その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

山中湖ロードレースに出走

2015-05-31 18:31:16 | ロードレース参戦 (in 欧州、日本)
 眩しいほどの最盛期の新緑の中で行われるこの大会は、私が一番好きなレースと言っても過言でありません。1997年に初参加以来、ほぼ毎年走っていましたが、海外駐在で中断し、今回は2008年以来の7年ぶりの出場です。ハーフの部は一周約13キロの山中湖を一周と1/4ほど走って折り返して大会会場に戻ってくるコースです。

《大会会場》

 前日の天気予報では午前中は雨だったのですが、大きく外れ、澄み切った青空が一杯の日になりました。その分、気温もどんどん上がり、レース前には大会ゲストのスポーツアナウンサーや瀬古さんらが、「熱中症に気を付けて。水分補給はこまめに。ペースは記録を狙わず、スローで入って」と何度も繰り返して注意喚起をしていました。

《スタートエリア》


 確かにスタートの号砲がなって走り始めるとその暑さが実感として身にしみました。2キロほど走ったところでもう汗が噴き出してきます。東京マラソン以来、10キロを超える距離は練習でも走ってないので、これはタフなレースになる予感。

 《日差しが痛いぐらい》

 給水場がほぼ4-5キロごとにあるのですが、毎回、水を取りました。ただ、今日みたいな日は5キロ間隔では少ないぐらいに感じます。木の下に入ると涼しくなるのですが、そのためにはコースの外側を走らなくてはいけなかったりして、多少多めの距離を走っても涼しさを取るのかどうか、迷います。ただ、それにしても木々の緑と青空の組み合わせが何とも美しく、暑さや疲れも紛れます。

 7-8キロ地点で、前半の山であるママの森の坂があります。ここは全長1キロほど、坂が続きかなりエネルギーを使います。ただ、この坂を上って、下り抜けると、前面に湖の奥に雄大な富士山が見えるのがこのコースの大きな醍醐味です。が・・・、今日は残念ながら富士山は中腹より上は雲に隠れて、その姿を見ることはかないませんでした。

 《富士山のふもとだけ》

 ある程度、考えながらコントロールして走れたのは1周(13キロ)地点ぐらいまで。後半は、ただ黙々と前に進むだけを考え、キロ5分30秒のペース割れだけを気をつけて走りました。給水所では水を2つ取って、一つはドリンク用、もう一つは体の各部にかけて体温上昇を防止。今回は走力というより、体力の総力戦でしたね。今朝は車で当地に到着して7時半ごろにおにぎり3個を食べたのですが、途中で異様に空腹を覚え、エンストするじゃないかととっても心配になり、「たかがハーフじゃないか」と緊張感なかった自分を少し後悔。

《ゴール前、最後の難所の坂》

 結局、タイムは手持ちの時計で1時間52分30秒。この暑さの中では大健闘ですが、これ以上走り続けるのはちょっと無理なほどの疲労。しかし、レース後に頬に当たる爽やかな高原の風の気持ちよさは何物にも代えがたく、やっぱりこの大会はいいなあと再認識しました。

2015年5月31日 9:15スタート

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冨山和彦 『なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略』(PHP新書)

2015-05-30 18:32:40 | 


 「L(ローカル)大学の英語教育はシェイクスピアではなく観光英語、法学教育は憲法・刑法でなく道路交通法を」など一部の「トップ大学」(グローバル大学)以外は「職業訓練校化」すべきという提言で話題となっている富山和彦氏の著作です。

 G/L大学の話は出てきませんが、「G/L理論」の解説書と言える内容で、冨山氏の主張を理解するのには最適な一冊です。私もG/L大学の提言を上辺だけ読んで「随分乱暴な議論だなあ~」と思っていたところがあったのですが、本書を読んで、日本経済をGとLに分ける考え方には、頷かされるところ、私の肌感覚に合うところも多く、学びが多い一冊でした。。

 本書の主張の骨子は、グローバルな経済圏とローカルな経済圏はその特性(経済のメカニズム、競争のルール、うまく回っていくための要件)が大きく異なり、強い連関もないので、各々の経済特性にあった成長戦略を実行する必要があるというものです。

