その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

初めてのケンブリッジ観光 (2011年夏)

2015-07-31 00:42:34 | 旅行 イギリス
 (数年前の写真を整理していたら、ブログに記録していないイギリス滞在時の旅行写真がいくつかあったので、随時アップしていきたいと思います。)

 もう4年も前になりますが、2011年8月に1泊2日でロンドンからケンブリッジ、コッツウォルズを周回ドライブしました。

 オックスフォードには行っているけど、ケンブリッジを訪ねたのは初めてです。何かと比較される二つの大学町ですが、職場のイギリス人に「訪れるならオックスフォードとケンブリッジはどっちが良い?」と聞くと、なぜか「もちろんケンブリッジだよ」と応える同僚が圧倒的に多いんです。

 ロンドンから車を二時間弱走らせると、オックスフォードよりずっとこじんまりとした大学街ケンブリッジに到着します。夏休みのせいか人影もまばらで、少し寂しいぐらいでした。天気も雨がいつ降ってもおかしくないような曇り空で、しかも8月とは思えない寒空。


《まずは街をうろうろ。路地一つにも歴史を感じます》

 ケンブリッジといえば、やっぱりキングス・カレッジということで、1441年にヘンリー六世によって創設されたというケンブリッジのランドマークを訪れました。礼拝堂の神々しいこと。


《礼拝堂のステンドグラスの美しさは感動的》


《中庭から見るカレッジ》

 もう一つのケンブリッジ名物と言えば、ケム河のパンティング。ただ、この日は8月というのに、ウインドブレーカーを上着に着込んだぐらいの肌寒さ。とてもボートを乗る気分ではありませんでした。それに、中国人の夏休みの語学留学生達がボートの上で大声でふざけあって、優雅な風情も台無しで、これは大いに興ざめ。


《写真じゃ、中国人学生のばか騒ぎは伝わらないのが慰めです》


《キングス・カレッジの裏手からの景色は非常に美しい》

 しばらく、さまざまなカレッジを覗きながら街を散策し、その後フィッツウィリアム博物館へ。オックスフォードのアシュモリアン博物館もびっくりでしたが、ケンブリッジも負けてません。エジプトや古代ローマの遺品からルネッサンスの絵画、イギリス絵画、印象派など実に多彩かつ高いレベルの展示に満ちています。


《建物からしてすごい》


《博物館内》

 半日観光では消化不良感が残りましたが、あまりの寒さに街を散策する気も起きず、車に戻り次の目的地コッツウォルズへ向かいました。

(つづく)
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映画 「オーケストラ!」 / 監督:ラデュ・ミヘイレアニュ

2015-07-26 15:43:07 | 映画


ロンドンでロードショーされていた際に気になっていたのですが、結局見逃してしまったので、DVDを借りての鑑賞です。笑いあり涙ありコメディ・ヒューマンドラマ。クラシック音楽を題材にしてはいるものの、クラシック音楽ファンのための映画というよりは、万人が楽しめるように作られた映画です。2011年のフランス映画。

映画は、旧ソビエトの反ユダヤ主義の運動(戦後35年が経過している1980年にこのような反ユダヤ運動がソ連にあったことは初めて知った)を背景にしているので、かなり真面目でシリアスなのですが、総じていえばコメディ。ハチャメチャな急造オーケストラ楽員たち、ロシア人の交渉術など、笑えるエピソードにあふれています。

ヒロインの女性ヴァイオリニストを演じるメラニー・ロランという女優は初めてでしたが、その美人ぶりには息を呑みました。その彼女が弾く(もちろん吹き替えでしょうが)チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の美しいこと。この映画で新たなクラシックファンが増えたこと間違いないでしょう。

一方で、クラシック音楽ファンにとってはありえんだろうというところも幾つかあります。なんてたって、集まったばかりで、普段は全く楽器を触ってない昔のミュージシャンたちが、リハーサルなしにチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲やシュスタコーヴィチの交響曲を演奏会で演奏し、パリの聴衆から大喝采を浴びるなんでまずありえんでしょう。まあ、この辺はご愛敬ということで。

つまらない理屈抜きに楽しめる映画なので、「何も考えたくないけど、ただ笑うだけの映画ではやだ」という時に最適の一本です。



メラニー・ロランさん。綺麗ですよね?


