その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

N響1月定期Aプロ/ 指揮:下野竜也/ブラームス ヴァイオリン協奏曲ほか

2017-01-31 08:00:00 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)
1月のN響定演はAプログラムが最後の順番。偶然かもしれないけど、これで良かった。新年早々の演奏会がこのプログラムだとヘビーすぎる。

 前半の2曲はいずれもチェコが暴力に襲われた悲しい歴史を巡る曲。マルティヌーの「リディツェへの追悼」はナチスによって焼き払われた村の追悼曲。そして、フサの「プラハ1968年のための音楽」はプラハの春を潰したチェコ事件を巡る音楽。私は2つとも初めて聴く曲だったが、特に「プラハ1968」は衝撃的だった。作曲者の怒りや強いプロテストの思いが聴く者にそのままぶつかってくる曲。N響の金管や打楽器陣の活躍で、壮絶な歴史絵巻を観るようだった。

 このプログラムがいつ組まれたかは知らないが、アメリカの新大統領就任を初め、歴史の逆コースを歩むがごとくの昨今の世界情勢の中で、この2曲を聴くのは、何かが予言されているようで、薄ら寒いものを感じたのは私だけだろうか?

 後半のブラームスは前半と打って変わって、優しい穏やかな演奏だった。バラーティのヴァイオリンは穏やかな中、実に彩り豊か。強いインパクトを与える演奏ではないけど、じみじみと聞き惚れる。前半のヘビーさが中和される感じ。アンコールはイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタから。見事としか言いようがない。

 下野さんとN響のコンビを聴くのは私は初めて。演奏会チラシを見ていつも思うが、下野さんのプログラムは興味深いものが多い。今回のもチェコ・フィルのビエロフラーヴェクさんとかが取り上げそうな演目だが、下野さんがN響でこうしたものをやってくれるというのは意義深いと思う。実直な指揮ぶりにもN響がしっかり応えていて、とっても良いコンビだと感じた。今年は10月にも登壇が予定されているので、また楽しみだ。


《だいぶ暖かかったこの日》




第1855回 定期公演 Aプログラム
2017年1月29日(日) 開場 2:00pm  開演 3:00pm
NHKホール

マルティヌー/リディツェへの追悼(1943)  
フサ/プラハ1968年のための音楽(管弦楽版╱1969)
ブラームス/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77

指揮:下野竜也
ヴァイオリン:クリストフ・バラーティ

No.1855 Subscription (Program A)
Sunday, January 29, 2017  3:00p.m.  (doors open at 2:00p.m.)
NHK Hall  

Martinů / Memorial to Lidice (1943)
Husa / Music for Prague 1968 (Orchestral Version/1969)
Brahms / Violin Concerto D major op.77

Tatsuya Shimono, conductor
Kristóf Baráti, violin
コメント (2)
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エナジー炸裂!: カクシンハン第10回公演 「マクベス」 (東京芸術劇場 シアターウエスト)

2017-01-29 09:00:00 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


「マクベス」の演劇を初めて見てきました。カクシンンハンという劇団から、演出者、出演者まで私にはお初づくしでしたが、非常に楽しめた2時間20分余りとなりました。

 東京劇術劇場のシアターウエストも初めて入場。収容は200名ぐらいかな?ほぼ満席です。舞台も近く、俳優さんたちの息遣いまで感じられます。私は運よく前後左右ど真ん中の席で、ロイヤル席なみ。隣席のマスク美人の女性が気になった以外は、100%舞台に集中できるベストポジションでした。

 この「マクベス」、現代的な演出です。舞台奥に白布のスクリーンで映像を時たま投影する以外は、舞台装置はほぼなし。パイプ椅子を多目的に利用し、スーパーで売っている駄菓子やカップ麺などの小物を使う以外は、あとは俳優陣の演技と肉体パワーで勝負。2時間半近くを休憩なしで一気呵成に進行させるのは、観る方もエネルギーがいりますが、マクベスの世界に没入できます。

