その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

ちきりん 『未来の働き方を考えよう 人生は二回、生きられる』 (文藝春秋)

2013-08-30 00:48:59 | 


 とっても興味深い本だった。著者が自ら実践している「40代で働き方を選びなおすことで、楽しく「自分のためのオリジナルな人生」を生きよう」という提案である。

 発想がとてもユニークだし、目から鱗が落ちるような指摘もある。例えば、「年とってからマチュピチュ遺跡に行くのは難しい」とか「長生きリスク」など、生命保険的ライフプランにはない指摘がある。65歳年金支給の時代を迎えて、どう自分のキャリアを作って行くのかを否が応でも考えなくてはいけないが、キャリアプランも大事だがその前にライフプランそのものを考える必要があるようだ。

 だが、多くの人には本書を実践に移すのは極めて難しいだろう。一番の違和感ははたして、世の多くの人が著者が言うような働き方の変更が40歳代で可能なのだろうかということだ。本書はこうした生き方そのものを変えていくべきと言っているのかもしれないが、40歳代と言えば、家庭があり子供が学齢期の人も多いだろう。一番お金がかかる時でもあり、リスクを取りにくい時期でもある。かあちゃん、子供をリスクに晒し、家族の大反対を押し切って自分の楽しみに生きるような生き方はちょっと現実的とは思えない。

 だから本書は自分のライフプランを見直す一つの視点として活用するのが効果的だと思う。筆者も「机上の検討でいいから、一度は考えてみよう!」と言っている。部分部分では即使えるアドバイスがあるし、自分が当たり前だと思っていた人生観、生活観にゆらぎを与えてもらえる。非現実的だが考えの幅を広げるのには役に立つ。

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吉田の火祭りロードレースに出走

2013-08-27 00:53:44 | ロードレース参戦 (in 欧州、日本)


 富士吉田市で開催された火祭りロードレースのハーフマラソンの部に出走した。

 今回は中央本線大月駅で富士急行線に乗り換えての行程。子供の時に乗ったきりご無沙汰だったローカル線富士急行線は、田園風景一杯の車窓だけでなく幼稚園生が描いた富士山の絵の車内展示などもあり、喉かな旅行気分を味わえる。


≪単線の長閑な車窓から≫


≪車内は幼児の可愛い富士山で一杯≫

 8月最後の日曜日で、爽やかな高原でのレースを期待したがあっさり裏切られた。肌寒い位の気温(スタート時は19度とのこと)に小雨と靄が体にまとわりつくような陰鬱な天気で日差しによる暑さこそ避けられたものの、気分が盛り上がらないことこの上ない。


≪スタート10分前≫

 そんな低モチベーションのままスタート。事前に話は聞いていたものの、コースのハードさは予想をはるかに上回るものとなった。前半2キロは小さなアップダウンがあるだけだが、2キロ過ぎぐらいから7.5キロまでの5キロちょっとで標高差300メートルを駆け上る。途中、アスファルトの道から富士山の登山道もどきのコースもあり、ランナーたちは雨中を全員が修行僧になったように黙々と走った。私のような都会のひ弱なランナーには、とても5キロの坂道は登りきれず途中で殆ど競歩状態となってしまった。 情けなし・・・


≪この頃はまだ余裕のある坂道上り≫


≪登山道?を上る≫

 7.5k地点で登り道を折り返し、今度は400メートル近くを一気に下る。そして、16キロぐらいから20キロぐらいまでがまた上り。覚悟を決めて走りぬいたが、最後の1キロで左右のふくらはぎがともに痙攣したのは参った。最後のトラック入場の寸前で全く動けなくなった。ふくらはぎに何か別の生命体が入っているかの如く私の意思とは無関係に伸縮して波を打つ。痛いと同時に自分の体の一部とはとても思えず気持ち悪い。2-3分擦っていたら何とか収まって来たので、残り400メートル余りはなんとか走ってゴールしたが、自分への情けなさだけが残る収穫の無いレースとなった。


≪折り返しのコーンも富士山≫


≪10キロ近くひたすら下る≫


≪あと100m≫

 振り返ってみると、難コースが原因のところもあるが雨のため事前のストレッチ不足によるところも大きい。ただそれを差し引いても、このコースは脚力だけでなく相当の背筋力、腹筋が求められる。ちょっと今の私のような週末ランナーでは難しいかな。ペース配分もレース展開もない、凡レースとなってしまい、とっても無念。秋には、いくつか他のレースにも参戦予定なので、何とか立て直していきたい。


