その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

今年下期に読んだ本(3):その他もろもろ

2020-12-30 07:30:37 | 

下山進 『2050年のメディア』 文藝春秋、2019

デジタル革命が引き起こしたメディア産業の変化(紙媒体からデジタルへ)を関係者への取材等を元に書き起こしたノンフィクション。紙・販売店網に固執する読売、デジタルに舵を切る日経、新興メディアの雄となったYahoo、3社の動きを中心にした臨場感あふれるレポートだ。

いろんな読み方ができる。現代メディア史のテキストとして、「イノベーションのジレンマ」のケーススタディとして、メディア界の重鎮たちの人間ドラマとして、そしてスキャンダルの裏話としてなど・・・。面白いし、勉強にもなり、読み始めると止まらない読み物だ。筆者の熱意と汗を感じる力作。1点注意は、メディアの未来を論じたものではなく、未来を考えるために過去を振り返る本なので、タイトル通りの論点を期待すると肩透かしに合う。

橘玲『国家破産はこわくない』講談社α文庫、2018

国の債務1300兆円(世界2位)、GDP比にして237%(1位)。日銀のETF保有残高は45兆603億円(2021年11月、時価ベース)で日本株の最大の保有主体。コロナ禍で傷んだ経済を支えるためとはいえ、次世代に益々の借金を負わせる数々の支援金・補助金、Go To。カンフル剤に支えられた日本経済は、どう見てもサステイナブルとはとても思えない。そんな中で、我々一般市民はどうなけなしのお金を守ればいいのか?

ヘッジすればヘッジしたで、そのヘッジ対策にもリスクもある。正解はだれにも分からないが、考え方の一部は本書が教えてくれる。帯の通り「『その日』は来る。恐れるな。しかし備えよ!」だと思う。

 

中野京子『名画で読み解く イギリス王家 12の物語』光文社新書 2017

「ナショナル・ポートレート・ギャラリー King & Queen展」(@上野の森美術館)で展覧会公式参考図書として指定されていた一冊。チューダー朝からハノーヴァ―朝までのイギリス王室の歴史を王家を描いた絵画とともに辿る。中野さんの著作は「怖い絵」シリーズを始め幾つか読んでいるが、読者をひきつける筆力はいつも感心するばかりだ。絵画の歴史的背景とともに、王家の人々が人間味一杯に描かれ、頭の中でイギリス史がドラマティックに躍動する。


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都響/大野和士 チャイコフスキー:バレエ音楽《くるみ割り人形》op.71 全曲

2020-12-27 07:30:44 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

先週のN響が演奏会納めのはずだったが、衝動的に追加購入。都響がギルバート・第九の代わりに組んだ特別コンサート。ここ数年、バレエの「くるみ」は観に行けてないけど、この時期の「くるみ」は第九と並んで季節の風物詩として大好きな演目なので、飛びついてしまった。

普段はバレエの伴奏的に聴くことが多いので、組曲版は聴いたことがあるけど、全曲をオーケストラの演奏会で聴くのは初めて。

チャイコフスキーのメロディは美しさの極みで、穏やかで暖かい夢の世界に連れて行ってくれる。第12曲のディヴェルティスマンの6曲の踊りとか、聴いている方も体が動きだしそう。こんな音楽を創造したチャイコフスキー凄すぎ。

都響と大野のスケールの大きな演奏も素晴らしい。四方さん、矢部さんのコンマス揃い踏みに加えて、チェロには一時N響でリーダーもやられていた向山さんが出演されるなど、豪華メンバーだった。私が見える範囲では、奏者の方はどなたもマスクはされてなかったので、一人ひとりしっかり確認できた。

コロナ感染拡大もあってか、ホールはやや寂しい入りだったが、拍手は大きく暖かい。満足感に溢れたものだった。

 

日時:2020年12月25日(金) 19:00開演(18:00開場)
場所:東京文化会館

指揮/大野和士
女声合唱/二期会合唱団(事前収録による出演)

チャイコフスキー:バレエ音楽《くるみ割り人形》op.71 全曲

 

Date: Fri. 25. December 2020 19:00 (18:00)
Venue: Tokyo Bunka Kaikan

Kazushi ONO, Conductor
Nikikai Chorus Group, Female Chorus

Tchaikovsky: The Nutcracker, op.71


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今年下期に読んだ本(2):実用編

2020-12-25 07:31:59 | 

森川 博之『5G 次世代移動通信規格の可能性』 (岩波新書、2020)

