のレコード愛好家の間で、知的で興味深い会話が繰り広げられる。

 全編を通じて、療養・リハビリ中でありながら精力的、情熱的に音楽を語る小澤さんの人間性、音楽に対する愛情がにじみ出ている内容になっている。村上さんも相当に聴きこんでいて、演奏や解釈について、かなり細部に渡って質問や議論を投げかけていて音楽論としても面白いが、全体として本書を振り替えると、そこには音楽を通じた小澤さんの人生や姿勢が語られている。

 例えば、僕がすごいと思ったのは、マーラーの交響曲一番を巡っての会話。村上さんは小澤さんが録音した3枚のレコードを年代順にかけて、その演奏、解釈の変化について小澤さんと話をする。 数十年かけた小澤さんの変化も面白いが、本人は今でも変化し続けているという。

 「僕くらいの歳になってもね、やはり変わるんです。それもね、実務の経験を通して変わっていきます。それがひょっとしたら、指揮者という職業のひとつの特徴かもしれないね。つまり現場で変化を遂げていく。・・・」(p264)

 もちろん本書での会話は、村上さんの広く深いクラシック音楽に対する聴き手としての経験、見識なしには成り立たない。村上さんの提示する論点から、音楽を聴き方の一面を知ることができるのも面白い。私は、今までもそしてこれまでも、楽器を演奏することはないと思うが、聴き手としての力を伸ばして、もっと音楽を楽しめるようになりたいと純粋に思わせてくれる。
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ロンドン・フィルハーモニック/ セガン/ ブルックナー 交響曲第9番ほか

2012-03-24 18:38:02 | コンサート (in 欧州)
 1月半も前の週末に出かけたコンサート。一応、備忘録として。

 数か月ぶりのロイヤルフェスティバルホール。ロンドンフィルとも随分、ご無沙汰。この日は、未完のブルックナー9番とその未完の終楽章をテ・デウムで置き換え(生前のブルックナー自身の発言)、更に冒頭にモテットChristus factus est
を置くという興味深いプログラム。演奏開始前にセガンさんから3曲を休憩なしでひとつの曲として、通して演奏するという説明があった。

 背筋が延びる素晴らしい演奏と合唱。一曲目は合唱のみ。教会にいるかのごとく厳粛な気持ちになる。ブルックナーの9番も、ロマンティックかつダイナミックな演奏で素晴らしい。そして、第4楽章として演奏されたテデウム。少し音が大きすぎるのではないかと思うぐらいのパワフルな合唱。独唱もトビー・スペンスの声が良く通って、聞きごごちよし。メゾは初めて聞く日本人の藤村実穂子さん。非常に繊細で透明感のある美声だったが、ソプラノのヴォリュームが大きくておされぎみ。

 ネゼ・セガンさんのエネルギッシュな指揮ぶりは、いつもながら引きこまれる。今日も気合十分の素晴らしい演奏を引き出してくれた。1時間40分休みなしの演奏後、聴衆もスタンディングオベーションで労っていた。


04 February 2012 7:30pm

Royal Festival Hall 2011/12

Bruckner Christus factus est
Bruckner Symphony No. 9
Bruckner Te Deum

Yannick Nézet-Séguin conductor
Christine Brewer soprano
Mihoko Fujimura mezzo soprano
Toby Spence tenor
Franz-Josef Selig bass
London Philharmonic Choir

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春のサリー州を走る

2012-03-22 22:59:08 | ロードレース参戦 (in 欧州、日本)
 日曜日に、ロンドンマラソン前の最後の練習として、サリー州Cranleighという所でで行われた20マイルのレースに参加してきました。

 前日の土曜日はすっきりしない天気でしたが、この日は朝から快晴。気温こそ10℃前後で、やや肌寒さを感じるものでしたが、風らしい風もなく、陽の光はもう完全に春でした。



 スタートとゴール会場は、何とローカル飛行場。滑走路からのスタートです。廻りは似た者同士らしく、ロンドンマラソンの参加を予定している人が多いことが耳に入ってくる会話で分かります。私のこの日の目標は、前回の20マイルレースの教訓を踏まえて、①頻繁な栄養補給によるガス欠防止、②1マイル約8分30秒ちょっとのペース維持、③可能なら3時間以内の走破、の3点です。

(スタート!)


