その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

成毛 眞 『面白い本』  (岩波新書)

2013-12-31 20:58:49 | 


 今年最後のエントリーです。いつも、お付き合い頂きました皆さま、今年一年ありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。

 著者の成毛氏はマイクロソフト・ジャパンの社長で名を売られた方だが、現在は書評サイトHONZの代表や大手企業の社外取締役などをされているらしい。本書は、読書家としても有名な成毛氏がとっておきのノンフィクション本100冊をお薦めするブックガイド。

 私自身は多読ではないが本は好きなので毎週新聞の書評欄には目を通している。それでも、本書で紹介されている100冊の本は多くがおニューだった。読んだことのある本はわずか4冊。加えて題名を知っている本が10冊。要は殆ど知らなかった本ばかりなのである。

 歴史、科学、社会、経済・・・多様な本が紹介されているが、どれも面白そうで読んでみたくなる本ばかり。あえて、これから読もうと決意した5冊を列挙すると・・・。

 松本修 『全国アホ・馬鹿分布考-遥かなる言葉の旅路』新潮文庫
 本橋信宏 『なぜ人妻はそそるのか?-よろめきの現代史』 メディアファクトリー新書
 ローレンス・マルキシ 『ヒトラー・マネー』 講談社
 レ二‐・ソールズベリー、アリ―・スジョ 『偽りの来歴-20世紀最大の絵画詐欺事件』白水社
 鈴木智彦『やくざと原発 ‐『福島第一潜入記』』 文藝春秋

 さて、来年は何冊読めるだろうか?

 ★★★☆☆

 2013年12月31日

 
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新国立バレエ/ くるみ割り人形 @新国立劇場

2013-12-30 10:41:41 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


 12月も中旬に入ると音楽ホールはベートーベンの第9ラッシュになりますが、どの公演も通常の演奏会より高いお祭り価格で、月間の予算が決まっている私は今年はパス。代わりと言っては何ですが、欧米ではホリデーシーズンの定番「くるみ割り人形」を見に行くことにしました。


≪今日は4階のバルコニー。ここで3150円はお値打ちです≫

 改めて、このバレエは良く出来ているなあと感心しました。テンポよく進むストーリー、バラエティに富み、美しいチャイコフスキーの音楽、そして優雅な踊り。全てが絶妙に組み合わさったバレエの傑作ですね。子供はもちろん大人、ましてや私のようなおじさんも十分に楽しめます。

 金平糖の精の長田佳世さん、王子のマイレン・トレウバエフさん、クララの加藤 朋子さん、皆さん安定した踊りで、音楽にピタリと合った踊りを見てると、気持ちがほんわり暖かくなるような幸せな気分に浸れます。東フィルの演奏もバランス良く、音楽そのものの良さを十分に引き出したハーモニーでした。

 正直演奏会やオペラで手一杯で、バレエまで手を伸ばす余裕はまるでないのですが、こんな公演を見てしまうと、これからクセになってしまいそうです。昨年の新国立バレエのホリデーシーズン公演「シンデレラ」も良かったですし、これからも年末はバレエにしようと思いました。


≪幕間にクリスマスツリーを前にサンタさんと写真を取る子どもたち≫


音楽:ピョートル・チャイコフスキー
Music:Pyotr Tchaikovsky
原案・台本:マリウス・プティパ
Libretto:Marius Petipa
振付:レフ・イワーノフ
Choreography: Lev Ivanov
演出・改訂振付:牧 阿佐美
Production: Maki Asami
装置・衣裳:オラフ・ツォンベック
Designs:Olaf Zombeck
照明:立田雄士
Lighting:Tatsuta Yuji



指揮:井田勝大
Conductor : Ida Katsuhiro
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
Orchestra : Tokyo Philharmonic Orchestra
合唱:東京少年少女合唱隊
Chorus: The Little Singers of Tokyo.

