その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

齊藤 貴子 『肖像画で読み解くイギリス史』 (PHP新書)

2014-11-27 20:49:39 | 


 ピカデリーサーカスと並んでロンドンのへそと言えるトラファルガー広場。その北辺には美の殿堂ナショナル・ギャラリーが堂々と構える。そしてそのナショナル・ギャラリーの裏にひっそりと佇むのがナショナル・ポートレート・ギャラリー。入り口は狭く、陽も殆ど当たらないが、中に一歩足を踏み入れると、イギリスの肖像画の歴史と伝統に圧倒される。16世紀のヘンリー八世やアン・ブーリンから現代のエリザベス女王や故ダイアナ妃やキャサリン妃に至るまで、皇族・政治家・学者・商人そして市井の人々に至るありとあらゆる人々の顔がある。肖像画の鑑賞ってこんなに面白んだと気づかされると同時に、年代別の配置はまさにイギリス史そのものである。

 本書は、その英国における肖像画の歴史を追いながら、その歴史的背景を紹介する。タイトルは「肖像画で読み解くイギリス史」だが、むしろ「英国肖像画の歴史」という方が内容にはぴったりする。ナショナル・ポートレート・ギャラリーに行ったことのある人、これから行く予定のある人には必読、そのいずれでもなくても美術好きの人にも、自信を持っておすすめできる優れた本だ。

 まず、時代時代の肖像画にまつわる物語が実に面白い。能面のように描かれるエリザベスI世の肖像画の秘密、18世紀イギリスのセレブであったメアリー・ロビンソン女史の波乱の一生と肖像画、作家サミュエル・ジョンソンの「変」な肖像画の背景など興味深いエピソードに満ちている。そして、洗練されていて、読みやすく、読者を惹きつける文章により、肖像画のモデルたちが生命を与えられたかのごとく生き生きと迫ってくる。

 美術史の知識としても勉強になる。肖像写真の登場がラファエル前派に与えた影響、イギリスの肖像画の伝統を引き継いだのがアメリカ系のホイッスラーであり、サージェントであったこと。そして、サージェントがシェイクスピアの題材を使って描きつつ、物語には存在しない場面を描くことで作品と作者のオリジナリティを発揮したという指摘などには、「なるほど~」と唸らされた。

 「だからもう、わたしたちもこのあたりでいいかげん、気づいてもいい頃だ。イギリスの無数の肖像画がこれまでずっと伝えつづけてきた、あるひとつのメッセージに。人と人の生きる世界には、いつかどこにも必ず、美がある。ただ、それだけのことに気づけたなら、わたしたちの日々もたちまち色鮮やかな断片と化していく。」(p255)と結ばれる本書は、肖像画の魅力を余すことなく伝えてくれる。本書を読んで、ナショナル・ポートレート・ギャラリーを再訪したくなった。
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N響定期演奏会 Cプログラム/ ネルロ・サンティ指揮/ レスピーギ「ローマの松」ほか

2014-11-22 23:11:01 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

《NHKホール前は秋真っ盛り》

 今の時期、海外の現地社員達が来年のビジネスプランの議論のために来日します。欧州から来た昔の同僚達が口を揃えて言うのが、「この時期の東京は明るくて、爽やかで最高だよ。帰りたくないよ」。英語ではこういう天気に”crisp”という形容詞を使うようです。今日も、そんな最高の秋空でした。 

 そして、今日のサンティ翁のイタリアプログラム。東京の秋空のように明るい陽射しながらも、より暖かくほんわかした春のような陽光が射した演奏会でした。

 一週間前にマリナー老師のもと、超骨太のドイツプログラムを聞かせてくれたN響は、先週とはうって変って、色彩鮮やかで華やかな音色でした。この変幻自在ぶりに「さすがプロだね~」と感心するとともに、大した動きもないサンティ翁の棒捌きの中にどんな秘密が隠されているのか不思議な思いに駆られます。

 曲がらからか、管楽器の活躍が目立ちました。「どろぼうかささぎ」序曲のピッコロ、「イタリア奇想曲」のイングリッシュホルンが印象的でしたし、そして「ローマの松」はあらゆる楽器が持ち味を発揮しての大円団。イタリア、また行きたくなった~。

 今年83歳というサンティ翁。演奏中やカーテンコールの途中で倒れやしないかと冷や冷やさせてくれるし、本当はもっと拍手したいけど、あんまりステージに呼び出すのも体に障るかと、気を遣ってしまいます。でも、この巨体をヨチヨチしながら歩む姿を見ると、ここまでして極東の国、日本まで来てくれるのだと、ありがたい気持ちで一杯です。

 ホールを出ると、外は日が暮れかかり、薄暗くなっていました。思いのほか気温は下がっていませんでしたが、イタリアからの温もりが体を暖かく包んでくれる感覚を味わいながら、余韻を楽しみホールを後にしました。



《渋谷センター街のクリスマスイルミネーション(ピンボケですが一応記録のため)》


第1794回 定期公演 Cプログラム


2014年11月22日(土) 開場 2:00pm 開演 3:00pm

NHKホール

ロッシーニ/歌劇「どろぼうかささぎ」序曲
ベルリオーズ/序曲「ローマの謝肉祭」作品9
チャイコフスキー/イタリア奇想曲 作品45
レスピーギ/交響詩「ローマの松」

指揮:ネルロ・サンティ


No.1794 Subscription (Program C)

Saturday, November 22, 2014 3:00p.m. (doors open at 2:00p.m.)

