その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

映画 「スティーブ・ジョブズ」

2013-11-30 16:12:20 | 映画


 世間ではあまり評判が芳しくないようだが、Appleの創業者スティーブ・ジョブズの半生を描いた映画「スティーブ・ジョブズ」を見に行った。私が読んだレビューでは「表面的な事象だけ取り上げており内容が薄い」とか「言い古されたエピソードばかりで新味がない」という類のものだった。鑑賞して、確かに当たらずとも遠からじかなという思いはあったが、私は見に行って良かった。

 まず、アメリカ西海岸のスタートアップIT企業の様子が良く伝わってくる。変り者たちが集まりガレージから出発した会社が、世界の先端に躍り出て、革命を起こしていく。もちろん相当端折ってはいるであろうが、そのプロセスの躍動感が分かる。

 また天才スティーブ・ジョブズのビジョン、誇り、こだわり。APPLEの成長がまさにジョブスあってものだということも分かる。(逆に、やっぱりジョブズが他界した今、これからのAppleはやはり興味深い)

 思ったのは、これほど日本人向けの映画もないのではということ。自分も含めて、世間のしがらみに縛られ、内向き志向になっている日本人こそ、この映画を見て何かを感じ取れるのではないか。個性とか、能力とか、自己実現とかに正解はないし、だれもスティーブ・ジョブズになれるわけではないが、人生とは自分が前に出ること、何かを掴みとっていくことだということを感じられるのではないか。

 確かに、映画としては何を描きたかったのか良くわからないところはある。ジョブスの成長?人間性?成功?きっとそれなりに事実に忠実であろうとしたがゆえだろうか、物語として起伏はあるものの、ピントが掴めない。でも、この映画の良さは、作品としてではなく、ジョブスの生き方に触れることができることだろう。少なくとも、私はこの映画から元気を貰った。

スタッフ
監督ジョシュア・マイケル・スターン
製作ジョシュア・マイケル・スターンマーク・ヒューム
製作総指揮ジェイコブ・ペチェニック
脚本マット・ホワイトリー
撮影ラッセル・カーペンター
美術フレディ・ワフ
衣装リサ・ジェンセン
編集ロバート・コマツ
音楽ジョン・デブニー

キャスト
アシュトン・カッチャー: スティーブ・ジョブズ
ダーモット・マローニー: マイク・マークラ
ジョシュ・ギャッド: スティーブ・ウィズニアック
ルーカス・ハース: ダニエル・コトキ
J・K・シモンズ: アーサー・ロック

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METライブ・ビューイング/ シュスターコビッチ 『鼻』

2013-11-27 22:50:22 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

≪METライブビューイングのHPより拝借≫

 先々週末になりますが、私としては今シーズンお初のMETライブビューイング。シュスターコビッチの「鼻」を見てきました。2012年にチューリッヒの歌劇場で初めて見たのですが、ゴーゴリによるシニカルな原作とシュスターコビッチの音楽が上手くミックスされており記憶に残るオペラでした。今回、METでの公演が取り上げられると知って楽しみにしていました。

 本公演の一番の売りは、美術家ウィリアム・ケントリッジの演出のようです。私は恥ずかしながら初めて聞く名前ですが、世界的にも有名な方とか。確かに、映像をふんだんに取り入れた演出は楽しめ、「鼻」の不条理な世界を上手く表しています。ただ、スクリーンで見る映像演出では、現場の臨場感を伝えるのは難しいですね。きっと生で見ると相当の緊迫感や映像効果が伝わると思うのですが、今回はそこまでは至らなかったかな。

 歌手陣は主役のパウロ・ジョットが頑張っていました。迫力あるバリトンです。殆ど出ずっぱりですが、最後まで溌剌としたパフォーマンスを披露してくれました。

 この日の公演は10月26日のメトロポリタン歌劇場の映像ですから、まだ1か月もたたないうちにスクリーンとは言えMETの公演が見られるなんて、世の中便利になったものです。METは世界のスター歌手が集まりますから、ロイヤルオペラに通った私としては、歌手陣の違いにはため息が出てしまいます。ロイヤルオペラじゃあ、ライブビューイングをやっても、METにはとても勝てないだろうなあ~

 ナマと比べると物足りなさは残りますが、なかなか日本では上演されないこうした演目を、上映してくれるのはありがたいです。今シーズンの演目の中では、「イーゴリ公」は見たことないので、是非、足を運びたいと思っています。


上映期間:2013年11月16日(土)~11月22日(金)


指揮:パヴェル・スメルコフ/ Pavel Smelkov

演出:ウィリアム・ケントリッジ/ William Kentridge


《コワリョフ》パウロ・ジョット/ Paulo Szot/ バリトン

《コワリョフの鼻》アレキサンダー・ルイス/ Alexander Lewis/ テノール

《警察分署長》アンドレイ・ポポフ/ Andrey Popov/ テノール

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とってもユニークで楽しい外語大文化祭<外語祭>を訪れる

2013-11-25 22:32:12 | 旅行 日本
 友人に誘われ週末に東京外国語大学の文化祭を訪れました。外語大ならではの、グローバルでユニークな文化祭だったのご紹介します。