≪名物・吉田のうどんがランナーに無料で提供≫

 タイム 2時間15分26秒・・・近年まれにみるワーストタイム

(その他、運営廻りのこと)
・富士山駅から会場まで無料のシャトルバスが走っているのだが、意外とシャトルバスが少ないようで富士山駅で20分以上待った。帰りは大会会場で10分程待つ程度で乗れたので、単なるタイミングの問題かもしれないが・・・
・復路は、中央高速バスを使ったが、私が乗った13:59以降は夕方まで全て予約満席状態だった。次回は予約を入れておこう。
・大会会場で の荷物あづかりは、貴重品用として小型ビニール袋分のみの預かり。コインロッカーが利用できるけど、50円玉か必要なのでご注意を。

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台北 國立故宮博物院

2013-08-24 11:02:22 | 日記 (2012.8~)


 夏休みは8年ぶりに台北を訪れた。8年前に訪れた際は、夏の台北の暑さにうんざりしたものだが、今年はもうすでに東京の暑さに参っていたので、東京と殆ど変らない台北の気候には何の違和感もなかった。

 台北訪問の主な目的は昔の学友たちとの再会なのだが、もう一つのメインイベントは故宮博物院訪問。前回の訪台時には、博物院は大改装中とのことで泣く泣く見学は断念したので、そのリターンマッチである。

 開館の8:30に合わせて到着したが、既に多数の中国本土からと思われる中国人のグループが20メートルぐらいの列を作っていた。大改装を経て2007年にリニューアルしただけあって、館内は広々としていて清潔で、展示ルートも整然としてあり、気持ち良く見学できるようになっている。

 展示品は、まさに中国の至宝と呼ばれるに相応しい、逸品がここぞとばかりに展示してある。欧州、西アジア、北アフリカ系の歴史的品々は在欧時に数多く触れる機会があったが、中国の品々をこれだけの質のものをこれだけの量を観るのは全く初めてで、そのスケールに圧倒される。中国文化については全くの素人で、出発前に少し程の俄か勉強をしただけの私でも、現物の素晴らしさは作品そのものから発せられるオーラで理屈抜きに分かる。

 個人的には中国の書画に興味があったので時間をかけて見学したが、西洋美術とは全く異なる世界観、繊細さと大胆さが同居する描写に感嘆し、書の美しいバランス、書き手の「気」に触れて、思わず姿勢を正すような感覚になった。書画以外にも青銅器時代の青銅器や宋時代からの陶磁器など、中国文明、文化の「美」にただただ驚くばかりである。ここには明らかに私にとって見慣れた欧州、西アジア系の「美」とは異なった極にある「美」があった。現代の中国には必ずしも好感はもっていない私も、この歴史、文化にはかけ値なしで敬意を表したいと思う。

 訪問される方には博物院の学芸員の方による無料のガイドツアーを強くお勧めしたい。残念ながら日本語ツアーはなく、英語と中国語によるものしかないので私は英語のツアーに参加したが、これが素晴らしいガイドさんだった。平易な英語で、博物院の重要展示品の見どころ、歴史的背景を懇切丁寧に解説してくれる。通常の旅行ガイドさんの解説とは明らかにその理解の深みが違っていることは、その説明や質問への回答で良く分かる。申し込み時には1時間から1時間半ぐらいのツアーと聞いたのだが、結局まるまる2時間かけて案内をしてくれた。一つ一つの展示物を観る目が変わってくること間違いない。

 今回の訪問で展示以外のところで驚いたのは、この中国人観光客の多さで、9時を過ぎるころになると、旗を持ったガイドさんの先導の元、20~30人のグループが次から次へと群れをなして押し寄せ、10時半には展示室の前からの行列が階段まで延びるほどになる。特に、有名な展示品の前には、イナゴの大群の襲来のように集まり、1-2分で潮が引くように去ったかと思うと、次のイナゴの大群が集まってくる。そんな感じである。彼らにはこの台北の故宮博物院に所蔵されている名品の数々はどう映るのだろうか?素朴な疑問である。

 展示品は所蔵品のなかのごく一部であるという。確かに展示室や展示品の数は、大英博物館やルーブル美術館に較べればずっと少ない。それでも、半日はたっぷりかけて見学をしたいところであるし、台湾に来たら必ず立ち寄るべきところだろう。

