とっても失礼ながら、オール日本人キャストでここまでのワーグナーオペラを体験できるとは思ってなかった。素晴らしい、感動のタンホイザーだった。
コロナ禍が生んだ不幸中の幸いハプニングと言えるだろう。バイロイト音楽祭でワーグナーを振っていたヴァイグレが、代役指揮として指揮台に上ってくれたのである。ヴァイグレの指揮の元、歌唱・合唱・演奏、それぞれがハイレベルかつ相乗効果を生んだパフォーマンスだった。
日本人歌手陣の健闘は期待を大きく上回るサプライズ。私にはヴォルフラムの清水勇磨さん、エリーザベトの竹多倫子さん、ヴェーヌスの池田香織さんが出色だった。とりわけ3幕は圧巻で、ヴォルフラムの「夕星の歌」、エリザベートの「エリザベートの祈り」は涙もの。そして、池田さんは、私なら「池田さんのヴェ―ヌスブルグに永住したい!」と思わせる魅惑的な役作りと歌唱だった。タンホイザー芹澤佳通さんのテノールは綺麗なのだが、タンホイザーとしては軽めでやや単調に聴こえるところはあった。が、3幕の「ローマ語り」は熱演で胸動かされる。
更に盛り上げたのは合唱陣。美しいハーモニーは、状況の厳粛さや物語の緊張感を高めた。
そして、舞台の主役を奪いかねない活躍だったのがピットに入った読響。ヴァイグレの棒の元、時に繊細、時にスケール感一杯のアンサンブル。こんなタンホイザーはなかなか聴けたものではないと身の幸運を祝った。
演出もセンス良いスマートなもの。舞台上から釣り下がる逆円錐形のオブジェなど意味を解せないところもあったが、物語の流れを妨げることなく、場を効果的に盛り上げた。とりわけ、ヴェ―ヌスブルグの踊り手たちのダンスはとっても艶めかしくてエロチック。思わず、5階席から体を乗り出しそうになった。
終演後は久しく耳にしたことのないような割れんばかりの大拍手。特に、ヴァイグレに対する拍手は凄まじい。ブラボーを叫べないのは何ともフラストレーションが溜まるが、熱烈拍手のカーテンコールは最高だ。一日も早く、ボラボーを叫べる日が戻って来て欲しい思いつつ、手が痛くなるまで叩き続けた。
タンホイザー〈新制作〉
オペラ全3幕
日本語字幕付き原語(ドイツ語)上演
台本・作曲:リヒャルト・ワーグナー
(パリ版準拠(一部ドレスデン版を使用)にて上演)
会場: 東京文化会館 大ホール
公演日:2021年2月21日(日) 14:00
スタッフ
指揮:セバスティアン・ヴァイグレ
原演出:キース・ウォーナー
演出補:ドロテア・キルシュバウム
装置:ボリス・クドルチカ
衣裳:カスパー・グラーナー
照明:ジョン・ビショップ
映像:ミコワイ・モレンダ
合唱指揮:三澤洋史
演出助手:島田彌六
舞台監督:幸泉浩司
公演監督:佐々木典子
キャスト
ヘルマン:長谷川 顯
タンホイザー:芹澤佳通
ヴォルフラム:清水勇磨
ヴァルター:高野二郎
ビーテロルフ:近藤 圭
ハインリヒ:高柳 圭
ラインマル:金子慧一
エリーザベト:竹多倫子
ヴェーヌス:池田香織
牧童:牧野元美
4人の小姓:横森由衣、金治久美子、実川裕紀、長田惟子
合唱:二期会合唱団
管弦楽:読売日本交響楽団
TANNHÄUSER [New Production]
Opera in three acts
Sung in the original (German) language with Japanese supertitles
Libretto and Music by RICHARD WAGNER
An original production of Opéra national du Rhin
SUN. 21. 14:00 February 2021
at Tokyo Bunka Kaikan (Japan)
STAFF
Conductor: Sebastian WEIGLE
Original Stage Director: Keith WARNER
Associate Stage Director : Dorothea KIRSCHBAUM
Set Designer: Boris KUDLIČKA
Costume Designer: Kaspar GLARNER
Lighting Designer: John BISHOP
Video Designer: Mikolaj MOLENDA
Chorus Master: Hirofumi MISAWA
Assistant Stage Director: Miroku SHIMADA
Stage Manager: Hiroshi KOIZUMI
Production Director: Noriko SASAKI
CAST
Hermann: Akira HASEGAWA
Tannhäuser: Yoshimichi SERIZAWA
Wolfram von Eschenbach: Yuma SHIMIZU
Walther von der Vogelweide: Jiro TAKANO
Biterolf: Kei KONDO
Heinrich der Schreiber: Kei TAKAYANAGI
Reinmar von Zweter: Keiichi KANEKO
Elisabeth: Michiko TAKEDA
Venus: Kaori IKEDA,
Ein junger Hirt: Motomi MAKINO
Vier Edelknaben: Yui YOKOMORI, Kumiko KANAJI, Yuki JITSUKAWA, Yuiko OSADA
Chorus: Nikikai Chorus Group
Orchestra: Yomiuri Nippon Symphony Orchestra