 コースはその飛行場を含めて、周辺のエリアを使った10マイルの周回コースを2周します。飛行場の周辺は、サリーらしい田舎ののどかな農村地帯です。多少の難儀は、サリー州は、水を一杯に含んだ画用紙みたいに、地表の皺のごとく、小さなアップダウンが続くことです。いわゆる長く続く平地がないのです。ですので、目標の一つであった安定したペース配分の維持は旨く行きませんでした。

(微妙な登り坂)


(2周目へ)


 民家でさえそれほど見ないような田舎地域ですので、応援もほとんどないのが少しさびしいですが、早春の陽を浴びて、澄み切った空気の中でのランニングは、体の一つ一つの細胞から毒気が抜けていくような感覚です。

(コースの風景)




 前半自分としてはやや早すぎるペースで走ってしまい10マイルのラップが1時間25分28秒。そして、案の定、ラスト3マイルでがくっとペースが落ちて、後半10マイルのラップが1時間30分47秒。手元の時計のゴールタイムが2時間56分15秒。ラスト2マイルのペースの落ち方を見ると、フルマラソンの4時間切りはとても無理。この日はエナジードリンク持参で、腹いっぱいになり過ぎるのを注意せねばならないほど、栄養補給グッズを持ちこみ、食べつくしたのに、それでもラスト2マイルはきつかった。

(ゴール前)


 やっぱり、フルでは30キロ地点を過ぎて以降のラスト10-12キロが本当の勝負であることが改めて確認されました。あとは本番のバカ力とあのロンドンマラソンの大観衆に背中を押してもらうだけですね。残り1カ月上手く調整していきたいです。

 2012年3月18日 走

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村上春樹さんが書くロンドン音楽会事情

2012-03-21 00:48:26 | 
 先週末から、村上春樹さんの『意味がなければスイングはない』というエッセイを読んでいます。感想はまた読み終わったら書きますが、その本の中で、村上さんがロンドンの音楽会事情を書いているところがあって、これがまた印象的でしたので、ちょっとご紹介してみたいと思います。村上さんは、1988年の春に1か月ぐらいロンドンでアパートメントを借りて暮らしていたそうです。

「ロンドンという都市は、何はともあれクラシック音楽を聴くには理想的な場所である。選択肢が充実していて、毎日毎日どこかしらで聴く価値のある演奏会が開かれている。もちろんニューヨークだってそれは同じで、たくさんの演奏会場があり、世界各国からやってきた有名な音楽家の演奏会が目白押しになっているわけだが、マンハッタンの真ん中にいると、クラシック音楽のコンサートに行こうという気持ちがあまりわいてこない。もちろん、これは僕だけの、個人的な感じ方にすぎないのかもしれない。でも常に前のめりになって動いているような、ニューヨークの街の刺激的な雰囲気に比べると、ロンドンには「何があっても、とくに動じない」的なたたずまいがある。そしてそういう空気を日常的に吸っていると、とりあえず散歩がてら(というか)コンサートに足を運びたくなってくるのだ。

 コンサート・ホールで目にする客層も、ロンドンとニューヨークでは色合いがかなり異なっているような気がする。ニューヨークの聴衆は、ロンドンの聴衆に比べると、なんとなく知的にとんがっているところがある。がんばっているというか、眉間にいくぶんしわがよっている。ロンドンの聴衆は、もう少しリラックスしている。どことなく「しょせん昨日の続きが今日で、今日の続きが明日だから・・・・・・・」みたいな雰囲気がある。同じプログラムを聴いていても、ニューヨークとロンドンでは音の響き方が違うし、お互いの―――というのは演奏者と聴衆のことだが―――肩の力の抜け具合も違ってるような気がする。

