その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

調布国際音楽祭 鈴木優人 指揮、バッハ・コレギウム・ジャパン 《後宮からの誘拐》

2019-06-30 07:30:00 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

今年も調布国際音楽祭に行ってきた。毎年通っていると分かるのだが、この音楽祭、年々プログラムが進化している。昨年ついにモーツァルトの《バスティアンとバスティエンヌ》と《劇場支配人》2本の短編物オペラがプログラム入りしたのが狂喜だったが、今年はさらに後宮からの誘拐という本格オペラプログラムに発展していた。それも金・土の2回公演。私は、土曜日に公演に足を運んだ。会場は調布市の複合文化施設の中にある500名ほどの中ホール。

歌は原語(字幕付き)だけど、台詞は日本語でつなぐので実に分かりやすいし、所々に地元調布市のネタや本音楽祭のエグゼクティブ・プロデューサーである鈴木優人氏と監修を務める鈴木雅明氏の自虐的親子ネタなども織り込まれ、実にアットホームで暖かい雰囲気を醸し出している。こうした「手入れ」が、作品の本来の良さを損ねるということは全くなく、むしろ親しみやすさを増すという意味で、とっても良いと思った演出だった。

そして、音楽の方は、演奏がBCJ、歌手陣も実力派揃いで、文句なく一流レベル。これがこの中規模の手が届く様なところで聴くことができるという何という贅沢さだろう。古楽器を使ったBCJの演奏は、モーツァルトのオペラの雰囲気にぴったり。奏者一人一人の発する音がしっかり分かる環境で、一つ一つの音、アンサンブルを噛みしめて耳を傾けた。

歌手陣ではヒロイン・コンスタンツェ役の森谷真理さんの大きな声量と高く澄んだソプラノが群を抜いていた。他の独唱陣が台本(楽譜と台詞が記載されているようでした)を持ちながらの歌唱・演技だったのに対して、彼女は(殆ど台詞が無いからか?)台本無しで、観客席に正面を向いての横綱歌唱。普段、新国立劇場4階や文化会館の5階で聴いている私には、歌声が自分の身体に直接ぶつかってくるエクスタシーを久しぶりに感じた。

バッハの受難曲で何度か素晴らしい歌唱を聴かせてもらっている櫻田さんのテノールは、相変わらず安定して美しい。ただ、あえて言うと、特に台詞も多いこの役柄もあってか、台本に目を落とすことがかなり多く、演技も入るこの演出では物足りないところがあった。特に重唱もある森谷さんとのコンビは、森谷さんの堂々たる歌いっぷりにやや押され気味で、バランス上も櫻田さんの良さが出きってないように見受けられたのは残念だった。

全体を通してとっても満足度の高い、良い公演だったのは、指揮と演奏とセリム役の3役を演じた鈴木優人さんの仕切りのうまさや雰囲気作りが大きく影響していると思う。さて、来年はさらにどう進化を遂げるのか?今から楽しみである。 

《後宮からの誘拐》
Opera Matinee “Die Entführung aus dem Serail”

演奏会形式
日本語字幕付・原語上演/180(休憩含む)

Concert Performance (in German, with Japanese surtitles)
Duration: 3 hours including intermission

日時:629日(土) 14:00 
Saturday, June 29

場所 調布市文化会館たづくり くすのきホール  
Chofu City Culture Hall, Kusunoki Hall

曲目

モーツァルト:後宮からの誘拐 KV 384 (全3幕)
Wolfgang Amadeus Mozart: “Die Entführung aus dem Serail”, KV 384

出演

指揮/セリム:鈴木優人
Masato Suzuki, Conductor/ Selim

管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン
Bach Collegium Japan

演出: 田尾下
Tetsu Taoshita, Director

 

コンスタンツェ[ベルモンテの婚約者]:森谷真理(ソプラノ)
Konstanze: Mari Moriya, Soprano

ベルモンテ[スペインの貴族]:櫻田 亮(テノール)
Belmonte: Makoto Sakurada, Tenor

ブロンデ[コンスタンツェの召使]:澤江衣里(ソプラノ)
Blonde: Eri Sawae, Soprano

ペドリッロ[ベルモンテの召使]:谷口洋介(テノール)
Pedrillo: Yosuke Taniguchi, Tenor

オスミン[太守の監督官]:ドミニク・ヴェルナー(バス)
Osmin: Dominik Wörner, Bass

 


