その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

佐渡裕 『棒を振る人生 指揮者は時間を彫刻する』 (PHP新書)

2015-03-28 17:02:40 | 


佐渡氏の著書を読むのは『僕はいかにして指揮者になったのか』(新潮文庫)に次いで二冊目。「棒に振る」をもじって「棒を振る」としたのは著書なりのユーモアなのだろうが、著者の音楽に対する情熱がほとばしっている一冊。

読んでいて、リーダーシップ論の実践編だと思った。仕事(対象)に対する熱意に加え、自分はこうありたい、チームをこうしたいという具体的な思いに満ちている。

日本と欧州のオーケストラの違いを説明している件も興味深かった。佐渡氏は違いは色彩感に現れるという。日本のオーケストラの音は欧州に比べて色彩感に奥行きがない。これは浮世絵、風呂敷、歌舞伎の舞台セットに現れるような日本の平面文化にあるという。音楽祭のテープオーディションの際に、演奏だけを聞いて7-8割がたその演奏家の出身地や性別などを当てることができたという程、地域、民族による違いがあるらしい。

佐渡氏は今年の秋からウイーンのトーンキュンストラー管弦楽団の芸術監督に就任する。最終章では、オケからオファーを受け決断したエピソード、そしてこれからのプランも書かれていて、氏のこれからの活躍に期待が募る。是非、早く日本公演を実現させて欲しい。

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映画 「ヴァチカン美術館 天国への入口」

2015-03-25 23:04:39 | 映画


「ヴァチカン美術館に、世界で初めて4K(Ultra HD)3Dカメラが入った。精緻な映像には世界の美術史における傑作の数々が、かつてない形で現れる」(公式HPより)という売れこみのドキュメンタリー映画。

確かに、4Kの超高精細な映像を3Dの立体感をもって観るのは驚くべき体験だった。彫刻は本来の彫りが手に取るように分かるし、絵画はもともと2次元なのにそれを3次元的に観るというのは、まるでドラマを観ているような気になる。あのラファエロの「アテネの学堂」に描かれた人物たちが、一人ひとり今にも動き出さんばかりに迫ってくる。

システィーナ礼拝堂のミケランジェロの天井画を紹介してくれたのもうれしかった。2010年秋にヴァチカン美術館を訪問した際には、双眼鏡を持参して鑑賞してみたものの、首は痛くなるし、礼拝堂もさほど明るくないので絵の詳細は分かりにくかった。なので、ミケランジェロで囲まれた礼拝堂そのもののすごさは感じたものの、天井画の一枚一枚についてはあまり印象が無い。今回、初めてじっくりと鑑賞させてもらえた気になった。

一方で、この画像の迫力を除いた、美術館や絵のドキュメンタリー映画としては内容は一般的で面白みに欠ける。昨今、TVでも色んな美術紹介プログラムがあるが、それらと比べても切り口や視点において新しいところは特になかった。

たしかに4K3D映像で人類の歴史的美術品を鑑賞するというのは一度経験する価値はあると思うのだが、65分で1500円(前売り券)はちょっとコスト・パフォーマンスとしては疑問符がつくので、万人にはお勧めできない。


スタッフ
監督マルコ・ピアジャーニ
監修アントニオ・パオルッチ
製作総指揮フランチェスコ・インベルニッツィ
エミリアーノ・マルトラーナ
脚本ドナート・ダラバーレ

キャスト
アントニオ・パオルッチ
パオロ・カシラギ

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アベ・プレヴォー 『マノン・レスコー』(新潮文庫)

2015-03-21 10:21:33 | 


 新国立劇場に本作をオペラ化したプッチーニの『マノン・レスコー』を観劇予定なので、その予習として原作を読んでみた(と書き始めるつもりだったのが、前日になってその日の出勤が決定。なんてこった!)。もっとも、同じ話をオペラ化したマスネ作曲の『マノン』を以前見ているので、話しの筋はだいたい頭に残っている。邦題は「マレン・レスコー」だが直訳は『騎士デ・グリューとマノン・レスコーの物語』である。