 まず目立つのは、文化祭恒例の模擬店。どこの大学の文化祭でもサークルやクラブが中心に出店する模擬店ですが、外語大では1年生が各専攻語学毎に出店して、その専攻国の料理を出してくれます。中華、イタリア、フランス、韓国、ベトナムとかの我々にもお馴染みの料理から、モンゴル、チェコ、アラブ、アフリカなどの国、地域の料理の出店もあります。うれしいのは多くの模擬店で、その国のビールも提供してくれること。私は連れと一緒に、トルコ、モンゴル、チェコ、ベトナムなどの料理をつまみ食い。そして飲み物にはチェコのビールを。


≪国別料理の模擬店。巨大ポスターで客引き。人気店には長い行列も≫


≪クラブやサークルが出店する模擬店もあります。ここはそうした団体の模擬店通り。やっぱりエスニック系の食べ物が中心です≫

 また、模擬店以外の企画も面白く、各国語による劇(これは2年生がやるらしい)や各国の舞踏(フラメンコとかベリーダンスとか)など、キャンパスを訪れるだけで、世界中の文化に触れることができるという仕掛けになってます。私は、インドネシア語劇を鑑賞しましたが、学生さんのオリジナル脚本(第2次大戦を挟んだ日本人とインドネシア人の友情を描く物語)に基づき、学生さんがインドネシア語で演じます。500名ほどが入りそうな中規模ホールは、学生、教員、家族をはじめ私らのような一般人で7割が他は埋まっており盛況です。私には発音の良し悪しは分かりませんが、内容は日本語字幕が付くので分かります。学生の素人劇ではありますが、1時間弱のしっかりしたもので、学生さんの意気込みや熱意は十分に伝わってきます。

 歳がばれますが、私の学生の頃の外語大と言えば、山手線内の北部に小さなキャンパスがあって、(失礼ながら、)ユニークだけどちょっと地味目な男子学生中心の国立大学というイメージでした。それが、多摩地区(調布市?府中市?)に移転したキャンパスは新しく、広々としていて、かつ学生さんも2/3が女子学生ということで、私のイメージとは似ても似つかぬ華やかな大学でした。若さが一杯に弾けています。


≪キャンパス中央の広場。センターステージもここにあります≫

 穏やかな小春日和の秋の陽射しを受けて、キャンパスの木々の色々が輝くなか、なんとも心地よい日曜日でした。


≪紅葉に染まったキャンパスで模擬店で買った料理を頬張りながら一休み≫

 2013年11月24日訪問
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こいつは凄い、ヨーロッパかぶれも降参! 国宝興福寺仏頭展@東京藝術大学大学美術館

2013-11-23 23:23:54 | 美術展(2012.8~)


 東京藝術大学大学美術館で開催中の興福寺仏頭展に会期終了日前日に駆け込んだ。開館時刻10:00に到着した際には既に長い列が。それでも20分弱の待ち時間で入館出来た。

 息をのんだ、見とれた、そして痺れた。素晴らしい展示品の数々だった。 

 厚さ3センチの板に彫られた「板彫十二神将像」。表情豊かで今にも板から飛び出してきそう。今は彩色が落ちているが、頭の中で色を塗ってみたりする。

 更に十二神将像を立体化させた「木造十二神将立像」。板彫よりもさらに躍動感が増す。各将それぞれに決まった姿勢、凛々しい体格、指先まで作り手の魂の宿りを感じる作り、本当に動き出すのではないかと思わせる。そして、頭部に着けた干支の動物が何とも可愛く、神将たちの険しい顔つきとのコントラストが楽しい。

 そして、ポスターにもなっている「銅造仏頭」。神将達の躍動感と対照的な、「白鳳の貴公子」と言われるらしいが、悟りを開いた人ならではの静溢な表情。自分の中に溜まった日々のいろんな澱が見ているだけで洗い流されるような気持ちになれる。

 その奥には、調布市の深大寺所蔵の重要文化財「銅造釈迦如来倚像」が陳列してあった。サイズも表情も「銅造仏頭」よりは親しみやすい銅像である。深大寺は何回も行っているが、こんな素晴らしい平安時代の重要文化財があったなんて知らなかった。

 これらの目玉展示のほかにも、興福寺所蔵の平安から室町時代にかけての絵画や書跡も展示してありどれも興味深い。

 会場は多くの人で賑わっていたが、入場数をコントロールしているせいか、混雑の割には落ち着いて、じっくりと鑑賞できて良かった。興福寺ではどのように展示してあるのか知らないが、京都の寺社に行くと、仏像なども暗くて遠くにあって良く見えないことも多いのだが、今回はかなり間近で、360度の角度で、スポットライト付きで見ることができるのはなんともありがたかった。

 日頃、欧州文化に触れる機会のが多く、家族からは「西洋かぶれ」と揶揄される私だが、日本文化の神髄に触れ、「参りました」と思いながら美術館を出た。
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南場智子 『不格好経営 チームDeNAの挑戦』 日本経済新聞社

2013-11-21 07:17:09 | 


 今や知らない人はいないであろうインターネット企業DeNA社の創業者南場智子さんによる自らの起業物語。吸い込まれるように一気に読み切ってしまう。昔、松永真理さんの『iモード事件』を読んだ時と同じようなスピード感を感じ、爽快感が残る。

 いろんな読み方ができる。ベンチャー企業論、インターネットビジネス論、リーダーシップ論。ただ、難しいことを考えずに、パワフル女性のベンチャー物語として読むだけでも楽しいし、元気が出る。

 私は、インターネットビジネス論として読んだ。インターネットビジネスで成功するために必要な要素がいろいろ詰まっている。徹底的な顧客志向、スピード、秀でた個人に仕事を任せるマネジメント、内製のプログラム開発などなど。この秋読んだアマゾン、アップルなどの成功要因と共通する点も多い。今が旬の企業なので、これからどうなるかも興味深い。