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〈奈良大和四寺のみほとけ〉展 @東京国立博物館

2019-06-25 00:16:35 | 美術展(2012.8~)

ゴールデンウィークに奈良の室生寺、長谷寺を訪ねたが、それらに阿部文殊院と岡寺を加えて、いずれも7〜8世紀に創建された古刹が保有する仏像の企画展示が東博で開催されている。
東博への入場料だけで見学できる。展示品は多くはないだが、質が高くお勧めだ。

嬉しかったのは、室生寺の金堂で見たばかりの十二面観音像と地蔵菩薩に再会できたこと。お堂で観るのが本来なのだろうが、照明等で鑑賞用に展示してある両仏はひときわ芸術品として美しく映える。十二面観音の薄く残った色合いもお堂の中よりはっきり見える。平和で、豊かなご尊顔も良い。地蔵菩薩は菩薩さまもさることながら、光背の模様・美しさに今更のように気づいた。お堂の中で30分居座ってみていたはずなのに、全然見ていなかったようだ。現場には現場でなければ存在しない「気」が漂い、その中で全身全霊的に仏像を受け止めるが、博物館での展示になったとたんにそうした精神性は失せ一つの芸術品となる。どっちがいい/悪いを言うものではないと思うが、まだ現場の記憶・体感が新しいこのタイミングで、違いを実感できたのは興味深かった。

長谷寺の仏たちも、長谷寺ではご本尊の巨大観音の印象が強すぎたので、どの仏像もあまり記憶がなかったが、非常に繊細な仏像たちだ。
行けなかった岡寺の義淵僧正坐像がまるで本物の人と対しているようで怖いぐらい。

お勧めです。

2019年6月21日訪問


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森功 『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』(講談社、2018)

2019-06-24 07:30:00 | 

 昨年、積水ハウスが土地の取引に絡んで60億にものぼる金額の詐欺の被害に遭ったというニュースを聞いて、不動産業界の大手である積水ハウスのような大企業がなぜ?と頭の中が疑問符だらけだった。本書は、その積水ハウス事件を初め、いくつかの土地取引に絡む詐欺事件がレポートされる。

  それにしてもどの事件も分かりにくい。各ケースどれも複雑に取引関係が絡み、一体だれが本当に「悪い」やつなのか明確なものは少ない。公的書類までが偽造されるのだから、何をどこまで信じるられるのか、何とも難しい。

 幸か不幸か、私には騙されるような不動産も持たないので被害者となる状況は想像できないが、世のいろんな「悪」を知っておくことは、この世を平穏に生きるためには必要なことだ。


目次

第1章 「積水ハウス」事件
第2章 地面師の頂点に立つ男
第3章 新橋「白骨死体」地主の謎
第4章 台湾華僑になりすました「富ヶ谷事件」
第5章 アパホテル「溜池駐車場」事件の怪
第6章 なりすまし不在の世田谷事件
第7章 荒れはてた「五〇〇坪邸宅」のニセ老人


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混んでても、これは行くべき! 「クリムト展 ウィーンと日本 1900」 @東京都美術館

2019-06-21 07:30:00 | 美術展(2012.8~)

 今年の数多い展覧会の中でも最も楽しみにしてきたのがこの「クリムト展」である。クリムトの絵をまとめてみる機会はウィーンにでも行かない限りなかなかない。本展では「日本では過去最多となるクリムトの油彩画25点以上」が展示されている。

 空いているはずの金曜日の夜間開館を狙って行ったが、さすが人気画家である。夜間とは思えないほどの人の多さだった。絵に目の前で一枚一枚立ち止まって鑑賞するというわけにはいかないが、少し離れれば最前列で行列をなして進む鑑賞者のペースに巻き込まれずに自分のペースで観ることできたので、良い方なのかもしれない。

 館内に入って比較的直ぐに「へレーネ・クリムトの肖像」の少女に目を奪われる。白のバックに白のドレスをまとった横顔の少女は可愛らしく、描かれた金髪がフェルメールの描いた絨毯のようにソフトで本物の髪の毛のように浮き上がって、生きているかのようだ。絵の前を通る女性鑑賞者の多くが「可愛い~」とつぶやいて通っていく。私は思もわず、立ち止まりその少女に暫し見惚れてしまった。

