その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

ヴェルディ 『ドン・カルロ』 (ロイヤル・オペラ・ハウス)

2009-10-31 06:38:49 | オペラ、バレエ (in 欧州)
 随分時間が経ってしまいましたが、先日、ロイヤル・オペラ・ハウスに「ドン・カルロ」を見に行きました。

 今回はなんと(たったの)13ポンドのストールサークルという席で、舞台袖すぐ横の席です。正直、舞台は1/3ぐらいしか見えない。でも、手が届きそうな、目の前で歌手陣とオーケストラが繰り広げる音の饗宴と手に取るように分かる歌手の表情、動作に表れる演技力は、見るものに強烈な印象を残してくれます。3階席、4階席からとは全く違う世界がそこにはありました。


 作品自体は全く初めてで、馴染みのあるアリアも一つもありませんでしたが、劇的な物語と音楽のスケールに圧倒された4時間半(演奏時間は3時間40分ほど)でした。

 歌手陣では、ドン・カルロのカフマンとロドリコのKeenlysideの両名がイケ面かつ歌・演技も素晴らしく、とても華のあるコンビでした。2人が友情を確かめ合う場面などは本当に涙が出てきます。

 また、男性バリトン陣が凄い。フリップ2世のFurlanetto、カルロス5世のLloyd、大審問官のTomlinson存在感が際立っています。特に、Furlanettoの孤独の演技は素晴らしいです。

 女性陣は男性陣に比較すると地味ですが、エリザベス役のPoplavskayaは声量の大きな、高い声で、いい歌を聴かせてくれました。エボリ公女のCornettiはちょっと役柄のイメージとは異なりますが、迫力あるソプラノが良かったです。

 オーケストラも緻密な表現でした。喜怒哀楽を巧みに音楽に染み込ませるベルディの素晴らしさに感嘆せざる得ません。

 長い物語ですが、是非もう一度見てみたいと思う舞台でした。これが13ポンドというのは信じ難いです。

 ※写真は碌なものが撮れず、がっかり。




※Intermezzoさんから借用


Don Carlo
Thursday October 01 6:00 PM

Credits
Composer: Giuseppe Verdi
Director: Nicholas Hytner
Designs: Bob Crowley
Lighting Design: Mark Henderson
Movement: Scarlett Mackmin
Fight Director: Terry King

Performers
Conductor: Semyon Bychkov
Don Carlo: Jonas Kaufmann
Elisabetta di Valois: Marina Poplavskaya
Rodrigo: Simon Keenlyside
Philip II: Ferruccio Furlanetto
Princess Eboli: Marianne Cornetti
Tebaldo: Pumeza Matshikiza
Grand Inquisito: John Tomlinson
Conte di Lerma : Robert Anthony Gardiner§
Carlos V: Robert Lloyd
Flemish Deputies: Dawid Kimberg§
Changhan Lim§, David Stout
John Cunningham,Daniel Grice
Lukas Jakobski§
Voice from Heaven: Eri Nakamura

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イギリスから見る日本

2009-10-30 07:23:38 | ロンドン日記 (日常)
 BBCなんぞを見ていると、結構、日本の紹介をしているニュースや報道番組に出くわします。当社は、「思ったより日本の露出が高いなあ」とただ感心していただけなのですが、最近、何となくその理由が垣間見れるような気がします(もちろん、当たっているかどうかは分かりませんが・・・)

 イギリスで世界地図を買うと当然イギリスが真ん中で、日本は右端にひっそりと佇んでいます。日本はまさに「極東」。その先には何もない辺境です。情報的にも、距離的にも心情的にも、アフリカや中東の方がずっとイギリスに近いですね。以前、米国の中西部に居た際も、日本は遠かったですが、それでも地図を見ると日本は「アジアの玄関口」として見えます。日本の背後には韓国、中国、東南アジアが広がっています。イギリスから見ると、その先は太平洋。まさに世界の果てなわけです。