金平糖の精:長田 佳世
Sugar Plum Fairy: Nagata Kayo
王子: マイレン・トレウバエフ
Prince: Maylen Tleubaev
クララ:加藤 朋子
Clara: Kato Tomoko



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平野 敦士 カール、アンドレイ・ハギウ 『プラットフォーム戦略』 東洋経済新報社 2010

2013-12-29 06:57:48 | 
 
 個々のインターネット系企業の成功物語を何冊か読んでみたので、そうした事例を一般化、理論化したものはないかと思い本書を手に取った。インターネットネット企業は、どこも自分のホームページに利用者や広告掲載企業を集めることでビジネスモデルを作るプラットフォームビジネスであるが、本書はそのプラットホームビジネスの成功のノウハウについてまとめたものだ。

 計170ページのハードカバー本であるが拍子抜けするほど記述は平易でスイスイ読める。書き方が上手いのか、内容が薄いのかなのだが、どちらかと言えば前者と言いたい。参考になったのは、プラットフォームビジネスを構築するための9つのステップで、これだけ読んでもピンとこないが、最近読んだアマゾン、DeNAやクックパッドの事例を思い起こしながら読むとかなり説得力が増す。また、プラットフォームとして成功した企業が一方的な値上げ等を行う「プラットフォームの横暴」に対抗するための方法も興味深った。その通りに実践するのは容易ではないだろうが、考え方を知ることだけでも役に立つ。

 アマゾンのユーザーレビューは5点から1点までかなり広範囲に評価は割れている。「あたりまえのことを書いているだけ」「中身がない」などと酷評している方もいる。理論とセットで紹介されているいくつかの事例もあっさりと簡易に書いてあるので、本書を通して一読するだけでは、中身が薄いという感想を持たれるのも致し方ないかもしれない。自分の読んだタイミング、順番がたまたま良かっただけなのだが、本書を読まれようと思っている方は、色々なプラットフォームビジネスの事例に触れてから読むか、もしくは本書を読んだ後に多くのケースに当たることをお勧めしたい。


★★☆☆☆
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佐々木俊尚 『ニコニコ動画が未来を作る ドワンゴ物語』 アスキー新書 2009

2013-12-27 01:20:02 | 


 インターネット企業の起業物語を読んでいると、重厚長大系日系企業に勤めている私には「こんな会社もあるのか~」と驚きっぱなしである。そして、描かれるダイナミズムやエネルギーに触れ、こういうパワーが時代を切り拓き、創って行くのだろうとしみじみ思う。無論、旧来型企業であっても、その社会的責任は大きく、かつ競争状況は非常に厳しいものであるのは間違いないのだが、宇宙人を見るような目新しさを感じるのが面白い。

 本書は日本のインターネット企業でも数少ない成功企業(今のところ)であるドワンゴ社の創業期を追っている。携帯ゲームから始まって、携帯電話の着うた、そしてニコニコ動画へと、時代の変化に合わせて、コアビジネスを変化させ、成長を続けているのは素晴らしい。

 タイトルに引かれて「ニコニコ動画」に関するビジネス本だと思ったら間違う。私自身もニコニコ動画のビジネスモデル、構想が知りたく、本書を手に取ったが、その目論見は完全に外された。本書ではむしろ創業からニコニコ動画に行きつくまでの道程が語られる。

 社会に不適応なゲーマー達を社員として雇用してゲーム開発をやらせるなど、一見ハチャメチャに見えることでも合理性はしっかり追求している。成長期の企業ならではの勢いを感じる本である。

★★☆☆☆
(5つ星が満足度100%)
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楠木新 『人事部は見ている。』 (日経プレミアシリーズ)

2013-12-25 22:22:40 | 


 人事部の中の仕事がどういうロジックや見方で動いているのかを、人事部の外の人に向けて解説した本。著者がいわゆる大企業の方であろうため、「人事部」というのは一定規模以上の会社における「人事部」を指している。

 私自身もかつて人事部に所属したこともあり、内容的に目から鱗が落ちるようなところは少なかったが、とても分かり易く親身に書かれていると思った。空理空論を振りかざすのではなく、地に足がついた人事部論になっている。