 今回の目玉の一つ「ユディト」。これは以前ウィーンに行ったときに見たので10年ぶりのぐらいの再会だ。この作品、ポスターとかで世に出回るときは、部分のみが切り取られていることが多く、絵の右下端にホロフェルネスの首が半分ぶら下がっているのが分からない。久しぶりに見るユディットはやはり官能性と怪奇性がミックスされた異次元の絵だった。


グスタフ・クリムト《ユディトⅠ》1901年 ウィーン、ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館

 今回の収穫は、「女の三世代」とレプリカではあるが「ベートーヴェン・フリーズ」が観れたこと。「女の三世代」は、奈良で先日観たばかりの版画家ヨルク・シュマイサーが、同じ版を使って女性の一生を何枚もの版画で追ったのと同じテーマ。人生のはかなさを感じさせる。

 また、「ベートーヴェン・フリーズ」は目測、縦10メートルちょっと、横5メートルぐらいのコの字型の白い壁に、ベートーヴェンの第九交響曲をテーマに描かれた壁画。室内には第九の第四楽章の「歓喜の歌」部分が静かに流れ、芸術による人類の救済が音楽と絵で表現されていた。絵のユニークさもさることながら、厳粛な気持ちにさせる空間が好みだった。(これもウィーンで観てるはずなのだけど、全然記憶にない)

《ベートーヴェン・フリーズ》のベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館の展示模様 (インターネットから拝借)

 やっぱりクリムトの絵はいい。確かな画力(まあ私が言う話ではないが)に加えて、斬新なデザイン、奇抜な表現、大胆な色遣いが強烈に人を引き付ける。これほど強い磁力を感じる画家はそうはいないだろう。

 日中帯は既に相当混み合っているようだが、この機会は逃すことのないよう、強くお勧めしたい。

2019年6月7日訪問

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N響6月C定期: パーヴォ・ヤルヴィ指揮/ ブルックナー交響曲第3番ほか

2019-06-16 08:00:00 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

私にとっては今シーズン最後のN響定期演奏会。雨で客入りが心配だったが、ブルックナー効果なのか、ぱっと見9割以上の客席が埋まっており喜ばしい限り。最近、寂しい入りの演奏会が続いていたから。

大入りの聴衆に応える素晴らしい演奏が前半から続いた。一曲目のウェーベルン編曲のバッハ「リチェルカータ」は初めて聞いたが、のっけから極上の音楽だった。音楽自体の持つ美しさをパーヴォとN響はそのままに聴かせてくれた。

続いてのベルグのヴァイオリン協奏曲の独奏はシャハムさん。N響とはもう何回も共演をしているようだが、私は初めて。ただ、今となっては殆ど記憶が飛んでいるが、本ブログによると(検索できるのがブログ日記の最大のメリットだ)、9年前にミネソタ管とのコンビで同じ曲をプロムスで聴いていた。

シャハムの演奏スタイルは前後左右に小刻みに動く。指揮者やコンマスとぶつかりはしないが心配になるほど。その落ち着きのない(失礼!)演奏フォームから紡がれる音色は、「強い」「大きい」という類のものではないのだが、良く鳴り、響き、美しい。N響との組み合わせも素晴らしく、ヴァイオリンとオケの音がホールの中で溶け合い、化学反応を起こしながら移ろっていく。ブルグのこの曲は、聴き慣れないとなかなか難しいと思うのだが、至福の時間だった。

アンコールでバッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番から「ガヴォット」が演奏された。もうヴァイオリン演奏の王道ともいうような堂々たる演奏に、観衆一同固唾をのんで聞き入り、大感動。終演後は大きな大きな拍手が寄せられた。

 後半はブルックナーの交響曲第3番。ブルックナーはどちらかと言えば苦手科目な私には、初めて聴く曲。印象に過ぎないが、パーヴォはいつもながら、明快に交通整理して、オケがそれにしっかり反応している。クリアかつ明快で聞きやすいので、初めてでも迷子にならない。N響も個々のパーツでは外したところもあったように聴こえたが、合奏力の強さを見せつけた。今日はゲストコンサートマスターとして、ミュンヘン・フィルのコンサートマスターロレンツ・ナストゥリカ・ヘルシュゴヴィッチさんが入っていたが、この方の音色も際立っていた。さらに、これまたゲストの外国人トップであったビオラも素晴らしく第3楽章など大いに盛り上げてくれた。終演後の大きなコールや拍手を聴く限り、ブルオタさん達も満足していた様子である。