 グローバル経済圏では、「稼ぐ力」(売上高利益率/株主資本利益率/売上(または利益)成長率10%というトリプルテン)を磨くかが課題であり、そのためのポイントは「国内に世界水準の立地競争力と競争ルールを整えること」となります。政策としては、法人税減税、コーポレートガバナンス強化、VB・VCの担い手の育成、規制緩和などです。

 一方で、非製造業、中小企業が中心でGDPや従業員比で全体の60-70%超を占めるローカル経済圏では、少子高齢化と生産労働人口の減少が進みます。そんな中で、不完全競争の状況に陥っている状況であるため、生産性の低い企業には穏やかに退出させ、生産性の高い企業に集約化していくことで新陳代謝を図っていくことがポイントになります。政策としては、早期再生・再編促進型の倒産法の導入や穏やかな退出促進型の中小企業政策、労働市場における最低賃金上げ、労働監督・安全監督の強化などの規制強化が求められます。

 私自身周りの経済活動を考えると、それほど簡単にGとLに二分できるわけではなく、比率の軽重はありこそすれ、GとLが混じり合って構成されているというのが、本当のところであるとは思います。ただ、こう二分して考えることで、考えが整理されより効果的な政策に結び付き、経済全体が良くなっていくことにつながっていくのでしょう。わかりやすく書いてはありますが、応用範囲が広く、深堀しがいのある提言であるので、本書だけで分かった気になるのではなく、継続して考えていきたいテーマです。図書館の予約待ちのため、発刊より1年近く経っての通読となりました、購入してでももっと早く読んでおくべきだったと思わせてくれた一冊でした。

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小池和男 『なぜ日本企業は強みを捨てるのか』 日本経済新聞社

2015-05-27 20:14:30 | 


 なかなか刺激的なタイトルです。図書館の新刊棚に置いてあるのを見つけ、迷わず手に取りました。多くの日本企業がグローバル競争の中でかつての存在感や輝きを失っている中で、「日本企業は何を強みにどう変わらなければいけないのか?」「欧米流の真似しかないのか」が、大きな関心事である自分にとって、タイミングを得た一冊に見えました。

 筆者は1932年生まれということですから80歳を超えた学者さんです。インタビューによる1次資料をベースとした調査は体力的に困難と自ら認めつつも、2次資料を利用した調査は学者らしい真摯な探求心と強い問題意識がうかがわれます。

 本書で言うところの「日本企業の強み」とは「企業の長期の競争力を重視する慣行」のことです。コンビニエンスストア、ソフトウエアの技術者、投資銀行などを取り上げて、主に競争力の源泉となる人材(育成)を中心に長期的な視点の重要性について論証します。

 最終章では、長期の視点を経営に取り入れるために2つの対策が示されます。一つは長期の株主の重視であり、もう一つは役員会へ従業員代表者を参加させることです。欧州での具体的導入事例や制度設計についても触れています。

 ただ、私のような実務家には、議論のレベル感が高く、現実感が伴わない印象を受けたのは正直なところです。最終章で示された対策が、日本企業の強みを取り戻すことになるかも、どうも腹落ち感はもう一つでした。

 引き続き、自分なりに考えていきたいテーマです。


(目次)
第1章 長期の競争の重要性
第2章 コンビニエンス・ストアの革新
第3章 ソフトウエアの技術者たち
第4章 生産ラインの設計と構築
第5章 投資銀行とヘッジファンド
第6章 企業の統治機構
第7章 長期の競争の要件

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「ボッティチェリとルネサンス フィレンツェの富と美」 @Bunkamuraザ・ミュージアム

2015-05-24 12:57:05 | 美術展(2012.8~)


 ボッティチェリ(1445-1510)を中心としてルネサンス期のフィレンチェの芸術や社会を紹介する企画展です。半年ほど前に東京都美術館で開催された「ウフィツィ美術館」展に続いて、ルネサンス期のイタリア美術にたっぷりと浸れます。