オーケストラ!

Le Concert

監督:ラデュ・ミヘイレアニュ
脚本:
ラデュ・ミヘイレアニュ
アラン=ミシェル・ブラン
マシュー・ロビンス
製作:アラン・アタル
音楽:アルマン・アマール
撮影:ローラン・ダイヤン
編集:ルドヴィク・トロシュ

キャスト
アンドレイ・フィリポフ: アレクセイ・グシュコブ
アンヌ=マリー・ジャケ: メラニー・ロラン
オリヴィエ・デュプレシス: フランソワ・ベルレアン
ギレーヌ・ドゥ・ラ・リヴィエール ミュウ=ミュウ
サーシャ・グロスマン: ドミトリー・ナザロフ
イヴァン・ガヴリーロフ: ヴァレリー・バリノフ
イリーナ・フィリポヴナ: アンナ・カメンコヴァ
ジャン=ポール・カレル: リオネル・アベランスキ
ヴィクトール・ヴィキッチ: アレクサンドル・コミサロフ
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小板橋太郎 『異端児たちの決断 日立製作所 川村改革の2000日』 日経BP

2015-07-23 20:44:28 | 


『日経ビジネス』の先週号に掲載されたグローバル化を推進する日立製作所の特集記事が興味深かったので、日立製作所についての本を読んでみた。

2009年3月期に国内の製造業史上最大となる7873億円の最終赤字を計上した日立製作所。本書は、その2009年4月に会長兼社長として同社に復帰し、経営改革に取り組み、復活に導いた川村隆社長を軸とした中西副社長(当時)、三好副社長(当時)ら経営陣の意識、行動をレポートする。

企業ものルポにありがちな提灯記事のホッチキス止めかと思いきや、なかなか読み応えのあるレポートだった。ジャーナリスティックなレポートものなので、必ずしも掘り下げは深いとは言えないが、当時の厳しい内外の環境下の中で、当時の経営陣が何を考え、何を行動に移してきたかがよくわかる。

 私自身、川村氏が会長兼社長に復帰した記事を読んだときは、「何故、一度本体を退いた人、しかも69歳」と世の経営者若返りの風潮の逆光を行く人事に驚き呆れたものである。しかしながら、本書を読んで、V字回復に導いたその手腕は、決して偶然でなかったことが垣間見れる。

 いくつか、日立復活の鍵となったところを抜粋。
・重要な決定は、社長・副社長の6名で決めた。
・巨額の赤字の原因となっていた不効率なグループ経営にてをまずつけ、事業統合と統合を行う。
・経済付加価値(EVA)をもとに収益性の低い事業は撤退・売却。近づける事業と遠ざける事業の峻別。
・社会イノベーション企業としての成長戦略
・100日プラン:100日で何らかの結果を出す
・カンパニー制導入による権限移譲で、事業部門の自立
・鉄道事業では、市場の分かった外国人をトップに据えた。

 余談だが、日立のガバナンスはすごくて、取締役14名のうち、社外取締役が8名、外国人が4名とかなり先端を行っている。株主の43%が外国人株主というのも、初めて知った情報でこと資本に関しては立派なグローバル企業となっている。川村氏は1年で社長職を中西氏に譲り、会長職もその1年後に降りられているのだが、本人の年齢だけの情報で日立の改革への本気度を笑った自分の不明が全く持って恥ずかしい限りである。

(目次)
【第一章】六十九歳の再登板
【第二章】「不沈艦」の黄昏
【第三章】裸になった経営陣
【第四章】「御三家」の換骨奪胎
【第五章】豪腕、中西宏明の凱旋
【第六章】インフラ輸出の牽引車
【第七章】グローバル化は隗より始めよ
【第八章】日立の次代を担う者

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7月19日 山中湖から見る富士山

2015-07-20 19:59:12 | 旅行 日本
巷では夏休みのはじまりを飾る三連休なのですが、私は土曜日の午前中は電話会議、月曜日は出勤と、全く連休気分には程遠し。そんな合間を縫って、日曜日は涼を求めて山中湖へドライブに行きました。

早朝6時前の山中湖から見る富士山。携帯写真なので、どこにピントがあっているかもわからないぼーっとした写真ですが。青空に朝日を受ける富士山が美しかった。


こちらは6時半ごろ。やや雲が増えてきました。富士山にかかる雲って、分単位で変化します。


完全な夏日となったこの日。頬に当たる風は東京と違って高原のさわやかさを感じます。気分転換して、8月の夏休みまでのエネルギーチャージ!