 「なるほどな」と思ったのは、第四章の「人事部員が見た出世の構造」。一言でまとめると、「日本の企業では、課長までは実力だが、部長以上は幹部の引きで決まる」ということだ。なので、課長以上で偉くなるためには、「(結果的に)エラくなる人と長く一緒にやれる能力」が「出世の条件」で、そのためには「エラくなる人と「出会い、知りあうこと」なのである。身も蓋もないような話のように聞えるかもしれないが、確かに、私の会社を含め日系企業ではかなり当てはまる気がする。

 物足りなかったのは、人事部の過去と現在の記述はあるが、未来・これからについての記述が突っ込み不足な点だ。「知恵と意欲にあふれた人たちはそもそも管理できないという発想から始めることが必要」、「新卒採用中心では専門家集団は作れない」、「ライフサイクルを考慮した人事制度の構築」など、問題意識は提示されている。ただ、こうした課題について、現状の人事システムからどう移行を図っていくのか、その構想と具体的工程作り、そして実行力が、今の人事部には求められていると思う。下手をすると今の人事部は労働組合と組んだ、既存権益保持をもくろむ抵抗勢力になりかねない。どうやって変革をリードするのか、課題の提示だけでなく、変革に向けた人事部の役割、行動についての筆者の考えや具体的提言が知りたかった。

 人事部経験のない人に向いた本ではあるが、この分野を少しでもかじったことのある人には物足りない本だと思う。

★★☆☆☆
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10年ぶりに都響を聴く  インバル/ 都響/ バルトーク・プログラム

2013-12-22 00:04:47 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

〈3・11の地震で中止となったプログラムの復活です〉

 ツイッター上でインバルさんと都響のマーラーチクルスの評判がすこぶる良いので気になっていました。残っているマーラー8,9番の演奏会チケットはあという間に売り切れたらしく、乗り遅れた私は他にはないのかと思っていたところに、このバルトーク・プログラムのコンサートを見つけ衝動買い。

 私は都響とは何故かあまり縁がなく、手元の記録を見返してみたら、何と前回は2003年6月にベルティーニさん(故人)の指揮で聴いたブラームスのドイツ・レクイエムとブラームス交響曲第一番の2つのコンサート以来、何と10年ぶりでした。東京文化会館で聴いたこの2つの演奏会の衝撃は今でも鮮明に覚えています。というわけで、今回の演奏会は期待大でした。


≪今日の眺め≫

 しょっぱなはバルトークのヴァイオリン協奏曲第2番。ソロは庄司紗矢香さん。今年1月に来日したロッテルダム・フィルと共演したプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲2番以来です。庄司さんは好きなのですが、この曲、私には難しすぎました。所々、良いなあと思うところはありますが、全体として掴みどころが分からず、ちょっとお手上げ。この日はRAエリアの席だったので、斜め後ろから庄司さんの肩を見ながらぼんやり過ごしてしまいました。ヴァイオリンは良く鳴っているのは分かるのですが、正直私にはピンと来ず、「修行して出直します」という感じ。ただ、アンコールでやってくれたハンガリーの民謡は抒情的でしんみりと心に浸みいる演奏でした。

 休憩後はバルトークのオペラ「青ひげ公の城」を演奏会形式で。これは楽しめました。まず、おどろおどろしいストーリー展開が私好み。今回はコンサート・スタイルですからプロダクションが無い分、自分の想像力で、7つの扉の先にある世界を好きなように想像できます。

 独奏のメゾソプラノのイルディコ・コムロシさんが登場した時は、まだ華奢な庄司さんのイメージが舞台に残っていただけに、あまりの違いにのけ反ってしまいました。が、歌唱はさすがハンガリー人らしく堂に入ったもので、暗譜で、簡易な演技も付けた熱演でした。一方で、青ひげ公のマルクス・アイヒェは、声は美しく通るバリトンですが、 こちらは楽譜つきでちらちらと。楽譜つきが悪いというつもりはありませんが、ヒロインが役にかなり投入しているのが分かるので、温度感の差が感じられちょっと残念でした。

 都響の演奏はしっかり安定していました。今回はRA席というオーケストラに向かって右手後方から聴いたため、正直全体のバランスとかはよく分からないところもあったのですが、インバルの指揮のもと、このオペラのオドロオドロシサも良く出ていたし、途中金管部隊の一部が舞台後方の外側から演奏するところは迫力満点です。