 ウフィツィ美術館を初めとして様々な美術館からボッティチェリ作品(公房作などを含む)が17点も展示してあったのは驚きでした。ここまでボッティチェリ作品に囲まれた空間に身を置いたのは初めてです。

 展示群の中では、今回の目玉作品であるウフィツィ美術館のフレスコ画《受胎告知》が格別。優美ななかにも壮厳さも漂わせ、特別な味わいがあります。展示室ではこの絵の前に椅子が置いてありますが、座って眺めていると、あっという間に時間が過ぎていきます。横幅5メートルにも及ぶフレスコ画をはるばる日本に運んでくれたことに感謝感激です。

 
サンドロ・ボッティチェリ《受胎告知》 1481年、フレスコ、243×555cm フィレンツェ、ウフィツィ美術館

 フィレンツェが衰退に向かう中、修道士サヴォナローラによる贅沢品を戒めた運動(「虚栄の焼却」)の影響を受け、ボッティチェリの作品にも変化が見られたのは興味深いものでした。当時の作品には、ボッティチェリ独特の作風は残りつつも、フィレンツェ繁栄期に見る華やかな趣は綺麗に除かれていました。

 ボッティチェリの作品以外では、スケッジャ《スザンナの物語》が好みです。日本の絵巻物を見るように、1枚の絵で物語が流れる面白さがあります。


スケッジャ《スザンナの物語》 1450年頃、テンペラ・板、41×127.5cm、フィレンツェ、ダヴァンツァーティ宮殿博物館

 Bunkamuraザ・ミュージアムが良いのは、金・土は夜9時までやっていることです。特に8時以降はゆったりと落ち着いて自分のペースで鑑賞に集中できるので、おすすめです。作品保護のためか、展示室内は相当寒いので、羽織るものを持っていたほうが良いと思います(ブランケットを貸してくれるようですが)

 6月28日まで。

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映画 『フル・モンティ』 (監督:ピーター・カッタネオ )

2015-05-22 22:59:20 | 映画


「ビリー・エリオット」「ブラス!」と並び、1980〜90年代のイギリスの失業を背景にした映画として有名な「フル・モンティ」を観た。イングランド北部の町シェフィールドを舞台に、かつて基幹産業であった鉄鋼産業の衰退で失業者となった人々を描く。「フル・モンティ」とは「すっぽんぽん」の俗語で、失業者たちが、男性ストリップ公演を行うことで一旗揚げようとするコメディ。

 コメディ風ドラマに徹しているので、「ビリー・エリオット」や「ブラス!」のような社会問題を提起するような作り方はされてない。よって、質感として物足りないと感じる人も居るかもしれないが、より気楽に楽しめる映画である。登場人物一人一人が個性的でありながら、どこにでもいそうな人物描写で微笑ましい。俳優さんたちも自然な演技で好感が持てる。

 それにしても英語が全然聞き取れない。私の英語力はもちろんだが、北部訛りとワーキングクラス訛りがミックスされた英語のせいもあると思うのだが、字幕を追っ放しになってしまった。

 肩ひじ張らずに、爽やかな気持ちで笑いたい時にお勧めできる一本だ。


フル・モンティ

The Full Monty

監督:ピーター・カッタネオ
脚本:サイモン・ビューフォイ
製作:ウベルト・パゾリーニ
音楽:アン・ダッドリー
撮影:ジョン・デ・ボーマン
編集:デヴィッド・フリーマン、ニック・ムーア

出演者
ガズ: ロバート・カーライル
デイヴ:マーク・アディ
ジェラルド:トム・ウィルキンソン
ロンパー:スティーヴ・ヒューイソン
ホース:ポール・バーバー
ガイ:ヒューゴ・スピアー
マンディ: (エミリー・ウーフ
ネイサン (ウィリアム・スネイプ

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日本フィルハーモニー交響楽団/ 指揮 インキネン/ ブルックナー交響曲第7番