 過去に観た『マノン』のオペラは、アンナ・ネトレプコとヴィットリオ・グリゴーロという超豪華スターの共演だったこともあり素晴らしい舞台だったのだが、物語としては「金とモノに目がくらんだ、賢いとはいえそうにないとある女性の一生」(当時のブログ記事より)という印象しかなかった。今回、初めて原作を読んでみたが、視点こそオペラにおける女性視点から男性視点で描かれているものの、物語の印象は「良家のお坊ちゃま君が娼婦に手玉に取られるしょうもない話」に終始した。

 もっとも作品紹介によると本作は「フランスのロマン主義文学の傑作」とのことだから、私の感想は男女の純愛を理解しない色気のない中年オヤジのひがみというところなのだろう。一人の女性しか見えなくなった若き男性の愛の回想は読んでいて恥ずかしくなるし、自分がもう若くはないことをこれでもかという程、思い知らせてくれる。作品の雰囲気は、娼婦と良家のおぼちゃっま君の恋愛物語という意味で、デュマの『椿姫』と全くもって似ている。(もっとも私が『椿姫』を先に読んでいただけで、文学史的には『椿姫』で『マノン・レスコー』が引用されているように、『マノン・レスコー』が先鞭をつけている)

 さあ、どんなに物語とは反りが合わなくても、オペラが好きか嫌いかは全く別物というのが今までの経験則だったので、プッチーニがどんな音楽を付けて捌くのか楽しみだったのだが、今回の機会を逃した私がこのオペラを観ることができるのはいつになるのだろうか?

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映画 『おみおくりの作法』 (監督 ウベルト・パゾリーニ)

2015-03-19 21:55:38 | 映画


 市役所の民生係で、身寄りのない人が亡くなった後の弔いを業務とする独身中年男性の生活と仕事を描く。原題は"STILL LIFE"だから「静物画」ということだろうか?亡くなった人が遺した写真が映画の中で重要な役割を果たしているので、それを指しているのかもしれない。

 イギリス映画らしい、地味ながら味わい深い映画である。抑制された映像、必要最小限の台詞、印象的な静かな音楽が作品の質を高めている。

 真面目で誠実以外に取り柄がない(これだけでも十分な美徳であるが)不器用な公務員ジョン・メイを演じるエディ・マーサンの存在感が全編を支えている。これほどオーラが出ない人物を演じるのはそれなりに難しい気がするのだが、その自然な所作は見るものを感情移入させるに十分だ。

 どっかの歌にあるような「ナンバーワンよりもオンリーワン」を愚直に地で行くような主人公だからこそ最後はハッピーエンド・・・・・・そんな展開なのかと思いきや、必ずしもそうではなかった。涙を誘うラストシーンは用意されていたものの、彼の一生が幸せだったのかどうかは、彼自身に聞いてみないと分からない。自分自身の生・死、そしてその価値についても考えさせる映画だ。


■スタッフ
監督 ウベルト・パゾリーニ (UbertoPasolini)
脚本 ウベルト・パゾリーニ (UbertoPasolini)
エグゼクティブプロデューサー バーナビー・サウスクーム (Barnaby Southcombe)
プロデューサー ウベルト・パゾリーニ (UbertoPasolini) クリストファー・サイモン (Christopher Simon) フェリックス・ヴォッセン (Felix Vossen)
撮影 ステファーノ・ファリヴェーネ (Stefano Falivene)
プロダクション・デザイン リサ・ホール (Lisa Hall)
音楽 レイチェル・ポートマン (Rachel Portman)
編集 ギャヴィン・バックリー (Gavin Buckley) トレーシー・グレンジャー (Tracy Granger)
衣裳デザイン パム・ダウン (Pam Downe)
キャスティング スージー・フィッギス (Susie Figgis)
アソシエイト・プロデューサー マルコ・ヴァレリオ・プジーニ (Marco Valerio Pugini)
ライン・プロデューサー マイケル・S・コンスタブル (Michael S. Constable)