 そんな辺境に居る日本が、国力に衰えが見えるとは言え、1億を超える人間が住み、世界第2位の経済力を持ち、最新の技術を開発し、コスプレ、漫画といったユニークな文化を次々と生み出す。まさに"驚き"なんでしょうね。彼らにとっては。秋葉原の電気街の映像なんぞを見ていると、日本人であり、良く見知った風景であるはずの自分でさえも、凄いなあ~と思ってしまいますから。

 外国から見る日本は、日本で居るときに感じる以上にミステリアスでエキサイティングです。

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映画 "When Harry Met Sally" (恋人たちの予感)

2009-10-27 05:14:42 | 映画
 これまた飛行機の中で見た映画。実はこの映画、間違いなく私の好きな映画ベスト5に入る大好きな映画です。飛行機のエンターテイメントリストの中にこのタイトルを見つけたときの嬉しさ。

 「男女の間に友情はなりたつか?」学生時代に酔っ払って、青臭い議論を何度もしたテーマです。

 テーマ、ストーリー、俳優、台本、撮影、音楽全てが好きです。これぞ、King of Love Comedy。とくにビリー・クリスタルとメグ・ライアンのコンビが本当に素晴らしい。この頃のメグライアンは本当にチャーミング。

 今回10年ぶりぐらいにこの映画を見て、改めて、良さを再確認しました。

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映画 ハゲタカ

2009-10-26 05:15:14 | 映画
 とある日系飛行機の中で見た映画です。あの有名な小説とドラマの映画版。私は見ていませんが、ドラマがとっても評判が良かったので、興味があって観て見ました。

 ストーリー展開が面白いです。中国の国家ファンドをバックにした中国系ファンド会社が、伝統的日系自動車メーカーにTOB(敵対的買収)を仕掛ける。それを防ごうとし、別のファンド会社にホワイトナイトを要請する。そして、その買収側、買収される側の虚虚実実の駆け引き。金の論理か、誇りなのか?モノづくりを基本とする日本メーカーは日本の魂なのか、それとも、既得権益にぶら下がり若者を搾取する資本家なのか?やや単純化しすぎている気はあるものの、テーマはリアリティがあり、非常に考えさせます。

 一方で、俳優さんたちの演技には正直不満が残りました。どうもリアリティが無い。いかにも俳優が演じているビジネスマンであって、投資ファンドではありませんが、ビジネスの現場にいる立場から見ると、とてもよそいきの感じがしてなりません。映画と言う短い間で、ストーリーを完結させるために、振った演技や演出をせざる得ないからかもしれません。

 期待値が高いと少しがっかりするような気が・・・・
コメント (2)
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アムステルダム インドネシアレストラン SIE JOE

2009-10-25 00:00:46 | レストラン・パブ (in 欧州)
 早いもので、アムステルダムを訪れてから早くも1週間が経ちました。アムステルダムネタも最後です。
____________________________________________________________

 オランダはインドネシアの宗主国であったこともあり、インドネシアレストランが沢山あります。ここは、泊まったホテルの並びにある、定食屋風のお店です。アムステルダムのへそと言われるダム広場からも歩いて2,3分です。

 ※お店のHPはこちら

 店内はまさに日本の定食屋。狭い店内に、カウンター席がオープン・キッチンを囲むように配置したあり、カウンター席の後ろにテーブル席がいくつか。まさに日本のラーメン屋や定食屋そのもの。一瞬、高円寺の定食屋に入ったかと錯覚するほど。

 頼んだのは、インドネシア風チャーハンのナシゴレン。味付けが濃すぎず、薄すぎず、鶏肉などの具も沢山入っていて、しかもさらっと炒めてあって、とっても美味でした。


 時間があまり無かったのでさっさと食べて店を後にしましたが、他にもいくつか頼みたい品があり、残念でした。給仕のお姉さんも、感じの良い人でしたし、ほっと安心するようなお店です。こんな店が、ロンドンの自宅近くにあったら、頻繁に通うのに・・・