2015-05-19 19:51:05 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


 かなり時期遅れの演奏会メモとなります。

 ついこの数日前に、日フィルの次期首席指揮者への就任が発表されたピエタリ・インキネンさん。一度、日フィルとの共演で「ワルキューレ」の一幕を聴いたことがあったのですが、その華麗な指揮ぶりが印象的でした。首席指揮者への就任発表とヘビー級のプログラムに惹かれて、土曜日の休日出勤後、当日券を求めてサントリーホールへ出撃。

 が・・・・・・、その週は仕事が立て込んでいたこともあり、疲労の溜まった最悪のコンディションで、音楽が体を通り過ぎるだけの、全く持って残念な音楽会となってしまいました。インキネンさん、ごめんなさい。

 それでも、印象だけ書き残しておくと・・・。ブラームスのピアノ協奏曲第1番はアンジェラ・ヒューイットさんという初めてのピアニストの方でした。私の体調のせいかとも思いますが、特に際立った印象はなし。ボーっとしている間に終わってしまいました。

 何とか立ち直ろうと気合を入れなおした、後半のブルックナーでしたが、ここでも自分の集中度はイマイチ。それでも、非常に透明度が高い、静謐な音楽つくりだったのが印象的でした。ペースは遅めながらも緩んだ音楽ではなく緊張感に溢れています。第2楽章なんぞは痺れる美しさでした。

 良い演奏会だったと思うのですが、私にはもったいなかった。やっぱり、あまり無理するものではありませんね。でも、これからインキネンと日フィルのコンビは間違いなく目が離せなくなるでしょう。都響と大野さん、N響とヤルヴィ兄など、在京オケはますます面白くなりそう。無理しないように、無理をしなくては・・・・。



指揮:ピエタリ・インキネン[首席客演指揮者]
ピアノ:アンジェラ・ヒューイット

Conductor: Pietari INKINEN, Principal Guest Conductor
Piano: Angela HEWITT

ブラームス:ピアノ協奏曲第1番
ブルックナー:交響曲第7番

Johannes BRAHMS: Piano Concerto No. 1 in d-minor, op.15
Anton BRUCKNER: Symphony No. 7, WAB 107 (Haas Edition)

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ダン・ブラウン(著),熊谷 千寿,越前 敏弥 (翻訳) 『パズル・パレス(上)(下)』 角川文庫

2015-05-17 13:40:51 | 
 

 『ダビンチ・コード』で知られるダン・ブラウン氏の処女作。職場で同僚が廻し読みをしていたので、仲間に入れてもらいました。世界の通信を解読している米国国家安全保障局(NSA)に対して仕掛けられた暗号解読不可能な暗号ソフトを巡る争いを描いたサスペンス小説です。『パズル・パレス』とは小説の舞台となる国家安全保障局のニックネーム。原題は「Digital Fortress」(デジタル要塞)は、NSAに仕掛けられた暗号ソフトの名前です。

 私が過去に読んだ『ダビンチ・コード』や『インフェルノ』に比べると、洗練さという点では劣るところはありますが、ドキドキ、ハラハラの連続で、読み始めたら止まらない吸引力は処女作から健在です。

 一時期、エシュロンやドイツのメルケル首相の盗聴問題等で米国の諜報活動が話題になりましたが、その活動の一部を、小説としてのフィクッションの形ではあるものの、リアリティに溢れ、背筋が寒くなります。

 また、個人のプライバシーと世界平和のための情報管理・統制は、どちらが優先されるべきなのかという普段は観念的にしか考えないような問いについても立ち止まって考えてしまうところも出てきます。

 いずれにせよ、私のような一市民は、このデジタル社会の中で守れるプライバシーなどは無いということを前提にしたほうがよさそうです。

 暗号技術など多少IT関連の知識があったほうが分かりやすいところもあるかもしれませんが、無くとも楽しめます。読んで、後悔しない作品です。

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新庄耕 『狭小邸宅』 (集英社文庫)