■キャスト
俳優名 役名
エディ・マーサン (Eddie Marsan) John May
ジョアンヌ・フロガット (Joanne Froggatt) Kelly Stoke
カレン・ドルーリー (Karen Drury) Mary
アンドリュー・バカン (Andrew Buchan) Council Manager
デヴィッド・ショウ・パーカー (David Shaw Parker) Billy Stokes' Caretaker
マイケル・エルキン (Michael Elkin) Caretaker
シアラン・マッキンタイア (Ciaran McIntyre) Jumbo
ティム・ポッター (Tim Potter) Homeless Man
ポール・アンダーソン (ポールアンダーソン) Homeless Man
ブロンソン・ウェッブ (Bronson Webb) Morgue Attendant

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新国立バレエ 「トリプル・ビル」 @新国立劇場 中劇場

2015-03-16 21:13:20 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


 新国立バレエの三本立てプログラム。趣きの全く異なった三作品を其々楽しめました。

 一本目は、「テーマとヴァリエーション」。チャイコフスキーの組曲第3番第4楽章にバランシンが振付けたもの。これは何と言っても、米沢さんの踊りが安定していて優美の極み。満ち足りた気分に浸らせてくれます。音楽も、チャイコフスキーらしい耳に優しいもので、この一曲のみ登場した東フィルとアレクセイ・バクランさんの指揮も大いに盛り上げてくれました。

 二本目は、スペイン語では『民家に住み、家中を荒らしたり大音響をとどろかせたりすると言われている想像上の精霊』(新国立バレエ HPより)の意味だという「デュエンデ」。スペインのバレンシア生まれの振付家、ナチョ・ドゥアトによる作品です。録音ではありましたがドビュッシーの音楽が神秘的で、その音楽にぴったりとあった振付が魅力的。木島さんをはじめとする各ダンサーの方の踊りにスピードとキレがあり、見ていて美しさと爽快さが同時に味わえます。一本目も然りですが、新国のバレエは群舞が見事ですね。惚れ惚れします。私としてはこれが一番のお気に入りでした。

 ラストの「トロイ・ゲーム」は新制作。男性ダンサーのみが登場です。サンバ・カーニバルのようなドラムじゃんじゃかのリズミカルな音楽に乗って、民族舞踊のような動きも交え、オリンピック体操選手のように舞台を跳ね踊り走ります。コミカルな動きも交えて、ユーモラスな作品です。若い男性陣8人衆が鬼のパンツのようなパンツ一丁、上半身裸で動き回るのですが、均整のとれた若い身体が美しく、羨まし。

 非常に見ごたえある3本立てだったのですが、残念だったのは観客の少なさ。1階席の後ろ部分半分や2階席のセンター部分はガラガラです。むか~しの川崎球場の大洋対広島(もしくは藤井寺球場の近鉄対南海)の外野スタンドのようでした。それでも熱心なファンが集まっているせいか、終演後の拍手は大きいものでしたが、ちょっとあまりにも寂しかったです。こういう上演こそ、新国立バレエの将来を作って行くものと思うのですが、これでは商業的に厳しいでしょうし、バレリーナさんたちもちょっとお気の毒。この企画、来年もあるのだろうかと心配になってしまいます。


2015年3月15日(日)2:00 中劇場

スタッフ
『テーマとヴァリエーション』[Theme and Variations]
【音楽】ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
【振付】ジョージ・バランシン
【指揮】アレクセイ・バクラン
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

Music Pyotr Ilyich TCHAIKOVSKY
Choreography George BALANCHINE
Conductor Alexei BAKLAN
Orchestra Tokyo Philharmonic Orchestra

『ドゥエンデ』
【振付】ナチョ・ドゥアト
【音楽】クロード・ドビュッシー
【装置】ウォルター・ノブ
【衣裳】スーザン・ユンガー
【照明】ニコラス・フィシュテル

Choreography Nacho DUATO
Music Claude DEBUSSY
Scenery Walter NOBBE
Costumes Susan UNGER
Lighting Nicolas FISCHTEL

『トロイ・ゲーム』
【振付】ロバート・ノース
【音楽】ボブ・ダウンズ
【衣裳】ピーター・ファーマー

[Troy Game](Company Premier)
Choreography Robert NORTH
Music Bob DOWNES
Costumes Peter FARMER