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映画 「ターナー、光に愛を求めて」 (監督 マイク・リー)

2015-07-18 07:50:34 | 映画


 先月、封切早々に出かけました。

 イギリスを代表する画家であるJ・M・W・ターナー(1775-1851年)の後半生を描いた伝記映画です。私はターナーの大ファンというほどではないですが、誰が見てもわかる独特の画風で描かれた陽の光や波や空には、イギリスの土地や気候に根付いた感性が感じられるところが好みです。

 コベント・ガーデン(ロンドンの中心部)の床屋の息子であったことや大陸にしばしばスケッチ旅行に出かけていたこと、私の好きなジョン・コンスタブルとライバル関係にあったことなどは知っていましたが、その人となり、私生活までは知りませんでしたので、映画はなかなか興味深いものでした。芸術家にありがちなのでしょうが、かなり変わった人だったんですね。ティモシー・スポールがそんなターナーの奇人ぶりをうまく演じていました。

 イギリス美術や美術史に関心のある人には、自信をもってお勧めします。ラファエル前派のサポーターとしても有名なジョン・ラスキンやコンスタブルも映画に登場しますし、当時のロイヤル・アカデミーを中心としたイギリス美術界の空気を垣間見ることもできます。映像も美しく仕上がっており、ターナーの絵の色合いを彷彿させてくれます。

 淡々とゆったりとした展開でストーリーは進むのですが、上映時間の二時間半は全く長く感じません。ただ、この手の話題に興味のない人には、少々辛いかもしれません。西洋美術の好きな人は是非足を運んでください。


スタッフ
監督 マイク・リー
脚本 マイク・リー
エグゼクティブプロデューサー ゲイル・イーガン 、 ノーマン・メリー
プロデューサー ジョージナ・ロウ
撮影 ディック・ポープ
プロダクション・デザイン スージー・デイヴィス
音楽 ゲイリー・ヤーション
編集 ジョン・グレゴリー

キャスト
ジョセフ・マロード・ウィリアム・ターナー ティモシー・スポール
ハンナ・ダンビー ドロシー・アトキンソン
ソフィア・ブース マリオン・ベイリー
ウィリアム・ターナー ポール・ジェッソン
メアリー・サマヴィル レスリー・マンヴィル
ブース氏 カール・ジョンソン
サラ・ダンビー ルース・シーン
エヴェリーナ サンディ・フォスター
ジョージアナ エイミー・ドーソン
ベンジャミン・ロバート・ヘイドン マーティン・サヴェッジ

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宮崎俊一 『9割の人が間違ったスーツを着ている 成功する男のファッションの秘訣60』 (講談社)

2015-07-15 00:13:05 | 


 ビジネスカジュアルで出社する人の方が増え、めっきりスーツを着る人が少なくなってしまった昨今の私の会社だが、私自身はスーツが大好き。袖を通すと、学生時代に部活動のユニホームを着た時のように、気分が締まる。(これって今の世の中では、完全に昭和オヤジの戯言だよなって自覚は一応あり)

 今更、悔やんでいるのは、スーツを着る生活がきっと後半になっていると思うのだが、つい数年前まで、その選び方は全く持って無頓着かつ適当だったことだ。ロンドンで廉価な紳士服店で初めてスーツを仕立てて(驚くほど安かった)、スーツってこういうものなんだと初めて知った。そして、店の人との会話の中で、それまで着てきたスーツは全てオーバーサイズということを知った。出来上がったスーツは、廉価版なりの生地であったものの、サイズ、着心地は、それまで「スーツってこういうものだ」と勝手に思っていた自分の常識を覆すものだった。逆に「なるほど、スーツってこういうものだったのね」って。