 インバル先生の指揮は全体の構成、輪郭を明確にしつつ、演奏は比較的オケに委ねる感じに聴こえました。もっと、細かく強い指示があるのかと勝手に想像していたのですが、前週に聴いたデュトワさんのN響のようなデュトワ色が全面に出るという感じではなく、指揮とオケが一体化している感じです。演奏後のツィートの中には、インバル先生と都響の関係が成熟してきたというようなことを書いている方がいましたが、そうしたことかもしれません。当然のように、終演後は大拍手。私も今シーズンの演奏会を締めくくるに相応しい好演に大満足で拍手を送りました。

 実は新聞チラシを見て、来シーズンの都響の「作曲家の肖像」シリーズというシーズン券を衝動買いしています。来年がとっても楽しみです。

 余談ですが、この夜の都響定期はチケット完売のはずなのに、8割ぐらいの入りでした。完売でも空きがたくさんあるのはN響だけではないのですね。日本のオケもしくはホールは早々にリターンチケット制度を導入すべきだと思います。


≪アンコール曲≫



日時:2013年12月20日(金)19:00開演(18:20開場)

場所:サントリーホール
指揮:エリアフ・インバル
ヴァイオリン:庄司紗矢香
メゾソプラノ:イルディコ・コムロシ
バリトン:マルクス・アイヒェ

曲目
バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第2番
バルトーク:歌劇「青ひげ公の城」(演奏会形式・原語上演・日本語字幕付き)



Date: Fri. 20. December 2013, 19:00 (18:20)

Hall: Suntory Hall Artists
Conductor: Eliahu INBAL
Violin: SHOJI Sayaka
Mezzo-Soprano: Ildiko KOMLOSI
Baritone: Markus EICHE

Program
Bartok: Violin Concerto No. 2
Bartok: DUKE BLUEBEARD'S CASTLE


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高畑勲 監督/ かぐや姫の物語

2013-12-20 00:02:22 | 映画


 話はもちろん知っている。でも、この映画を見るのは初めてなのに、一つ一つのシーンを見て、どっかで見たことある情景だなあと思いながらスクリーンを眺めていた。ふと気づいた。そうだ、子どもの時に、寝物語で母親が読んでくれた「かぐや姫」の世界だ。忘れかけていた昔の記憶が忽然と蘇える。きっと、同じような思いに捕らわれた人も少なくないのではないか。

 かぐや姫をめぐる環境やその成長を通じて、自然、社会、人間の欲・愛を表現するこの作品は、いろんな含意があるだろう。「姫が犯した罪と罰」というキャッチコピーも意味深だ。ただ、余り難しいことは考えずに、純粋に日本の昔話を楽しむということで良いと思う。映像は美しいし、見ていてリラックスできて、落ち着く。やっぱり、自分は日本人なのだなあと思う。2時間を超える長さだが、長さを全く感じさせない。

 冒頭の竹取物語の古文(原文なのかはわからないが)の朗読も良かった。音感やリズムに浸ると日本語って美しいと思う。高校時代に無理やり読まされた古文の一節でももう一度読み直してみようかなんて思ってしまう。

 ただ、ラストのかぐや姫が月に帰るシーンだけは違和感があった。月からのお出迎えの御一行様の様子は、仏様とちんどん屋が月から地球にやって来た、やあやあや、みたいな趣で、少々興ざめだった。私のイメージは、もっと厳かなものだったから。

 今の子供たちがどれだけ「かぐや姫」に触れる機会があるのかどうかは、全く知らないけど、骨格のしっかりしたストーリー展開に加え、日本人の心性が取り込まれているこうした古典は大切にしたい。安倍首相が好きな道徳教育や愛国心教育よりも、ずっと自然に日本が好きになって、「良い」日本人が育つはずだ。

 2013年12月14日
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宮本 輝 『慈雨の音―流転の海 第六部―』 (新潮社)