キャスト
『テーマとヴァリエーション』Theme and Variations(Principals)
米沢唯 YONEZAWA Yui
菅野英男 SUGANO Hideo

『ドゥエンデ』
「パストラル」(パ・ド・トロワ)Pastorale
 本島美和、丸尾孝子、小口邦明 MOTOJIMA Miwa, YONEZAWA Yui 7, OGUCHI Kuniaki
「シランクス」(パ・ド・ドゥ)Syrinx
 五月女遥、八幡顕光 SOUTOME Haruka, YAHATA Akimitsu
「フィナーレ」(パ・ド・トロワ)Finale
 福岡雄大、福田圭吾、池田武志 FUKUOKA Yudai, FUKUDA Keigo, IKEDA Takeshi
「神聖な舞曲」(パ・ド・シス)Danse sacrée
 奥田花純、八幡顕光 OKUDA Kasumi, YAHATA Akimitsu
 寺田亜沙子、宝満直也 TERADA Asako, HOMAN Naoya
 柴山紗帆、小口邦明 SHIBAYAMA Saho, OGUCHI Kuniaki
「世俗の舞曲」Danse profane
 全員 All

『トロイ・ゲーム』[Troy Game](Company Premier)
井澤 駿  小柴富久修  清水裕三郎  中島駿野
林田翔平  宇賀大将  高橋一輝  八木 進
IZAWA Shun, KOSHIBA Fukunobu, SHIMIZU Yuzaburo, NAKAJIMA Shunya, HAYASHIDA Shohei, UKA Hiroyuki, TAKAHASHI Kazuki, YAGI Susumu
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新印象派―光と色のドラマ Neo-Impressionism, from Light to Color @東京都立美術館

2015-03-14 09:35:40 | 美術展(2012.8~)


印象派の作品を集めた「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」(三菱一号館美術館)が自分的には今一つ不完全燃焼だったので、恐る恐るでかけたのですが、本展の方が質・量ともに圧倒的に充実したもので、大変満足度の高い展覧会でした。

1886年の最後の第8回印象派展から20世紀初頭のフォーヴィスム誕生に至るまでの新印象派の流れを辿ります。点描の明るく、優しい色合いの絵の数々は観ていて、心穏やかにリラックスさせてくれます。

新印象派と言えばジョルジュ・スーラの名前がまず頭に浮かびますが、彼が31歳で早世したというのは本展で初めて知りました。彼の代表作『グランド・ジャット島の日曜日の午後』は学生時代にシカゴ美術館で鑑賞しましたが、その習作が4点も展示されています。

東京の特別展は欧米の美術館の引っ越し展示(ルーヴル美術館展とか)が多いですが、本展は特定の美術館ではなく数多くの個人蔵の作品や世界各地の美術館から集められており、未見の作品が多く楽しめました。スーラの《セーヌ川、クールブヴォワにて》はとても好みの作品の一つでしたが、これも個人蔵です。


《セーヌ川、クールブヴォワにて》(個人蔵)

新印象派の作品が100点近く一堂に展示されると、その微妙なタッチや描き方の違いにも気づかされます。マクシミリアン・リュス《ルーヴルとカルーゼル橋、夜の効果》が街灯がセーヌ川に反射する様が美しかった。


《ルーヴルとカルーゼル橋、夜の効果》(個人蔵)

3月29日までの開催ですので、未見の方には強くお勧めします。

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映画 『ル・アーヴルの靴みがき』 (監督 アキ・カウリスマキ)

2015-03-11 08:21:12 | 映画


 フランスの港町ル・アーヴルで靴磨きを仕事に持つ中年男性とアフリカ難民少年との交流を描く。原題の”LE HAVRE”は街の名前「ル・アーヴル」。フィンランド人のアキ・カウリスマキ監督は私にはなじみがないが、母国では随分有名な方らしい。

 清貧な暮らしをする主人公夫婦、そして街の人たちとの人情味あふれるやりとり。いまどきちょっと出来過ぎた感じがあるストーリー展開ではあるが、欧州における移民が置かれた難しい状況が映像ならではの現実感を伴って理解できる。