本書は、松屋で長年スーツのバイヤーを務めてきた著者が、ビジネスシーンでの紳士服の見方、選び方を指南してくれる。140ページ程度かつ平易な語り口ながら、とても誠実で有用な六十のアドバイスだ。

例えば、スーツのチェックポイントとしては、「ラベル(下衿)のロール(折り返し)部分」、「ショルダー(肩)のライン」、「上衿の首とのフィット感」の3点を見る。また、基本的なワードロープとしては、スーツ3着、シャツ6枚、ネクタイ3本、靴3足。スーツのクリーニングはシーズン1回が基本。などなどである。

タイトルには少し気後れしたものの、図書館の返却コーナーで見つけた一冊は思いがけない掘り出し物だった。今度、スーツを買う機会がますます楽しみだ。


目次
第一章/これだけ読めば、あなたも明日からスーツ通
第二章/よい服を見極めるにはコツがある
第三章/これさえあれば・・・・・ワードローブの基本を押さえる
第四章/スーツは着こなしてこそ、個性が発揮される
第五章/スーパークールビズが日本のドレスコードを破壊する?
第六章/いいものを適正価格で買ったら、長く使おう
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新日本フィルハーモニー交響楽団/ ダニエル・ハーディング指揮、ラルス・フォークト ピアノ

2015-07-11 20:30:36 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


ロンドンでは何度も聴いたハーディングさんですが、日本に帰って以降、ここ3年間はご無沙汰でした。そのハーディングさんが全曲ブラームのプログラム、しかもランス・フォークトさんとのコンビでピアノ協奏曲を振ることを知り、いざサントリーホールへ。当日券を購入して参戦しました。新日フィルは2012年の年末第九以来です。

私の耳のウオーミングアップが足りなかったのか、前半戦は今一つ消化不良でした。一曲目の「悲劇的序曲」は昨年12月にドイツカンマーフィルの超骨太演奏が耳に残っていて、新日フィルの演奏はどうも緩い。かといって、精緻なアンサンブルとも言い難く、どっちつかずな印象が拭えません。続いての「ハイドンの主題による変奏曲」も、決して何かが悪いというわけではないのですが、一昨年の秋に聴いたブロムシュテットさんとN響の均整の取れた美しい演奏に比べると特徴に欠けます。ハーディングさんの切れの良い指揮姿は変わってませんが、どうもオケとのマッチングは必ずしもかみ合っているとは言えないような気がしました。

 が、休憩後のピアノ協奏曲第2番はまるで別のオケのような素晴らしい演奏でした。ラルス・フォークトさんは、ロンドンでも何度か、東京でもN響との共演を聴いていますが、相変わらずの変幻自在のピアノ演奏。奇をてらっているところはありませんが、豪柔併せのむとでも言うようなピアノで、聴く者はその変化を楽しみつつ、安心してピアノの音に乗っていることができます。オケも前半とは別人のごとく、集中度と気合を感じる演奏でした。第三楽章のチェロ独奏の美しさ、表現の豊かさも格別で、ピアノを食ってしまうぐらいの存在感でした。こんなチェロ演奏を聴けただけでも、来てよかったと思わせてくれるものでした。

終わってみれば、前半戦の借金を後半戦で返してもらった挙句に、おこずかいまでもらったような幸せ気分。しとしと雨はまだ降り続いていたものの、実に気持ち良くホールを後にすることができました。




7月3日 会場:サントリーホール

#544 定期演奏会

■プログラム
ブラームス作曲 悲劇的序曲 op.81
ブラームス作曲 ハイドンの主題による変奏曲op.56a
ブラームス作曲 ピアノ協奏曲第2番変ロ長調op.83

■出演者

指揮:ダニエル・ハーディング
ピアノ:ラルス・フォークト

3 July at: Suntory Hall

New Japan Philharmonic
#544 Subscription Concert

PROGRAM
BRAHMS Tragic Overture op. 81a
BRAHMS Variations on a Theme of Joseph Haydn op. 56a
BRAHMS Piano Concerto No. 2 in B-flat major op. 83

PERFORMERS
Daniel HARDING, conductor
Lars Vogt, piano

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早野龍五、糸井重里 『知ろうとすること』 (新潮文庫)