NHK Hall

Rossini / “La gazza ladra”, opera - Overture
Berlioz / “Le carnaval romain”, overture op.9
Tchaikovsky / Capriccio italien op.45
Respighi / “Pini di Roma”, sym. poem

Nello Santi, conductor
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N響定期演奏会 Aプロ/ マリナー/ ブラームス交響曲第1番 他

2014-11-18 19:31:10 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


 指揮予定だったスラットキンさんが病気の為、急遽、代理でネヴィル・マリナーさんの指揮となりました。楽しみにしていたラヴェルのプログラムが変更になったのは残念でしたが、マリナーさんは今年2月のN響定期で聴いてとても良い印象があったので、別の期待を抱えてNHKホールに。その期待通りの演奏会となりました。

 前半のベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は、セルゲイ・ハチャトゥリアンンさんのヴァイオリンが素晴らしかった。この方のヴァイオリンの音色は、濁りが無く本当に美しい。ぐーっと、引き込まれます。音楽は、機能的過ぎず、かといって感情過多ではない、高いレベルの演奏でした。この曲って、こんなに素晴らしい曲なんだと、改めて感じ入った次第です。

 アンコールでは出身のアルメニア民謡から(と聞こえた)。素朴で荒涼感の漂う音楽で、一音符たりとも聞き漏らすまいという聴衆の集中力と繊細なヴァイオリン演奏が噛み合い、会場一杯に緊張感あふれる中でのアンコール演奏でした。

 休憩後のブラームス交響曲第1番は、昨年秋にブロムシュテッドさんの指揮の余韻がまだ残っていたのですが、それを上書きしてしまう圧巻のパフォーマンスでした。重厚ながらも、決して鈍い重さではなく、筋肉質で引き締まっており、きびきびして、切れがある。聞いていて実に爽快でした。第4楽章は結構早めのピッチでしたが、形がしっかりしているので、却って無駄なく曲の良さが引き立ちます。弦と管のバランスも良かった。

 N響の演奏は、メンバーひとりひとりがこの曲のポイントをしっかりものにした上で、その上にマリナーさんの解釈・曲つくりが乗っているという印象です。N響メンバーも順次、世代交代していると思いますが、歴代の指揮者たちがN響に残してきた財産をしっかりと引き継いでいるのが垣間見えます。そして、そこにマリナーさんのブラームスが更に層を重ねて行く。良い演奏が生まれないわけがないなあと、勝手に納得した次第です。

 マリナーさんは年齢的にはブロムシュテッド翁の87歳を上回る90歳。驚異としか言いようがありません。演奏後のマリナーさんは実に満足げな表情で、奏者をたたえ、聴衆の拍手に応えてました。楽団員からも慕われてる様子が、メンバーの表情・態度にも表れています。実に気持ちの良い演奏会でした。来シーズンも11月のBプロで来日を予定されているようです。Bプロだけどチケット取りに行きたいなあ。また元気な姿を見せてください。


○11月定期公演Aプログラム

指揮:ネヴィル・マリナー
ヴァイオリン:セルゲイ・ハチャトゥリアン

ベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61
ブラームス/交響曲 第1番 ハ短調 作品68

No.1793 Subscription (Program A)

Beethoven / Violin Concerto D major op.61
Brahms / Symphony No.1 c minor op.68

Neville Marriner, conductor
Sergey Khachatryan, violin


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冲方 丁 『天地明察』 角川書店

2014-11-15 17:22:46 | 


 家族が以前に読んだ本だったらしく、自宅の本棚に並んでいたのを何気なく手にとったら、ページをめくる手が止まらなかった。良質の青春小説であり、歴史物語である。

 全編を通じて、数々の挫折を経ながらも、誠実かつ前向きに人生を歩み、大事業を成す主人公安井算哲の好感度が高い。読者に自然に元気を与えてくれる。主人公以外の登場人物も皆個性にあふれ、人としての魅力に溢れていて、明るい光が常に差し込んでいる。

 ストーリーも起承転結的に上手く構成されている。ミステリー小説のように次のページ、次のページへと、読者を強く引っ張る吸引力に満ちている。この本を読んでいた3日間、スマートフォンのSNSは自然封印された。

