「春琴抄」は決して好きな小説とは言えないですが、物語の強烈な吸引力に引っ張られて、原作に加えて、映画(衣笠貞之助監督「お琴と佐助」)・芝居(Simon McBurney演出)を見ており、いつもその独特の世界に不思議な感動を覚えています。今回、この作品がどうオペラとして表現されるのか、私にとっては初めての日本語による日本の物語のオペラ鑑賞ということも加わって、とても楽しみにしていました。三木稔氏による本オペラは1975年の作曲ということで、日本オペラ協会でも今回が9回目の公演になるそうです。
≪過去の公演チラシ≫
音楽は、西洋のクラシック音楽と邦楽のフュージョンとでもいうような音楽でした。小編成のオーケストラに琴や三味線がピットの脇で演奏されます。歌劇というよりは、音楽に乗って台詞が進む楽劇です。
印象的だったのはその音楽です。音楽も時折、日本的な美しいメロディも入りますが、大半は物語の緊迫感、陰影、不安定さを表現した音楽で緊張感が一杯です。倒錯したとも言える春琴と佐助の関係を表現していました。オケも熱演で、特に琴、三味線、フルートの音が効果的に場面を盛り上げます。
舞台上では佐助を演じた柴山昌宣さんが良かった。声もさることながら、佐助の所作が失われた日本人の整った佇まい、動きが上手く表れていると思いました。春琴の佐藤美枝子さんも熱演でした。失礼ながら、「人形のような小さな足」を持つ春琴さんのイメージとはギャップはありますが、オペラ歌手ですからそこはご愛嬌です。
必要で十分な演出も物語の持つ陰影を上手く生かしたものでした。ちょっと第2幕の梅見のシーンは歌舞伎のセットのような明るさで、ちょっと浮いていた気もしましたが、特に不満はありません。これも前後の幕の暗陰との対比という意味では有効だったのかもしれません。
パフォーマンスは良かったと感じた一方で、「春琴抄」という作品をオペラと言う表現法を活用するのが果たして適切かについては、正直良く分かりませんでした。合唱も美しいのですが、日本語であるのに意外と聞き取りづらかったりしましたし、音楽により緊張感が高められる一方で、音楽がある分、話の展開やテンポはどうしても緩くなってしまっていて、逆に緊迫感が薄れるところもある気もしました。なかなか難しいですね。
都民芸術フェスティバルのプログラムでもある本公演。会場もほぼ満席で、終演後は大きな拍手が出演者たちに注がれていました。
日本オペラ協会公演 日本オペラシリーズNo.74
2014 都民芸術フェスティバル参加公演
原作:谷崎潤一郎 作曲:三木稔
台本:まえだ純
ニュープロダクション オペラ3幕
春 琴 抄
2014年3月30日(日)15:00開演
会場:新国立劇場中劇場
総監督:大賀 寛
指揮:樋本 英一
演出:荒井 間佐登
出演
春琴 佐藤美枝子
佐助 中鉢 聡
安左衛門 豊島 雄一
しげ女 郡 愛子
利太郎 大間知 覚
幇間・三平 鳴海 優一
真平 川久保 博史
芸者・蔦子 神田 さやか
菊次 田中 美佳
梅吉 西野 郁子
てる女
ヴォカリーズ 上田 由紀子
番 頭・宗兵衛 別府 真也
鵙 屋・小夜 渡辺 文子
初 植松 美帆
久助 大西 貴浩
伝介 保川 将一
温井家・お糸 山邊 聖美
お駒 丸山 さち
竹造 堀内 丈弘
木造 大塚 雄太
合唱指揮/河原 哲也
合唱/日本オペラ協会合唱団
管弦楽/フィルハーモニア東京
二十絃筝/木村 玲子
三絃/友渕のりえ
振付/飛鳥 左近