シーズンエンドの演奏会にぴったりの迫力ある熱演で締めくくってくれたパーヴォ、N響には感謝で一杯だ。ほぼ満員のホールからの拍手はここ数回の演奏会よりも一回り大きく、やっぱり入りの良い演奏会は気持ちよいと思った。SNSを眺めているとパーヴォの指揮は好き嫌いが分かれる傾向もあるような気がするが、私個人は、N響は確実にレパートリーを広げ、レベルも上げていると思う。来シーズンも大いに期待してます!

 

1916 定期公演 Cプログラム
2019615日(土) 開場 2:00pm  開演 3:00pm
NHKホール 

バッハ(ウェーベルン編)/リチェルカータ 
ベルク/ヴァイオリン協奏曲「ある天使の思い出のために」
ブルックナー/交響曲 3 ニ短調(第3稿/1889 

指揮:パーヴォ・ヤルヴィ
ヴァイオリン:ギル・シャハム

 

No.1916 Subscription (Program C)
Saturday, June 15, 2019  3:00p.m. 
NHK Hall

Bach/Webern / Ricercata
Berg / Violin Concerto
Bruckner / Symphony No.3 d minor (Third Version / 1889)

Paavo Järvi, conductor
Gil Shaham, violin


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題名どおり・・・高橋 明也 『美術館の舞台裏: 魅せる展覧会を作るには』 (ちくま新書、2015)

2019-06-14 07:30:00 | 

三菱一号館美術館の館長さんが美術館・美術展の裏事情をエッセイ風に書きおろした一冊。展覧会の企画、開催に向けた作品集め、絵の運搬、展覧会の収支、学芸員の仕事、中国資本の影響、美術館でのお仕事、世界の美術館のサバイバル戦略、画商とオークションなどなど、広く浅くこの業界のトピックスについて紹介してくれて、メインタイトル通り「舞台裏」をのぞき見する感覚で楽しめた。

個人的には、西洋絵画と日本画のデリケートさの違い、絵の盗難事件、最近の新しい美術展の試みなどが、特に興味を引いた。

一方で、幅広く話題を提供してくれているが故に、一つ一つのトピックに対する掘り下げは浅く、「もっと、知りたい」との欲求不満は残る。業界の人であるだけに、書いていいことと書けないところの境界を意識しながら書いているのも透けて見えるので、少々じれったい。

特に自分の仕事柄か、美術展の収支なんかはもっと記述が欲しい。全体像を含めてどのくらいのビジネス規模で、収入や支出の構造や、収益分岐点はどのくらいなんだろうかなど、とっても気になってしまい、「おあずけ」を食らった感が強かった。まあ、企業秘密というのもわかるけどね。

一部深みにおいて物足りなさは残るものの、通勤電車の中で手軽に読めるし、足を運んでいる美術展をより立体的に理解することができるので、美術展好きにはお勧め。

《目次》

第1章 美術館のルーツを探ってみると…
第2章 美術館の仕事、あれやこれや大変です!
第3章 はたして展覧会づくりの裏側は?
第4章 美術作品を守るため、細心の注意を払います
第5章 美術作品はつねにリスクにさらされている?
第6章 どうなる?未来の美術館


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N響6月A定期: パーヴォ・ヤルヴィ指揮/ ニルセン 交響曲第2番ほか 

2019-06-12 07:30:00 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

今シーズンの締めはパーヴォさんの登場です。個人的には、シーズンの始まりとお尻は、そのオケの顔の指揮者で聞きたいと思うたちなので、今シーズンは最高の始まりと終わりです。

前半のゲルネさんの「角笛」が圧巻でした。N響/パーヴォ/ゲルネの組み合わせは今回で私は3回目で、いずれも素晴らしいものでしたが、その中でも今年は傑出していました。ゲルネさんは決して声量で聞き手を圧倒するというタイプの歌い手ではなく、むしろ聞き手の聞き耳を立てさせるような微妙なニュアンスや歌い方を味わせる歌声です。噛めば噛むほど味がでるスルメではありませんが、聴けば聴くほど味が出るような感覚。前のめりで聞きました。