 そして、今回の題材となった「暦」という題材のスケール感。地上の距離を測り、天を観察し、そして算術を駆使してその理を明らかにする。人知を超えた自然の偉大さとそれに挑む人間の優れた英知。この地と天と人の魅力をこれほどまでに結びつける題材が他にあるだろうか。

 筆者の冲方丁さんの小説は初めてだったが、平明な文章でありながら、イメージ豊かに場面や心情が記述されており非常に巧い。

 今年は例年以上に読書量が少なく、特にフィクションはこれでやっと5冊目なのだが、今作品は『陽の名残り』とともに長く印象に残る今年の一冊になること間違いない。映画化もされているようなので、小説のイメージが薄れかけたころに見てみたい。万人に自信を持ってお勧めできる物語だ。

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大前研一 『クオリティ国家という戦略 これが日本の生きる道』

2014-11-13 21:10:48 | 


 これからの日本の針路を天下の論客大前氏が提示する。メッセージが明確で数時間で読める本。

 これからの日本がアメリカ、中国といった「ボリューム国家」に対抗していくためには、高い付加価値を生みだし、国外に開かれた「クオリティ国家」を目指すべきである。そして、クオリティ国家を目指すには、現在の中央集権体制から道州制の導入により、小回りが利いて創意工夫が生かせる統治構造に変換する必要があるというもの。スイスやシンガポールといったクオリティ国家の見本例を示しつつ、日本が向かうべき姿を示す。

 いつも思うがシャープな方である。氏の主張への賛否は人によりいろいろあるだろうが、こういう具体性と論拠を持ってビジョン・コンセプトを示せる人ってなかなかいない。今回の、「クオリティ国家」というコンセプト、道州制という実現手段、まあ、実現は並大抵のことではないだろうけど、こうした戦略思考ができる日本人は多くない。

 初めて知ったのは、橋下大阪市長の主張はこの大前氏から得たものらしいということだ。なんで、橋下さんが道州制、道州制って言っているのが、不思議だったのだが、大前さんの影響を受けたものだった。なるほど、そうだったのね。それなら、もう少し橋下さんを応援しても良かったが、あのお下劣な発言・品性で、とても主張に耳を傾ける気にならんからなあ。

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スティーブン・レヴィ著 『グーグル ネット覇者の真実』  阪急コミュニケーションズ

2014-11-08 19:41:27 | 


 原題は"IN THE PLEX How Google Thinks, Works, and Shapes Our Lives"。PLEXというのはカルフォルニア州マウンテンビューにあるグーグルの本社ベイシュア・グーグルプレックスのことだが、Plexの英訳は「網」だからいわゆるインターネットの雄ということでWebとも掛けているのかも。内容は、グーグルの本社で何が起こっているのかを描くルポルタージュ。2011年発刊。

 700ページあるので、通勤時間しか読書の時間を取ってない私には、読み通すのにまるまる四週間もかかってしまった。が、全く長さを感じさせない面白さだった。

 グーグルの誕生から最近のフェイスブックとの競争に至るまでの内部の様子が、生き生きかつ生々しく記述されている。「初めてグーグル内を自由に立ち入ることを許されたジャーナリスト」である著者ならではのディーテルに富んだエピソードに満ちている。グーグルの起業前後からアドワーズ等の広告ビジネスを立ち上げ期ぐらいまでのエピソードは、過去に『ザ・サーチ』などで読んだことがあったが、グーグルマップ、中国への進出、フェイスブック対抗などの話は私にとっては新しく、雑誌・新聞等の細切れの情報としてではなく、まとめて同じ筆者からの視点で読めたのも良かった。改めて、如何にグーグルが如何に尖がった、特異な企業であるかが、痛いほど伝わって来る。私の常識にはとても入りきらない思考軸、空間軸、時間軸を持った会社である。

 逆に、情報を一手に握られてしまう怖さも感じざるを得ない。中華思想的なエンジニア絶対主義、テクノロジー主義も、どこかでとんでもない破たんを迎えるのではないかという漠然とした不安も残る。“Don’t be evil”という社是(?)を、本書を読んでなお信じ続ける人の良い読者はそうは居ないだろう。それでも、好むと好まざるにかかわらず、既に私たちは検索結果、表示される広告・ニュースなど、グーグルにコントロールされた世界を生きており、その依存度は今後、ますます高まる一方に違いない。

 内部への立ち入りを許されたジャーナリストであるが故か、筆者の記述は全般的にグーグルに好意的だ。それを割り引いて読んだ方が良いだろうが、グーグルという企業とその影響力を知るには絶好の一冊だと思う。

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日本国宝展 @東京国立博物館

2014-11-05 21:22:21 | 美術展(2012.8~)