2015-05-16 10:24:15 | 
 

 新聞の読書欄で紹介されていたので読んでみた。新庄氏の著作は全く初めて。

 名門大学からブラック企業を地で行く中小規模の不動産会社に就職した松尾くんの成長物語。前半は、まだこんな会社(過重労働に加えて暴言、暴力)があるのかと驚きながら、松尾君の不幸とわが身のこれまでの幸運(少なくとも暴力は無い)を噛みしめながら読み進めた。そして、後半は、松尾君の「一皮むける経験」を通じた成長ぶりに精一杯の声援を送った。池井戸潤氏の企業小説(半沢直樹シリーズ)に近いリアリティがあり、話の展開も早いので、読み出したら止まらない。

 若い人が読むと色々教訓めいた自己成長のための「ツボ」が隠れている。仕事とは何かということ、仕事への取組みスタンス、仕事で考えることとは何かなどなど。ただ、そんな若手社員で既になくなった私が感じたのは、まじめに「修羅場を通じて一皮むけた松尾君のこれからのキャリアデザインはどうあるべきか?」。

 企業の人材育成担当者やキャリアアドバイザーのケーススタディ・テキストとして使ったら、面白い議論ができそうだ。

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「ボストン美術館×東京藝術大学 ダブル・インパクト 明治ニッポンの美」 @東京藝術大学美術館

2015-05-13 20:14:04 | 美術展(2012.8~)


 東京藝術大学の特別展に出かけていつも感心するのは、企画がとても練られていることだ。過去には夏目漱石の小説と美術を結びつけた「夏目漱石の美術世界展」や木造十二神将立像を360度で鑑賞できた「興福寺仏頭展展示」など、展覧会のコンセプト、展示の仕方等に工夫が施されており、新たな発見や学びが多い。

 今回も興味深い企画で、ボストン美術館と東京藝大のコレクション(ダブル・インパクト)から、黒船来航から近代国家になるまで、明治期の日本美術発展史を軸に、日本の西洋美術影響×西洋の日本美術影響(こちらもダブルインパクト)を紹介している。

 黒船来航時や文明開化期の日本人の風俗・文化を描いた錦絵を見ると、この時期の日本の急速な近代化に改めて驚嘆する。そして、西洋文化の流入により洋画手法を身に着けた日本人画家の絵、そしてそこから日本流のアレンジを経て「日本画」の確立の流れを追いかけると、日本の近代化が産業だけでなく芸術にまで及んでいることにも驚かされる。

 ダブルインパクトなので、日本が与えた西洋に与えた影響についても触れられている。本展時の半数以上を占めるボストン美術館は、1876年(明治9年)に開館しているが開館の早い時期から日本美術のコレクションを精力的に行っていたというのも唸ってしまう。

 余談だが、本展覧会のポスターに使われている絵(左手)は小林永濯(1843-1890)の菅原道真天拝山祈祷図。私は、駅中に貼ってあったこのポスターを見て、これはエルグレコを日本風にもじった漫画(劇画)だと信じていたのだが、実は1960-90年ごろに描かれた真正の日本画だったとはこれまたびっくりだった。

 今週末の5月17日日曜日までの開催なので、もう時間もないのだが、少しでも関心のある方は是非足を運ばれることをお勧めしたい。

 ゴールデンウイークの半ばに、仕事がぽっかり空いたこともあって半日休みを取って出かけたのだが、鑑賞後に、美術館に併設された藝大学生食堂に立ち寄った。春というより初夏の趣の中、新緑に囲まれたテラスでコーヒーを頂き、ゆったりした時間を楽しんだ。楽譜を広げている学生、大きな古地図のようなものをテーブルに広げてグループディスカッションをしている学生達を見て、皆(私にはない)タレントを持った芸術家の卵たちなのだろうなあと思うと、とっても輝いて見えた。まあ、私の僻み以外の何物でもないのだが・・・。

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N響 5月定期Aプロ/ 指揮:ユッカ・ペッカ・サラステ/ シベリウス交響曲 第2番 ほか

2015-05-10 21:20:56 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


 5月の爽やかな日差しが降り注ぐ日曜日。ほぼ同時刻に味の素スタジアムで行われるFC東京対鹿島アントラーズの観戦に後ろ髪を引かれながら、NHKホールへ。シベリウス2曲を含むプログラムの指揮は、フィンランド人のユッカ・ペッカ・サラステさん。私は初めてですが、1956年生まれのフィンランド人で、サロネンさんらと同様にシベリウス音楽院で指揮を学んでいます。