その世界の第一人者が執筆しているだけあって、文字中心のテクノロジー入門書にもかかわず、読み易くかつ面白い。これはなかなか珍しい体験。技術解説書ではなく、モバイル通信の過去・現在・未来について語ったもの。私は、第4章「激化するデジタル覇権のゆくえ」で米中の5G戦争、そして日本企業について触れられているくだりが最も興味深かった。

内山悟志『未来IT図解 これからのDX デジタルトランスフォーメーション』(エムディエヌコーポレーション、2020)

見開き2ページで1テーマ、しかも必ず図解入り、という入門書のお手本のような作りなので、読み易い。しかも、幅と奥行きの広いDXの世界を、コンパクトに重要な部分がしっかりと書き込まれていて、非技術者向けのDXの教科書としてはこれ以上のものは未見。DXとは何ぞやを知りたい人はまず本書を手に取るべし。

 

マイケル・ワトキンス (著), Michael Watkins (著), 伊豆原 弓 (翻訳)『ハーバード流マネジメント講座 90日で成果を出すリーダー』(翔泳社、2014)

転職、異動、昇進と言ったキャリアの転機があった際に、最初の3カ月何をして、どう成果を上げるかを解説した本。べたなノウハウ本なので、人による好き嫌いはあるかもしれないが、この夏、仕事が大きく変わった私は、大きく本書に助けられた。新しいチームでのコミュニケーション、上司との期待値の併せ、組織の修正、チーム外の人間関係構築、自己管理などなど、私も随分長く会社員やってきてそれなりの自己ノウハウは持っているつもりだが、自らのノウハウ整理も含めて、とっても勉強になった。90日が過ぎても、1年間は手元に置いておきたい本。


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今年下期に読んだ本(1):お仕事編

2020-12-21 07:30:40 | 

本当は1冊1冊を個別エントリーでコメントしたいところなのですが、横着してまとめて一言感想文で。

ニール・ラッカム (著), 岩木貴子 (翻訳) 『大型商談を成約に導く「SPIN」営業術』海と月社、2009

法人営業に携わる人なら必読の一冊。読んだからできるわけではないが、知っておく必要はある。営業マンがお客の真のニーズを掘り起こすための、4つの質問「状況(Situation)質問」、「問題(Problem)質問」、「示唆(Implication)質問」、「解決(Need-Payoff)質問」の使い方を指南してくれる。

高橋 勝浩  (著)『ソリューション営業の基本戦略』ダイヤモンド社、2005

法人営業の教科書と言ってもいい良書。発刊より時は経ているものの、基本は変わらないということを示してくれる。営業に初めて従事する人は必読だと思うし、ベテランが基本に返るにも良い。

水嶋 玲以仁  (著)『リモート営業入門』 日経文庫、2020

コロナ禍における非対面営業の基本を解説した一冊。どの会社も営業の在り方に悩んだこの年、タイムリーな企画だ。内容も基本が抑えられており、あらゆる営業パーソンがどこか気づきを得るに違いない。


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大感動! N響/井上道義 12⽉公演  @サントリーホール

2020-12-18 07:30:00 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

今年の演奏会納めは、超バズーカ砲だった。井上道義さん(ミッチー)指揮のロシアプログラム。期待も大きかったが、その期待をはるかに上回るコンサートだった。

前半は私が大好きなプロコフィエフのシンデレラから抜粋。季節的にもぴったりだ。冒頭から暖炉の温かい空気に包まれるようなアンサンブルにうっとり。その後も伝統と革新を両立させたプロコの音楽を、N響の素晴らしい個の技と合奏力が立体的に浮かび上がらせる。この日は珍しくオーケストラ後方のP席に陣取ったのだが、曲と一体化したようなミッチーの五体を駆使した指揮姿も拝見できて、お得感満載。目の前にいるパーカッションの皆様の緊張感も直に伝わり、ミッチーと目があった気までして、まるで自分がステージに立っているような緊張感を持って、音楽を全身で聴いた。

後半はチャイコフスキーの交響曲第4番。生で聴くのは随分久しぶりだが、ここでもN響の個人技とアンサンブル力がこれでもかと言うほど見せつけられた。オーボエ、ファゴットのソロの美しさは体が溶けるようだし、最終楽章の爆演による陶酔はまさにエクスタシーだった。先週もそうだったが、ブラボーを叫べない欲求不満というか、もどかしさには地団駄踏む思いだ。その分、手が痛くなるまで拍手を続けた。

