その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

映画 『バイス』(監督:アダム・マッケイ、2018)

2021-06-28 07:30:26 | 映画


ブッシュ政権時の副大統領を務めたディック・チェイニーを描いた伝記映画。リーマンショック時に逆張りして大儲けした投資家たちを描いた「マネーショート」のスタッフが制作。

この手の政界の表裏を描いたアメリカの政治映画はよくできた作品が多いが、本作もとっても面白い。私のみならず、ラムズフェルドと並んで「ネオコン」の悪者イメージがあると思うが、本作はそうしたステレロタイプ的な善人・悪人の色分けを超えて、人間ディックを描いている。

本作でゴールデングローブ賞主演男優賞を獲得したクリスチャン・ベールの演技が、ホンモノそっくり(とはいっても私もテレビでしか本人を見たことないが)かつ迫力が凄まじい。主人公のリーダーシップ、野心などが痛いほどに迫ってくる。

こうした米国の政界周りの権力闘争やエリートの権力意欲は、私のような日本の小市民には理解の範疇を大いに超えるが、政治にせよビジネスにせよ、グローバルの世界では、こうした肉食系の連中とやりあうのだから、日本人もっとしっかりせねばと思ってしまう。今の五輪のすったんもんだも、結局IOCとかの白人連中にやりたい放題言われているだけのように見えるし、G7会合での菅さんのぼっち姿はやりあう以前であまりにも哀れ。

こういう政治映画が邦画にはないのが残念。


監督・脚本
アダム・マッケイ
撮影
グレイグ・フレイザー
美術
パトリス・バーメット
衣装
スーザン・マシスン
出演
クリスチャン・ベール:ディック・チェイニー
エイミー・アダムス:リン・チェイニー
スティーブ・カレル:ドナルド・ラムズフェルド
サム・ロックウェル:ジョージ・W・ブッシュ
タイラー・ペリー:コリン・パウエル


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帰ってきたパーヴォ! N響/指揮 パーヴォ・ヤルヴィ、ニルセン交響曲第4番「不滅」ほか

2021-06-19 07:40:00 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


既に3日が経ちましたが、未だ水曜日の興奮冷めやらずです。2日目の木曜日も絶賛のツイートが溢れていたので、熱い会場の様子が伝わってきました。14カ月ぶりに登場した首席指揮者パーヴォ/N響の演奏会でした。

開演前からいつもとは違う賑やかさ、高揚した雰囲気がありました。それはステージに現れたパーヴォを迎えた万来の拍手にも表れてました。

北欧プログラムとでも言えるこの日の1曲目は、ペルト/スンマ(弦楽合奏版)。弦楽器のみの5分ほどの小品ですが、深い霧に包まれた朝の森の中を思い起こさせるような深遠な音楽でした。

続いては、シベリウスのヴァイオリン協奏曲。2015年にパーヴォ、N響、庄司沙也加さん以来の生です。ヴァイオリンソロは、青木尚佳さん。私は全く初めて聴く方ですが、現在はミュンヘンフィルでコンミスを勤められているとのことです。グレー地に花/花火?の柄がついたドレスに身を包んだ青木さんのシベリウスは、派手な装飾を抑えた、落ち着いた、真摯な演奏でした。音色がクリアで美しい。(私の勝手なイメージの)北欧の自然・気候が素直に表れている、そんな気がします。じんわりと体に染みこむように音が入ってきます。是非、今後も聴き続けたいと思うヴァイオリニストでした。

そして休憩後のニルセン交響曲第4番「不滅」は、パーヴォ、N響コンビの研ぎ澄まされた高い集中度を感じる演奏でした。私自身、この曲、生演奏で聴くのは2回目で、聴きどころが良く分かってないところもあるのですが、パーヴォの棒捌きは(私には)難しい音楽も構造的に「おー、そうなのね」と分かるように聞かせてくれます。2部、3部では抒情的で美しい旋律や悲しげなアンサンブルが印象的ですし、4部において2台のティンパニの連打が作りだす高い緊張感のフィナーレには心拍数が上がります。