 ※故宮博物院のHPはこちら→
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佐野眞一 『あんぽん 孫正義伝』  (小学館)

2013-08-22 06:01:43 | 


 著者の佐野眞一氏については、『週刊朝日』での橋下大阪市長に関する連載記事の打ち切り事件を初め数々の盗用疑惑により、過去の「ノンフィクションの巨人」的な地位は既に地に堕ちていると言っていいだろう。本書についても、盗用疑惑が指摘されている(こちら→)

 ただ、それを差し引いても、本書は実に面白い。孫正義伝とあるが、ある在日朝鮮人家族の生き様の「物語」として、読者を引きつけて離さない強烈な魔力を持っている。家系、育ちを追うことで、経営者孫正義のリーダシップ、決断力、スケールの大きさの原点をかいま見た気にさせてくれる。日本のサラリーマン経営者が彼に敵わない背景も分かる。

 本書が持つ「毒」には好き嫌いが分かれるだろう。徹底して主観的で独断的な意見、見立ては時として僻僻させられるし、眉に唾して読まなくては思わせるような箇所がいくつもある。筆者のような強烈な癖のあるライターには、書きながらノンフィクションとフィックションの区別が自分でつかなくなってしまうのだろう。なので、読む者はノンフィクションとしてでなく、フィクションとして読むことをお勧めしたい。「面白い」という形容は本書には不謹慎でふさわしくないかもしれない。驚き、感嘆し、考えさせられ、引き込まれる物語である。

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ルーヴル美術館展—地中海 四千年のものがたり— @東京都立美術館

2013-08-18 00:10:43 | 美術展(2012.8~)


 ルーブル美術館展を見に都立美術館へ行ってきました。

 目玉出展の《アルテミス、通称「ギャビーのディアナ」》は評判通り必見モノです。穏やかで優美な曲線美は、眺めているだけでうっとりと幸せな気分に浸れます。見る角度で印象も違ってくるので、是非像の廻りを一周しながら鑑賞すると面白いと思います。



 今回のルーヴル美術館展は一点豪華主義のようです。ルーブルの秘宝がざくざく来日というよりは、出展品は「アルテミス」を除き、ルーブルの標準的なコレクションだと思います。ただ一方で、地中海を切り口にした展示手法は、非常に興味深いものでした。現在の欧州の原型を作ったとも言える地中海ですが、今回の展示は4000年のこの地域の栄枯必衰の流れを概観します。源流から現在までを下ることで歴史を追体験できる展示はとても興味深かったですし、勉強になります。

 ルーブル美術館展ということでいわゆる西洋美術(絵画)を期待している方は、絵画は数点しかありませんから、がっかりされると思います。美術展というより博物館展という感じです。

 金曜日の夕刻は9時まで開いていますので、7時以降の訪問が空いていてお薦めです。アルテミスの廻りも数人しかいませんでした。

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津野田 興一 『やりなおし高校世界史: 考えるための入試問題8問』  (ちくま新書)

2013-08-15 04:46:49 | 


 国公立大学の入試の世界史論述問題8問を題材に使って、近現代の世界史を読者と一緒に考える本です。筆者は、都立高校の社会の先生です。

 「うまく出来た本だなあ~」というのが率直な感想です。大学入学試験問題を使うアプローチも面白いし、その試験問題の料理の仕方(解答へのアプローチ)も綺麗に分かりやすく整理されていて、見事です。問題を筆者と一緒に考えることで、読者は歴史上の出来事の関連づけや比較を行い、其々のイベントの歴史的意味合いが理解できます。

 また、筆者は教科書の記述を頻繁に引用して、論述問題の出題意図や解答が、教科書にはどこに書いてあるかを示してくれます。これにより、いわゆる難関国公立の論述問題も、知識としては教科書のレベルで十分であることが分かります。そして、この教科書レベルの知識を、時代や地域をまたいで比較し、一般化・抽象化する力があれば、今世界で起こっている多くのことが世界史の文脈の中で理解することができることが分かります。元外交官の佐藤優氏が『読書の技法』の中で、「世界史の勉強は高校教科書で十分」と言っていたこととも符合しました。

 やみくもに詳細を追うことではなく、全体を大掴みに、歴史的事象の意味合いを自分なりに一般化して理解すること。本書は(学者でない)一般人が歴史を学ぶ意味合いを自然にあぶりだしてくれるものです。お勧めです。