ツイッターでも話題になっていたが、大きなサプライズは2-3割しか入ってない観衆の入り。コロナ感染拡大中とはいえ、通常時はサントリーホールの定期演奏会のチケット入手はめちゃハードル高い。私も長くN響聴いているが、こんな寂しい入りは初めてだ。それでも大きな収穫は、観客の入りと会場の雰囲気は全く関係ないということだ。感動の種類は人によって違うだろうが、気持ちを動かされたという意味では聴衆は同じ感動を共有していた。大きく、暖かく、満ち足りた拍手が惜しみなくミッチーとN響に寄せられた。こんな会場の雰囲気はなかなか無い。この日の聴衆の感動シグマは、完売でも7割ぐらいの入りもある定期演奏会の感動シグマよりも間違いなくずっと大きなものだった。団員がステージから去っても拍手は鳴りやまず、ミッチーがマロさんを連れて登場。

この日、この場に居合わせることができた幸せをかみしめながら、ホールを後にした。

NHK交響楽団 12⽉公演 サントリーホール
2020年12月16日(水)7:00pm
サントリーホール 

指揮:井上道義

プロコフィエフ/バレエ音楽「シンデレラ」作品87(抜粋)
チャイコフスキー/交響曲 第4番 ヘ短調 作品36

NHK Symphony Orchestra December Concerts at Suntory Hall
Wednesday, December 16, 2020 7:00p.m.
Suntory Hall

Michiyoshi Inoue, conductor

Prokofiev / "Cinderella," ballet Op. 87 (Excerpts)
Tchaikovsky / Symphony No. 4 F Minor Op. 36

 

 


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原田慶太楼×新日本フィル オペラ・ガラ&ベト7 @調布市グリーンホール

2020-12-16 07:30:00 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

前半は『フィガロの結婚』序曲で始まり、オペラの名曲5曲(アンコール含み)、そして後半はベートーヴェン交響曲第7番という嬉しい充実のプログラム。ふんだんに楽しませてもらいました。

ソプラノの鷲尾さんは新国立劇場で「魔笛」のパパゲーナ役で出演されたのを聴いています。とってもチャーミングな方で、歌声も透明感あって美しい。バリトンの清水さんは初めてでしたが、迫力ある低音です。アンコールでの「メリー・ウィドウ」からの重唱は痺れました。

後半のベートーヴェン。原田さんの指揮は11月のN響に引き続きですが、情熱的でメリハリある指揮がいいですね。新日フィルも精一杯応え、熱い演奏が展開されました。

感染防止対策ということで隣席を空にしての配席とは言え、会場はほぼ満員。大きな拍手が寄せられました。

 

フレッシュ名曲コンサート 原田慶太楼×新日本フィル オペラ・ガラ&ベト7
公演日時 2020年12月13日(日)14:00~ 
会場   グリーンホール 大ホール
出演者  原田慶太楼(指揮)
     鷲尾麻衣(ソプラノ)
     清水勇磨(バリトン)

     新日本フィルハーモニー交響楽団(管弦楽)

プログラム
モーツァルト:歌劇『フィガロの結婚』序曲
ヴェルディ:歌劇『椿姫』より 「プロヴァンスの海と陸」(バリトン:清水勇磨)
ビゼー:歌劇『カルメン』より 「何を恐れる事がありましょう」(ソプラノ:鷲尾麻衣)
ヴェルディ:歌劇『仮面舞踏会』より 「お前こそ心を汚すもの」(バリトン:清水勇磨)
ドニゼッティ:歌劇『ドン・パスクワーレ』より 「騎士はあの眼差しを」(ソプラノ:鷲尾麻衣)
ベートーヴェン:交響曲第7番 イ長調


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NHK交響楽団、秋山和慶指揮、@東京芸術劇場 ベートーヴェン生誕250年プログラム

2020-12-13 07:30:37 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

秋山和慶、N響のベートーヴェン生誕250年プログラム。諏訪内晶子さん独奏のヴァイオリン協奏曲聴きたさに2日連続で東京芸術劇場に足を運びました。

諏訪内さんの演奏を聴くのは2009年のBBCプロムス以来11年ぶりです。薄桃色の煌びやかなドレスで現れた諏訪内さんは、この10年で更に落ち着いた大人の風格を備えたようにお見受けしました。

冒頭からその美しい音色に魅了されます。透明感あふれる音の中に微妙な憂いを含んだ情感も感じました。以前「技巧は素晴らしいが教科書的でもって自己主張が欲しい」というような評を耳にしたこともありますが、いやいや、今の諏訪内さんの演奏はしっかりとした自己主張を感じるものです。まあ、素人の手前勝手な感想ですが、この10年の経験や修練による成熟を感じた次第です。40分余り、これ以上はない集中度で聴きました。