 冒頭の「クオレマ」からの3曲はどれも耳に馴染みやすい美しい曲です。N響の整ったアンサンブルが冴えて、うっとりとした気分に浸れました。

 続いては、うって変わった激しいバルトークのヴァイオリン協奏曲 第2番。ヴァイオリン独奏はハンガリー出身のクリストフ・バラーティさん。最近、女性ヴァイオリニストが続いたせいか、久しぶりの男性独奏ヴァイオリンはとって力強く響きました。しかも安定しており、骨太。楽曲は慣れないこともあり、のめり込むまでには至りませんでしたが、ヴァイオリンの音色にはぐっと曳き込まれました。

 圧巻はアンコールのエルンスト《シューベルト「魔王」による奇想曲》。ヴァイオリンを持ったこともない私が言うのもなんですが、その技巧は常人のものではないことを、これでもかと言うほど見せつけてくれました。ステージ上に残ったN響メンバーの視点もバラーティさんの指もとに釘付け。メンバーの「こりゃあ、すごいや」という呟きがステージ上に一杯溢れていました。



 休憩後はシベリウスの交響曲 第2番。丁度去年の4月にヤルヴィ父さん指揮で聞いていますが、今日の演奏にはもっと痺れさせられました。サラステさんの指揮は決して奇をてらっているわけではなく、極めて正攻法に聴こえましたが、曲の空間的広がりや北欧っぽい響きが素晴らしい。N響も目一杯、気の入った演奏で、弦、管ともに思いっきり鳴らしていて、これぞ交響曲の醍醐味。非常にレベルの高い演奏で、シベリウスワールドを満喫しました。

 サラステさんについては、プログラムには今回が特に初共演とは書いてありませんでしたが、過去のN響との顔合わせはあまりなさそう。是非、来年以降も登壇を期待したいです。

 終演後、FC東京が鹿島に負けたことを知り、ますます今日の選択は正しかったことを確認したわけです。


第1808回 定期公演 Aプログラム
2015年5月10日(日) 開場 2:00pm 開演 3:00pm
NHKホール

シベリウス/「クオレマ」―「鶴のいる情景」「カンツォネッタ」「悲しいワルツ」
バルトーク/ヴァイオリン協奏曲 第2番
シベリウス/交響曲 第2番 ニ長調 作品43


指揮:ユッカ・ペッカ・サラステ
ヴァイオリン:クリストフ・バラーティ

No.1808 Subscription (Program A)

Sunday, May 10, 2015 3:00p.m. (doors open at 2:00p.m.)
NHK Hall

Sibelius / “Kuolema”, incidental music - ‘Scene with cranes’, ‘Canzonetta’, ‘Valse triste’
Bart�・k / Violin Concerto No.2
Sibelius / Symphony No.2 D major op.43

Jukka-Pekka Saraste, conductor
Krist�・f Bar�・ti, violin
コメント (2)
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評価が難しい・・・堤 未果 『沈みゆく大国アメリカ』 (集英社新書)

2015-05-09 08:24:51 | 


堤さんの著作を読むのは、岩波新書『貧困大国 アメリカ』シリーズの3冊に続いて4冊目。私は、氏の著作については、当初から、扇動的な文章、一部の人の意見を取り上げて一般化する論理構成、出典不明確かつ結論ありきに見えるデータ収集について批判的でした(※)。が、それでも取り上げる題材や視点のユニークさに魅かれて、ついつい読んでしまいます。本書についてもスタイルは全く変わっていません。

テーマはオバマケアを軸とした米国医療制度。オバマケアは、国民皆保険を謳ってオバマ大統領が政治生命を賭けたと言って良いほど精力的に取り組んだ医療保険改革です。本書は、そのザル法ぶり、甘い汁を吸う医療・保険業界、ウォール街の投資家たち、そして良くなるはずの新制度で貧困化する中間層など、「明暗」をくっきりと描き、オバマケアを批判します。