 著者の南場さんって、きっと相当な人なのだろう。マッキンゼーでバリバリやって、なんてたってハーバードビジネススクールが楽だったと豪語するんだから。地頭の良さに加えて、努力、根性、体力も満ち溢れており、読んでいて圧倒される。彼女の起業の追体験は面白いが、とても自分に真似ができるものではなさそう。

 アマゾンの書評欄には結構厳しいコメントも散見された。ビジョンが無い、事業による社会貢献意識が低く金儲け主義、自社PR本だという類のものだが、ないものねだりに過ぎない気がする。世の起業家たちがそんなに社会貢献を考えてビジネスをしているとは思えないし、社会貢献は事業の結果として得られるものであると思う。確かに自社宣伝トークは沢山混じっているが、これも創業者の我が社可愛さと思えば良い。

 ビジネスパーソンなら、読んで決して後悔はしない本である。

★★★★☆

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秋の東京ウォーキング(散歩)原宿~神宮外苑、  あと付録で2年前の11月のロンドン

2013-11-19 00:01:36 | 旅行 日本
 先週の週末は秋らしい爽やかな天気でした。土曜日の演奏会で出かけたNHKホール界隈が紅葉で綺麗だったので、日曜日に再度、原宿界隈をぶらつきました。その時のスナップです。


≪代々木公園。実は奥まで行ったのははじめて≫


≪原宿の歩道橋から表参道を見下ろす≫


≪表参道を青山に向かって歩きます≫

 そして、青山を経由して神宮外苑へ。


≪思ったより銀杏が色づいてました。チャリティ・マラソン大会開催中≫


≪銀杏並木の下をてくてくと≫


≪思わず上を見上げると・・・≫


≪黄色一色も良いかもしれませんが、緑と混じっているのもなかなか風情があります≫

 この日から12月初旬まで、神宮いちょう祭り開催中です!


≪いろんなお国料理の屋台が並んでいます。この奥にも広がっています≫


 まだ午前中だと言うのに、富士の地ビールを飲んで良い気分になって、再び原宿に向かいます。10時前からお昼過ぎまで3時間程度のほど良いお散歩でございました。時間を選べば、東京もゆっくりと楽しめます。

 2013年11月17日


(付録:ロンドンの紅葉・・・晴れの日の写真を探したけど、この年の11月の写真で晴れた日の写真は一枚も無かった・・・)


≪2011年11月7日 @ケンジントン・ガーデン≫
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N響秋の敬老シリーズを〆るのは期待の若手トゥガン・ソヒエフ/ N響11月C定期

2013-11-16 21:36:17 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

≪紅葉が盛りのこの日のNHKホール前≫

 この秋のN響は素晴らしかった。クラシック界長老派の、それも重鎮の方々の指揮に見事に応え、日本を代表するオーケストラの一つであるN響の力を見せつけてくれました。そして、その秋シーズンのトリを勤めるのは「現在最も注目される若手指揮者の一人」(N響HPより)トゥガン・ソヒエフ氏。ブロムシュテット(86歳)、ノリントン(79歳)、サンティ(82歳)と平均年齢82.3歳の大先輩の〆は、何とその半分にも満たない37歳です。

 そして、今日はその大先輩達に負けない素晴らしい音楽を聞かせてくれました。とにかく舞台にエネルギーがほとばしっていました。全身を使ってオケとコミュニケーションを図り、N響も精一杯応えていました。観ている我々、聴いている我々も、新鮮で何と気持ちが良かったことか。

 一曲目のボロディンの交響詩「中央アジアの草原で」は繊細かつ抒情豊かな音楽でした。管のソロが各々美しいし、ソヒエフさんは大らかでありながら、細部までしっかり作りこまれた音楽を聞かせてくれました。「この人只者ではない」と思わせるに十分な存在感です。

 次のラフマニノフのピアノ協奏曲第2番は、ベレゾフスキーさんの力強い打鍵から生み出される芯の通ったピアノとスケールの大きいオーケストラの演奏のコラボが見事。バランス的にも両者の素晴らしいせめぎ合いが楽しめました。ベレゾフスキーさんのピアノは力強さと、繊細さを両立させた演奏で、隣席の女性は第2楽章で涙ボロボロ。声をかけるわけにもいかず、ちょっと困ってしまったぐらいです。

 そして、プロコフィエフ交響曲 第5番はソヒエフの煽りに応えて、N響パワーが炸裂。耳が痛くなるぐらい各パートが良く鳴っていました。この曲はさほど聴きこんでいるわけではありませんが、プロコフィエフらしいリズム感、ダイナミックさを含有したもので好きな曲です。

 ただ敢えて、万年素人の私の肌感覚、耳感覚の印象だけで言うと、もっとエッジが効いた演奏であっても良かったと思いました。プロコフィエフはオペラやバレエで視覚的に親しんでいるからかもしれませんが、プロコフィエフってリズム、切れがその魅力ですが、N響の強みとちょっとずれているような。はっきりと指摘できないところが素人の辛さですが、例えば9月、10月に聴いたブラームスやベートーベンでのN響の安定感というか、お箱感が、今日のプロコフィエフには感じられません。演奏として決して注文があるわけではないのですが、何か画竜点睛を欠くというか、パズルのピースが一個だけはまらない的な歯がゆさを感じてしまったのは本当です。機会があったら、ソヒエフさんに聞いてみたい。「N響のプロコフィエフって如何?」って。でも、これはホント些細なことで、全体で見れば、楽団員の集中力、気合を強く感じる演奏で、大いに楽しませてもらいました。