 なんといってもマクベス夫妻の熱演が光りました。特に、私には真以美さんによるマクベス夫人が良かった。時に気弱になる夫を叱咤激励するものの、最後は自らも気がふれてしまうマクベス夫人ですが、単なる野心の強い悪女というよりも、夫への愛の強さが引き立っていました。真さんは、セリフの切れが良いのが好印象で、以前観たシェイクスピアの「シンベリン」を演じた大竹しのぶさんを思い起こさせてくれました。

 劇は原作(松岡和子訳)に忠実に沿って展開しますが、所々にオリジナルな笑いの小ネタを忍ばせています。英語でも言葉が多いシェイクスピア劇は、日本語にすると更に言葉の氾濫状態になりがちですが、俳優さんたちの適切な台詞回しや、小ネタによってストレス感じることなく物語に入っていけました。

 私個人としては、第4幕の前半で、魔女に予言を確かめに行ったマクベスが、未来の幻像を見せられる場面の作りが、おかしくかつ上手く作ってあるなあと感心しました。反面、マクベス夫人が亡くなる前に、原作にはない、「愛」を歌うシーンが挿入されていますが、ちょっと浮いていた気が。これは本作が夫妻の愛に焦点をあてていて、一つのクライマックス的な場面かと想像するのですが、夫人の死を知らされ嘆くマクベスで、二人の愛は十分感じることができるのではと思いました。

 古典的な「マクベス」劇を見たことがないので比較はできませんが、カクシンハンの「マクベス」は十分に成功だと思います。この劇団、連続でシェイクスピアものにチャレンジしているようなので、ぜひ、これからの公演も足を運びたいと思います。



2017年1月28日 13:00開演
東京芸術劇場 シアターウエスト

■カクシンハン
木村龍之介が主宰する演劇集団。現在のメンバーは演出家・木村龍之介、俳優・河内大和、真以美、のぐち和美、岩崎MARK雄大、穂高、阿久津紘平、大津留彬弘、井上哲。若い鮮烈な感性で、現代のエンターテイメントとしてシェイクスピアの戯曲を連続上演し、『「破天荒で」「新しく」「面白い」シェイクスピア作品』を創作する集団として注目を集めている。2016年度シアター風姿花伝プロミシングカンパニー。5月ロングラン公演では総動員数2700名を突破。The Japan Timesの特集記事、『中央公論』、シェイクスピア学会誌で取り上げられるなど、各種メディアからも注目を集める。

■原作 W・シェイクスピア、翻訳 松岡和子

■演出 木村龍之介
1983年生まれ。兵庫県宝塚育ち。演出家。東京大学で文学を学びながら俳優、演出部として創作の一端を担う。2012年にカクシンハンを立ち上げ、自身の創作活動へ。古典を大胆に解釈し、多様な演劇の手法を取り入れた演出で現代と古典のクラッシュ(衝突)を生み、同時代のエンターテイメントとして戯曲に新たな息吹を吹き込む。

■CAST
河内大和(カクシンハン)
真以美(カクシンハン)
岩崎MARK雄大(カクシンハン)
穂高 (カクシンハン)
白倉裕二
鈴木智久(Studio Life)
葛たか喜代
東谷英人(DULL-COLORED POP)
塚越健一(DULL-COLORED POP)
小黒雄太(劇団5454)
小田伸泰(俳優座)
鈴木彰紀(さいたまネクスト・シアター)
鈴木真之介(PAPALUWA)
加藤慎吾(ポップンマッシュルームチキン野郎)
阿久津紘平(カクシンハン)
大対源(演劇チーム 渋谷ハチ公前)
石田将士(演劇チーム 渋谷ハチ公前)
慈五郎(THE JACABAL'S)
川崎誠一郎(サイアン)
阿部博明(東京新社)
上田一成
 大津留彬弘(カクシンハン)
山口祥平(碗プロダクション)
柘植ノゾム(東京ジャンクZ)