 棒読み的な台詞回し、バストショットの多さなど、作りが非常に個性的なのは監督さんの特徴なのだろうか。

 良心的で心暖まる映画だった。


(一つだけ気になったのは、2011年製作で、随分小さい携帯電話を使っている割には、出てくる街や車や人が古めかしく、時代設定が良く分からなかったことかな)


監督・脚本・製作 アキ・カウリスマキ
製作総指揮 ファビエンヌ・ヴォニエ
ラインハルト・ブルンディヒ
出演者 アンドレ・ウィルム
カティ・オウティネン
ジャン=ピエール・ダルッサン
ブロンダン・ミゲル
編集 ティモ・リンナサロ

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ルーヴル美術館展 日常を描く―風俗画にみるヨーロッパ絵画の真髄 @国立新美術館

2015-03-07 22:17:34 | 美術展(2012.8~)

《ポスターいろいろ》

 ルーヴル美術館展に行ってきました。ルーヴル美術館の特別展はさほど珍しくない気がしますが、今回のテーマは風俗画です。

 風俗画は、当時の人々の生活の様子を窺い知ることができる上に、絵の中の人物や物にいろんな意味が込められていることが多く、私の好きな分野です。一つ一つのサインの意味を読み解いたり、想像を巡らせたりするのは、絵を美的に楽しむと同時に知的にも、脳を刺激してくれますので。

 今回は、クエンティン・マセイスの「両替商とその妻」やピーテル・ブリューゲル1世「物乞いたち」、ヤン・ステーン「不埒な集い」、ファン・ホントホルスト「抜歯屋」、ファン・レイデン「トランプ占いの女」などなどお好みのオランダ系風俗画が盛りだくさんで、とっても楽しめました。立ち止まって端から端までくまなく人・物を見つけてはその意味合いを考えます。そんなこともあって、通常以上に鑑賞に時間を取られ、閉館1時間15分前に入ったのに閉館20分前になっても半分くらいしか進んでおらず、後半は結構駆け足鑑賞になってしまうほど。

 また、フェルメールの「地理学者」、ティツィアーノ「鏡の前の女」、シャルダン「買い物帰りの召使い」など教科書級の絵が鑑賞できるのも、ルーヴル展ならではの魅力です。

 会期開始まもないこと、かつ夜間開館時間に訪れたためか、思いのほか空いていてゆっくり鑑賞できたのも良かったです。展覧会は早いうちに行ったほうが良いんですね。

 ちょっと残念だったのは、音声ガイド。風俗画の寓意を解説してくれるのかなとの期待感をもって借りてみたのですが、情報としては絵の横にある解説プレートとほぼ同程度で、充実した謎解き情報は得られませんでした。

 風俗画が好きな方はもちろん、そうでない方にもお勧めの特別展です。

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ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 ~アメリカ合衆国が誇る印象派コレクションから @三菱一号館美術館

2015-03-04 20:43:38 | 美術展(2012.8~)


 三菱一号館美術館で開催中の「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展~アメリカ合衆国が誇る印象派コレクションから」に足を運びました。ワシントン・ナショナル・ギャラリー(正式名はNational Gallery of Art)はむか~し学生時代に訪れたことがありますが、ナショナル・ギャラリー所蔵の絵を見るのはそれ以来です(もっともどんな絵があったかもさっぱり覚えてませんが)。本展は、創設者の娘エイルサ・メロンのコレクションを中心として、フランス印象派とポスト印象派の作品を展示しています。

 満足度は好みや期待感によるでしょうね。展覧会特設HPにも『「優しい」印象派コレクション』とある通り、邸宅に置くような小型の絵を中心した展示は、落ちついて穏やかな気分に浸れます。邸宅美術館的な雰囲気を持つ三菱一号館美術館にはある意味ぴったりの絵と言え、週末の夕方にぴったりのリラックスした雰囲気を味わえました。

