その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

東京バレエ団〈ウインター・ガラ〉 「ボレロ」ほか @オーチャードホール

2017-02-25 08:30:00 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


今回のお目当ては、「中国の不思議な役人」と「ボレロ」。いずれも、演奏会では何度か聴いているが、舞台は観たことなく、舞台(舞踏)音楽であるこの2作品を音楽と踊りで一緒に観てみたかった。

ただ、これは確認していなかった自分が全くもって悪いのだが、会場に着いて、この2作品はテープ音楽と言うことを知り茫然。ショックをリカバーする間もなく、「役人」が始まってしまった。バレエそのものは、作品が持つ怪奇さが上手く表現されたものだと思ったが、あのバルトークの複雑な音楽を音楽ホールでテープ(録音)で聴く違和感は個人的に払拭しがたく、残念ながら踊りに没入できず仕舞い。

逆に、次の演目「イン・ザ・ダーク」は、ショパンのピアノ生演奏と踊りがしっかり融和しており、心落ち着くパフォーマンス。三組の男女ペアが順番に踊り、最後には三組揃って踊ったが、特に一組目の沖香菜子さんの踊りが何とも優雅で美しく、幸せな気分に浸らせてくれた。期待値以上の感動は嬉しい誤算。

最後の「ボレロ」は、テープショックからも立ち直り、集中。オレリー・デュポンさんがセンターに設けられた円柱型舞台の上で、多くの男性ダンサーに囲まれて踊る様子は、古代の宗教的儀式を思い起こさせる神秘感が漂う。邪馬台国の卑弥呼ってこんな感じではなかったのか。音楽と踊りが絶妙に組み合されて、エネルギーがホール一杯に充満した。

生音がピアノに限られていたのは残念だったけど、三作品三様の踊りが楽しめ、出鼻こそ挫かれたが最後は大満足の公演だった。



東京バレエ団<ウィンター・ガラ>


「中国の不思議な役人」 振付:モーリス・ベジャール 音楽:ベラ・バルトーク
 首領:森川茉央、娘:入戸野伊織、中国の役人:木村和夫、ジークフリート:ブラウリオ・アルバレス、若い男:二瓶加奈子


「イン・ザ・ナイト」(東京バレエ団初演)
振付:ジェローム・ロビンズ 音楽:フレデリック・ショパン
 沖香菜子-秋元康臣
 川島麻実子-ブラウリオ・アルバレス
 上野水香-柄本弾 

「ボレロ」 振付:モーリス・ベジャール 音楽:モーリス・ラヴェル
 オレリー・デュポン
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DVD ヴェルディ: 歌劇 《マクベス》 /指揮リッカルド・シャイー

2017-02-19 15:00:00 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


 地元図書館の視聴覚コーナーにヴェルディのオペラ「マクベス」のDVDがあるのを見つけ借りてきた。舞台の上演を録画したものではなく、ロケを行い撮影しているものなので、オペラ映画と言って良いだろう。

 シャイ―指揮、ボローニャ市立歌劇場管弦楽団による演奏は、陰影のはっきりした実にドラマチックな「マクベス」である。DVDながら鬼気迫るものを強く感じる。映像もベルギーの古城を使ったもので、リアル感抜群だ。

 歌手はマクベス夫人を演じたシャーリー・ヴァーレットのソプラノが群を抜いている。悪女ぶりをいかんなく発揮し、ドスの利いたソプラノは迫力満点。題名役のレオ・ヌッチのバリトンも悩める武人マクベスを、歌と演技でうまく表現していた。

 アマゾンを確認したところ、海外盤が手の届く値段で売っていたので、買おうか買うまいか、悩んでいる。


《マクベス》:歌劇 全曲/ヴェルディ 

シャーリー・ヴァーレット, ソプラノ (マクベス夫人) ;
ヴェリアーノ・ルケッティ, テノール, フィリップ・ヴォルテール, 演技 (マクダフ) ;
アントニオ・バラソルダ, テノール (マルコム) ;
レオ・ヌッチ, バリトン (マクベス) ;
サミュエル・ラミー, バス, ヨハン・レイゼン, 演技 (バンクォー) ;

ボローニャ市立歌劇場管弦楽団・合唱団 ;
リッカルド・シャイー, 指揮 

Macbeth
4幕からなるオペラ映画
歌唱: イタリア語 (日本語字幕付)
台本: F.M. ピアーヴェ
演出: クロード・ダンナ
ロケ地: the fortified castle of Godefroy de Bouillon in the Ardennes, Belgium
制作: 1986年 (音声), 1987年 (映像)