 日本国宝展に足を運びました。日本国宝の数々の逸品が、仏、神への「信仰」を軸にして展示してあります。さすがに、国宝というだけあって、一つ一つの展示品が強いオーラを発しており、見学者の息遣いや熱気とぶつかり合って、会場では独特の「気」を感じる程でした。

 訪れた時には、特別出品として正倉院の宝物も20点ほど展示されていました(こちらは11月3日で終了)。高校生の時に、確か日本史の教科書か資料集で見た「鳥毛立女屛風」[とりげりつじょのびょうぶ]があり感動。「鳥毛立女屛風」と言えば、天平文化。まだ高校時代の「日本史一問一答」の詰め込み勉強のかけらが自分の中に残っていました(驚)。


「鳥毛立女屛風」[とりげりつじょのびょうぶ]

 また、「楓蘇芳染螺鈿槽琵琶」[かえですおうぞめらでんそうびわ]の裏側の手の込んだ装飾は見とれてしまいます。8世紀という1000年以上も前の時代にこんな手の込んだ楽器を作る技術力と芸術魂があったということに、心底「日本人って凄い」と思ってしまいます。(ちょっと不思議だったのは、正倉院の宝物は国宝指定を受けていないのですね。何か特別な理由があるのでしょうか?)

 正倉院の展示を抜けると、そこから本格的に国宝の展示となります。古くは、紀元前2000-3000年のものと言われる土偶や前2世紀~前1世紀の銅鐸から、平安時代の普賢菩薩像 (ふげんぼさつぞう)・室町時代の雪舟の画など、日本文化の繊細さできめ細やかな良さを満喫できます。

 グレイの制服を着た女子高生グループが私の近くで見学していて、彼女たちの会話が自然と耳に入ってきたのですが、日本史を勉強しているようで、細かいところまで良く観ていて、良く知っていたので驚きました。同時に、彼女たちが、「凄いね~」「綺麗だね~」と本当に鑑賞を楽しんでいる姿を見てとっても感心してしまいました。政治家の先生方は「愛国心教育」なるものの必要性を叫んでいますが、こういった日本文化の直球ど真ん中を、じっくりと見せる機会が与えることが出来れば、自然と日本文化の気品や優れた点に気づき、愛国心が芽生えるのではないかとも思ったりしました。ただ、じっくり見るにはあまりにも混雑しすぎておりましたが・・・

 11月下旬には期間限定で、あの「漢委奴国王(かんのわのなのこくおう)」の金印が展示されるそうです。もう一度、行きたいと思っています。

コメント (2)
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「ボストン美術館浮世絵名品展 北斎」@上野の森美術館

2014-11-01 22:46:35 | 美術展(2012.8~)


 いつもながらですが、会期末終了が迫っているのに気付き、慌てて「ボストン美術館浮世絵名品展 北斎」に出かけました。覚悟はしていましたが、凄い混雑でしたね。浮世絵って、細かいから皆さん近寄って見るので、人の後ろから覗き見る程度では何も分かりません。ですので、鑑賞は結構難儀しました。それでも、行って良かったです、ハイ。

 本展覧会では、ボストン美術館のコレクションの中から北斎の登場から晩年に至るまでの作品140点余りが展示されます。「何で、こんな素晴らしい作品群が日本の美術館になくて外国にあるのだ」と溜め息の出ない日本人はいないでしょう。

 「冨嶽三十六景」、「諸国瀧廻り」、「諸国名橋奇覧」と言ったどこかで必ず見たはずの風景画のオリジナルの他、「百物語」のお岩さんなど、そのテーマに応じたユニークな構図の切り取り方や美しい色合い、詳細な描写が楽しめます。


《富獄三十六景 神奈川沖波裏》


《諸国滝廻り 木曽路ノ奥阿弥陀ヶ瀧》


《百物語 お岩さん》

 個人的には、百人一首で詠まれた歌を絵にした作品が六点展示されていたのですが、それらに興味をそそられました。小野小町や持統天皇など馴染のある歌を「北斎が絵にするとこうなるのか~」と私自身の歌のイメージと絵との相似や相違を探しながらじっくり見ました。猿丸太夫の「奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の 声きく時ぞ 秋は悲しき」が一番ぴったりだったかな。山の頂に書かれたじっくり見ないと見落としそうな2匹の鹿を発見したした時は、ほくそ笑んでしまいました。


《百人一首乳母かゑとき 猿丸太夫》

 北斎の絵を見ていると、何か懐かしいものに会ったような安心した気持になるのが不思議です。現物を見る機会は少なくても、いろんな場面で刷り込まれているのか、もしくは北斎の描く世界観が同じ日本人として共鳴するところが多いのでしょう。

 会期終了まであと1週間なのですが、まだの方にはお勧めします。混雑の覚悟は必要ですが・・・。


2014年11月1日 鑑賞

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