 ただ、正直言うと、ちょっと物足りない感もありました。印象派ということで力まず楽しめるのですが、磁力に吸い付けられるような絵は少なかった気がします。ポスターにもなっているルノアールの女性像は、上品で洗練された美しい女性でお好みでしたが、それ以外は特に痺れる作品はありませんでした。


《ピエール=オーギュスト・ルノワール《猫を抱く女性》1875年頃 油彩、カンヴァス、56×46.4cm》

 私としては、秋に同館で開催される「プラド美術館展」に期待かな。
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東京マラソン2015 完走記 「めざせサブ4!」 (2/2)

2015-03-01 07:06:23 | ロードレース参戦 (in 欧州、日本)
【10キロ~20キロ地点(承前)】

再び、増上寺前を通過し、新橋・日比谷エリアに戻ってくる。ちょうど20キロ地点で、応援に来てくれた家人が見えた。普段のロードレースでは顔を出してくれることは決してないが、さすがに東京マラソンは違うらしい。私もまだまだ元気なので、余裕をもって声援に応える。20キロ通過が1時間48分台。上出来、上出来。さあ、これで前半戦終了。


《増上寺と東京タワー》

【20キロ~35キロ地点】
ハーフ地点を超えるといよいよ東京のど真ん中、銀座に突入。沿道のサポーターも更に賑やかになる。ただ今回は、あまり周囲には気を散らせず、これから35キロまでの中盤戦をどう走るかを考えることに集中した。まずは、これからの筋肉疲労に備え、ウエストポーチに忍ばせたアミノバイタル・ゼリーを飲む。そして、ここまで、トイレ待ちでのタイムロスを避けるために、5キロ地点で一口飲んだだけだった水分補給をする。給水所でポカリ・スエットを手に取り、二口ほど飲んだ。そして、このレース初めての食物補給所で、バナナを半分頂き、ちょっと空腹を覚え始めたお腹を満たす。よし、これでこれからも行けるぞ。


《銀座マリオンの横を走り抜ける》


《銀座三越前ももうすぐ。前には中国人選手が》


《この人、何キロ背負って走っているのか?》

日本橋~水天宮~浅草橋を通って、浅草へ向かう。東京って、エリアエリアで表情を大きく変えるから、走っていてまったく飽きない。浅草雷門前を折り返し、再び銀座に向かう。30キロ地点で2時間42分台。こんな好調なレースは久しぶりだ。30キロになっても、まだ足に異変が起こる予兆もない。もしかしたら、これは行けるかも。


《雷門前》


《雨こそ完全に止んだけど、曇り空でスカイツリーも最上部は見えない》

30キロ地点を過ぎたところで、職場の同僚が応援してくれるはずなので、キョロキョロしていたらしっかり発見できた。向こうも気づき「XXXさ~ん」と手を振り、写真を撮ってくれた。丁度、中だるみするこの地点での応援はありがたい。気合を入れなおす。さああと12キロ。このコースは最後の35キロ以降が正念場。まずは、35キロ地点の築地まで何とか今のペースを持続しようとだけ考え、私にとってのお札の一つである、ヴァームの粉末スティックを取り出し、口に流し込んだ。うまいものでは全然ないが、しょうがない。

周囲では、歩いたり立ち止まって脚をさするランナーが出始めた。だが、自分は驚くほどまだ脚が動く。やっぱり直前3か月、30キロ走を3回こなしたのが良かったのかもしれない。35キロのラップは3時間9分台でペース持続を確認、更に驚いたことに30~35キロの5キロラップが26分台とこの日の最高を記録している。俺のストップオッチ、壊れてないよな。


《銀座通り》

【35キロ~ゴール】
35キロを過ぎて、いよいよホントの後半戦が始まる。ここからは、今までの平坦な道から、何ヶ所かアップダウンが出てくる。そして過去のフルマラソン経験上、35キロ以降には必ずと言っていいほど、脚のどっかが釣るのである。さあ、これからが正念場だ。