 フランスやイタリアの都市も音楽を聴くことにかけては、もちろんロンドンに劣らず素晴らしい環境ではある。しかし惜しむらくは機能的にいささか不便なところがある。・・・・(後略)・・・」(文庫本pp259-260)

 そうなんです。その通りなんです。ロンドン以外の海外の都市に住んだことがないけど、遊びで10日ほど学生時代に滞在したニューヨークとの比較も全くもって私が感じた感覚そのままだったので、思わず笑ってしまいました。この「自然体」なところが、ロンドンの空気そのもので、私のロンドンが好きな大きな理由の一つだと思ってます。

 多くの人が読んでいるであろう本なので、改めて紹介するまでもないかもしれませんが、膝を打つというのはこういうことだと思うほどでしたので、軽く紹介させていただきました。
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ロイヤルオペラ/ Miss Fortune

2012-03-19 22:28:26 | オペラ、バレエ (in 欧州)
 ロイヤルオペラの新作ミスフォーチュンMiss Fortune (UK初演) を観に行きました。英国の女性作曲家Judith Weirのオペラです。 私が目にした新聞での批評は、あまり芳しくなかったので、「逆に期待できるのでは?」と期待を持って出かけたのですが、正直、かなりがっかりさせられた公演でした。

 個々のパーツで見ると悪いわけではありません。タイトリロールのEmma Bellは良かったし、プロダクションも、矢継ぎ早に変わるセットや照明の色合いも美しく、楽しめました。また、ブレイクダンスのグループが終始、舞台上で切れのあるダンスも披露してくれます。

 でも、何か全体がうまく噛み合っていないというか、ちぐはぐなのです。そして、音楽が単調で盛り上がりがない。人生のアップダウンがテーマで、賭け事が絡むというストーリーは、プロコフィエフのオペラ「賭博師」に似ている気がしますが、あのエキサイティングで緊張感に満ちたプロコフィエフの音楽とは盛り上がりが全然違います。

 現代ものの新作であるがゆえにリスクは付き物なのでしょうが、逆に、普段観ている作品が、歴史のふるいにかけられたものであるということが良くわかりました。オペラという舞台芸術の難しさを感じさせられた作品でした。



Miss Fortune

The Royal Opera
12 March 2012 to 28 March 2012
Main Stage

Running time: 2 hours | 1 interval

Sung in English with surtitles

Credits
Composer and librettist: Judith Weir
Director: Chen Shi-Zheng
Set design: Tom Pye
Costume design: Han Feng
Video design: Leigh Sachwitz
Movement: Ran Arthur Braun

Performers
Conductor: Paul Daniel
Tina (Miss Fortune): Emma Bell
Lord Fortune: Alan Ewing
Lady Fortune: Kathryn Harries
Fate: Andrew Watts
Hassan: Noah Stewart
Donna: Anne-Marie Owens
Simon: Jacques Imbrailo

Chorus
Royal Opera Chorus

Breakdancers
Soul Mavericks

Orchestra
Orchestra of the Royal Opera House


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ロンドンの風景 St Patrick's Day

2012-03-17 18:27:15 | ロンドン日記 (日常)
 昼時に珍しく町に買物に出ました。やたら緑の衣装を着た人が目立つなあと思ったら、今日3月17日はセントパトリックスデーということに気付きました。アイルランドにキリスト教を広めた聖人聖パトリックの命日です。

 日本ではあまりなじみのなかったこの日ですが、アイルランドとは関係の深いイギリスですので、いろんな所でイベントが行われるようです。ロンドンでも明日の日曜日には町中でパレードがあるとか。



 写真はピカデリーサーカス近くのアイリッシュパブの入り口。入場を待つ人の列が30メートルぐらい出来ていました。パブの中でもライブの音楽をやったりのお祝い企画があるようです。緑のものを見つけたり、アイルランドの国花であるシロツメクサをシンボルマークのように使ったりしています。