巻末に参考文献がついたのは随分進歩と感心しましたが、文体は相変わらずアジテーションに近いです。データも良く見ると、作為的に加工がしてあったり(業界別の献金額は医薬品/保健/健康維持機構の3業界を加えて一つの業界として比較する棒グラフが作られています(p159)で眉に唾して読まねばなりません。個人のコメントを一般化してあたかもそれが事実のように記載する文体も相変わらずです。この点、憲法改正に誘導する日本の某政党のパンフレットとレベル的には変わりないですね。この方、アメリカの大学院を出ているはずなのですが、リサーチメソッドとか何をどう勉強したのでしょうか。(現に、専門家からは本書の指摘には多くの事実誤認があるとの指摘もあります← https://healthpolicyhealthecon.wordpress.com/2014/12/24/%E6%B2%88%E3%81%BF%E3%82%86%E3%81%8F%E5%A4%A7%E5%9B%BD%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB/ 

一方で、オバマケアの負の側面は日本ではあまり報道されてこなかったでしょうし、米国の医療業界のビジネス化の流れが今後、日本に押し寄せるだろうという警告は正鵠を射ていると思います。ここ30年近くの外圧による自由化、開放化の流れの中で、その恩恵に預かっているのは日本国民よりも外国資本であり、彼らの次のターゲットが日本の保健・医療産業にあるというのは決して誇張ではないでしょう。筆者言うように「知らないということはすきをつくる」のです。

よって、毎回そうなのですが、氏の著作の評価は難しいです。氏は「学者」でないのはもちろんのこと、事実を正確に伝えるべき「ジャーナリスト」とも呼べないと思います。一人の運動家からのプロパガンダとして読むのが良いのでしょう。その限りにおいて、本書は少しでも多くの人が読むべき本だとは思います。


※過去3冊の感想はこちら

堤未果 『ルポ 貧困大国アメリカ』  (岩波新書)

堤未果 『ルポ 貧困大国アメリカ 2』 (岩波新書)

堤 未果 『(株)貧困大国アメリカ』 (岩波新書)



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ゴールデンウィーク 皇居ラン

2015-05-06 07:21:24 | 旅行 日本
 GWの後半は都心部に。天気のよさに魅かれて、一度、走ってみたかった皇居外周ランニングにトライ。桜田門前の広場からスタートし、皇居を反時計回りに周回します。

 ≪桜田門前の広場がスタートエリア。まずは二重橋前、大手門へ向かいます≫

 ≪地下鉄竹橋駅近辺。平川門に向かって≫

 ≪竹橋を過ぎると、1キロちょっとの上り坂が続きます。濃くなり始めた新緑が美しい≫

 ≪半蔵門からは下り坂。日比谷・丸の内地区のビルを見渡す爽快な眺めです≫

 ≪桜田門をくぐって、一周。約5キロ≫

 きっと1年でも有数の美しい日。2周して1時間弱、10キロのジョギングを楽しみました。

 せっかくなんで、3周目として二重橋とか観光客に混じって、砂利道ランニングしながら見学していたら、お巡りさんから「ここは走るところじゃありませんよ。コースを走ってください」と注意されてしまいました。コースを守って走らなければいけないようです。

 着替えは有楽町駅から新橋方面に向かって、徒歩5分弱のところにあるランニングステーション≪ランニングオアシスHIBIYA≫を利用。ロッカーとシャワーがついて500円で利用できます。土・日は朝7時半からやってます。


 2015年5月5日 14:30-15:30頃

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五味 文彦, 鳥海 靖 『もう一度読む 山川日本史』 山川出版社

2015-05-04 20:12:40 | 


 今は昔・・・の世界だが、日本史は受験科目だったので結構勉強した。一番お世話になったのが、日本史受験生必携の山川出版社の教科書。正直、この教科書を読んでこれっぽちも面白いと思ったことは無かったけど、唯一の得点源科目でもあったから、アンダーラインで一杯になるぐらい読み込んだ。図書館でその大人版というふれこみの本書を見つけ、思わず手が伸びた。