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NELLY MIRICIOIU  リサイタル

2009-10-24 18:08:15 | コンサート (in 欧州)

 ソプラノ歌手のNELLY MIRICIOIUとピアニストAncuta Niteのリサイタル。Hospices of Hopeという団体のチャリティーコンサートである。

 ロイヤルオペラハウスでもタイトルロールを勤めたりするNELLY MIRICIOIUの歌声を間近に堪能することが出来た。ドン・カルロ、蝶々夫人、ラ・ボエーム、運命の力など、ベルディ、プッチーニなどのイタリアオペラからの選曲が中心。声の質は若干、年齢を感じさせるものの、情感が素晴らしい。出身のルーマニアの民謡も美しかった。

NELLY MIRICIOIU & Ancuta Nite
14th October 2009, 7:45pm


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コンセルトヘボウでオランダ・フィルハーモニー管弦楽団を聴く

2009-10-24 06:38:25 | コンサート (in 欧州)
 ゴッホ美術館からの帰りに、コンセルトへポーへ立ち寄りました。コンセルトへポーといえば、世界でも有数の名門オーケストラであるロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の本拠地です。ロンドンで聴いたあの素晴らしいオーケストラを是非、本拠地で聴きたいと思っていましたが、事前にWebをチェックしたところ、この日はコンサートがないことが分かっていたので、ホールだけでもという思いで立ち寄ったわけです。

 立派な外観は、う~ん、これがあのコンセルトへポーかと感慨深いものがありました。ここで、新たな誘惑が・・・。



 ロイヤル・コンセルトヘボウのパンフでも貰って帰ろうとBoxOfficeへ行ったのですが、確かにロイヤル・コンセルトヘボウのコンサートはないのですが、実はこの日、同じくアムステルダムに本拠を置くTHE NETHERLAND PHILHARMONIC ORCHESTRAのコンサートがあることが判明。明日はマラソンだから睡眠は大事だし、一度コンセルト・へポーで生のオーケストラも聴いてみたい。どっちが優先か?BoxOfficeで立ち止まったまま、十分ほど熟考した挙句、まだ16:00だから今、ホテルに戻って一寝りすれば3時間寝ても、20:15開始のコンサートに間に合う。という文武両道の解決法を考え出し、その場でチケットを購入してしまいました。

 予定通り7時過ぎまで昼寝をして、開演直前にホールに再登場。ライトアップされたホールはひときわ美しく見えました。


 ホール内は思ったよりも小ぶりなものでした。直方体のような形で、ステージの後ろにも席があります。2階席もありますが、数列しかないようでしたので、全部で2000も収容できないのではないかとも思ったりしました。近代ホールとは違った、歴史的な重みや威厳を感じるホールです。


 この日は当初予定の常任指揮者のYakov Kreizbergがお休みで、代役でDmitri Slobodenioukという人が振りました。ショスターコビッチにモーツアルトとなかなかのプログラムです。1曲目のショスターコビッチを聴きはじめて、このホールの豊満な残響にびっくりしました。すごく、音が柔らかく響くのです。激しいはずのショスターコビッチがとても優雅な豊穣な音楽に聴こえるほどです。ましては、モーツアルトのピアノ協奏曲ともなればなおさらです。うっとりと、聴き入ってしまいました。

 ロイヤル・コンセルトヘボウを聴けなかったのは残念ですが、予期せずコンセルトヘボウで生の音楽に接することができて、とても満足でした。

(ピアノのPhillip Bianconi)


(指揮のDmitri Slobdeniouk)


(オランダフィルハーモニー)



za 17 oktober Grote Zaal 20:15 uur Klassiek | Orkest

Nederlands Philharmonisch Orkest
Dmitri Slobodeniouk, dirigent
Philippe Bianconi, viool, piano
THE NETHERLAND PHILHARMONIC ORCHESTRA