 2012年3月17日

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福井 晴敏 『Twelve Y.O.』 (講談社文庫)

2012-03-16 23:29:16 | 
ロンドンの古本屋で購入。読みながら、以前に読んだような気もしたが、ストーリーは殆ど忘れていたので、新鮮な気持ちで食い入るように読めた。元自衛隊隊員(Twelve)が米軍相手に戦いを挑むスケールの大きなサスペンスドラマ。

以前、同じ作者の「亡国のイージス」を読んで、如何に自分に現代軍事の知識が欠けているかを実感したが、本書でもそれは繰り返された。平和、国防、安全保障、国のアイデンティティについて考えさせる小説である。ドラマとしても手に汗握る面白さがあるし、国防についての勉強にもなる。

もっとも本書で書いてある自衛隊や米軍の軍事力等の記述がどこまで正確なものかはわからない。それを割り引いても、日本の安全保障がどういう前提のもとに成り立っているかを知ることは決して無駄ではないし、独り立ちしていない「子どもの日本」とはどういうことなのかを感覚的に理解するのは、たとえ筆者の考えに与することなくても、自分の考えのフレームを構築する助けになる。

江戸川乱歩賞も取った有名作品なので今さら私が勧めるまでもないだろうが、おススメ。

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オペラ バスティーユで〈ペレアスとメリザンド〉を観る

2012-03-15 22:44:06 | オペラ、バレエ (in 欧州)

今までで一番モダンな劇場。現代的というよりもSF映画にでも出てきそうな未来を予感させる洗練されたデザインと暗い照明は、実世界と離れた雰囲気たっぷり。上にも横にも大きい劇場。音響も素晴らしい。
ホワイエが広々としていて休憩時間もしっかりくつろげる。
日曜日のマチネのせいか、ラフな格好の人が多い。
















オペラは美しい音楽と象徴的な演出が印象的。歌というよりも言葉に音楽が乗っている感じなので、歌唱を楽しむわけではない。

ソプラノは美しい。繊細な表情と優雅な動作で舞台上の存在感はピカ一。続いてはおじいさんやくのバリトンが低い低音とどっしりした存在感がいい。ゴローはまずまず。王子は今一つ存在感薄し。

プロダクションは装置はほとんど無く、スクリーンに投影する美しく幻想的な照明が中心。登場人物の動きは最初はむしろバロックオペラのように動きはないのだが、少ない動きはもバレエのような身体の動きになっていて、芸術的である。

言葉がわからないので外国人には難しくかなり激しい睡魔に襲われた。が、公演のレベルは相当高いと思う。


PELLÉAS ET MÉLISANDE

PELLÉAS ET MÉLISANDEDRAME LYRIQUE IN FIVE ACTS AND TWELVE SCENES (1902)

Philippe Jordan Conductor
Robert Wilson Stage director and sets
Frida Parmeggiani Costumes
Heinrich Brunke, Robert Wilson Lighting
Holm Keller Dramaturgy
Giuseppe Frigeni Co-stage director
Stephanie Engeln Collaboration on sets
Alessandro Di Stefano Chorus master

Stéphane Degout Pelléas
Vincent Le Texier Golaud
Franz Josef Selig Arkel
Julien Mathevet Le Petit Yniold
Jérôme Varnier Un Médecin, Le Berger
Elena Tsallagova Mélisande
Anne Sofie Von Otter Geneviève

Paris Opera Orchestra and Chorus

 

2012年3月11日


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内永ゆか子 『日本企業が欲しがる「グロ-バル人材」の必須スキル』 

2012-03-13 23:10:04 | 
 成田空港の本屋で何となくタイトルが気になって買った本。筆者は日本IBM初の女性取締役に就任し、現在は英会話学校で有名なベルリッツのCEOを務めるバリバリのグローバルビジネスウーマン。本書は、筆者の豊富な経験をもとに、グロバール人材に求められるスキルを具体的に解説してくれる。