昨年からのコロナ禍の演奏会の中で、多くの日本人指揮者と素晴らしい演奏を聴かせてくれたN響ですが、立つべきところに立つべき人が立つと更に音楽が違うレベルになるということを実感します。表現の幅が広がるというか、ダイナミックレンジが広がる印象です。特に、「不滅」の最後の部分、いろんな音が組み合わさって重層的に音が拡張していくのを、唸りも伴ったパーヴォの指揮ぶりと一緒にP席で聴いていると、音の創造の現場に居合わせる感動も味わえます。

終演後は割れんばかりの大きな拍手。ティンパニの植松さんが第2ティンパニの方に駆け寄り肘タッチを行う姿や団員さん達の満足感溢れる表情も見ていて嬉しくなります。パーヴォは何度も呼び出され、最後はソロカーテンコール。パーヴォも嬉しそう。そして、会場を去る聴衆の顔が明るいこと。指揮者・奏者・聴衆、三者の会場での一体感、演奏会後の幸福感、余韻など「音楽の力」と言う言葉が実感をもって感じられた、記憶に残る夜でした。

NHK交響楽団 6⽉公演 サントリーホール
2021年6月16日(水) 開場 6:00pm 開演 7:00pm

サントリーホール

ペルト/スンマ(弦楽合奏版)
シベリウス/ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47
ニルセン/交響曲 第4番 作品29「不滅」

指揮:パーヴォ・ヤルヴィ
ヴァイオリン:青木尚佳
【本公演のアンコール曲】イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第1番 作品27-1 ― 第3楽章(ヴァイオリン:青木尚佳)


NHK Symphony Orchestra June Concerts at Suntory Hall
Wednesday, June 16, 2021 7:00p.m. (Doors open at 6:00p.m.)

Suntory Hall

Pärt / Summa (String Orchestra Version)
Sibelius / Violin Concerto D Major Op. 47
Nielsen / Symphony No. 4 Op. 29 "The Inextinguishable"

Paavo Järvi, conductor
Naoka Aoki, violin

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ミッキーのプロコ・プロで松田華音さんのピアノを聴く! 東響/指揮 井上道義 プロコフィエフ ピアノ協奏曲第3番ほか

2021-06-13 07:49:28 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

今シーズン、久しぶりに東響のオペラシティ会員に復帰。初回の公演は都合で行けなかったので、私には今回がお初です。新しいマイシートは3階席右サイドで、ステージの三分の1程が視界から隠れてしまうのが残念ですが、こじんまりアットホーム感が漂うこのホールは好きなホールです。

この日は井上道義さん(以下、ミッキー)のプロコフィエフプログラム。期待感が高まります。
前半のピアノ協奏曲第3番のソロは、幼いころからロシアで音楽教育を受けた松田華音さん。コロナで来日できなかったアレクサンダー・ヴォロディンというロシア系ピアニストの代役としての登場で、私は初めて聴くピアニストです。目が覚めるような濃いピンクのドレスで現れた松田さんは、まだお若い(20歳代半ば)ですが、堂々としていて、きりっとした美しさがありますね。一方で、演奏が始まると、どう猛な肉食獣のようにピアノと音楽に立ち向かうような積極果敢な姿です。一つ一つの音が明確で、力強く、意思を感じます。音に満ち溢れているプロコのこの曲を、一気呵成に疾走する演奏が強い印象を残しました。オケも木管陣の活躍やアンサンブルが素晴らしく、ピアノとしのぎを削る熱演でした。

後半の「ロメオとジュリエット」組曲からの抜粋はミッキーの真骨頂が発揮。ミッキーのダンス付きの指揮姿に導かれ、バレエが目に浮かぶ楽しさ満載の演奏です。演奏も管・弦それぞれの個人技やアンサンブルがお見事で、プロコの世界を満喫。昨年冬のN響との「シンデレラ」にはニュアンス表現の細かさで及ばない印象でしたが、これは演奏ではなくて、サントリーのP席でミッキーの表情を見ながら聴いたせいでしょう。

