下山進 『2050年のメディア』 文藝春秋、2019
デジタル革命が引き起こしたメディア産業の変化(紙媒体からデジタルへ)を関係者への取材等を元に書き起こしたノンフィクション。紙・販売店網に固執する読売、デジタルに舵を切る日経、新興メディアの雄となったYahoo、3社の動きを中心にした臨場感あふれるレポートだ。
いろんな読み方ができる。現代メディア史のテキストとして、「イノベーションのジレンマ」のケーススタディとして、メディア界の重鎮たちの人間ドラマとして、そしてスキャンダルの裏話としてなど・・・。面白いし、勉強にもなり、読み始めると止まらない読み物だ。筆者の熱意と汗を感じる力作。1点注意は、メディアの未来を論じたものではなく、未来を考えるために過去を振り返る本なので、タイトル通りの論点を期待すると肩透かしに合う。
橘玲『国家破産はこわくない』講談社α文庫、2018
国の債務1300兆円(世界2位)、GDP比にして237%(1位)。日銀のETF保有残高は45兆603億円(2021年11月、時価ベース)で日本株の最大の保有主体。コロナ禍で傷んだ経済を支えるためとはいえ、次世代に益々の借金を負わせる数々の支援金・補助金、Go To。カンフル剤に支えられた日本経済は、どう見てもサステイナブルとはとても思えない。そんな中で、我々一般市民はどうなけなしのお金を守ればいいのか?
ヘッジすればヘッジしたで、そのヘッジ対策にもリスクもある。正解はだれにも分からないが、考え方の一部は本書が教えてくれる。帯の通り「『その日』は来る。恐れるな。しかし備えよ!」だと思う。
中野京子『名画で読み解く イギリス王家 12の物語』光文社新書 2017
「ナショナル・ポートレート・ギャラリー King & Queen展」(@上野の森美術館)で展覧会公式参考図書として指定されていた一冊。チューダー朝からハノーヴァ―朝までのイギリス王室の歴史を王家を描いた絵画とともに辿る。中野さんの著作は「怖い絵」シリーズを始め幾つか読んでいるが、読者をひきつける筆力はいつも感心するばかりだ。絵画の歴史的背景とともに、王家の人々が人間味一杯に描かれ、頭の中でイギリス史がドラマティックに躍動する。