まずは佃大橋。ここはコース最大の上り坂になる上に、自動車専用道路のため、しばらくサポーターの声援が切れる。坂に入ると、TVの金コーチの教えを守り、腕を下げ、後ろに強くひきながら勢いをつけて走る。この日、初めての上り坂は何とか登り切った。登ったところでは、誰かがラジカセでロッキーのテーマを流していた。思わず、映画「ロッキー」で、ロッキーがフィラデルフィア美術館の階段をグレイのジャージ姿で上り、雄たけびをあげるのを思い起こし、こっちもつられてガッツポーズ。馬鹿だな、俺って。


《佃大橋》

月島を経由して、豊洲エリアに入ると再び賑やかさが戻ってくる。丁度、38キロ。さすがにそろそろ脚が弱り始めて、体のばねが利かなくなってきたのが分かる。そして、なんのサインがあるわけではないのだが、内臓にも無理がかかってるのが実感できる。でも、あと5キロ。頑張るしかない。サポーターの応援がありがたい。小学生ぐらいの子供達とハイタッチすると、なぜか元気が生まれてくる。

ついに40キロ地点通過。5キロラップは多少落ちたが、3時間36分台でいよいよサブ4が見えてきた。過去のレースで経験した、残り2キロの転倒、脚の痙攣などのアクシデントが頭をよぎる。まだ、最後の上り坂があるから決して油断はできない。腹が減って参ってきたので、最後の上り坂の手前で、3本目のお札である栄養機能食品SOYJOYバナナ味を取り出し、走りながら口に入れてみる。が、疲れのためか、うまく噛めない、呑み込めない、胃が受け付けないと全然機能しなかった。口からそのまま道路に戻して、食べるのをやめた。それでも、ラスト1キロ地点にある最後の坂は何とか上り切り、あとはビックサイトに飛び込むだけとなった。腰が落ち、背中が曲がり、われながら相当ひどいフォームだろうなと思いつつも、とにかく一歩でも距離を縮めるために脚を前に出す。20キロ地点から家人が移動して、応援してくれているはずなので、少し周囲を見渡してみるがそれらしき人は見当たらない。「今が、一番つらいんだけどなあ~。こんな時に居てくれたらなあ~」と思う。(レース後に聞いたところによると、丁度、この頃、私を見つけ声をかけてくれていたらしいが、私がもうろうとして全く気付いてなかったことが判明)。


《ゴールのビッグサイトが遠くに見えてきた》

それでも、ついにゴール前のゲートまで来る。よし、あと200メートル。頼むから、脚だけは痙攣してくれるなよ。と念じつつ、ゲートを跨ぐ。ゴール前の花道の横に設けられたスタンドを見て、家人がいないかどうか探してみようとしたが、視点が定まらずとても探せる状態ではなかった。ゴールゲートが近づいてい来る。よ~し、よ~し。ゴール!ストップオッチを力強く押す。手元の時計で3時間48分58秒。サブ4達成!そして、自己ベスト。


《残り2百メートル》


《ゴールはもうそこ》

レース後、目標であるサブ4を達成したにもかかわらず、不思議に冷静で淡々とした自分が居たのが少し不思議だった。レース運びはほぼ完ぺき。フルマラソン歴13年の中でも、これだけの走りができたレースはない。だから、満足感や嬉しさはそれなりにあるのだが、自分を捉えた気持ちは、それよりもむしろ練習の結果が出た安心感だった。村上春樹のエッセーで、村上さんがある一定年齢を超えて、どんなに練習してもレースのたびに徐々にタイムが落ちていくことを書いていた下りが気になっていて、村上さんよりはずーっと年下の私だが、自分もその領域に入ってしまったのかという恐怖感みたいなものが、最近のレースではいつもまとわりついていた。だから、今回は、自分としてはこれまでにない練習を重ねてきて、もし結果が出なかったらフルマラソンはもうやめてしまおうかとまで思っていたところもあったのだ。もちろん東京マラソン特有のボランティア、サポーターからの大声援、ランナー同士の楽しい雰囲気によるところも大きい。でも何はともあれ、よし、自分はまだ走れる。記録も伸ばせる。

ビッグサイト内のミーティングポイントで家人に迎えられ、「お疲れ様」の言葉をかけてもらう。「ありがとう。さあ~、ビール飲みに行こう!」


2015年2月22日
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