諏訪内さんと秋山さん・N響とのコラボも素晴らしい。諏訪内さんを引きたてつつ、決して表には出すぎない。管楽器とのハーモニーは体が溶けそうになります。時には、独奏者とオケの火花が出るような激突を楽しむコラボもありますが、今日は全くその逆を行く調和の美を楽しむものでした。

コロナ感染拡大もあってか、会場は7割程度の入りでしたが、演奏後は会場からあふれるばかりの大きな拍手が寄せられました。ブラボー禁止が今日ほど恨めしく思われたのは、決して私だけではないでしょう。拍手でしか表せないのが悲しい。

前半のエグモント序曲、「セリオーソ」(弦楽合奏版)も秋山さんとN響の息の合った演奏が素晴らしかったです。秋山さんの指揮は、直球、端正、実直というような言葉が似あいます。そして、その棒先から生まれるオケの音は実に美しい。印象としては、今年お亡くなりになった、マリナーさんとN響の音を思い出しました。

私的には、今年もっと印象に残ったコンサートの上位入り間違いない演奏会となりました。

 

NHK交響楽団 12⽉公演 東京芸術劇場
2020年12月11日(金)7:00pm
2020年12月12日(土)2:00pm

東京芸術劇場

ベートーヴェン生誕250年
ベートーヴェン/「エグモント」序曲
ベートーヴェン(マーラー編)/弦楽四重奏曲 第11番 ヘ短調 作品95「セリオーソ」(弦楽合奏版)
ベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61

指揮:秋山和慶
ヴァイオリン:諏訪内晶子

NHK Symphony Orchestra December Concerts at Tokyo Metropolitan Theatre

Friday, December 11, 2020 7:00p.m.
Saturday, December 12, 2020 2:00p.m.

Tokyo Metropolitan Theatre

The 250th Anniversary of Beethoven's Birth
Beethoven /"Egmont," incidental music Op.84 - Overture
Beethoven (Mahler) / String Quartet No. 11 F Minor Op. 95 "Serioso"(String Orchestra Version)
Beethoven / Violin Concerto D Major Op. 61

Kazuyoshi Akiyama, conductor
Akiko Suwanai, violin


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博多 朝0.5時間観光 @櫛田神社

2020-12-09 07:30:00 | 日記 (2012.8~)

11月初旬に9年ぶりに博多・福岡に出張。あいにく、スケジュールパンパンで、ブラ歩きの時間はなかったのですが、ホテルが「博多祇園山笠の櫛田入り」として有名な櫛田神社に隣接する場所にあったため、朝の30分を使って櫛田神社を初めて訪れました。

博多の総氏神様であり、757年創建という古い歴史を有し、天照皇大神(大神宮)、大幡主大神(櫛田宮)、素戔嗚大神(祇園宮)が祀られています。敷地はさほど大きいものではありませんが、落ち着いた佇まいが歴史を感じさせます。

朝7時前ということもあり訪れる人もまばらで、静寂に包まれた境内に立っていると自身が浄化される感覚になります。お堂の彫り物とかも凝っています。


〈かわいい風神〉


〈かわいい雷神〉

本堂の裏に山笠の収納庫があり、正面と後ろ面の両面で鑑賞できます。その一つひとつの凝った装飾を見ていると、時間が経つのを忘れてしまいます。



〈桃太郎の鬼退治〉

たった30分の単発の観光ですが、満足感はとっても高く、皆さんにお勧めできるスポットです。

(付録)前夜に食した長浜ラーメン 旨かった! @ナンバーワンラーメン


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高松 朝2.5時間観光 @栗林公園、さぬきうどん、高松城跡

2020-12-05 07:30:00 | 日記 (2012.8~)

10月下旬に出張で高松に行った際、隙間時間を使ってプチ観光を楽しみました。

まずは高松一の観光名所、栗林公園(リツリン)へ。この公園、「国の特別名勝に指定されている文化財庭園の中で、最大の広さを持つ栗林公園は、高松藩主松平家の別邸として、歴代藩主が修築を重ね300年近く前に完成」(公園ホームページより)したものです。何と、この時期は朝6:00から、夏場は5:30から開園しています。

6時50分に入園し、江戸時代初期の大名庭園として優れた地割り石組みを有すると言われる南庭を中心に散策しました。平日のこんな早朝ですから、訪れる人も疎らで、広い庭園を独り占め。