 本書で言う「グローバル人材の必須スキル」は殆ど持ち合わせていないが、職場環境は間違いなく「グローバル」である私の個人的体験に照らしてみても、深掘りはされていないものの、思い当たる節は沢山あり、良くまとまっていると思う。

 例えば、「ゼロベースコミュニケーション」、「国際試合」の基本ルール、「「強く」「早く」決断することの重要性」などは自己の経験に照らし合わせても腑に落ちる。英語での会議のキーフレーズ集など、即活用できるところもあり、有用だ。

 どちらかと言うと、今後グローバルで活躍したいと思う若い人向けに特に良さそう。

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イングリッシュ・ナショナル・オペラ/ ホフマン物語

2012-03-11 09:53:15 | オペラ、バレエ (in 欧州)

ホフマン物語は私の好きなオペラのひとつ。美しい音楽と強烈に個性豊かな登場人物が作り出す幻想的なホフマンワールドが何とも魅力的だからだ。実演では2008年11月にロイヤルオペラで見たことがあるだけなので、今回のイングリッシュ・ナショナル・オペラ(ENO)の公演はとっても楽しみにしていた。

なのに、不覚にも開演時間7:00を7:30と勘違いし、10分の遅刻。幸い2階のバルコニーの後方席に入れてもらえたので、たいして見逃したことにはならなかった。でも、この日は奮発してストール席のチケットを買っていたので、自分のせいだとは言え、第2幕終了までは3ランク下の席に座らざる得なかったのは何とも悔しいやら、情けないやら・・・。

公演のほうは、主要な歌手陣がいずれも素晴らしく、オーケストラも熱演で、とても充実した公演だった。

ホフマンを歌ったBarry Banksは一昨年にロイヤルオペラで『ドン・パスクワーレ』でErnesto役を歌ったのを聴いたが、この日も柔らかくよく通るテノールはうっとり聴き入ってしまう。私のイメージするホフマンよりは随分、優等生的だったが、歌は文句なし。

そして、この日の大活躍は、この物語の歌姫4人(ステラ、オランピア、アントニア、ジュリエッタ)を全て一人でこなしたアメリカ人のソプラノGeorgia Jarman。プログラムを観てもアメリカの中規模都市のオペラハウスを中心に歌っているようで、それほどメジャーな人ではないようなのだが、高音の美しさ、声量の大きさいずれもなかなかのものだった。加えて、とっても美貌の持ち主で、これならホフマンが惚れるのも無理は無い。全くキャラの異なる4役を演じるのは相当大変だと思うのだが、今度はどんな雰囲気で出てくるのか?が段々と楽しみになるような変化ぶりだった。

あと、これまた悪役の4役(リンドルフ、コぺリウス、ミラクル、ダベルトっト)を全てこなしたClive Bayleyも迫力あるバリトンで、悪の凄身を際立たせていた。

この物語では隠れた主役ニクラウス/ミューズは、ENOの「ファウストの劫罰」マルグリート役やROHの「ヘンゼルとグレーテル」のヘンゼル役で聞いたChristine Rice。ちょっと私のイメージよりも大きく、太いのがビジュアル的に難点だが、パフォーマンスは文句なし。

この4名の主要歌手陣に加えて、オーケストラも良かった。指揮のRichard Jonesはピッツバーグオペラの音楽監督をされているらしいが、非常に色彩豊かな音楽を作る指揮ぶりで、オッフェンバックの音楽の魅力をたっぷり引き出していた。

今回のプロダクションは、新演出でRichard Jonesによるバイエルン州立歌劇場との共同制作。ロイヤルオペラで「3部作」「アンナ・ニコル」「賭博師」らを手掛けている人だが、私の好みではなかった。一言で言うと、ホフマンの思い出の中の話であるにも関わらず、ちょっとリアリティがあり過ぎる舞台に見えたからだ。観察者的な人物3名を常に舞台に登場させたり、第4幕では何故かゴリラが登場したりして、いろんな仕掛けはあるのだけど、私には意図不明で、かえって夢を醒めさせるように映った。もっと、夢の中に浸っていたいのに。