■STAFF
美術・衣装 : 乘峯雅寛(文学座)
照明 : 中山奈美(文学座)
映像 : 松澤延拓
記録撮影 : 大竹正悟
音響 : 丸田裕也(文学座)
衣装製作 : 小倉真樹
舞台監督 : 白石祐一郎(エクス・アドメディア)
殺陣指導 : 白倉裕二
文献考察 : Naoki
演出助手 : 阿久津紘平、大津留彬弘
制作助手 : 井上哲
制作協力 : カンフェティ
制作 : Real Heaven、カクシンハン
主催 : 株式会社トゥービー

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田中周紀 『会社はいつ道を踏み外すのか 経済事件10の深層』 (新潮新書、2016)

2017-01-28 08:00:00 | 


 ベテランの経済記者が昨今の10の経済事件を振り返り、解説した本。タイトルに魅かれて手に取ったが、私の期待であった「失敗事例から、会社が道を踏み外さないための教訓を学ぶ」という内容ではなく、むしろシンプルな事件簿であった。

 それでも、純粋に事件記録として面白く読める。バブル時代のハチャメチャな会社の財テクぶりや企業が裏社会に絶妙に取り込まれていく様など、今の世の常識では考えられないようなことが起こっている。許永中による石橋産業の詐欺事件などは、そのスケールやプロセスはあまりにも常識離れしており、こんなことが現実にありうるのかと驚きを禁じ得ない。一方で、この手の悪は世の中からなくなるとも思えず、姿、形は変われど、今の世も別の新たな呪縛や裏の手口が進行しているであろうことが予想され、怖さも感じる。

 後半の2つの章は、東京地検特捜部の「国策捜査」の非道ぶりを糾弾する内容。「国策捜査」については、以前、元外務省の佐藤優氏の手記を読んで知っていたが、権限は行使するが、責任を問われない国家権力の怖さが分かる。

 限られたページの中で10の事件を扱うということで、事件の紹介が中心で分析・考察は簡単にとどまるのが残念だが、巻末には参考文献もついているので、気になる事件はそちらを参考にすればよい。



目次
はじめに――経済事件は決して他人ごとではない

1、東芝「不正経理」問題(2015年)
歴代3社長はなぜ「チャレンジ」を求め続けたのか?

2、山一證券「飛ばし」事件(1997年)
老舗証券を破綻させた「エリート」の資質とは何か?

3、オリンパス巨額「粉飾決算」事件(2012年)
巨額損失は如何にして20年間も隠蔽され続けたのか?

4、NHK記者「インサイダー取引」問題(2008年)
NHK記者に良心の呵責は存在していなかったのか?

5、第一勧業銀行と大手証券4社「総会屋利益供与」事件(1997年)
大銀行はなぜ気鋭の総会屋に絡め取られたのか?

6、石橋産業「手形詐欺」事件(2000年)
稀代の詐欺師許永中の“人たらし"の手口とは?

7、早稲田大学・マネーゲーム愛好会の「相場操縦」事件(2009年)
仕手筋顔負けの早大生は如何にして転落したのか?

8、ニューハーフ美容家「脱税」事件(2010年)
ニューハーフ美容家は誰にカネを渡したかったのか?

9、クレディ・スイス証券元部長「脱税(無罪)」事件(2009年)
単なる勘違いの申告漏れがなぜ脱税に問われたのか?

10、ライブドア「粉飾決算」&村上ファンド「インサイダー取引」事件(2006年)
誰が無敵のホリエモンを潰したかったのか?