そして、N響との食い合わせが素晴らしい。N響のアンサンブルの美しいことといったらこれも涙もの。伴奏ではなく、ゲルネの歌声に優しく、柔らかに寄り添い、絶妙の歌と楽器のコンビネーションが楽しめました。ほんと、ブラボー。もう前半だけで帰ってもいいやと思ったほどです。

後半はニルセンの交響曲第2番。私は全く初めて聴く音楽ですが、初めてとは思えないほど楽しめました。「標題音楽」ではないらしいのですが、「標題」らしきものがついているので、ちょっと先入観を持って聞いてしまっているところもありますが、夫々の楽章の違いが楽しめます。パーヴォさんは明快に音楽の構図を示してくれるので、初めてでも無理なく聞け、この曲の雄弁でスケール感のあるオーケストレーションを楽しめました。

話題の最前列の方が曲に遅れての着席で、興が削がれたことこの上なかったこと以外は最高の音楽体験でした。

 

1915 定期公演 Aプログラム
201969日(日)
開場 2:00pm
NHKホール 

マーラー/こどもの不思議な角笛*
ニルセン/交響曲 2 ロ短調 作品164つの気質」 

指揮:パーヴォ・ヤルヴィ
バリトン*:マティアス・ゲルネ

 

No.1915 Subscription (Program A)
Sunday, June 9, 2019
3:00p.m.  (doors open at 2:00p.m.)
NHK Hall

Mahler / “Des Knaben Wunderhorn”*
Nielsen / Symphony No.2 b minor op.16 “The 4 Temperaments”




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東京二期会 ヴァイグレ指揮「サロメ」 @東京文化会館

2019-06-10 07:30:00 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

東京二期会によるオペラ「サロメ」を観に東京文化会館に出かけた。二期会は一昨年同じヴァイグレ、読響のコンビで素晴らしい「ばらの騎士」を魅せてくれただけに、同じシュトラウスのオペラということで大いに期待して出かけた。

 公演は非常にレベルの高いもので大満足。歌手陣では、出ずっぱり、歌いつづめのサロメを日本人歌手がどう演じるかを心配半分、楽しみ半分だったけど、頭を尼さんのように完全に丸めた(この演出の意味は良く分からずじまい)森谷真理さんが、怪演とも言える大熱演で見事に歌い、演じきった。少女から大人への女性への変化を追うというより、妖気性が先行したようにみえた今回のサロメは個人的好みからは外れたものだったが、「7つのヴェールの踊り」から終幕まで森谷さんの独壇場で、私はその「気」に完全に飲まれ、固唾をのんで聞き入った。その他の歌手陣も大編成の読響オケに負けることなく、夫々の存在感を発揮していた。

 歌手陣同等かそれ以上に特筆すべきは、ヴァイグレと読響の演奏。「ばらの騎士」でよろめくようなうっとりする音楽を聴かせてくれた記憶がまだ新しいこのコンビだが、ここでは物語の猟奇性が持つ緊張感とシュトラウスの美しいメロディを、官能的に融合させた素晴らしい音楽を聴かせてくれた。サロメの音楽の美しさを再認識させられた演奏で、ブラボーである。

 デッカーの舞台は、舞台いっぱいに30階ほどの中央に裂け目のある階段を仕立て、裂け目の奥にヨカナーンが幽閉されている設定。色合いは殆どが白と黒とグレーであり、シンプルだが場面の異常性が浮き出る形になっている(どっかで似た雰囲気の舞台を観たと思って帰って調べたら、ロイヤルオペラで観た「ピーター・グライムズ」の演出がデッカーだった)。ただ、4階席右サイドの私の席からは階段の上部や右サイドの動きが死角になって全く見えなかったのは残念だった。また、「七つのヴェールの踊り」の動きは階段を上り下りや階段での左右の動きはあるものの、「踊り」に刃物だったので程遠いものだったので、「踊り」の演出を楽しみにしていた私にはやや拍子抜け感があったのも事実。