2013-12-17 00:03:58 | 


 「流転の海」シリーズは主人公松坂熊吾の大きな人間的スケールが魅力で、第一部以来新作の発刊を毎回楽しみにしている。戦後から高度成長に至る日本の世相を肌感覚で分かるように伝えてくれることも興味深い。最近になって、私のロンドン駐在中に第6部が刊行されていたのを知り、慌てて本作を手に取った。

 本作はこれまでの展開から大きな変転があるものではないが、晩年を迎えた熊吾に今後訪れるかもしれないクライマックスを期待させるような嵐の前の静けさ的な雰囲気を漂わせている。

 読むたびに、主人公の生き様、言葉、そして周囲の人間模様を通じて、自らの思考幅、度量幅、そして人間の運命について考えさせられる本シリーズは、私にとっても自分の定点観測の意味合いを持つものだ。また、次部が待ち遠しいが、気長に待つことにしよう。

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素晴らしい演奏会、でもあえて言いたい「おおN響よ、このような音ではなく!」 N響12月定期Bプロ

2013-12-14 06:34:29 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


 デュトワさんが振るN響は私にとっては6年ぶりぐらい。Cプロのテ・デウムが聴きたかったけど、スケジュールの都合で今回は一回券で取ったBプロの一本勝負。

 デュトワさんは私がロンドン駐在中にロンドンのロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の芸術監督・首席指揮者に就任しました。ただ、ロイヤル・フィルはロンドンではマイナーオケで、デュトワさんの演奏回数も年に数回程度だったので、ロンドンでは存在感は残念ながらもう一歩という感じでした。私としては、久しぶりのデュトワ・N響コンビの演奏会ということで期待大でサントリーホールへ。


≪クリスマス・ライト・アップのサントリーホール前≫

 一曲目はラヴェル/組曲「クープランの墓」。開演3分前に慌てて駆け付けたため、椅子に座り落ち着くと外気で冷えた体がホールの暖かさで緩み、オーボエの長閑な響きと相まって、ほぼ完全寝落ち。耳の心地よさだけが残りました。

 気合を入れ直して、二曲目のデュティユー/チェロ協奏曲「遥かなる遠い世界」は集中。現代曲らしくつかみどころの難しい音楽です。各楽章の副題にはボードレールの詩が引用されているのですが、楽章間を休みなしで演奏されたので、途中でどこに居るのか見失ったり苦戦。が、イケメン・チェロ弾きのゴーティエ・カプソン君の響きは深遠で、チェロとオケのやり取りも楽しめました。得てしてこの手の現代曲は、全体としてのまとまりが無く聞こえることも多いのですが、デュトワさんが上手くコントロールしているのか、この曲の独特の世界観が伝わる演奏でした。

 休憩後のベト7は強烈な熱演。全楽章間休みなし、アタッカで一気の演奏です。少々サプライズでしたがこの曲が持つリズム、緩急が全体として感じられました。

 デュトアさんの「こう演奏してくれ」という意思がビンビンに感じられ、N響が必死に食らいついていくのが良く分かりました。ナマ演奏会ならではの気迫オーラがステージ上漂うのを感じ、聴く方も背筋が伸びます。サントリーホール効果もあるかもしれませんが、美しくバランスのとれたアンサンブルに奏者の集中力や気迫が上乗せされて、音が全身に響いてきます。全身全霊の力の入った演奏なんだけど、聞こえてくる音楽は寧ろ柔らかく、色彩豊か。デュトワさんも「ロイヤル・フィルより良い!」と思っていたに違いありません。


  というわけで大満足で会場を後にしたのですが・・・、帰路につく中でいろいろ反芻していると、むむむ・・・と新たな思いがこみ上げてきました。「素晴らしい演奏だった・・・、でも、あれで良いのか?」・・・と。

 何というか、デュトワさん色が出すぎていて、デュトワさんの印象しか残っていない感じがしたのです。N響って、色んな客演指揮者にいつも柔軟に対応していると思うのですが、オーケストラとしてのキャラが弱い。個性の強い指揮者とオケがぶつかる中でのコラボで、音楽が創られるというよりも、都度、上手く折り合っていく・・・そんな感じ。今日のデュトアさんのような強いコントロールを発揮する指揮者には特に従順な優等生。