おわりに

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映画館で観たかった:映画「マクベス」 (監督: ジャスティン・カーゼル、2015)

2017-01-22 08:00:00 | 映画


 「マクベス」の映画版は何本かあるようだが、本作品は2015年制作なので最も新しいものであろう。現代の撮影らしい映像美に満ち溢れた作品となっている。

 スコットランドの冷え冷えとした荒野、岩山が、美しく切り取られているし、城内の燭台が連なった印影も印象的だ。きっと映画館で見れば、スケール感や幻想さが迫力持って伝わってくるのだろうけど、DVDによるTV視聴では限定的な経験しかできなかったのが残念。

 ストーリーは、場面がカットされたり(酔っ払い門番のシーンは無しなど)、台詞が原作とは前後するなどはあるが、基本的には原作の筋に沿っている。大きな違いは、冒頭に原作にないマクベス夫妻の子供と思しき幼児の埋葬で始まり、所々でこの幼児が登場するところであるが、正直、その意図するところは良くわからなかった。

 本作の特徴は、マクベス夫妻の夫婦愛を、メインなテーマとして扱ったところだろう。この夫婦、悪妻マクベス夫人が迷うマクベスを悪事に引っ張り込む的なカップルとされることが多いと思うが、本作の印象は「悪にも愛は有る」的な描き方だ。特に、原作の第5幕第5場でマクベスがマクベス夫人の死の知らせを受けた場面では、台詞は淡々と達観したものであるにかかわらず、死んだ夫人の体を抱きかかえ、死を悲しむ。その愛の表現は今までの「マクベス」では見たことが無く、感動的だった。マクベス夫人がマリオン・コティヤールという美人女優であることも新鮮だ。

 日本では昨年公開され、必ずしもヒットしたとは言えないようだが、「マクベス」の新たな一面を見るという点で、十分視聴する価値はあると思う。


スタッフ
監督: ジャスティン・カーゼル
原作: ウィリアム・シェイクスピア
製作: イアン・カニング / エミール・シャーマン / ローラ・ヘイスティングス=スミス
撮影監督: アダム・アーカポー
美術: フィオナ・クロンビー
衣装: ジャクリーン・デュラン
音楽: ジェド・カーゼル
キャスト
マクベス: マイケル・ファスベンダー
レディ・マクベス: マリオン・コティヤール
バンクォー: パディ・コンシダイン
ダンカン王: デヴィッド・シューリス
マクダフ: ショーン・ハリス
マルコム王子: ジャック・レイナー
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演奏会初めはスペインプログラムで: N響1月定期Cプロ/ 指揮:ファンホ・メナ/ファリャ/バレエ組曲「三角帽子」第1部、第2部ほか

2017-01-15 08:30:00 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


 今年のコンサート初め。1ヶ月ぶりのNHKホールです。今回の指揮は、初めて聴くスペイン人指揮者ファンホ・メナさん。ロドリーゴのアランフェス協奏曲などを初め、スペイン人指揮者によるスペインをテーマにした魅力的なプログラムです。

 ただ、ホールに到着した時は、昼を挟んだ新春の会合に参加した後で、既に完全に出来上がった状態。寒気に覆われた外から会場の暖かい空気にも包まれ、あっという間にあっちの世界へ。というわけで、このコンサートは語る言葉を持ちません。新年早々、何やってんだと、自己嫌悪。演奏者の皆様、ごめんなさい。

 ただ、多少持ち直した最後のファリャのバレエ組曲「三角帽子」だけちょっと。私のたるみとは真反対の正月気分を吹き飛ばす、活力に満ちた素晴らしい演奏でした。ファンホ・メナさんは指揮台の上で、飛び跳ねながらの熱い指揮。舞台いっぱいに広がった大編成のN響から、弦、管、打楽器すべてのパートの100%全開のスケール感一杯の音を引き出していました。しっかりした個の演奏の上に、崩れない全体のバランスの良さ、「さすが」と唸らされます。