 ただ、そういったちょっとした不満をかき消すに十分の歌手陣とオケの熱演であり、(これまた非常に残念だったのだが)寂しめの観客席からも大きな拍手が寄せられ、私も手が痛くなるほどの拍手を送った。

 

 

サロメ〈新制作〉
オペラ全1
日本語字幕付き原語(ドイツ語)上演
原作:オスカー・ワイルド
ドイツ語台本:ヘドヴィッヒ・ラッハマン
作曲:リヒャルト・シュトラウス
会場:東京文化会館 大ホール
公演日:201968() 14:00

スタッフ

指揮:セバスティアン・ヴァイグレ
演出:ヴィリー・デッカー
演出補:シュテファン・ハインリッヒス
舞台美術:ヴォルフガング・グスマン
照明:ハンス・トェルステデ
演出助手:家田
舞台監督:幸泉浩司
公演監督:佐々木典子
公演監督補:牧川修一

 

キャスト

ヘロデ:今尾
ヘロディアス:池田香織
サロメ:森谷真理
ヨカナーン:大沼
ナラボート:大槻孝志
ヘロディアスの小姓:杉山由紀
ユダヤ人1:大野光彦
ユダヤ人2:新海康仁
ユダヤ人3:高柳
ユダヤ人4:加茂下
ユダヤ人5:松井永太郎
ナザレ人1:勝村大城
ナザレ人2/奴隷:市川浩平
兵士1:大川
兵士2:湯澤直幹
カッパドキア人:岩田健志

演奏:読売日本交響楽団

SALOME

Opera in one act

Sung in the original language (German) with

Japanese supertitles

Libretto in German by Hedwig Lachmann

based on the French play “Salomé” by Oscar Wilde

Music by RICHARD STRAUSS

 

SAT. 8. 14:00 June 2019

at Tokyo Bunka Kaikan (Japan)

 

STAFF

Conductor: Sebastian WEIGLE

Stage Director: Willy DECKER

Associate Stage Director: Stefan HEINRICHS

Set & Costume Designer: Wolfgang GUSSMANN

Lighting Designer: Hans TOELSTEDE

Assistant Stage Director: IYEDA, June

Stage Manager: KOIZUMI, Hiroshi

Production Director: SASAKI, Noriko

Assistant Production Director: MAKIKAWA, Shûichi

 

CAST

SAT. 8. Jun.

Herodes: IMAO, Shigeru

Herodias: IKEDA, Kaori

Salome: MORIYA, Mari

Jochanaan: ÔNUMA, Tôru

Narraboth: ÔTSUKI, Takashi

The Page of Herodias: SUGIYAMA, Yuki

First Jew: ÔNO, Mitsuhiko

Second Jew: SHINKAI, Yasuhito

Third Jew: TAKAYANAGI, Kei

Fourth Jew: KAMOSHITA, Minoru

Fifth Jew: MATSUI, Eitarô

First Nazarene: KATSUMURA, Daiki

Second Nazarene /A slave: ICHIKAWA, Kôhei

First soldier: ÔKAWA, Hiroshi

Second soldier: YUZAWA, Naoki

A Cappadocian: IWATA, Takeshi

 

Orchestra: Yomiuri Nippon Symphony Orchestra

 


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映画  「你好,之華」(監督:岩井俊二, 2018)

2019-06-08 07:30:00 | 映画

 

 私の好きな岩井俊二監督が中国で中国人キャストで撮り、中国で公開された作品。日本公開はまだのようだ。詳しい事情は知らないが、日本の実力映画監督が中国市場を対象に、中国で映画を撮る、そんな時代になったんだなあとしみじみ思う。

 GWのマレーシアからの出張帰りのJAL便で見たのだけど、見事に涙腺決壊で、フライトアテンダントの方に見られ恥ずかしかった。ストーリーは自殺した姉の代わりに同窓会に出席した妹が、若き日の姉に思いを寄せていた男性と出会い、姉になりすまし手紙を交換する中で過去と現在が交錯する中で二人が距離を縮めていく。岩井監督自身の小説「Last Letter」が原作とのこと。

 素朴で淡々と流れる映像に、静かな音楽がマッチする。舞台こそ中国で中国人が演じているが、物語は極めてユニバーサル。このデジタル時代に手紙のやり取りというアナログ的な設定に違和感を感じるかもしれないが、アナログ・メディアならではの良さが滲み出ている。役者さんも地に足がついた演技で自然体。私には主人公の娘役のはにかんだ、内気な少女ぶりが好印象だった。