 この世代の指揮者と言えば、ロンドン・フィルの首席指揮者のユロフスキさん(1972年生まれ)、ロッテルダム・フィルの首席指揮者のネゼ=セガンさん(1975年生まれ)、ロンドン交響楽団の首席客演指揮者のハーディングさん(1975年生まれ)、パリ・オペラ座の音楽監督ジョルダンさん(1974年生まれ)が私のマークでしたが、更に若いソヒエフさん(1977年生まれ)も今日から加えなくては。

 17:00過ぎに終演したNHKホールの外はもうすっかり暗くなっていましたが、昼間の暖かさが残る空気を吸いながら、爽快感一杯で家路に着きました。


≪ベレゾフスキーさんのアンコール曲・・・これも素晴らしい演奏でした≫


≪練習風景≫


NHK交響楽団 第1767回 定期公演 Cプログラム
2013年11月16日(土) 開場 2:00pm 開演 3:00pm

NHKホール

ボロディン/交響詩「中央アジアの草原で」
ラフマニノフ/ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18
プロコフィエフ/交響曲 第5番 変ロ長調 作品100

指揮:トゥガン・ソヒエフ
ピアノ:ボリス・ベレゾフスキー


No.1767 Subscription (Program C)
Saturday, November 16, 2013 3:00p.m. (doors open at 2:00p.m.)

NHK Hall
Borodin / “In the Steppes of Central Asia”, musical picture
Rakhmaninov / Piano Concerto No.2 c minor op.18
Prokofiev / Symphony No.5 B-flat major op.100

Tugan Sokhiev, conductor
Boris Berezovsky, piano
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楠木 新 『サラリーマンは、二度会社を辞める。』 (日経プレミアシリーズ)

2013-11-16 00:06:21 | 


 新入社員から中高年社員に至る会社員生活に沿って、個人が組織(会社)との関係性をどう築いていくかについての心得帳。会社人生の入り口から出口までをカバーをしているものの、中心となるターゲットは40代以降の会社員である。

 著者のスタンスはプロローグにあるように「個人は簡単に自分を変えられない。変えられるのは、自分自身ではなくて、自分と他者(過去の自分、未来の自分も含む)との関係、自分と組織との関係である。自分が働く会社と言う組織のあり方に目を凝らし、自らのライフサイクルを見つめなおすために大切なのは、複数の自分であることではなかろうか」というもの。個に焦点を当てて、そのパワーアップを啓発する本はたくさんあるが、組織との関係性から個を考えると言う視点は新鮮だった。

 著者は、多くの人が40歳くらいから組織で働く事の意味合いについて悩む「こころの定年」を迎えると言う。それは中高年の通過儀礼でもある。今まで持っていた価値観とは違う見かたを取り入れ、働き方の転換が求められる。会社に「帰属」するのではなく、「参加」する意識を持つこと。人生の時間軸を未来・過去に広げ、会社と言う枠を取りはらえば、40歳、50歳はまだ老けこむ年では無い。というのが、読者に向けたエールだ。著者自身が40歳代後半で心の病から会社を休職し、出世の階段から降りて平社員として再出発した経験を持つだけに、会社人に対するまなざし、書き方のスタイルは親身で暖かい。

 ただ、この著者のメッセージはどれだけの人に響くのだろうか?いわゆる日本の終身雇用を前提とした大企業での勤めを前提とした著者のメッセージは、限られた人にしか届かないかもしれない。今や、日系の大企業に勤める人であっても、「こころの定年」などと言っていられるようなのんきな時代は終わっているというのが、日本の実情ではないかとも思う。

 マスの読者をターゲットにした、一律的な人生や働き方の指南書が書きにくいのが、今のご時世なのだろう。逆に言えば、こうした書物を参考にしつつ、結局は読者自身が自分で人生を切り拓いていくしかないのである。

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“巨人”サンティ翁の魔法の棒 N響A定期 ネルロ・サンティ指揮 ヴェルディ『シモン・ボッカネグラ』

2013-11-12 00:03:11 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


 まだ「リア」ショックから立ち直らないうちに、この秋のN響定期の目玉公演の一つでもある(はずの)ネルロ・サンティ指揮の「シモン・ボッカネグラ」(演奏会方式)の日がやってきた。正直、あと1週間後にやってくれたらと思う。3日で2つの大型公演をこなすのは、私にとっては日本シリーズでマー君が連投するぐらいの無茶なことなのである。

 そんな私の個人的事情は関係なく、当然、演奏会は開かれる。舞台に現れた"イタリアオペラの巨匠"、サンティ翁。巨体を引きづり、よちよち歩きで指揮台へ。「指揮台までたどり着けるんかなあ〜」と思ったのは私だけではないだろうが、会場からの万来の拍手に押されるように指揮台に到着。指揮台には椅子もなければ、譜面台もなし。「3時間も立っていられるのか・・・」との心配をよそに、指揮台に「よいしょ」と(と言ったかどうかは不明)登り、腕が上がり指揮棒が下りる。