 それにしても、大学入試問題って良くできてますね。
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ファミリーフェスティヴァル2013 オペラ「ヘンゼルとグレーテル」 @日生劇場

2013-08-12 15:50:26 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


 夏休みのファミリー向けオペラ公演「ヘンゼルとグレーテル」を観に、小学校3年生の姪っ子を連れて日生劇場へ行きました。会場は、ちょうど姪っ子ぐらいが平均で、小学生と思しき子供たちと、引率のお父さん、お母さんで一杯で、普段のオペラとは全く違う雰囲気に包まれていました。でも、みんなちょっとおしゃれをして、子供たちの高揚した気分が伝わってきます。

 公演の方は、子供向けの学芸会的なものかと思いきや、本格的なものでした(フンパーディンクのオペラを子供向きに90分に編曲したヴァージョンです)。歌手の皆さんもしっかりしたプロの歌唱ですし、オケの神奈川フィルも「ヘンゼルとグレーテル」の時として、明るく楽しく、また時として暗く不安な音楽を、濃淡を明確につけてダイナミックに演奏でした。オペラの「ヘンゼルとグレーテル」は大好きな私にも、とっても満足な公演でした。

 姪っ子の方は、公演中はじーっと舞台から目を離しませんし、休憩時間にはオーケストラピットを覗きに行ったりで、楽しんでいたようで、良かった良かった。こんなちょっとした体験でも、子供のうちはいろんなものを「生」で経験するのはとっても大切だと思います。終演後も「面白かった~」とのこと。ただ、「何が面白かった?」と聞くと「魔女が空を飛んだところ」(途中、魔女(の人形が)が空を天井から吊られて飛ぶシーンがあった)という回答は、ちょっとがっくりでしたが・・・。

 今回はもちろん日本語による公演なのですが、日本語の歌でも意外と聞き取れないところがありますね。大人でさえそうなのだから、子供にはちょっと難しいところもあったかもしれません。それでも、「来年もよろしく」(姪っ子)だそうです。


●公演日時・キャスト

8月11日 15:00開演
「ヘンゼルとグレーテル」

ヘンゼル         守谷由香
グレーテル   三宅理恵
ゲルトルート(母)   加納里美
ぺーター(父)     原田 圭
魔女          角田和弘
子どもたち     パピー コーラスクラブ

管弦楽 神奈川フィルハーモニー管弦楽団

指揮: 時任康文
演出: 広崎うらん
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天山湯治郷 @箱根湯本

2013-08-11 05:34:59 | 旅行 日本
 夏休みの初日、お気入りの日帰り温泉施設である天山湯治郷へ出かけました。箱根湯本の駅から車で10分弱奥まったところにあり、秘境っぽいいかにも温泉の気分が味わえるお薦めの日帰り温泉施設です。数種類あるお風呂と、静かで清潔感ある休憩所がとても好きで、年に数回訪れるところです。お値段もお手頃です。

 お盆を控えた週末で道路は帰省ラッシュの渋滞がピークでしたが、施設は意外と通常の週末よりも空いていました。番頭さんによると「15日過ぎるとぐっと混んできますが、この時期(お盆前?)は空いてますよ」とのことでした。

 お風呂でゆっくりし、休憩所(一人ひとりが横になれるマットがあります)で読書とお昼寝、そして食事処でお昼御飯と、半日強まったりと過ごしました。蒸し暑いのは箱根も同様でしたが、館内はエアコンも効いており快適です。

 良い夏休みのスタートです。

 ※天山湯治郷のHPはこちら→

≪川際でせせらぎを聞きながら横になれるお休み処≫


 2013年8月10日



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溝上 憲文 『非情の常時リストラ』  (文春新書)

2013-08-08 00:20:07 | 


 昨今の日本企業の人事マネジメントの現状をレポートする本。リストラ、採用、給与、昇進、解雇法制度など、バランス良く旬なトピックスを扱っています。企業よりでも、極端に労働者よりでもなく、ニュートラルな立場で記述しているので、過激なタイトルの割りに、構えることなく読むことが出来ました。

 筆者は、この20年間で日本企業の会社と社員の関係や大きく変わり、今後の行きつく先は「選別主義」の強化だと言います。そして、「多くの人は会社に依存しない自分なりの人生の生き方の目標を模索していかなければならなくなる」(p229)と言います。個人として実践していくのは簡単ではないですが、選別主義のトレンドは避けられないでしょう。