 昔のことで記憶があいまいだが、本書は当時の高校生の教科書と比べると随分内容は絞ってあると思う。教科書らしい無味乾燥な文章は相変わらずだけど、オリジナルはもっと細かい脚注や用語が記載されていたはずだ。でも、大人が日本史をざっと振り返るには最適のボリュームで、懐かしさ半分と復習半分で、けっこう一生懸命読んでしまった。かなり忘れてる。

 改めて読んでみると、いくつか感じたことがある。まずは、やっぱり日本は平和で恵まれた、幸運な国だったということ。元寇こそあったものの、外国から攻め込まれることも殆どなく、アジア・太平洋戦争の終戦まで外国に占領されたことが無かったというのは奇跡としか言いようがない。日本人は平和ボケとか戦略性がないとか言われるけど、異民族からの侵略の脅威にさらされていた民族と比較すれば、まあ歴史の必然というか、当たり前だよね。

 そんな中で幕末から明治維新、第1次世界大戦ぐらいまでの日本の「革命」ともいえる近代化は改めて奇跡的だと思った。帝国主義が吹き荒れる国際情勢の中で、自らの力で国の根本を変えていったのは、当時の指導者達の先見性と行動力ともに日本国人の生真面目な向上心あってのことだろう。それに「運」が味方したことも間違いない。
 
 さすがに高校時代から時間も大いに経過し、記述もそれなりに変わっていた。聖徳太子、源頼朝、足利尊氏の有名な肖像画はどれも「伝」になっていたし、中世の始まりも源平の争乱から院政期に移っている。

失礼な話だが、期待以上に楽しめ、自分の知識の整理に役立ったので、再び座右の書として購入してみようかと思っている。

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グエルチーノ展 @国立西洋美術館

2015-05-02 19:55:40 | 美術展(2012.8~)


 私にはこれまであまり馴染のなかった画家であるが、ボローニャの所縁の画家ということを知り出かけてみた。ボローニャは、2011年に訪れて、大都市でありながらその落ち着いた佇まいがとっても気に入った街であったから。

 今回の展示作品の多くは、ボローニャ近郊のチェント市の市立絵画館から借用したものである。そのチェントは2012年5月に大地震に襲われている。市立絵画館はいまもって閉館したままで、復旧のめども立っていないとのことだ。本展は震災復興事業でもあり、収益の一部は絵画館の復興に充てられるらしい。私の入場料などはたかが知れているが、少しでも貢献できるなら、来てよかったと思った。

 展示の方は、期待を上回る充実した内容だった。グエルチーノは17世紀に活躍したイタリア・バロック美術を代表する画家である。19世紀半ば以降評価を落としたが、20世紀半ば以降再評価されているとのこと。

 祭壇画で使われたのであろう宗教画中心の作品群は、大型で迫力ある。教会を意識したのか、会場の照明も随分落としてあり、厳かな雰囲気に包まれていた。40数点の展示であるが、一枚一枚が大作なので、鑑賞に時間もかかるしエネルギーがいる。

 「イタリア・バロック美術の代表的画家」と言われても、私にはルネッサンス期の絵とどう違うのかは、正直、分かりかねる。個人的には、《聖母のもとに現れる復活したキリスト》などの宗教画も良いが、もう少し世俗的な《放蕩息子》とか《スザンナと老人たち》などの作品の方が好みである。《狩人ディアナ》も美しかった。



グエルチーノ 《聖母のもとに現れる復活したキリスト》1628-30年 油彩/カンヴァス 260×179.5cm チェント市立絵画館


グエルチーノ《放蕩息子の帰還》1627-28年頃 油彩/カンヴァス 125×163cm ローマ、ボルゲーゼ美術館


グエルチーノ 《スザンナと老人たち》1649-50年 油彩/カンヴァス 132.5×180cm パルマ国立美術館

 会場は空いていてゆっくり鑑賞できた。確か、ボローニャの国立美術館もガラガラだったことを思い出した。好みは分かれるかもしれないが、バロック美術や古典的作品が好きな人には、お勧めできる美術展だ。


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