 その瞬間から3時間、サンティ翁が創るヴェルディ・ワールドだった。サンティ翁には楽譜が体に染み込んでいるとしか思えない。サンティ翁が暗譜で振り、N響が紡ぐヴェルディの音楽は、余計な飾りがなく、美しく、清廉で、時に豪快だ。弦も管も良く鳴っていて、かつ全体のアンサンブルも素晴らしい。失礼ながら、あの風体からどうしてこんな音楽が創り出せるのか?「リア」では演出による舞台効果の素晴らしさを見たばかりだけど、この音楽があればオペラにセットはいらない。自分の中に自由に舞台セットを作り、演出すれば良いと思ってしまう。

 歌手陣・合唱陣も良かった。シモン役パオロ・ルメッツは安定した、これぞシモンという歌唱で、太い大黒柱がしっかりと舞台を支える。声量では、ガブリエレのパーク君が素晴らしい。パワーテノールがNHKホールを席巻した感じ。もう少し表現力がつけば、相当なテナーになるのではないか。日本人の独唱陣も良い仕事をしていた。合唱陣も迫力の合唱で、さほど出番が多いわけではないが、大事な場面をしっかり盛り上げてくれた。

 『シモン・ボッカネグラ』は全く初めて聴くオペラだったが、繊細さと豪快さが並存する音楽といい、信念を持って生きるシモンを軸とした力強いストーリーラインといい、ヴェルディの特徴を煎じ詰めたようなオペラだと思った。個人的趣味としては、ヴェルディの「呪い」系オペラは、もう少しドロドロした情念を感じる演奏が好みだが、今回はセット・演出のない演奏会方式だったからそう感じただけかもしれない。また、自分自身まだ「リア」の疲れが残っていて、ところどころで集中力を失ってしまったのは悔やまれる。

 フライング拍手があったのは何とも残念だったが、NHKホールは耳を塞ぎたくなるほどの大拍手。サンティ翁も嬉しそうに応えていた。来年も是非、元気で素晴らしい音楽を聞かせてほしい。

「リア」「シモン・バラボラッカ」と何とも贅沢な週末でございました。


≪雰囲気だけ・・・≫


第1766回 定期公演 Aプログラム
2013年11月10日(日) 開場 2:00pm 開演 3:00pm

NHKホール

~ヴェルディ生誕200年~
曲目解説
ヴェルディ/歌劇「シモン・ボッカネグラ」(演奏会形式・字幕つき)


指揮:ネルロ・サンティ
シモン:パオロ・ルメッツ
マリア/アメーリア:アドリアーナ・マルフィージ
フィエスコ:グレゴル・ルジツキ
ガブリエレ:サンドロ・パーク
パオロ:吉原 輝
ピエトロ:フラノ・ルーフィ
射手隊長:松村英行
侍女:中島郁子
合唱:二期会合唱団
演奏:NHK交響楽団

No.1766 Subscription (Program A)
Sunday, November 10, 2013 3:00p.m. (doors open at 2:00p.m.)

NHK Hall

-- The 200th Anniversary of Verdi’s Birth --
Verdi / “Simon Boccanegra”, opera (concert style)

Nello Santi, conductor
Paolo Rumetz, Simon
Adriana Marfisi, Maria / Amelia
Gregor Rózycki, Fiesco
Sandro Park, Gabriele
Teru Yoshihara, Paolo
Frano Lufi, Pietro
Hideyuki Matsumura, Un capitano dei balestrieri
Ikuko Nakajima, Un’ancella di Amelia
Nikikai Chorus Group, chorus


≪付録:この日のNHKホール前≫

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これは凄い、レアもののリア!/ 東京二期会 『リア』 (ライマン)@日生劇場

2013-11-10 08:49:49 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


 シェイクスピア悲劇の中でも「リア王」は私が最も好きな戯曲。演劇は一度だけロンドンでロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの舞台を見たことがあるのですが、その迫力、緊張感に圧倒されました。今回は、アリベルト・ライマン作曲によるオペラ。オペラ版は初めてですし、公演機会も多くない演目ですので、非常に楽しみにしていました。

 当日はこの公演が二期会60周年記念の企画であり、初日でもあったためか、ホワイエでは、劇場や劇団の関係者の方がご招待客を迎えしており、華やかでもあり、仰々しい雰囲気でありました。

 そして、公演は原作、音楽、演奏、歌手、歌い手、演出、照明等の全てが絶妙に組み合わさり、総合芸術オペラの本領発揮とも言える好演でした。緊張、興奮、驚嘆の3時間です。

 骨太の原作があってこそと思いますが、その原作をしっかり引き立て、陰影をつけて聴かせるライマンの音楽に感心しました。美しいアリアがあるわけではなく、現代音楽風の不協和音が中心の音楽は決して曲だけを聞こうとは思わせるものではありませんが、原作にピッタリと寄り添ったもので、各場面の状況や登場人物の心情を盛り上げます。読響による大編成オーケストラは、ピットに入りきれず、弦楽器のみがピット入りし、管楽器は舞台の両サイドに設営されたひな壇に上っての演奏。下野竜也さんの指揮は、音楽だけが突出することはないけども、しっかりとした存在感を示すもので、読響の乱れずバランスを保ちつつ、緊張感たっぷりの演奏は、流石と思わせるものでした。

 歌手陣も其々が持ち味を発揮していました。秀逸だったのはやはりリア王の小森輝彦さんでしょう。リアの孤独と狂気を迫真の歌と演技で表現していました。舞台の軸として、安定感のあるパフォーマンスでした。隠れたキーパーソンであるエドガーを演じる藤木大地さんのカウンタテナーも美しかった。歌い手さんの中には、初日ということもあって、前半ちょっと硬いかなあ~と思うとこともありましたが、気になる程ではありません。