 でも、N響が本当に世界のメジャーオーケストラを目指すなら、誰が振ってもN響の色、アクがあって、指揮者と間に健全なコンフリクトがあり、新しいものが生まれてくる、そんなオケになって欲しいです。この夜のようにデュトワさんの強いコマンドに応えて、素晴らしい演奏をするN響を聴くと、逆説的ですが、「おおN響よ、このような音ではなく!」、もっともっと上を!と望みたくなってしまったのでした。


 ※余談ですが、今回もチケット完売のはずなのに、私の席から見えるP席は30近く空きがあったし、RLにも一列半分以上空いているような列もありました。多くの人がサントリーホールでN響の演奏を聴きたいのですから、N響事務局は何とかこの酷い状況を改善してほしいものです。


≪雰囲気だけ≫



第1771回 定期公演 Bプログラム
2013年12月11日

サントリーホール

ラヴェル/組曲「クープランの墓」
デュティユー/チェロ協奏曲「遥かなる遠い世界」(1970)
ベートーヴェン/交響曲 第7番 イ長調 作品92

指揮:シャルル・デュトワ
チェロ:ゴーティエ・カプソン


No.1771 Subscription (Program B)
Wednesday, December 11, 2013 7:00p.m.
Suntory Hall

Ravel / “Le tombeau de Couperin”, suite
Dutilleux / Cello Concerto “Tout un monde lointain” (1970)
Beethoven / Symphony No.7 A major op.92

Charles Dutoit, conductor
Gautier Capuçon, cello
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クリスマス・マーケット @横浜赤レンガ倉庫 

2013-12-12 00:04:01 | 旅行 日本
 先週末にドイツ人の友人家族と横浜赤レンガ倉庫で開催中のクリスマスマーケットに出かけました。横浜を訪れるのは、少なくとも5年ぶり以上です。


≪山下公園からの遊歩道から赤レンガ倉庫を臨む≫

 いつの間にかオクトバー・フェスタもあるし、クリスマス・マーケットまでできるし、首都圏には何でもあるんですね。


≪入り口。中央に大きなクリスマスツリーがあります≫

 店舗は飲食店を中心に15店程が出店してます。正直、欧州のクリスマスマーケットと比べてしまうと、ちょっと哀しくなるぐらいこじんまりとしていますが、グリューワイン(ホット・ワイン)も飲めるし、西洋風のサンタやキリストゆかりの人形などが飾ってあって、気分だけは味わえます。


≪山小屋風のお店の屋根には聖書ゆかりの人たちの人形が≫

 夕方になるとライトアップされ、日暮れ後の雰囲気はなかなかお洒落です。


≪夕方からのライトアップ≫

 一度、話の種に出かけてみては如何でしょう?六本木でもやっているようです。

※赤レンガ倉庫のクリスマス・マーケットHPはこちら→

 2013年12月8日訪問
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上阪 徹 『600万人の女性に支持されるクックパッドというビジネス』 (角川SSC新書)

2013-12-08 00:03:54 | 


 インターネットビジネスのケーススタディとして、DeNAに続いてクックパッド(COOKPAD)を紹介した本を読みました。

 クックパッドについては名前を聞いたことがある程度の認識だったのですが、本書をきっかけに企業情報を調べる(https://info.cookpad.com/)と、月間のべ利用ユーザが3959万人という巨大なレシピ・サイトです(2013年第2四半期決算資料)。一般家庭の主婦がレシピをアップロードして、また献立つくりのために検索するといったシンプルなモデルのレシピ・サイトが、半期での売上で30億円、営業利益が16億円という高収益、高利益を稼ぎます。日本のネット企業の中では、楽天やDeNAに比べると知名度は劣りますが、この成長はネットビジネスのダイナミックスを感じるのに十分です。

 一般の企業紹介本にありがちな提灯持ち的な記述も正直あるにはあるのですが、それを差し引いても、同類のレシピ・サイトがある中、短期間でどうやってここまでの急成長を遂げることができたのかを知ることはなかなか勉強になります。本書の記述を真に受けると、徹底的な顧客目線で、技術、サービスをチューニングしてきたことにつきるかと思います。