以前なら「所詮は庭でしょ」ということで庭園内を歩くなどの風流は持ち合わせていませんでしたが、年齢を重ねてきたおかげで、最近やっと庭園の良さが分かってきた気がします。そんな初心者の私にも、栗林公園の借景の素晴らしさは、文句なしに実感できる素晴らしいものでした。しかも丁度、朝日の昇る時間帯で、光の当たり具合が変わり、庭園の表情が移ろっていく様子はとても言葉にできない崇高さで、身体が浄化していくような感覚になります。

もっと時間をかけてゆっくりしたいところでしたが、お尻の時間も決まっているので1時間ほどの滞在で退園し、朝ご飯目的で、近くのさぬきうどん屋さんへ。お店を入ったら、奥に厨房があって、そこからおかみさんが顔を出して、「どうします?」とお尋ね。ここほぼ完全セルフ方式で直接注文は、玉数に応じた大中小だけ(小:1玉、中:2玉、大:3玉」)。玉数×170円で値段が決まります。どんぶりに入って渡されたうどんを自分で湯上げして、汁を注ぎ、ネギ、しょうが類を加えて、マイうどんの出来上がり。かき揚げなどのトッピング類が欲しい人は、トッピング台で皿に盛られた天ぷら類をとって、追加料金を払います。この合理的システムは感動的でしたが、うどんの口の中での馴染み方や御出汁の香り・味わいもとっても美味しい。170円の最高の朝ごはんとなりました。

残った時間で、琴電に乗って史跡高松城跡(玉藻公園)へ。天正16年(1588)、豊臣秀吉の家臣生駒親正によって築城された水城で、日本三大水城(高松城・今治城・中津城)の一つに数えられているとのことです。敷地内をブラ歩きして、秋の朝のわずかな時間を楽しみました。

駆け足の2.5時間高松ブラ歩き。身動きままならない出張が殆どですが、こうした隙間を突ける出張もたまにあるのが嬉しいです。


〈前夜も食べたうどん〉


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ブレイディみかこ『ワイルドサイドをほっつき歩け ――ハマータウンのおっさんたち』(筑摩書房、2020)

2020-12-02 07:30:00 | 

ベストセラーとなった『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』が現代イギリスの社会・教育事情のレポとしてとっても良書であったので、今年6月に発刊された本書を読んでみた。ブレグジット議論でイギリスが割れる中、筆者と交流があるワーキングクラスのオジサンたちの実情から、移民、福祉国家、階級社会の変化、世代格差などの現代イギリス社会を切り取ったエッセイ(ルポルタージュ)である。

本書を含めまだ2冊しか読んでないが、筆者の著作が良いのは、現地のイギリス人社会で生計を立てている経験の中からの観察・考察であるが故に、具体的でリアリティに溢れていることだ。そして、その日々の経験が単なる事実の組み合わせとしてでなく、社会的・政治的・歴史的背景をもとに観察され記述される。あまり比較はしたくないが、日本人のジャーナリストが、取材に出かけて取ってくる情報とは事実の迫力が違う。

私自身、トランプの支持層についての著作については何冊か読んだが、それと対をなしているかのようなイギリスのブレグジットについては新聞、SNSで読んでいた程度なので、本書でその支持層の考え方や背景の一部が分かって勉強になった。本書の主人公であるおじさんたちの「古き良き」イギリスへの思いは、4年程度ではあるが私のイギリス生活を振り返っても思い当たる経験はあった。

印象深かったコメントは、経済成長期と現代の若者に関するくだりだ。尾崎豊の反抗は「盗んだバイクに乗って学校のガラス窓を打ち割って廻っても、その気になれば大学に行って就職して家庭を築けた経済成長時代の若者」によるものであり、「縮小社会言説がまことしやかに語られる時代の若者たちが天真爛漫にガラス窓を打ち割るわけがない。」「「敗者の美」なんて風流なものを愛でたのももう昔の話で、明けたら下層民(チャヴ)にしかなれない若者たち。」今どきの若者を語る時に、決して見逃してはいけない一側面だと思う。

筆者は政治家、官僚、学者、ジャーナリストの類でないので、本書に解決策を期待してはいけない。私自身は、筆者が批判の矛先を向ける「緊縮財政」だけが問題ではないと思うし、「緊縮財政」はこれまでの「EU」の政策とも深く結びついているはずだ。なので、政策的には必ずしも筆者の意見に賛同できないところもをある。そうした点を踏まえても、筆者の人間に対する優しい視線は素晴らしいし、読んでいて新たな視点を与えてくれる。

本書もお勧めできます。


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