しかし、全体としてはとっても満足のいくもので、私のENO好きはますます高まって行くのであった。


Sat 10 March 2011

Tales of Hoffmann

Opéra Fantastique in five acts
By Jacques Offenbach
Libretto by Jules Barbier
Based on the play by Jules Barbier and Michel Carré
Edited by Michael Kaye and Jean-Christophe Keck

Credits
A co-production with Bavarian State Opera, Munich
New production supported by The Colwinston Charitable Trust

Conductor Antony Walker
Director Richard Jones
Set Designer Giles Cadle
Costume Designer Buki Shiff
Lighting Designer Mimi Jordan Sherin
Choreographer Lucy Burge
Translator Tim Hopkins

Cast includes
Hoffmann Barry Banks
Olympia/Antonia/Giulietta/Stella Georgia Jarman
Lindorff/Coppelius/Dapertutto/Dr Miracle Clive Bayley
Muse/Nicklausse Christine Rice
Frantz/Pittichinaccio/Cochenille Simon Butteriss
Crespel/Luther Graeme Danby



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ブダペスト祝祭管/ フィッシャー

2012-03-08 23:55:41 | コンサート (in 欧州)
 昨年初めて聴いた時も思ったのですが、フィシャーとブダペスト祝祭管弦楽団のコンビは、世界トップクラスであることは間違いないでしょうね。ロンドンでは、ラトルとベルリンフィル、ヤンソンスとコンセルトヘボウ、マゼールとウーインフィルなどの世界の至高コンビの演奏を聞く機会に恵まれましたが、このコンビも決してヒケをとらないです。この夜も生オーケストラを聞ける歓びをふんだんに味会わせてくれました。

 とにかくアンサブルのバランスの良い響きと個々のパーツの上手さ、それとフィシャーの細部に至る拘りのコントロールが組み合わされて、大らかで芳醇な音楽空間を作ってくれます。

 もう1曲目から全力疾走で圧倒的。少々重い感じはするものの、豊穣な音の響きで、何かオーケストラの醍醐味って感じに聴こえるんですよね。フィシャーの唸りも聞こえてくる、気合い満点の演奏でした。

 2曲目のスペイン交響曲のカピュソンのヴァイオリンも凄かった。クリアで明確な音で、ヴァイオリンの響きってこんなに美しいということを、存分に味会わせてくれました。

 最後の「シェヘラザード」では、ハープが指揮者を挟んでコンミスの対向に置かれましたが、前回公演の「田園交響曲」のような、ステージに木をおいたり管と弦を混成した配置にしたりというサプライズは無かったです。が、演奏には終始痺れっぱなしで、目の前で繰り広げられる歴史絵巻を堪能しました。フィシャーが思うように自分のオーケストラを操っている様子が手をとるようにわかります。

 今年に入ってから、コンサートに足を運ぶ回数がめっきり減ったのですが、「やっぱりコンサートは良いなあ~」とブツブツ言いながら、テムズ川を渡って帰路に就いた次第です。



Sun, 4th March 2012
Royal Festival Hall
Iván Fischer / Budapest Festival Orchestra
Violin: Renaud Capuçon

Brahms/ Tragic Overture
Lalo/ Symphonie espagnole
Rimsky-Korsakov/ Sheherazade

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とあるジョギング風景 春近いロンドン

2012-03-05 22:44:52 | ロンドン日記 (日常)
 2日前の土曜日のジョギング模様。最近、あまり走れていないので、ロンドン中心部を1時間半ばかり走りました。冬と言うには暖かく、でもまだ春とは言えない、そんなロンドンです。でも、確実に春の息葺きは感じられるものでした。