 私が特に魅了されたのは、栗山民也氏の演出を初めとした舞台の美しさと効果。視覚的効果を使った舞台の空間的広がり、簡素でありながら、象徴的で必要十分な造形物、効果的で美しい色彩・照明など、驚きと感動を同時に感じさせるものでした。特に、前半の山場とも言えるリアが嵐の中をさまよう場面の作り方や、2幕で長女ゴネリルと末娘のコーディリアを赤と白で対比させた色彩効果などは強烈に舞台に引き込まれ、目が離せません。

 其々が其々の持ち味を発揮して強烈な磁力を持った舞台が終わった時には、素晴らしいものを観たという満足感とともに、3時間の緊張が切れた疲労感が大波のように押し寄せました。カーテンコールでは、栗山氏、ライマン氏も登壇。拍手するエネルギーも吸い取られたような私でしたが、目一杯拍手を送りました。

 誰がMVPというわけではなく、関係者全員の意気込みと集中力を感じる舞台で、貴重な好演に巡り合えた自分の幸運をかみしめ、満足感一杯で劇場を後にしました。

 余談ですが、この日の公演は2幕から天皇皇后両陛下が観劇される天覧舞台となりました。2階の上部に座った私にはお姿を観ることは叶いませんでしたが、両陛下も楽しまれたに違いありません。



《二期会創立60周年記念公演》

リア

オペラ全2部
字幕付原語(ドイツ語)上演 <日本初演>
原作: ウィリアム・シェイクスピア「リア王」
台本: クラウス・H・ヘンネベルク
作曲: アリベルト・ライマン

会場: 日生劇場
公演日: 2013年11月 8日

スタッフ
指揮: 下野竜也
演出: 栗山民也

美術: 松井るみ
衣裳: 前田文子
照明: 服部 基

ドラマトゥルク: 長木誠司
演出助手: 上原真希

舞台監督: 大澤 裕

リア 小森輝彦
ゴネリル 小山由美
リーガン 腰越満美
コーディリア 臼木あい
フランス王 小田川哲也
オルバニー公 宮本益光
コーンウォール公 高橋 淳
ケント伯 大間知 覚
グロスター伯 峰 茂樹
エドマンド 小原啓楼
エドガー 藤木大地
道化 三枝宏次
合唱: 二期会合唱団
管弦楽: 読売日本交響楽団

LEAR
Opera in two parts
In the original language (German) with Japanese supertitles
Libretto by Claus H. Henneberg based on William Shakespeare’s “KING LEAR”
Music by ARIBERT REIMANN

November 8, 2013
at Nissay Theatre (Tokyo, Japan)

STAFF
Conductor: SHIMONO, Tatsuya
Stage Director: KURIYAMA, Tamiya
Set Designer: MATSUI, Rumi
Costume Designer: MAEDA, Ayako
Lighting Designer: HATTORI, Motoi
Dramaturgy: CHÔKI, Seiji
Assistant Stage Director: UEBARU, Maki
Stage Manager: ÔSAWA, Hiroshi

CAST
Lear
KOMORI, Teruhiko
Goneril, daughter of Lear
KOYAMA, Yumi
Regan, daughter of Lear
  KOSHIGOE, Mami
Cordelia, daughter of Lear
USUKI, Ai
King of France
ODAGAWA, Tetsuya
Duke of Albany
MIYAMOTO, Masumitsu
Duke of Cornwall
TAKAHASHI, Jun
Earl of Kent
ÔMACHI, Satoru
Earl of Gloucester
MINE, Shigeki
Edmund, illegitimate son
of Gloucester
OHARA, Keirô
Edgar, son of Gloucester
FUJIKI, Daichi (Single)
Fool
SAEGUSA, Hirotsugu (single)

Chorus: Nikikai Chorus Group
Orchestra: Yomiuri Nippon Symphony Orchestra
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太田肇 『組織を強くする人材活用戦略』 (日経文庫)

2013-11-07 06:59:53 | 


 人気企業で、教育制度もしっかりし、社風も良く、社員のモチベーションの高いいわゆる日本の優良企業が、業績の凋落傾向が終わらない「見えない壁」にぶつかっている。本書は、組織・人事面から見たその「壁」を破るためのポイントを指南する。

 ポスト工業化社会においては、「独創性や創造性、勘やひらめき、歓声、判断力や想像力、それに空気を読んだり、対人関係をうまく処理したりする能力」、そして「本当の意味で自発的な働き方と、質の高いモチベーションが必要」になる。筆者はこれらを「能力革命」「モチベーション革命」と呼び、「組織の枠組みを変えれば人は変わる」と言う。そして、そのための5つのポイントがDISCOとして要約される。Discoとは「分化」(Differentiation:組織も人も多様な方向に伸ばす)、自立(Independence:社員を自営業の感覚で働かせる)、単純化(Simple:組織を縦方向にはシンプルに)、乱雑(Chaotic(横方向には乱雑に)、オープン(Open:組織の壁を薄く、人のマネジメントもオープンに)の頭文字である。