 ジャーナリストの著述だけに、領域のカバーは広いですが、個々のトピックスについて深掘りはされていません。人事の専門家には物足りないと思います。人事を専門とはしないけど、現在の日系企業の「人事」をめぐるの状況を掴みたい人に最適だと思います。

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東京二期会 「ホフマン物語」(オッフェンバック) @新国立劇場

2013-08-05 22:58:17 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


 好きなオペラトップ3に入る『ホフマン物語』。現実と幻想が入り混じったホフマン・ワールドが大好きです。私としては初めての東京二期会の公演ということもあり、期待を膨らまして新国立劇場へ。

 歌手陣、オケ、演出が其々の持ち味を発揮した素晴らしい舞台でした。個人的な好みとして細かいところで首を傾げるところもありましたが、スタッフ、パフォーマーを合わせたチームとしての集中力、緊張感、気合が十二分に感じられる公演で、オペラならではの迫力と感動を味あわせてくれました。

 歌手陣は、ホフマン役の樋口達哉さん、ニクラウス 小林由佳さん、リンドルフ/コッペリウス/ミラクル博士/ダペルトゥットの四役を演じた大沼徹さんの3名が安定していて、舞台の軸がしっかりしていました。私的には樋口さんはホフマンとしてはちょっと普通人っぽ過ぎてもう少しだらけたところが欲しかったし、加納さんは私のニクラウスのイメージとは異なっていたのですが、二人とも安定した歌唱と演技力が素晴らしかった。更に感心したのは大沼 徹さん。4名のヒール役を見事に演じていて、存在感抜群。彼のおかげで、舞台に厚みが出ていました。

 姫3人組は、ジュリエッタ役の菊地美奈さんの艶っぽさに魅かれ、アントニア役の高橋絵理さんは病気で死ぬ人とは思えない大声量の美声が印象的でした。オランピアの佐藤優子さんは、今までで一番人間っぽいオランビアだったけど可愛らしい演技と、声量はもう少し欲しいけど澄んだソプラノに拍手です。

 指揮者のミシェル・プラッソンさんは私は初めてですが、東フィルを見事にコントロール。細部の美しさよりも、全体としての掴みを大切にするような指揮ぶりで、東フィルもしっかり応えていました。スケールの大きなホフマン・サウンドに大満足です。ブラッソンさんがしきりにオケを称賛していたのも好感が持てました。

 粟國淳さんの演出も良かったです。奇をてらったものではなく、青を基調として、暗めの照明は幻想的な雰囲気が良く出ていたし、シリヤスなところとコミカルなところを上手く使い分けていて、これまた好み。

 ロンドンから帰国して丸一年になりますが、今回の二期会といい、これまで何回か行った新国立劇場と言い、期待以上に日本のオペラ公演のレベルが高いのに驚いています。あと、足りないものと言ったら、スター性というか、歌手の華やかさでしょうか?個性がぶつかりあう欧州の公演に比べると、そこだけは見劣りします。ただ、演技の細やかさやオーケストラの安定的な好演は欧州を凌ぐところもありますし、オーケストラ公演よりもオペラの方が楽しみ方はいろいろあるので、そこはじっくりこれから育っていけば良いのでしょうね。

 いずれにせよ、好きな作品を期待以上に好演してうれることほど、ファンとして嬉しいことはありません。オペラならではの胸一杯の余韻に浸りながら、初台を後にしました。今年はあと1回しかオペラの予定はありません。12月の新国立劇場の『ホフマン物語』です。次はどんな舞台になるのだろうか・・・


≪今日も四階席です≫


≪夏服でいつもよりリラックスした雰囲気のロビー≫


ホフマン物語

オペラ全4幕
日本語字幕付き原語(フランス語)上演
台本:ジュール・バルビエ、ミシェル・カレ
作曲:ジャック・オッフェンバック

会場: 新国立劇場 オペラパレス

指揮: ミシェル・プラッソン
演出: 粟國 淳

装置: 横田あつみ
衣裳: アレッサンドロ・チャンマルーギ
照明: 笠原俊幸
演出補: 久恒秀典

合唱指揮: 大島義彰
音楽アシスタント: 佐藤正浩
副指揮: 松井和彦

舞台監督: 菅原多敢弘
公演監督: 三林輝夫

8月4日(日)
ホフマン 樋口達哉
ミューズ/ニクラウス 小林由佳
リンドルフ/コッペリウス/
ミラクル博士/ダペルトゥット 大沼 徹
オランピア 佐藤優子
アントニア 高橋絵理
ジュリエッタ 菊地美奈
スパランツァーニ 羽山晃生
クレスペル 大塚博章
シュレーミル/ヘルマン 佐藤 望
アンドレ/フランツ 田中健晴
ルーテル 倉本晋児
ナタナエル 山本耕平
コシュニーユ/ピティキナッチョ 新津耕平
アントニアの母の声 小林紗季子