出演: Leo Nucci, Shirley Verrett, Johan Leysen, Philippe Volter, Antonio Barasonda
監督: Claude d'Anna
脚本: Giuseppe Verdi, Francesco Maria Piave, William Shakespeare

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映画 「キンキーブーツ」 /監督 ジュリアン・ジャロルド (2006年公開)

2017-02-17 08:00:00 | 映画


 父親の急死で、家族経営の紳士靴製造会社を引き継いだ若社長が、倒産の危機を乗り越えるため、起死回生の一手を打つ。ロンドンで偶然知り合ったドラァグクイーン(派手な女装趣味の男性)にデザインを依頼し、ドラァグクイーン向けのブーツの生産を始めるのである・・・。ハートフルコメディのお手本のような展開だが、実話に基づいているとのこと。

 主な舞台は、ロンドンから100k程北西にあるノーザンプトンという街。列車で近くを通ったことはあるが、行ったことは無い。でも、イングランド中部の田舎町の雰囲気がとっても懐かしかった。

 映画は終始、ドラァグクイーン、ローラ役のキウェテル・イジョフォーの個性が光る。周囲の偏見と戦うというよりも、折り合いながら、自己主張するローラを好演。彼(彼女)抜きに本作はありえない。

 笑いと少しのドキドキがあって、最後はほっこり。万人に受ける佳作で、見て損はない。


スタッフ
監督:ジュリアン・ジャロルド
脚本:ティム・ファース、ジェフ・ディーン
撮影:エイジル・ブリルド
衣装:サミー・シェルドン

キャスト
ジョエル・エドガートン:チャーリー・プライス
キウェテル・イジョフォー:ローラ
サラ=ジェーン・ポッツ:ローレン
ユアン・フーパー:ジョージ
リンダ・バセット:メル

原題
Kinky Boots
製作年;2005年
製作国:アメリカ・イギリス合作
配給:ブエナビスタ
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N響2月定期Aプロ/ 指揮:パーヴォ・ヤルヴィ/シベリウス 交響曲 第2番ほか

2017-02-13 08:40:00 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


 抜けるような青空がまぶしい日だった。午前中、休日出勤だったのだけど、NHKホールに向かう途中、冬枯れた代々木公園を歩きながら、日増しに暖かさを感じる太陽の光と青空の組み合わせが何とも爽快だった。


≪NHKホール前から≫

 前半は、パーヴォさん所縁のエストニアの作曲家による2曲。今回も大変申し訳ないのだが、ホールの暖かさで弛緩した身体に心地よい音楽が浸み渡って、3分持たずにこん睡状態。意識を取り戻せたのは、アコーディオン独奏のクセニア・シドロヴァさんのアンコールから。

 後半のシベリウスの交響曲第2番は期待通り素晴らしい演奏だった。パーヴォさんらしいアクセントのつけ方や盛り上げの仕方はいつもながらで、これまで色んな指揮者で聴いているこの曲が別の曲のように聞こえるぐらい。

 今回特に印象的だったのは、管の個々の引き立ち方。日本のオケは全体としてのバランスやアンサンブルの良さに比較して、個々の目立ち度、自己主張度が弱く感じられることが多いが、この日は木管、金管の存在感は抜群だった。私も、前半の貯金のおかげで、集中力一杯に耳を傾け、曲の途中で何度も息が止まるほどの投入感だった。そのため、終演後は不規則呼吸で気分が悪くなってしまうという、何とも複雑な感動の仕方となった。

 今年も、春秋冬の各シーズンで登壇が予定されているパーヴォさん。色んな作曲家、音楽を聴け、楽しみだ。




第1856回 定期公演 Aプログラム
2017年2月12日(日) 開場 2:00pm  開演 3:00pm
NHKホール 

ペルト/シルエット ― ギュスターヴ・エッフェルへのオマージュ(2009)[日本初演]
トゥール/アコーディオンと管弦楽のための「プロフェシー」(2007)[日本初演]
シベリウス/交響曲 第2番 ニ長調 作品43

指揮:パーヴォ・ヤルヴィ
アコーディオン:クセニア・シドロヴァ

No.1856 Subscription (Program A)
Sunday, February 12, 2017  3:00p.m.  (doors open at 2:00p.m.)
NHK Hall