 今年も大いなる活躍を期待させるN響コンサート初めでした。

 Aプロはしっかり体調万全で来るぞ~。


《寒かった~》




第1853回 定期公演 Cプログラム
2017年1月14日(土)15:00
NHKホール
ファリャ/歌劇「はかない人生」─ 間奏曲とスペイン舞曲
ロドリーゴ/アランフェス協奏曲*
ドビュッシー/「映像」─「イベリア」
ファリャ/バレエ組曲「三角帽子」第1部、第2部

指揮:ファンホ・メナ
ギター*:カニサレス


No.1853 Subscription (Program C)
Saturday, January 14, 2017  3:00p.m.  (doors open at 2:00p.m.)
NHK Hall

Falla / “La vida breve”, opera - Interlude and Dance
Rodrigo / Concierto de Aranjuez*
Debussy / “Image” - “Ibéria”
Falla / “El Sombrero de tres picos”, ballet suite - Part1&2

Juanjo Mena, conductor
Cañizares, guitar*
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木下順二 『「マクベス」をよむ』 (岩波ブックレット, No. 228 岩波書店, 1991年)

2017-01-14 08:30:00 | 


 岩波文庫で『マクベス』を訳している、戯曲家木下順二氏による『マクベス』の読み方論。講演を冊子にしたものなので、手軽に『マクベス』の魅力に触れることができます。ただ、書いてあることは、『マクベス』を読むうえでいろいろ応用が利く内容になっているので、さらっと読み終えてしまうのは勿体ないです。

 以下、備忘用に参考になった点を抜き出しておきます。

・物語冒頭(一幕一場)に三人の魔女が揃って言う"Fair is foul, and foul is fair" と一幕三場でのマクベスのセリフ"So fould and fair a day I have not seen"には照応性がある。

・4幕で、マクベスがどうしたらよいのかを知るために、再び魔女のところを訪れる際の魔女の世界は、魔女の作っている客観的な世界ではなくて、マクベス自身の中にある原点であり、そこに立ち戻ってみようとしていること。なので、場所の指定も無く、魔女が居るだけになる。

・イメジャリ(何かのものを連想させる、そのイメージを喚起させる言葉)の活用。例えば、「闇」を連想させるのに、「暗黒の道具」「暗い夜」「黒煙」「胆汁」、比較としての「光」らを効果的に使っている。他にも、「ノックの音」「衣装」「病気」のイメージの膨らませ方もある。

・マクベスが「自分を見ている自分」と「現実の自分」という二重の感覚を持っているところに今日性があり、そこが本作の魅力になっているのではないか。

【目次】
シェイクスピアとその時代
ドラマの導入と仕掛け
『マクベス』という芝居
いくつかの問題
『マクベス』の今日性

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さすが世界のクロサワ: 映画「蜘蛛巣城」(監督:黒沢明、1957)

2017-01-12 07:30:00 | 映画


 黒沢明が「マクベス」を下敷きに撮った映画があると聞き、DVDを借りて視た。魔女が三人でなく一人など、細かいところで違うところはあるが、ストーリーはほぼ同じと言ってよい。

 さすが黒沢。マクベスの世界が、戦国時代の日本に代えて再現してある。霧に覆われた謎めいた山城、騎上の武士の爆走、ラストの戦闘シーン、黒沢さわしい映像美が白黒画像の迫力と掛け合わされ、重厚で神秘的な世界が表現されている。

 鷲津武時(マクベス)を演じる三船敏郎と妻(マクベス夫人)の山田五十鈴の演技も特筆に値。野心が狂気に至る夫婦を熱演している。

 マクベスに興味がある人にも、無い人にもおすすめできる映画だ。

蜘蛛巣城

監督:黒澤明
脚本:小国英雄,橋本忍,菊島隆三,黒澤明
製作:黒澤明,本木荘二郎

出演者
三船敏郎
山田五十鈴
千秋実

音楽:佐藤勝
撮影:中井朝一
編集:黒澤明

製作会社:東宝
配給:東宝

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ウィリアム・シェイクスピア/ 福田恆存 訳 『マクベス』 (新潮文庫)