2015-07-08 00:03:59 | 


 友人から勧められ、手に取ってみました。

 著名なコピーライター糸井重里さんと行動する物理学者早野龍五さんとの、福島の原発事故に伴う被爆を巡っての考え方、姿勢、行動について対話本です。1,2時間もあれば気軽に読める一冊ですが、考えさせられるところは多いです。

 恥ずかしながら、早野さんのお名前は初めて意識しましたが、その意識の高さや行動力に感心しました。あの原発事故直後の情報が錯綜する最中にあって、原子炉の専門ではないものの、科学者として事実を集め、それを分かりやすい形でTwitterで発信する。更に、福島のこどもたちへの被爆量の測定など、できることを具体的な行動に移していく。人として、学者として、地に足がついた強い信念が伝わってきます。

 そして、早野さんから話を引き出す糸井さんの聞き上手ぶりも脱帽です。緩く暖かい雰囲気を作りながら、真面目な話題について、踏み込んだ話を引き出しています。これは技ですね。ただ、「科学的に考える力の大切さ」を語りつつも、「早野先生は常に正しい」的なニュアンスが少し感じられたところは、違和感を覚えました。

 幸か不幸か、この事故が起こった時、私は海外に在住していたので、当時の日本の雰囲気は実体験がありません。ただ、本書を読んでいて、日本に居たら自分はどんな行動を取ったのだろうか、と考えてしまいました。そして、それは原発事故に限った話では無く、事の大小こそはあれ、いつも周りで起こっていることに対しての姿勢と行動でもあるわけです。いろんな人に読んでほしい一冊です。

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オペラ「沈黙」/松村禎三 @新国立劇場オペラパレス

2015-07-04 09:16:55 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


衝撃的なオペラ体験だった。「神の沈黙」という重いテーマ、緊張感あふれる音楽と演奏、三階席まで気迫が届く歌手陣の熱演、観るものの目を離させない舞台演出と照明。全てが高いレベルで組み合わされ、総合芸術オペラのパワーを見せつけられた。胸が押しつぶされ続けた3時間に涙すること数回、ここまでの感動を与えてくれた関係者全員に感謝の意を表したい。

下野さんの指揮は、前回聴いた二期会オペラ『リア』と同様、張り詰め、不安で、悲しい音楽を丁寧に作っていた。音楽から指揮者の誠実さが伝わってくる。東フィルの演奏もしっかり応える名演奏。パーカッションの活躍が印象的だった。

歌手陣では、何といってもロドリゴを演じた小原さんの熱演あってのこの舞台だろう。やや線が細い印象を受けたところも無かったわけではないが、切羽詰まった集中度、緊迫感に細かいコメントは不要。キチジローの桝さん、茂吉の嫁オハルの石橋さんの存在感も大きく、舞台を引き締めていた。

舞台天井に届くほどの大きな傾いた十字架を軸にした演出は、派手な仕掛けがあったわけではないが、逆光や影を効果的に映し出した照明とあわせ、物語、音楽の劇性を必要十分に訴えた。見応えたっぷりの舞台となった。

初見だった私には、こんな和製オペラが日本にあると知ったのも大きな収穫だった。是非、海外で公演して欲しいと切に思う。日本の水準を胸を張って示すのにこれほど相応しい作品はないだろう。ロンドンなら、伝統派ロイヤルオペラでは受けてもらえないかもしれないが、進取の気性に富むイングリッシュ・ナショナル・オペラ(ENO)なら、全公演が英語というENOのお約束を破っても、全員日本人キャストでの特別公演を受けてくれはしないだろうか。(この作品を見ながら、3年前にENOで見たアウシュビッツ強制収容所を舞台にしたオペラ「パッセンジャー」(ヴァインベルク)を思い出した)

オペラパレスがほぼ満員になっていたのもサプライズ。こんな重厚な日本のオペラを観に来るオペラファンがこれだけいる日本ってすごくないか?