Conductor Dmitri Slobodeniouk 
Piano Phillip Biancon

Sjostakovitsj - Negende symfonie in Es, op. 70
Mozart - Pianoconcert nr. 20 in d, KV 466
Sjostakovitsj - Zesde symfonie in b, op. 54

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アムステルダム ゴッホ美術館

2009-10-23 03:17:40 | 旅行 イギリス外
 マラソンの疲れで体が弱っていたのか、情けないことに、風邪を引いてしまい、今日は一日会社をお休み。昨日まで、マラソンの激走模様を同僚を捕まえては話して、同僚からは「フルマラソンですか。よく走れるね~」と言われていたのに、風邪でお休みとは何という恥ずかしさ。ただ、一日、家でゆっくり寝ていると流石に、体力がみるみる回復してきた気がする。明日は、大丈夫そうだ。

 さて、アムステルダム観光記の続きです。

ーーーーーーー

 同僚家族と別れた後、オリンピックスタジアム近くの大会本部へゼッケンを取りに行き、ホテルへの帰路に国立ゴッホ美術館へ立ち寄りました。

 今回、アムステルダムに来たからには、ゴッホ美術館と国立ミュージアムは是非、行きたいと思っていました。ただ、時間的制約と自分の体調からちょっと今回半日で2つの美術館は無理と考え、迷った挙句、ゴッホ美術館に行くことにしました。

 正面玄関間の切符売り場で、30メートルほどの列ができているのにびっくり。確かにロンドンの美術館は殆どが無料だから、切符を買うために並ぶと言うのは、久しぶりの感覚です。

(正面入り口)


(裏側からみた美術館)


 中の展示は流石に立派なものでした。ゴッホの有名な作品や手紙などの関連の品が、広い建物の1階から3階に渡って展示してあります。ホームページに、「これほど数多くのフィンセント・ファン・ゴッホの作品を一堂に鑑賞できる場は、世界中どこを探しても他にはありません」とありますが、まさにそのとおりです。
  

 展示も凄いのですが、見物客も凄い人です。東京の美術展を思い出しました。人を掻き分け、絵を見に行く感じです。


 ロンドンを朝早くに出た疲れと人の多さに圧倒されて、落ち着いて鑑賞することはできないまま、早足で館内を見て、無念の思いで美術館を後にしました。また、別の機会に、ここを目的に来たいと思います。

 ※美術館のホームページ(日本語ページ)はこちら

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アムステルダム レストラン Haesje Claces

2009-10-22 06:10:23 | レストラン・パブ (in 欧州)
 アムステルダムマラソンの前日。朝、8時半発のロンドン・ヒースロー空港発の飛行機に乗ってアムステルダムへ。

<空港のWAGAMAMAで食べたASAGOHAN>


 時差が1時間ありますが、飛行時間は1時間弱なので、10時半前にはアムステルダムの空港に着きます。空港から電車に乗り、まずはホテルで荷物を降ろしました。事前に、アムステルダム支店の同僚から、彼の家族と一緒の食事のお誘いを受けており、お昼にホテルロビーで待ち合わせました。

 同僚は奥さんはフランス人、お子さんは1歳半のいかにもハーフと言う感じの可愛らしい男の子です。入ったのは、ホテルから5分ほど歩いたHaesje Clacesという地元オランダ料理で有名なレストランとのことです。

※ お店のHPはこちら

 入り口は狭いのですが、お店の中はきれいな内装で、30名~50名ぐらいが入れるダイニングルームがいくつもあります。ちょっとした隠れ家的な雰囲気があります。土曜日の12時過ぎですが、10名ぐらいの仲間ですでに食事を大いに楽しんでいる団体さんをいくつか見かけました。(写真はお店のHPから)


 頼んだのは伝統的オランダ料理といわれるヒュッポットといわれるジャガイモと牛肉、ポテト、ソーセージをシチュー風に煮込んだもの。量が多くてビックリしましたが、味は家庭的な暖かさを感じるものでした。