 岩井監督らしい、日常と非日常の世界が混在する岩井ワールドに酔いしれた。人により好き嫌いはあるかもしれないが、岩井ワールド好きはハンカチを用意を。ネット情報だが、2020年には日本で日本人キャストで映画化されるらしい。

 

タイトル:你好,之华(你好、之華)

英題:Last Letter
監督:岩井俊二
公開日:2018年11月9日

周迅 (ジョウ・シュン)、秦昊 (チン・ハオ)

香港の名匠・陳可辛 (ピーター・チャン) がプロデューサーを務め、全編中国語、大連ロケを含むオール中国で撮影された作品です。


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「ヨルク・シュマイサー 終わりなき旅」 @奈良県立美術館

2019-06-06 07:30:00 | 美術展(2012.8~)

 こういう偶然があるから旅は楽しい。奈良市内を歩いていると、目についたのが県立美術館の特別展のポスター。東大寺を描いているのだが、デザインや色合いに魅かれる。よし、実物を見にいこうということで、事前の予定にはなかった県立美術館を訪問した。
 
名前も初めて聞いたヨルク・シュマイサー(1942-2012なる人は、ドイツに生まれ、日本に学び、オーストラリアを拠点に制作を行った版画家である。日本との縁も深く、京都に留学していたという。

  今回のテーマは彼自身のテーマであった「変化」に設定し、作品が展示されている。同じ版を使って女性の若き頃のポートレートから老婆となるまでの変化を追った作品群など、興味深い。

 また彼が旅したニューヨーク、アンコールワット、奈良、中国、中東といった国・地域・都市の版画も興味深かった。ユニークなデザイン、繊細な描写、優しい色遣いなど、どれも版画ならではの魅力にあふれている。版画を通じて、これらの町を自分も旅している気持ちになる。

 時間の制約から駆け足鑑賞になってしまったのが何とも惜しまれたが、逆を言うと何とも充実した新しい出会いの1時間弱だった。                                                                             

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『ラファエル前派の軌跡展』 @三菱一号館美術館

2019-06-02 09:49:49 | 美術展(2012.8~)

 金曜日の夕刻、週末突入の景気づけに好きな三菱一号館美術館に足を運んだ。ラファエル前派の理解者でありサポーターであったイギリスの美術評論家ジョン・ラスキンの生誕200年を記念して、ラファエロ前派およびその前後の関連する画家の作品を集めた特別展をやっている。

 ラファエル前派は好きなので、それなりに作品を見てきているつもりだけど初見(であろう)作品ばかりだった。有名な作品は多くはないが、周縁も含めラファエル前派関連の作品を広くカバーしているので、グループの成り立ちから解散後の発展も追うことができ19世紀後半のイギリス絵画の流れを理解するのにとっても良い。

  個人的に好きなアーサー・ヒューズやジョージ・フレデリック・ワッツの作品も数点あったのが嬉しかった。


アーサー・ヒューズ《リュートのひび》1861-62年 ターリーハウス美術館

 ただ、写真撮影可能なラファエル前派のコーナーは少し考えさせられた。絵の前に陣取って写真を全体から細部に至るまで撮りまくって占拠している輩がいて、なかなか見たい絵が見れない。いらいら。スマフォのシャッター音がひっきりなしに聞こえて来るのも、静かな美術館空間が美術館訪問の楽しみの一つである私には興を削がれる。メリットとデメリット比較したら、デメリットの方が大きいんではないかな。


ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ《祝福されし乙女》1875-81年 リヴァプール国立美術館、レディ・リーヴァー・アート・ギャラリー


ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ《ウェヌス・ウェルティコルディア(魔性のヴィーナス)》1863-68年頃、ラッセル=コーツ美術館

 そうした点を除いては、金曜夜の美術館は人も少なくゆっくりと落ち着いて1枚1枚の絵が見えるのが嬉しい。一人で来ている人が多いのも、そんな思いの人たちでしょう。6月9日までです。

(構成)
1 ターナーとラスキン
2 ラファエル前派同盟
3 ラファエル前派周縁
4 バーン=ジョーンズ
5 ウイリアム・モリスと装飾美術

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