Pärt / “Silhouette”, Hommage à Gustave Eiffel (2009) [Japan première]
Tüür / Prophecy for Accordion and Orchestra (2007) [Japan première]
Sibelius / Symphony No.2 D major op.43

Paavo Järvi, conductor
Ksenija Sidorova, accordion
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広瀬大介 『帝国のオペラ: 《ニーベルングの指環》から《ばらの騎士》へ 』 (河出ブックス、2016年)

2017-02-11 08:00:00 | 


ドイツオペラの巨人、リヒャルト・ワーグナーとリヒャルト・シュトラウスの二人の人生と彼らのオペラをドイツ帝国(1871-1918)の盛衰と交差させて描いた本。

 オペラを観劇の際に、作品背景としてその時代や音楽家の状況、聴き手の受容などを単発的に学ぶが、なかなか一定の時代におけるオペラを、音楽家を軸に流れとして追っていく機会はなかなか無いため、興味深かったし、勉強になった。個人的には、ドイツの外でのワーグナーの受容やドイツ帝国崩壊後のシュトラウスの旧時代の遺産を引き継ぎつつ新たな世界を築こうと試みていたことなどは、未知のことで視野が広がった。

 一方で、一般書で、かつテーマ設定も明確であるものの、一読で筆者の主旨を正確に追うのは意外と難しい。元ネタとして、過去に別テーマで書き起こしたものも一部使ったりしているのだろうか。世界史的な時代背景説明、その時代における当該音楽家の人生、作品解説、関連する音楽・音楽家の動向等のいろんな情報が、粒度を変えて記述されているところがある。それゆえ、テーマとの関連性や重要度などを加味した、単行本としての統一性が弱く、私は自分の立ち位置を見失いがちだった。

 そこは、編集の問題かもしれない。例えば、各見出しのつけ方等が工夫されていれば、読者の助けになるのだが、節毎のタイトルが単なる項目でタグのような書き方しかされてないので、読むものは全体感を見失って作品解説の世界に入り込んでしまったりする。そのぐらいの読解力は有るだろうということなのかもしれないが、痛勤列車の読書家にとっては、なかなか机に向かって線を引きながら精読するというわけにはいかないのだ。

 内容はしっかりしていて勉強になるので、この分野に関心のある人にはお勧めしたい。

【目次】
序章 バイロイトの長い坂
第1章 一八七六年、バイロイト音楽祭開幕の衝撃
第2章 “パルジファル”とワーグナー直系の弟子たち
第3章 リヒャルト・シュトラウス、オペラへの道程
第4章 フランス・イタリアオペラの動き
第5章 “サロメ”から“ばらの騎士”へ
第6章 ドイツ帝国の夢の終わり

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山の羊舍 第6回公演 「危険な曲がり角」 (下北沢演劇祭)

2017-02-07 08:00:00 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


 毎年2月に下北沢で演劇祭をやっているのだが、ここ2年ほど行けなかったので、久しぶりに出かけることにした。特に、お目当があったわけではないのだが、山の羊舍という劇団の公演を選んだ。「シニカルで頭脳的エンターテイメント」という口上に魅かれたのかな?出かけてみれば、完売とのことで、前日に電話予約しておいてよかった。

 会場は100名ちょっと収容の小劇場。手が届くようなところで、劇が始まる。イギリスのある郊外のお屋敷(?)のパーティで、1年前に「自殺」した弟の状況を巡って、家族や友人、恋人などの関係者7名の会話が進んでいく。誰もが何かを隠していて、これまで真実だとされていたことがそうでなかったことが判明し、新たな事実が次々と明らかになっていく。場面はお屋敷の居間で変わらないまま、1時間50分で一気に上演される。

 失礼ながら、役者さんたちは知らない方ばかりだったが、舞台、TV,映画等で活躍されているプロの方々のよう。台詞を噛んでたところがいくつかあったけど、熱演で観ていて没入できた。

 作品の展開は、飽きることのないスピード感と緊張感を併せ持ったものだった。場は変わらないが、見る者は、舞台の会話で想像力がどんどん膨らんで、まるで観ていない弟の「自殺」シーンや登場人物間の秘密だったやりとりが、はっきりと脳裏に浮かんでくる。イギリスの作家による作品らしいが、原作がしっかりしているのだろう、1時間50分が随分と短く感じられた。