 書かれている内容については、他のビジネス書でも言い古されているところもあるが、首肯できるものが多く、以下の点などは私にも新しい視点を投げかけてくれた。
・プロ型の社員とは、「一人でまとまった仕事をこなせる人」(p30)、
・「サラリーマンには見えない「やる気の天井」がある。その天井を突き破るには仕事の面白さや楽しさに加えて、個人的な「野心」や「野望」が重要になる」(p33)
・専門能力を伸ばすための工夫として、人事部門の人を人材派遣会社、コンサルタント会社に出向させるとかで日ごろの業務から隔離して、専門性を高める。(p65)
・ミドルマネジャーへの権限移譲が必ずしも第一線で仕事をする社員の裁量権を広げることにならず、逆にそれを狭める場合もある。権限移譲が成果主義とセットで導入されると。成果を求め部下を厳しく管理し、モチベーションを下げることがある。(p101)
・組織の簡素化、フラット化の最大の障害は、つき詰めると自己目的化してしまった「管理者」の処遇。裁量権だけでなく、支配欲、権勢欲が組織のモチベーションを下げる(p114)
・管理職ポストに代わる動機付けとして、組織の枠を超えて認められる機会をつくる。(p117)

 本書はいくつもの具体的な施策例も含めて紹介しているが、世の企業の人事部やマネジャー達が悩んでいるのはその実践である。ただこればかりは、企業のおかれた環境や文化によってアプローチの仕方も異なるだろうから、本書のスコープではないし、読者が本書をヒントに自分達が考えるしかない。学者さんが書いた本としてはかなり実務的であるので、人事・組織マネジメントを担う人が読んで損は無い一冊である。

★★★☆☆

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何故だ?! @湘南国際マラソン

2013-11-04 15:34:15 | ロードレース参戦 (in 欧州、日本)
 半年ぶりのフルマラソン。楽天マー君の連勝記録ストップと同時に、私のロードレース5大会連続の雨記録もこの日で終止符。曇り空、気温14度、微風と絶好のマラソン日和。2度目のサブ・フォオー(3時間台)を目指す自分としては、言い訳できないコンディションです。

 事前予約した新宿からのマラソンバスで7時には会場の大磯プリンスホテル到着。トイレもサッサと済ませ、ストレッチ、スタート前のバナナとアミノ酸による栄養補給等で準備万端。会社のランニング仲間と落ち合い、気合い入れし、いよいよスタート地点に。フルマラソンだけでも25000名以上が走る大大会。スタート地点も壮観です。


≪流石、「湘南」マラソンだけあって、大会ポスターもお洒落≫


≪メイン会場≫


≪スタートラインはズ~っと先≫

 いよいよスタート。コースは西湘バイパス(国道134号線)沿いを江ノ島までの往復。海沿いだったり、防砂林横だったりします。若かりし時は遊びで良くドライブした道ですが、ここ20年ぶりぐらいは通ってないかも。なだらかで長いアップダウンはありますが、気になる程ではありません。


≪徳光アナ、間寛平氏がスタート地点でランナーを見送ります≫

 前半戦は好調でした。目標の10キロ55分ペース通りで、大声援が待ち受けていた江ノ島付近を折り返しました。20キロで1時間50分。ほぼ理想的なペースです。このまま行けば4時間切れるかな?とちょっと欲が頭をかすめます。


≪海を右手に見ながら≫


≪茅ヶ崎市内だったけな???≫

 天気は朝の曇りから薄日が差すようになって、気温が急に上がってきました。そしてハーフ地点を過ぎて、ちょっと足が前に出にくくなってきたなあと感じ始めたら、見る見るうちにペースが落ちてきました。「ちょっと、ばてるには10キロ早いぞ」と体に言い聞かせるのですが、言うことを聞いてくれません。25キロを過ぎると、足が吊るというほどではないですが、痙攣をおこし始めます。往路では全く気にならなかったアップダウンが、復路では果てしない登り道に見え、下りの道でも足が前に出ません。それでも30キロ地点までは誤魔化し、誤魔化し走りましたが、30キロを過ぎた時点で、完全に足が動かなくなってしまいました。


≪「江の島が見えてきた~♪♪♪ゴールはまだ遠い~♪♪♪」≫


≪ハーフ手前ぐらい≫

 正直、歩くのも思うように歩けず、この足であと12キロを歩き続けられるかどうかも分かりません。人生初の途中棄権も頭をよぎりますが、そこまで自分を落としたくない。メダルコレクターとしては、せめてゴールしてせめてメダルだけでも貰って帰りたい。とにかく、行けるところまでは行こうと、硬ばった足を庇い、体を曲げた状態で歩きました。途中、相模湾を見下ろす広大な風景にも何の気持ちの変化も起こらず、自己嫌悪と「何故だ?!」の気持ちが錯綜しながら、自分を抜いて行く後続ランナー達の背中を見つめるばかり。


≪「あとから来たのに追い越され♪♪♪泣くのがいやならさあ歩け♪♪♪」≫

 目標時間に43分程遅れて、やっとゴール。10年前の初マラソンにつぐワースト記録(4時間43分)。何の達成感も、充足感も湧きあがらず、敗北感だけが、相模湾の波のように押し寄せました。


≪ゴール前≫

 大会自体は素晴らしいものです。1キロごとの距離表示はランナーには良い目安になります。また、給水所は適度な間隔でありますし、給水所によって水と栄養補給飲料ヴァームの他に、バナナ、あんぱん、小おにぎり、干しブドウ、梅干しなども置いてあり、充実しています。通りの応援も素晴らしいもので、若い家族連れのファミリーが多かった(4月の霞ヶ浦マラソンはじいちゃん、ばあちゃんが目だったのと対照的)。そんな中で自分だけはイケてなかった・・・