会場の入りは半分強といった感じでしたが、ホール一杯に響く大きな拍手が寄せられました。私も満足感一杯で、指揮者とオケに拍手。

東京オペラシティシリーズ 第121回
東京オペラシティコンサートホール
2021年06月12日(土)14:00 開演
出演
指揮:井上道義
ピアノ:松田 華音
曲目
プロコフィエフ:ピアノ協奏曲 第3番 ハ長調 op.26
プロコフィエフ:「ロメオとジュリエット」組曲より
モンターギュ家とキャピュレット家、朝の踊り、ロメオとジュリエット、情景、メヌエット、朝のセレナーデ、アンティル諸島の娘たちの踊り、タイボルトの死、ジュリエットの墓前のロメオ

Tokyo Opera City Series No.121
Sat. 12th Jun 2021, 2:00 p.m.
Tokyo Opera City Concert Hall

Artist
Conductor : Michiyoshi Inoue
Piano : Kanon Matsuda
Program
Prokofiev : Piano Concerto No.3
Prokofiev : Romeo and Juliet (Michisyoshi Inoue SELECTION)



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赤坂真理 『東京プリズン』 (河出書房新社、2012)

2021-06-10 07:30:00 | 


 以前、どこかの書評欄で紹介されていて、一度読んでみたいと思っていた。主人公の今と過去(アメリカの高校留学期)を行き来しながら、東京裁判、天皇の戦争責任をテーマにした小説。主人公は筆者と同姓同名なので、留学経験は本人の実体験かもしれない。
 野心的な作品だと思った。日本人留学生や米国人からの視点で日本の戦後占領期を振り返ることで、いろんなことが浮かび上がる。東京裁判が後付けの勝者の裁判であること、憲法がMade by Americansであること、明治憲法下での天皇の機能、権限の曖昧さなどである。
 一方で、私にはとっちにくさは残った。留学期(1980−1981)と現代(2009-2011)の行き来を始め、筆者の夢の世界、ベトナム戦争、日本のバブル経済期、東日本大震災、などなど様々な日米の第2次大戦後の出来事が散りばめられる。時空の移動が激しすぎて、読む手がついていくのはしんどい。  
 また、ヘラジカ、結合双生児、大君といったシンボリックな隠喩として登場するが、その人物や動物も、位置づけや意味合いが腹落ちしないところがある。色んなイベント、人、物がごった煮され過ぎている気がした。読書ペースを節々でブレーキをかけられている感覚があり、波に乗って読むのが難しい作品である。
 筆者の意気込みは十分感じたものの、私自身の読解力の限界もあり、私がどこまで読み取れたかはかなり怪しい。早くページをめくりたいのだが、めくれない。終始もどかしさが残る一冊であった。


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ミッチー最高!:N響 6⽉公演、指揮 井上道義、ベートーヴェン交響曲第3番〈英雄〉ほか @サントリーホール

2021-06-07 07:30:00 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


定期演奏会が休止となる歴史的なシーズンとなった今シーズンもいよいよ最終月です。この日は、昨年12月に素晴らしいロシアプログラムを披露してくれた井上道義さん(以下、ミッチー)が再登壇。プログラムにはベートーヴェンの交響曲第3番〈英雄〉があったので、ミッチーがどんな〈英雄〉を聞かせてくれるのか、楽しみ一杯でサントリーホールへ出かけました。席は最近のお気に入りエリアである舞台後ろのP席。

その〈英雄〉ですが、前半の第1、2楽章はペースがけっこうスローだなと思ったぐらいで、意外とスタンダードな王道の〈英雄〉がむしろサプライズ。N響の木管陣のソロの響きが実に美しかった。そしてミッチーらしく、出色だったのは第3、4楽章。これほど軽快で、ノリノリな舞踏的な演奏は、過去に聴いた記憶がありません。曲自体は何回も生、録音問わず聴いていますが、この楽章がこんな舞踏を思わせるような響きと香るような優美さをもって聴こえたのは初めて。もっとも、この日の曲解説には、「この(第4)楽章の「軽さ」は交響曲の終楽章としてはかなり異質」と書かれているぐらいなので、常識の範囲なのでしょうが、今まで私はよっぽど捻くれた聴き方をしていのでしょう。
ミッチーのジェスチャーや表情と一緒に演奏を味わえるのもP席ならではのお値打ちです。体一杯を使って音楽を創り上げる歓び表すミッチーを、同時体験できるのは本当に楽しい音楽体験ですした。