 翌日のマラソンの話、フランスの話、子供の話などなど、楽しい会話が弾みあっという間の1時間半でした。
コメント (2)
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アムステルダムマラソン 完走記

2009-10-20 05:00:46 | ロードレース参戦 (in 欧州、日本)
 2009年10月18日

 朝、食事を済ませてホテルを8時半にチェックアウト。部屋は狭いホテルだったけど、寝具は良いもので、ぐっすり寝れた。ホテルを出ると、冷たい風が頬に心地よく、晴天。絶好のマラソン日和。

 この日は市内のバス、路面電車はマラソン大会のため、全面ストップ。オリンピックスタジアム(1927年に開催されたアムステルダム・オリンピックのメイン会場)へは、中央駅から地下鉄を乗りついで、20分ちょっと、町を廻り込んだルートで行くことになる。地下鉄と言っても、すぐに地上に出る。駅、電車は既に、会場に向かおうとするランナーの一団で一杯で、マラソン電車の趣だ。




 予定通りスタート1時間ほど前に会場のオリンピックスタジアムへ到着。着替え、トイレを済ませ、荷物を預ける。いつもトイレ待ちの長行列に閉口するが、ここではECOトイレと称する素晴らしい男性トイレがあった。さすが環境大国オランダである。更に、荷物を預けたら引き換え券の番号は、R555。Run Go Go Goである。何んと縁起の良いナンバー。今日はついているに違いないと、気分はノリノリ。ホテルの朝食でくすねてきたバナナとクロワッサンを食べて、いよいよスタートのスタジアムのトラックへ突入。






 スタート30分前ぐらいから、トラックに沿って、予想タイム順にランナーが並ぶ。東京マラソンではまずこのスタートのエリアにたどり着くのが、凄い人並みで一苦労なのだが、ここではスタートからランナーの最後方まで300mぐらいなので、5000人位の参加のようだ。スタンドには夫々の応援団が駆けつけているようで、盛り上がっている。携帯を見たら、オランダ人の同僚からタイミング良く"Good Luck today!"というメッセージが入っていた。ありがたいもんだ。「よーし、やるぞ~」気合十分。

 いよいよスタート。2分前ぐらいからスタンドとランナーが一緒になって「ウオー」を響き声を上げ、緊張感と興奮のボルテージが上がる。スタートして8分ちょっとで、やっとスタートラインをまたいで、いよいよ、これから目標タイム4時間30分を目指し、自分との戦いが始まった。


 トラックを半周して、ゲートをくぐって外へ。スタジアムの外では、スタジアム内よりも多くの声援者たちが待ち受けていた。自分の応援者はここにはいないが、声をかけてもらえるだけで、とっても元気が出る。小さな子供をつれた日本人の若奥さんが、自分に向かって「頑張って~」と日本語で声をかけてくれた。

 まずは、市内を走る。路面電車の線路に沿って、周りに3,4階建ての低いが、きれいなマンションと街路樹がずーと続いている。街路樹が丁度、紅葉で、朝の太陽の光が反射して、美しい。いかにも現代ヨーロッパの街中を演出していた。


 昨日の睡眠のせいか、体調はきわめて快調。市内の公園を抜けて、5キロのラップが27.54。更に、10キロで55.24(27.30)と予定通り。天気もいいし、ザルツブルグで川沿いをジョギングしたときのように、このまま、いつまで走り続けられるような気分。ひょっとして、このままなら今日の42キロは予想以上にいい数字がでるかも・・・そんな気がした。