 まず、ロンドン北西部からハイドパークへ向かいます。いまだ、アーモンドの木とサクラの木の区別がつかないのですが、桜っぽい花が開き始めていました。


 ハイドパークに到着。ちびっこ乗馬教室をやってました。


 そのまま、ケンジントンズ・ガーデンへ。ここでも、春を感じる花が咲いていました。


 ケンジントン宮殿で折り返して、再びハイドパークを横断し、グリーンパークを抜け、バッキンガム宮殿前に出ます。やけに沢山の観光客が居るなあと思ったら、バンドの音楽とともにバッキンガム宮殿に向かって衛兵さんたちが行進して来ました。


 セント・ジェームスパークにて。リスと鳩。


 そこからトラファルガー広場へ。オリンピック・カウントダウン。あと179日と・・・


 あと1月でイースター。街のいたるところにイースターエッグのオブジェが置いてあります。


 トラファルガー広場から北上し、大英博物館界隈へ。新しい史跡(?)を発見。私の好きなプレ・ラファエロ前派(「ラファエロ以前兄弟団」)が、ここで結成されたそうです。
 

 そして、更に北上し、リージェンツ・パークへ入ります。ここでも、春を感じる花を見つけました。




 これはサクラのハズ。


 そして、リージェンツパークを抜けて、そのままプリムローズ・ヒルへ。天気は悪かったですが、ここからの眺めはいつも気分を大きくさせてくれます。




 そして、帰路へ。1時間30分ちょっとのジョギングですが、その間に6つの公園を走りぬけることができるロンドンの素晴らしさ。これは、間違えなくロンドンが世界に誇れる財産です。

 2011年3月3日 9:30‐11:00頃
コメント (3)
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ロイヤルオペラハウス/ ルサルカ (ドヴォルザーク)

2012-03-04 18:14:33 | オペラ、バレエ (in 欧州)
 全く初めてみるオペラです。ドヴォルザークのオペラの傑作と言うことですが、今回の私の楽しみは、ロンドン・フィルハーモニックの首席客演指揮者で、マイ・ブーム中であるヤニック・ネゼ=セガン。彼がロイヤルオペラデビューを飾るということで、心待ちにしていました。

 そのセガンですが、期待通りの大熱演でした。大編成のオーケストラをグイグイ引っ張り、哀しいメロディから、愛憎のドロドロ大音響までを、色彩と感情豊かに音を作っていて、素晴らしい指揮ぶりでした。これからも、どんどん出てほしいです。

 歌手陣も素晴らしかったです。ルサルカ役のフィンランド人のソプラノ カミラ・ニュルンド(Camilla Nylund)はとっても綺麗な人で、人魚ははまり役。やや声が通りにくい印象がありましたが、逆に可憐な歌唱にはぴったりで1幕のアリア「月に寄せる歌~白銀の月よ」は、情感豊かで打たれました。

 また、外国プリンセスのペトラ・ラング (Petra Lang)がすごい迫力でした。容姿といい風格といいとてもお姫様と言う感じではありませんが、声量・演技ともに抜群の存在感で、逆にルサルカを引き立てていました。

 王子役のブライアン・ヒメル(Bryan Hymel)は演技は大根役者っぽいですが、テノールは甘く美しいです。

 巷では、プロダクションを巡って結構盛り上がっているようです。2008年のザルツブルグ音楽祭でお目見えしたプロダクションなのですが、今回は新聞でも5つ星から1つ星まで見事に評価は割れています。ROHのWebでも高評価から低評価までのレビューとリンクを貼り、フェイスブックでも「貴方のコメントを寄せてください」というメッセージがポストされてたりで、話題つくりをあおっている感じです。

 私には、演出者の意図・センスは全く見えませんでした。ルサルカが人魚の世界と人間の世界のどちらにもアイデンティティを失ってしまったのを描き分けるという趣旨は分かるのですが、現代風の舞台が、幻想的な音楽や物語とマッチしていないのです。私はこれ以外の舞台を見ていないので比較はできないのですが、無機質なセットと色合いは 美しい音楽にも情念が絡むドロドロの愛憎劇のどちらにもそぐわないのです。正直、目を閉じて、音楽だけ聴いていた方が良いと思ったぐらいです。