2017-01-10 08:00:00 | 


 特段の理由はないが、近ごろ、「マクベス」がマイブーム。オペラや映画のDVDをせっせと借りては見ている。正月に実家に帰ったら、福田恆存による訳本があったので、過去に小田嶋雄志訳しか読んだことがないので、三が日を使って読んでみた。

 小田島訳と比較すると、福田訳は固い印象を受けた。試しに、有名な第5幕第5場のマクベス夫人の訃報に接したマクベスのセリフを比較してみる。一目瞭然だが、福田訳は特に散文調で書かれている一方で、小田島は原典のように区切っている。実際の訳そのものは、素人目にはさほど違いがあるように見えないが、受ける印象は随分違う。

 ただ今回の結論は、和訳の比較をするぐらいなら、原文読んで作品の持つリズムや意味合いを体で感じた方が面白そうだということに落ち着いた。

【英語】
She should have died hereafter;
There would have been a time for such a word.
To-morrow, and to-morrow, and to-morrow,
Creeps in this petty pace from day to day,
To the last syllable of recorded time;
And all our yesterdays have lighted fools
The way to dusty death. Out, out, brief candle!
Life's but a walking shadow, a poor player,
That struts and frets his hour upon the stage,
And then is heard no more. It is a tale
Told by an idiot, full of sound and fury,
Signifying nothing.


【福田訳】
「あれも、いつかは死なねばならなかったのだ。一度は来ると思っていた、そういう知らせを聞く時が。あすが来、あすが去り、そうして一日一日と小きざみに、時の階を滑り落ちて行く、この世の終わりに辿り著くまで。いつも、きのうという日が、愚か者の塵にまみれて死ぬ道筋を照してきたのだ。消えろ、消えろ、つかの間の燈火! 人の生涯は動きまはる影にすぎぬ。あわれな役者だ、ほんの自分の出場のときだけ、舞台の上で、みえを切つたり、喚いたり、そしてとどのつまりは消えてなくなる。白痴のおしゃべり同然、がやがやわやわや、すさまじいばかり、何のとりとめもありわせぬ。」

【小田島訳】
あれもいつかは死なねばならなかった、
このような知らせを一度は聞くだろうと思っていた。
明日、また明日、また明日と、時は
小きざみな足取りで一日一日を歩み、
ついには歴史の最後の一瞬にたどりつく、
昨日という日はすべておろかな人間が塵と化す
死への道を照らしてきた。消えろ、消えろ、
つかの間の燈火! 人生は歩き回る影法師、
あわれな役者だ、舞台の上でおおげさにみえをきっても
出場が終われば消えてしまう。白痴のしゃべる物語だ、
わめき立てる響きと怒りはすさまじいが、
意味はなに一つありはしない。


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「ルソー、フジタ、写真家アジェのパリ-境界線への視線」 @ポーラ美術館

2017-01-08 09:59:37 | 美術展(2012.8~)


 年末に1年の骨休めに箱根に行ってきました。私の箱根お気に入りスポットであるポーラ美術館で、「ルソー、フジタ、写真家アジェのパリ」と題したパリ所縁の画家たちが描いた(撮った)パリの特別展をやっており、とても興味深いものでした。



 副題に「境界線への視線」とあるように、かつて城砦都市であったパリの周縁を中心に、19世紀から20世紀にかけて、都市がどう発展し生活者の暮らしがどうだったかのかという切り口で、作品が紹介されます。都市学的な視点で再構成された展示は、個々の芸術作品そのものの魅力を超えて、新たな視点を与えてくれます。

 私が特に興味を引かれたのは、フジタが様々なパリの職人たちを描いた15cm四方程度の小画面の連作「小さな職人たち」。イラスト風にパリの庶民の働きぶりが描かれているのですが、フジタのあたたかな眼差しを感じます。また、滅多に写真展には行かない私には、リアリズムあふれるアジェの写真も印象的でした。