 しかし、そんな時である。12kを過ぎ、運河沿いの道に入ったばかりのところで、自分でも何が起こったのかよくわからないまま、突然、転倒!激しく前のめりに倒れた。幸い、ヘッドスライディングは避けられたものの、かばった左外腕、左ひじ、両手を激しく擦る。廻りのランナーがみな、”Are you all right?”と声をかけてくれる。よろめき起き上がりながら、”I’m OK. Thanks!”と応えつつも、自分で何がなんだか良く分からない。再び走り始めるが、左腕は相当痛んでおり、ヒリヒリいたいし、血がどんどんにじみ出てくる。折角、絶好調なのに・・・。まさに「好事魔多し」「マラソン、楽ありゃ苦もあるさ」「山あれば、谷あり」だなあとしょうもないことを考えつつ、溢れる血を見ながら、まだ30キロはあるのに大丈夫だろうかと急に不安になってきた。

 傷ついたまま15Kのラップを1.22.44(27.20)で通過。相変わらず順調だ。しかし、この傷を放っておくわけにもいかず、15キロを過ぎたところにあるレッドクロスのテントに飛び込んだ。中には、救急員2名が先客の手当て中。「似たような人が居るもんだなあ」と思いつつ、見てもらう。「こりゃ。ひどいね。痛いだろう」と言われつつ、消毒液で消毒し、絆創膏やガーゼを当ててもらった。時計が刻々と進んでいくのが気になったが、こんなところであせってもしょうがないと、言い聞かせる。ただ、主な傷が全部で4箇所あるのだが、救急員のおじさんは、膝の傷に合う絆創膏が見つからないらしく、「おかしいな。持ってきたはずなんだが・・・」とか言って、救急箱を丁寧に探し始めた。「おーい。早くしてくれー。段取り悪いぞ。」と心の中で叫んだものの聞こえるわけも無く、おじさんは、結局、相方の救急箱から借りる始末。とはいえ、無事、救急医療は終了。「ありがとう。これで大丈夫だ。 (Thank you very much. I’m all right now.)」「まだ、走るのか?(Do you still run?)」「もちろん、こんな傷はたいしたことない (Of course, Yes. It’s not a big deal.)」「がんばってな (Good luck!)」という会話を交わし、テントを飛び出す。10分にも、20分にも感じた治療だったが、時計を見たら実質5分30秒ほどのロスで済んでいた。

 左腕は包帯を巻き、いきなり負傷兵のような姿でのランニングになったが、この15キロ地点から、20キロ地点の折り返し地点を過ぎ、25キロ地点までの運河沿いの道はまさにオランダの風景そのものだった。殆ど流れがないように感じられる運河に、小型の汽船や競技ボートを練習する若者が波を作り、羽は動いていない風車が運河沿いにたたずんでいる。そして、運河の逆側には牛や馬が放牧される田園が広がっている。傷のこともすっかり忘れ、快調に5km30分前後のペースで走り続けた。






 25キロ過ぎて運河から離れると今度は、昔の開発中の幕張を見るようなあまり面白くない開発地域が続いたが、30キロを過ぎるころからは、またアムステルダムの市街地に近づいてきた。「兎に角35キロまで、何とかこのペースを維持してがんばりたい。35キロまでくれば、あとは気合で何とかなる」と言い聞かせて、自分を叱咤激励。「たしか、昨年の東京マラソンでは、32キロ過ぎで、足がつった東国原知事を抜いたなあ」などとくだらないことを思い出した。

 30キロを過ぎて、多少、足に疲れが溜まり始め、ペースが鈍ったが35キロで3時間27分台。「これは、我ながら凄い。今日はいつも30キロを過ぎると出る、腿の痛みや痙攣も殆ど無いし、このまま行けば、4時間1桁分も夢ではないかもしれない。」と急に欲がではじめる。しかし、体は正直で、35キロ過ぎてからは、体全体が硬直し始め、ガクッと動きが鈍くなってきた。歩き始める人も出ているけど、市街地に近づくにつれ、人通りもどんどん多くなってくるし、ここは走り続けるしかない。