合唱: 二期会合唱団
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団

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巨人 vs ヤクルト @東京ドーム

2013-08-03 00:02:17 | 日記 (2012.8~)


 何年振りか分からないほど久しぶりに東京ドームでジャイアンツ戦。ちなみに、私はジャイアンツファンではありません。夏休みで、巨人が一位と言うこともあってか、超満員で盛り上がってました。

 得点の殆どがホームランと言う大味なゲームでしたが、試合展開はジャイアンツが常に先行しつつも、スワローズが追いつくと言う接戦で楽しめました。最後はジャイアンツの勝ちだろうという予感がしたので8回が終わったところで引き揚げました。案の定、9回裏に代打の高橋由伸のサヨナラタイムリーでジャイアンツのサヨナラ勝ちと言う終わり方で、ジャイアンツファンのためにあったようなゲームでした。サヨナラシーンを回避した私は、我ながら自分の判断の良さににんまり。

 でも、コンサートにしろ、野球観戦にしろ、満員の会場と言うのは、雰囲気が明るく楽しいのでいいですね。野球人気も下火になっていると聞きますが、東京ドームに居た限りはまったくそんな気配はありませんでした。

 2013年8月1日 観戦

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川田 稔 『昭和陸軍の軌跡 - 永田鉄山の構想とその分岐』 (中公新書)

2013-08-01 00:24:13 | 


 毎年、夏には日本人として戦争関連の本を一冊読むようにしています。特に、ジャンルを選んでいるわけではないのですが、これは本屋さんで何となく手に取った一冊です。

 本書は、「昭和陸軍が、どのように日中戦争、そして対米開戦・太平洋戦争へと進んで行ったのか。その間の陸軍をリードした、永田鉄山、石原莞爾、武藤章、田中新一らは、どのような政戦略構想をもっていたのか」(p330)を明らかにしようとする意欲的な本です。新書ではありますが、記述は丁寧で詳しく本格的です。数ヶ月前に読んだ片山氏の『未完のファシズム』(こちら→)が「天皇陛下万歳!」の玉砕戦法といった軍人の戦争哲学を明らかにしようとしたのと似て、本書は昭和陸軍の戦略構想にメスを入れています。

 抜き書きになってしまいますが、本書の以下のような主張は特に興味深いものでした。

・南方進出や対米戦は日中戦争の状況打破のためではなく、武藤らにとっては、あくまでも次期大戦への対応が根本的課題であり、日中戦争は大戦に向けた軍需資源確保が目的であり、日中戦争自体が目的では無かった。南方進出も、援蒋ルート遮断の目的はあったものの、次期大戦をにらんだ国防国家体制の確立のため、東南アジア全体を含めた自給自足経済圏の形成を図ろうとしたのであった(p201)
 
・第2次世界大戦は、アメリカにとっても、日独にとっても、イギリスをめぐる戦いであった。アメリカはイギリスの存続に安全保障上死活的利害を持っており、日本が対英参戦によりアジア、オーストラリアからイギリスへの物資補給が遮断されることを、イギリスを崩壊させるものとして恐れた。日米戦争は中国市場を巡る争いというよりも、イギリスを巡る戦いであった。

 本書を読んで昭和陸軍の戦略構想は理解できたものの、改めて、陸軍の内向きな政治抗争の激しさ、情報の縦割りぶり、好戦的姿勢には驚かされました。これでは、戦略構想がどんなに優れていたとしても、勝てる組織にはなりえないだろうと思います。

 本書では、日本の大東亜共栄圏というスローガンが、如何に手前勝手で、陸軍自身が掠奪的なものになることを認識していたということも確認されています。安倍首相を始め自民党の一部の方々の勇ましい英霊讃美の声が大きくなっていますが、歴史的な事実は事実として、我々日本人はしっかりと認識しておく必要があるでしょう。



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