 しかし、その演出への違和感を差し引いても、演奏と歌唱は素晴らしく、十分にこのオペラの素晴らしさを堪能させてもらいました。

(碌なカーテンコールの写真がないためROHのFBから2枚拝借)






Rusalka
Saturday, March 02 7:30 PM

Credits
Composer: Antonin Dvorák
Directors: Jossi Wieler, Sergio Morabito
Revival Director: Samantha Seymour
Set designs: Barbara Ehnes
Costume designs: Anja Rabes
Lighting design: Olaf Freese
Choreographer: Altea Garrido
Video: Chris Kondek

Performers
Conductor: Yannick Nézet-Séguin
Rusalka: Camilla Nylund
Foreign Princess: Petra Lang
Prince: Bryan Hymel
Ježibaba: Agnes Zwierko
Vodník: Alan Held
Huntsman: Daniel Grice§
Gamekeeper: Gyula Orendt
Kitchen Boy: Ilse Eerens
Wood Nymphs: Anna Devin§, Justina Gringyte§, Madeleine Pierard§

Chorus
Royal Opera Chorus
Orchestra
Orchestra of the Royal Opera House


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佐々木融 『弱い日本の強い円』 日経プレミアシリーズ

2012-03-03 17:03:20 | 
本書が言うとおり、為替と言うのは分かっているようで、意外と分かっていないものなのだが、本書はその為替の仕組みについて基礎からしっかり解説し、現在おこっている為替の状況、将来の見通しについてまで解説してくれる、極めて有益な本である。

例えば、為替は通貨同士の交換比率だがら、上昇、下落という場合には、軸となる通貨(主語)がある。私はてっきりドルが基軸通貨だからドルが常に主語なのかと思っていた。でも、実は、ユーロが一番優先順位が高くて、その次がポンド、豪ドル、ニュージランドドルとなり、そして米国ドルが来る。円は桁数が多いので、ウオンを除いて主語となる順番は一番後ろなのである。こんな、基本のキですら知らなかった。

この他にも、通貨の上昇、下落を観る際は、ドルに対しての変化を観るのではなく、クロス(その他の通貨との上昇、下落)で見ること、国力により為替相場が決まるわけではないこと、中期的為替相場の変動には貿易収支の状況が大切であること、などなど、これまで漠然と読んでいる新聞記事の背景を、いきなり霧が晴れて道が見えてくるように、理解できる錯覚さえ起こさせてくれる。

記述が専門的でなく、素人にも分かるように丁寧に平易に書いてあるので、難なく読めるが、ここの内容をすっかりマスター出来て、使いこなせたら、国際経済についてより理解が深まることは間違いない。

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映画 "The Young Victoria" (ヴィクトリア女王 世紀の愛)

2012-03-03 00:39:36 | 映画
 日本からの復路便の機内で見る。

 ビクトリア女王の若き日々が、宮廷内主導権争い、アルバート公との愛、国家君主となっての政治的葛藤を通して描かれる。

 ビクトリア女王を演じるエミリー・ブラントが美しく好演だが、何故か自分には刺さらない映画だった。きっと、英語のリスニング力の問題とイギリス人なら身近な歴史上の人物や描かれている宮廷政治が、私にはピンと来ないのだろう。イギリス史抜きで、単なるアルバート公とのラブストーリーとしてだけで見ると、この映画の半分を見過ごしていることになる気がする。

 訪れたことのあるバッキンガム宮殿やウインザー城が舞台になっているのは楽しめたが、同じ王室ものでも「ブーリン家の姉妹」のほうが、私には好みである。

 それにしても、この邦題はエラク大げさだな。日本に居て、このタイトル見たら絶対に見ようとは思わない。恥ずかしくなる。



Directed by Jean-Marc Vallée
Writing credits (WGA) Julian Fellowes

Cast
Emily Blunt ... Queen Victoria
Rupert Friend ... Prince Albert
Paul Bettany ... Lord Melbourne
Miranda Richardson ... Duchess of Kent
Jim Broadbent ... King William

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