 そう思った矢先の37キロ地点、第二の試練が・・・。今度は明らかに体の安定性を欠いたところで、コース脇のフェンスの足に足をひっかけ、再び転倒。「転ぶー」と思った瞬間に、傷を負った左腕を本能的に庇って倒れた。しかし、左ひざと両手までは庇いようも無く、再度、負傷。幸い、傷は手の平と膝は1回目の傷から5ミリから1センチほど離れたところだった。2時間前の傷の横にまた、新たな傷が・・・

 この転倒は、疲れていた足と体に与えた更なる肉体的なダメージよりも、精神的なダメージの方が大きかった。「何故、1度ならずとも2度も、同じことを!」。転ぶという無様な姿を多くの声援者に見せるという格好の悪さではなく、同じことを2度行ったこと、こんなちょっとしたつまずきで、転倒しなくてはならない自分に対して、余りにも情けなく、腹ただしかった。起き上がって、走り始めるが、その精神的ショックも手伝ってか、いよいよ体が本当に動かない。「あと、5キロじゃないか。」と思いつつ、何故か、目から涙があふれ出てきた。

 あとはよく覚えていない。気がついたら、昨日の誓いをたてたオリンピックゲートが見えてきた。やっと、ここまで来た。ゲートをくぐって、トラックへ。まるで、オリンピック選手の気分。さっきの涙もようやく引いた。そうだ、携帯写真を撮らなきゃ。と思い出し、あわてて、2枚ほど。そして、ついにゴール!!!




 東京マラソンの時と違って、出迎えてくれる人が居ないのは少しさみしかったが、フルマラソンの厳しさを改めて実感し、「人生の縮図」であることを認識した4時間19分11秒だった。精も根も尽き果て、当分、次のことは考えられない。でも、よく、頑張った。



5 km 27:54 (27:54)
10 km 55:24 (27:30)
15 km 1:22:44 (27:20)
20 km 1:55:18 (32:34)
21,1 km 2:02:05
25 km 2:24:23 (29:05)
30 km 2:55:40 (31:17)
35 km 3:27:24 (31:44)
40 km 4:03:24 (36:00)
Net time 4:19:11
Gros time 4:28:05
コメント (8)
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アムステルダムより生還

2009-10-19 05:40:37 | ロンドン日記 (日常)
 本年秋、最大のマイイベント「アムステルダム・マラソン」のフルマラソンを今日、完走し、今ロンドンの自宅に帰ってきた。

 詳しくは、別途、今週のブログにて報告するが、本当に精も根も尽き果てるとはまさにこういう状態をいうのだろうだろう。自分の持つエネルギーを一旦全部外に吐き出してしまった、腑抜け状態である。

 タイムは手元の時計で4時間20分弱。昨年の東京マラソンの4時間24分を上回る成績。しかし、記録だけみると一見順調に見える今日のこのレースは、試練のレースだった。今日は、これ以上書く力がないが、最後は本当に涙のゴールだった。

 今日は、これにてお休み。

(昨日の土曜日の写真だけ何枚か)
土曜日に下見とゼッケンを取りにオリンピックスタジアムへ。会場はもう準備万端です。気分が盛り上がります。


 明日のスタート直後とゴール直前にくぐるスタジアムゲート。「絶対にここをくぐる!」と強く決意


 ゼッケンを受け取るスポーツセンター内。マラソンEXPOをやっていました。東京マラソンほど、ど派手な感じはありません。




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フランクフルト Australian Bar

2009-10-17 07:34:55 | レストラン・パブ (in 欧州)
 昨日の会議の後に夕食を食したレストラン。フランクフルト支店の同僚が連れて行ってくれました。ドイツなので「オーストリア・レストラン」と聞こえたつもりが、行って見たら「オーストラリア・レストラン」で少々びっくり。

 内装がちょっと凝っていて、面白いでした。料理はオーストラリアなのでもちろんステーキとか巨大バーガー。カンガルー肉とかもありましたが、ちょっと不気味なので、無難にビーフバーガーを食しました。肉250gのヘビー級バーガーでした。