レオナール・フジタ(藤田嗣治) 《古着屋》 1958年

 採光たっぷりで、開放感あふれる空間もリゾート感一杯で、リラックスして作品に向かい合えるのも、この美術館ならではの良さです。3月3日までの開催です。



 2016年12月30日訪問

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杉浦隆幸 『Googleが仕掛けた罠』 (小学館新書、2016)

2017-01-05 08:00:00 | 


 タイトルは刺激的だが、インターネットのセキュリティについてわかりやすく解説してくれる一冊。Googleに限らず、自分のインターネット上の行動は、ほぼ誰かに把握されていると思って行動しなくてはいけないということが、良くわかる。フェイスブックなんぞは個人情報の固まりだから、利用するのが怖くなるぐらいだ。現代社会で生きていく以上、インターネットから離れるわけにはいかないが、この本は、ネットワーク利用は便利さとセキュリティを天秤にかけて、常に注意深く行動しなくてはいけないことを教えてくれる。

 私的に勉強になったのは、スマートフォンはGPS機能をOffにしていても位置情報は把握されているということ、マイナンバーのセキュリティは極めて危ないということ(特にカードは危険)、米国では個人情報の売買が合法的に行われ、ブローカーたるビジネスが成り立っていることなどである。

 入門的な本なので物足りない感も残るところはあるが、最低限知っておくべきことばかりだと思うので、一読をお勧めしたい。

目次
第1章 あなたの情報はこんなに漏れている
第2章 盗まれた個人情報はどこに行く?
第3章 サイバー戦争のリアル
第4章 企業情報もダダ漏れ!
第5章 ネット犯罪の手口
第6章 「個人情報垂れ流し時代」の防衛術

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2017新春の甲斐路を散策ジョギング

2017-01-03 08:00:00 | 旅行 日本
 あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

 お正月に甲府に足を運び、武田氏縁の地をジョギングでいくつか訪れました。お天気にも恵まれ、短い時間でしたが、清々しい1年の始まりとなりました。


≪甲府駅南口にある信玄公像≫

 甲斐の国甲府と言えば、武田信玄。昨年のNHK大河ドラマ「真田丸」では武田信玄は亡霊として登場しただけでしたが、真田一族が如何に信玄公の影響を受けていたかが、終始描かれていました。

 JR甲府駅から、緩やかな上りで北に向かって真っすぐ伸びる武田通りを3キロほど行くと、武田氏の居館(躑躅ヶ崎館)があった現武田神社へ到着します。お正月ということもあり、初詣客で賑わっていました。




≪館の絵地図≫


≪立派なお社です≫


≪神社から見下ろす甲府盆地≫

 お参りを済ませると、さらに北に向かってジョギング。所々に、史跡案内の地図や解説があり、興味をそそられます。武田神社から北に300メートル程行ったところには、武田二十四将の一人に数えられながら、「真田丸」では武田勝頼を裏切り織田方に寝返った重臣として描かれた小山田信茂の館跡がありました。


≪周辺案内図≫


≪今は民家が建っています≫

 更に北上すると、長閑な甲府盆地の縁に点在する集落・田園風景が広がり、気持ちが和みます。




≪写真の右側の山は要害山で、躑躅ヶ崎館の詰城としての要害山城があったところ。武田信玄の誕生の地とされています≫

 武田神社から2キロほど北上したところで、積翠寺に到着。真偽のほどは不明ですが、ここの井戸で武田信玄の産湯を汲んだとか。





 この付近から望む甲府盆地の風景が素晴らしい。



 時間の関係で、積翠寺から甲府駅に向かって戻りました。


≪富士山の頭が見えます≫

 お正月ということもあってか、武田神社以降はほとんど人や車にも出会うことなく、日本の原風景的な環境で、ゆっくりとした時間を過ごすことができました。

2017年1月2日

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