幕間では、ロンドンでのブログ交流からお付き合いが続いているMiklosさんご家族とも会うことができた。実りの多い日曜日の午後で充実の週末となった。


《ホールロビーでは当時の長崎のキリシタンの生活を紹介する展示コーナーも》


2015年6月28日 日曜日

オペラ「沈黙」/松村禎三

Silence/Matsumura Teizo
全2幕〈日本語上演/字幕付〉
オペラパレス


【指揮】下野竜也
【演出】宮田慶子
【美術】池田ともゆき
【衣裳】半田悦子
【照明】川口雅弘

〈6 月28・30 日〉
【ロドリゴ】小原啓楼
【フェレイラ】小森輝彦
【ヴァリニャーノ】大沼 徹
【キチジロー】桝 貴志
【モキチ】鈴木 准
【オハル】石橋栄実
【おまつ】増田弥生
【少年】小林由佳
【じさま】大久保 眞(全日程)
【老人】大久保光哉(全日程)
【チョウキチ】加茂下 稔(全日程)
【井上筑後守】三戸大久
【通辞】町 英和
【役人・番人】峰 茂樹(全日程)

【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

2014/2015 Season

Music by MATSUMURA Teizo
Opera in 2 acts
Sung in Japanese with Japanese surtitles
Opera Palace

Staff
Conductor SHIMONO Tatsuya 1
Production MIYATA Keiko 2
Scenery and Costume Design IKEDA Tomoyuki
Costume Design HANDA Etsuko
Lighting Design KAWAGUCHI Masahiro

Cast
[6/28]
Rodrigo OHARA Keiroh 8
Ferreira KOMORI Teruhiko 9
Valignano ONUMA Toru
Kichijiro MASU Takashi 10
Mokichi SUZUKI Jun 11
Oharu ISHIBASHI Emi 12
Omatsu MASUDA Yayoi
Boy KOBAYASHI Yuka
Jisama OKUBO Makoto
Old Man OKUBO Mitsuya
Chokichi KAMOSHITA Minoru
Inoue, Lord of Chikugo SANNOHE Hirohisa
Interpreter MACHI Hidekazu
Official, Prison Official MINE Shigeki


Chorus New National Theatre Chorus
Orchestra Tokyo Philharmonic Orchestra
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堤未果 『沈みゆく大国アメリカ 〈逃げ切れ!日本の医療〉』 集英社新書 

2015-07-02 23:10:30 | 


 オバマケアを批判した前作 『沈みゆく大国アメリカ』の姉妹編。アメリカ化の波が押し寄せつつある日本の医療・介護について警鐘をならす一冊である。

 著者のライティングスタイルへの違和感についてはこれまで散々コメントしてきた(※)ので、今回は控えたい。ただ、そのスタイルは止まることなく、本作でも根拠薄弱な決めつけ、論理の飛躍がてんこ盛りだ。

 ただ、本書の主張は明確で示唆に富む。「アメリカの商品化された医療・保険ビジネスの黒船から、憲法25条の生存権に基づいた社会保障としての日本の「国民皆保険制度」を守らなくてはいけない」というものだ。そして、そのためには国民は仕組みについての理解を深め、騙されないようにならなくてはいけない。

 医療費の押上げ原因は「高齢化というよりも医療技術の進歩や新薬にあること」。医師数の統計は、日本が免許を持つ人の数である一方、欧米では現役で働いている医師数であり、単純な横並び比較はミスリーディングであること。など、新しく知った点もある。

 一方で、本書で述べられている現在の日本の医療・介護制度の制度疲労や間違いなく進む高齢化についての対処策は、残念ながら大学生の期末レポートの域を脱していない。本書が紹介する、予防医療の充実、協同の精神に基づいた地域医療など、個々の施策、運動に異を唱えるものではないが、表層的な紹介、提言に留まっているので、全体像を踏まえた構造的分析・提言とはいいがたく、説得力はパンチに欠けている。

 いつもながら、批判的に読む必要はあるものの、論点、視点は参考になる一冊なので一読の価値はある。

※過去4冊の感想はこちら

堤未果 『ルポ 貧困大国アメリカ』  (岩波新書)

堤未果 『ルポ 貧困大国アメリカ 2』 (岩波新書)

堤 未果 『(株)貧困大国アメリカ』 (岩波新書)

堤未果 『沈みゆく大国 アメリカ』 (集英社新書)



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