 ※お店のHPはこちらから

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フランクフルト

2009-10-16 04:22:45 | ロンドン日記 (日常)
 今日はフランクフルトでドイツ営業戦略会議。朝7:30のヒースロー空港発の飛行機に乗って、11:00からの会議に参加。

 7月以来のフランクフルトでしたが、いくつかびっくり。

①寒い!!!
 何んと日中の気温が一桁。吐く息が白い。ロンドンに比べると全然違う。こうと分かっていれば、コートを着てくるんだった。

②今日はホテルが高い!!!
 フランフルトは時折、いろんな国際会議の開催地となるので、その時期はホテル高いと聞いていましたが、運悪くそのタイミングにあたってしまいました。今日泊まっている前回と同じホテル。前回は一泊60ユーロ。そして、今夜は168ユーロ。こんなのありか~。

③やっぱり美味しいフランクフルト
 お昼はフランクフルトソーセージを硬いコッペパンで挟んだサンドイッチ。しかし、これは何時食べても美味しいです。でもパンの中はマスタードだけで、他には何もなし。そして、お昼の食事は、以上おしまい。食にこだわらないといわれるドイツ人ですが、「もうちょっと楽しみ方があるだろう」と思わずにはおれません。

 フランクフルトは今回3回目ですが、結局今日も何処も市内をうろつくことはままなりませんでした。明日は朝7:00の飛行機でロンドンへ。9:00から始まる会議に間に合ってしまうというスーパースケジュールですが、朝が早いので、もう寝ます。おやすみなさい。

 動物園ホテルにて

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The Soloist (路上のソリスト)

2009-10-15 08:03:58 | 映画
 The Soloist(路上のソリスト)を見ました。ニューヨークのジュリアード音楽院にまで進みながら、ロス・アンジェルスのホームレスとなってしまった黒人の音楽家とその彼をコラムで紹介するロス・アンジェルス・タイムスの記者の交流を描きます。

 期待以上に楽しめました。ヒューマンドラマでありながら、ホームレスや人種問題を描く社会派ドラマでもあります。ロスアンジェルスのホームレス街の映像には、その無秩序さ、混沌さに驚かされました。ロスとその周辺には9万人のホームレスが生活しているとのことです。

 実話を基にした映画らしく、ラストが単なるハッピーエンドや悲劇で終わっているのではなく、今なお継続した問題として映画が終わるところも良いと思いました。新聞等で乗っているレビューは、そこを「結末が中途半端」として批評しているのをいくつか目にしましたが、そこがこの映画の良いところだと思います。現実はそう簡単には変わりませんから・・・

 監督はDVDで見た「プライドと偏見」の監督であるイギリス人のJoe Wrightです。途中で主人公の精神状態を表していると思われるフラッシュ映像は長すぎる感じがしましたが、全般に撮影のアングルや映像が美しく、とても効果的な映像になっていると思いました。

 私の好きなタイプの映画で、お勧めです。

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Q4 キックオフ

2009-10-14 07:18:41 | ロンドン日記 (日常)
 昨日で、8日間で7日の宴会シリーズは終わりかと思っていたら、実は今日も宴会だった。

 ただ、今日の宴会は社内のマネージャー宴会。ヨーロッパ中からマネジャーが集まって、10月から始まった第4四半期の気合あわせを行う。

 職場近くのパブで大いに盛り上がった。メンバーの国籍内訳は、日本人5名、イギリス人3名、オランダ人2名、アイルランド人1名、ルクセンブルグ人1名、ベルギー人1名、スイス人1名、フランス人1名、スペイン人1名の計17名。

 厳しい第4四半期の話はそこそこに、ワイン、プロテスタントとカトリック、欧州食卓事情、ユーロ高とポンド安等、いろいろな話題が尽きることが無い。こういう時が、一番、欧州を感じるときである。ただ、今日は身内なので、油断して呑みすぎた・・・

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