 1日立った今でも、これからどうすれば良いのかまだ自問自答が続きます。日頃のトレーニングの問題か?直前のコンディショニング?前半飛ばし過ぎたのか?意外とコースは難コースなのか?言いたくないけど、年齢?・・・。昨日、47歳のカズがゴールを決めたんだから、俺だって・・・。しばらく尾を引きそうです。

 2013年11月3日

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ボヘミアの香りを知らなくても、知った気にさせてくれるオーケストラ ビエロフラーヴェク/ チェコフィル

2013-11-01 00:03:15 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


 チェコフィルを生音で聴くのは今回で2回目。2011年にアテネ・クラシックマラソンというマラソン大会参加のためにアテネに行った時、チェコフィルはインバルとツアーに出ていて、マーラーの交響曲1番をやったのを聴きました。ギリシャの経済危機の真っただ中だったせいか、会場は半分も埋まっていなかったのですが、ステージはとっても熱く、重心の低い独特の音色に魅了されました。欧州のどのオケとも違った個性、匂いを感じるオーケストラでした。そして、そのチェコフィルに、BBC響の首席指揮者としてロンドンで何度も聞いたビエロフラーヴェクさんが首席指揮者として帰り咲き。これは行かないわけには行きません。

 今回はオーケストラの真後ろP席の一列目。ホルン隊が手に届くようなところで、チェコフィルの音を全身で受け止めることができます。


≪近いでしょ≫

 一曲目はドヴォルザークのチェロ協奏曲。ボヘミアの雄大な荒野を思わせるスケールの大きな演奏です(曲自体はスラブ風味と言われますが、スラブもボヘミアも私にとってはあまり区別できないので・・・)。期待通りの、低音がしっかりして、素朴ながらも重厚なアンサンブルに「そうそう、これこれ」と2年前の記憶が蘇ります。チェロは若手のアフナジャリャンくん。P席からは彼の背中を通して、取り囲んだオーケストラの音と一緒になって、チェロの音が耳に入りますが、温かく、柔らかいチェロの調べにうっとり。

 そして、アンコールのソリマのラメンタシオが素晴らしかった。民族音楽っぽい曲風なこともあってか、アフナジャリャンくんのチェロの響きは、ホールを異空間のボヘミア世界へ変えてしまいます(この曲のことは全く知らないので、もしかしたらボヘミアとは関係ないかもしれないけど)。テクニック的にもとっても難しそう。もうこれが聞けただけでも私としては幸せいっぱい。

 休憩はさんで、後半はブラームス交響曲第1番。比較的ゆっくり目のテンポで入った演奏は堂々たる横綱演奏。なんという骨太で迫力ある演奏でしょう。各奏者たちの気迫も痛いほど伝わってきます。日本のオーケストラのような調和の美しさというよりも、一つ一つの個の音が自己主張をしながら、ぶつかって音楽になっていくという感じです。私の苦手科目だった「化学」を思い出すと、日本のオーケストラでは個々の奏者が一つになってオーケストラで原子を作るのに対して、チェコフィルは一人一人が原子で、それがオーケストラとして分子を作るようなイメージです。うねる大波のような怒涛の第3、第4楽章でした。

 久しぶりにお目にかかったビエロフラーヴェクさんは、BBC響時代と変わらず、飾りのない質剛健な指揮ぶりでした。決して派手な動きがあるわけでもないし、カリスマ的なオーラを感じるわけでもないのですが、この人の演奏会に行って満足しないことはないと断言できるぐらい、いつも「演奏会に行って良かった」と思わせてくれます。20年ぶりの首席指揮者に復帰ということですが、既にメンバーとの息もぴったりあっている感じがします。堂々として迷いのないブラームスを聴かせてくれました。

 そして、第3部と言っても良いほどのアンコール・パレード。ハンガリー舞曲に始まったアンコールは、スメタナ「売られた花嫁」序曲へ。これで大円団かと思いきや、大トリは、日本の調べ「ふるさと」。完全フルコースの郷土料理を頂いて、本当にお腹いっぱい。

 オケの音のデカさに負けずに、会場の拍手もすごいものでした。P席なので観衆の皆さんの動きが良く分かるのですが、殆ど席を立つ人も居ません。何度も呼び戻され、最後はケーケストラが自主解散。それを見て席を立った私ですが、団員が居なくなっても続く拍手にビエロフラーヴェクさんが現れたのをドア越しに発見。あわててホール内に戻って拍手。嬉しそうに拍手に応えてました(こんな光景を見たのは随分、久しぶりです)。


≪オーケストラが解散しても呼び戻されるビエロフラーヴェクさん≫

 首都圏ではあと2回、プログラムの異なった演奏会が開催されますが、お金と時間さえあれば、残り全部行きたい気分。そのいずれも無い私は、この余韻にしばらく浸っていようと思います。今後も是非、定期的に来日してほしいです。



2013年10月30日(水)19:00開演 サントリーホール

イルジー・ビエロフラーヴェク Jiří Bělohlávek(首席指揮者/Chief Conductor)
チェロ:ナレク・アフナジャリャン Narek Hakhnazaryan, Cello
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 Czech Philharmonic Orchestra


ドヴォルザーク:チェロ協奏曲
Dvořák:Cello Concerto in B minor, Op.104
ブラームス:交響曲第1番
Brahms:Symphony No.1 in C minor, Op.68


≪アンコール一覧≫
コメント (2)
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