 衝動的に選んだ公演ではあったが、これは当たり。もうひと作品ぐらい、演劇祭開催中に観てみたい。

 (どうでもいいが、観客は驚くほど若い人が少なく、なぜか中高年の観客(それも女性)が多いのも印象的だった。) 






山の羊舍 第6回公演
2017年2月5日(日)

下北沢 「劇」小劇場
作:J・B・プリーストリー 翻訳:内村直也 上演台本・演出:山下悟
危険な曲がり角

出演
青木鉄仁(青年座)
小澤英恵(俳優座)
高橋紀恵(文学座)
山口眞司(演劇集団円)
中條サエ子  (演劇集団円)
佐賀孔生(演劇集団円)
川合麻璃(フリー)
スタッフ
照明:戸谷光宏(ライズ)
音響:齋藤美佐男(TEO)
美術:田辺尚志
衣装:樋口藍
舞台監督:西山みのり

宣伝美術:千葉勇祐デザイン事務所
Web: 山下菜穂
協力:文学座・俳優座・青年座・演劇集団円

制作:高木由起子
企画:山の羊舎

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人形劇団ひとみ座 「リア王」 @調布市グリーンホール

2017-02-05 11:18:34 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


2週続けてのシェイクスピア劇。今週は知人の紹介で、人形劇によるリア王を観に調布市のグリーンホールへ足を運びました。

ひとみ座は、1948年発足で、過去にはNHKで放映された「ひょっこりひょうたん島」を演じた歴史ある人形劇団です。人形劇というのを生で観るのは、小学生の時のイベント以来のような気がします。

人形劇ということでお子様向けのアレンジ版なのかと思ったら、とんでもない思い違いで、本格的なシェイクスピア劇でした。文楽のように人形の裏で黒装束の人が操ります。人形の裏に一人で操っているものと、二人で操っているものがありました。人形は、操り手の人間と同じくらいの背の高さなので、感覚的には人による劇と変わりません。人形は正面に向かって幅は細く、横に広く立体的に作ってあるように見受けられます。表情が変わるわけではありませんが、操り手の動きによって、人形の動きはとてもリアリティがあるので、気持ちや感情がストレートに響きました。

音響も歌舞伎並みに、馬が駆ける音、暴風の音、雷の音が小道具を使って、その場で生成されるので、これもリアリティがあります。

人形を操りながら、台詞を発するのは、自らが演じるよりも難しいのではと思わせます。それでも、難しいシェイクスピアの脚本を、聞き取りやすくかつ抑揚豊かに、緊迫感を伴って演じていたのは、素晴らしいと感じました。前週に観た「マクベス」に比較して、言葉の反乱感が無かったのは、多少とも台本を改めているのかもしれません。

それにしても、「リア王」の救いのなさは、相変わらず凄まじい。人間の狂、欲、愛、憎、誠がこれほど凝縮された作品は例をみないでしょう。ロンドンで、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)の引っ越し公演で観たときは、打ちのめされて数日尾を引いたのですが、人形劇であってもそれは変わりそうにありません。


※ひとみ座のHPから拝借

【日時】
2017年2月4日(土)14:00開演 (13:30開場)

【公演時間】
約2時間20分(休憩15分含む)

【会場】
調布市グリーンホール 大ホール   京王線「調布駅」下車徒歩1分

リア王:龍蛇俊明
ゴネリル:篠崎亜紀
リーガン:小林加弥子
コーディリア:松本美里
グロスター:山本幸三
オールバニ:岡本三郎
コーンウォル:来住野正雄
ケント:齋藤俊輔
エドガー:田中弘映
エドマンド:三坂龍輝
オズワルド:伊東 亮
バーガンディ:三坂龍輝
道化:森下勝史
笛吹人形1:西田由美子
笛吹人形2:松島 麗

スタッフ
作:W・シェイクスピア
訳:斎藤 勇(岩沼文庫版)
脚色/演出:伊東史朗
人形美術:片岡 昌・髙橋ちひろ
舞台美術:髙橋ちひろ
作曲:河向淑子
音響プラン:冨田 愛
照明プラン:坂本義美(龍前正夫舞台照明研究所)
舞台監督:来住野正雄
演出助手:蓬田雅代
宣伝美術:三浦佳子
制作:半谷邦雄・田坂晴男

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