前半のシベリウス交響曲第7番は私自身全く初めて聴く曲です。冒頭から様々な弦楽器、管楽器が奏でる、落ち着いた、やや重い感じの音楽が続き、曲解説で重要なポイントとされるトロンボーンのソロに続きます。この辺りまではしっかり聴いていたのですが、公演前に食した美味しいラーメンによる血糖値スパイクにより、この後、暫し撃沈。直ぐに覚醒したものの、集中力がイマイチで、音楽を捉えきれないままに終わってしまいました。居眠りが見つかって、ミッチーに怒られるんではないかとひやひや。

ワクチン接種を終えた層がホールに戻りつつあるのか、今日は普段よりいい入りでした。ミッチーの盛り上げもあって、終演後には大きな拍手と満足感一杯の笑みが溢れていたサントリーホールでありました。

NHK交響楽団 6⽉公演 サントリーホール
2021年6月6日(日)2:00pm

サントリーホール 
指揮:井上道義

シベリウス/交響曲 第7番 ハ長調 作品105
ベートーヴェン/交響曲 第3番 変ホ長調 作品55「英雄」

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臨時休館のまま無念の閉幕: コンスタブル展 @三菱一号館美術館

2021-06-03 07:30:00 | 美術展(2012.8~)


まさか緊急事態宣言がここまで延長されるとは想定できなかった人が多かったのではないでしょうか。私自身は4月に宣言直前に1度訪れたものの、再訪問した上で感想をブログに掲載しようと思っていたのですが、当初予定どおり5月末で会期終了となってしまいました。

コンスタブルは、英国では同世代のターナーと並ぶ人気画家ですが、私はロンドン駐在時に初めて知りました。素朴で温かみのある画風に強く魅かれ、コンスタブルが育ち、多くの風景を描いたフラットフォードの地も訪れました。今回はテート美術館の所蔵品から約40点と、同時代の画家の作品20点ほどを加えた美術展でした。コンスタブルの世界を満喫できるものだっただけに、本当に残念です。以下、4月に訪れた際の感想となります。

コンスタブルが描く絵は、フラットフォード、ハムステッド、ブライトン、ソールスベリーなどなど、私が体験したイギリス風景そのものであり、心象風景でもあります。4年程の生活経験の私でさえこうなのだから、イギリス人にとってはコンスタブルの風景画そのものがイギリスの原風景なのだと想像します。人気があるのもわかります。


《フラットフォードの製粉所(航行可能な川の情景)》1816-17年、油彩/カンヴァス、101.6×127.0cm、テート美術館蔵

風景画の中には、その地の人々が描かれることが多いです。人の表情までは判別できないのだけど、その動作や姿勢が、時間が止まった風景であるにも関わらず、人の息ぶきや時の流れが刻印されてます。一枚の風景画から物語が感じられます。

どの風景画にも雲があるのも特徴的です。イギリスを訪れた多くの人が感じると思いますが、イギリスの雲はとっても多様な顔を持っています。1日何回も表情、機嫌が変わります。描かれた雲を見て、当地の空気、風に思いを馳せるのも楽しいです。


《虹が立つハムステッド・ヒース》1836年、油彩/カンヴァス、50.8×76.2cm、テート美術館蔵

三菱一号館美術館のコンパクトで落ち着いた佇まいもコンスタル展にぴったりでした。会場は週末ということで、お客さんも混み過ぎず、空き過ぎずで入っていて(若い人が多いのが印象的だった)、静かな心休まる時空を満喫できました。

ファンとしては、また是非、個展の企画をお願いしたいところです。

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