 本書から受ける創業者の佐野氏の印象は、楽天の三木谷さんやDeNAの南場さんのような強烈なリーダーシップを持ったカリスマ経営者ではありません。しかし、経営方針やサイト方針へのこだわりなどを読むと、相当の信念を持った経営者であることは間違いありません。

 また、いわゆるネット企業につきものの急成長が故のいかがわしさや信用度といった意味でも、この会社はしっかり地に足がついており、安定感すら感じます。

 もちろん、本書の記述を鵜呑みにしてその企業を判断するのはあまりにも早計ですが、今後のビジネス展開を注目していきたい企業です。ネットビジネスに関心のある方にはお薦めの一冊です。

★★☆☆☆
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「特別展 京都 洛中洛外図と障壁画の美」 @東京国立博物館

2013-12-06 07:59:38 | 美術展(2012.8~)


 先々週末に会期終了直前に訪れた「興福寺仏頭展」に続いて、東京国立博物館で開催されていた「特別展 京都」に、これまた会期終了前日に訪れました。

 国宝、重要文化財の7つの洛外洛中図やなかなか現地に行っても見れない龍安寺や二条城の障壁画を展示した特別展です。

 最終日前日と言うこともあり、覚悟はしていたもののすごい人出でした。特に、洛外洛中図の前は人だかりで、亀の歩みの鑑賞列に付いて並んで辛抱強く順番待つか、人の頭越しに覗き見るかのどちらかです。せっかちな私はもちろん後者。しかし、洛中洛外図は数センチやミリの世界で描かれた人々の生活・風俗を見るのがその面白さですから、これでは見たことにならないですね。それでも、同じ洛中洛外図でも、描かれた時代、版によって雰囲気が大いに異なるのが印象的でした、華やかな版があれば、落ち着いた版もあります。


洛中洛外図屏風(舟木本)

 また、全部で7つあるという国宝、重要文化財の洛中洛外図も、一度に全て展示してあるわけではなく、会期を前期と後期にわけて展示しているので、すべてをナマで見たければ、2回訪れなくてはいけません(ナマが展示していないものはパネルになって展示してあります)。こうした事前リサーチもないまま突撃しても駄目ですね。

 ただ、洛中洛外図のエリアを過ぎると、混んではいるもののしっかり鑑賞できます。御所、龍安寺、二条城にあった絵画や襖絵、障壁画が展示されています。狩野派の絵画の数々を堪能しました。龍安寺の襖絵の3枚はメトロポリタン美術館とシアトル美術館から里帰りしてきたものです。

 今まで日本の歴史、文化の展示には、精力的に足を運ぶようなことは無かったのですが、この秋をきっかけに、これから興味の対象を広げてみようかと思っています。


≪博物館敷地内にある巨大な銀杏≫


≪上野公園の紅葉≫

 2013年11月30日



(付録)

≪1週間前の11月23日の上野公園の紅葉≫




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ホフマン物語  @新国立劇場

2013-12-02 21:58:53 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


 新国立劇場にも立派なクリスマスツリーが飾られ、もうすっかりクリスマスモードでした。私としては年末最後を飾るオペラ(コンサート形式のものが1つありますが・・・)は大好きな「ホフマン物語」。7月に二期会による公演を同じ劇場で見てますが、今回は如何に?


≪新国立劇場入り口のツリー≫

 ホフマン物語にはいろんな版がありますが、私がこれまで見たのはシューダンス版。今回はエーザー版らしく、私は初めてです。第2幕がオランピアなのは同じなのですが、第3幕はアントニア、そして第4幕がジュリエッタで、シューダンス版の順番と入れ替わっています。そして最終第5幕の終わり方も違っていて、驚きました(ネタバレになるので内緒)。幕の順番は違和感なかったですが、最後の終わり方は、シューダンス版の方がスマートで好きです。

 公演そのものは、もちろん楽しめました。私はフレデリック・シャスラン指揮の東フィルの演奏が一番だったかな。オケが良く鳴って、オフェンバックの音楽の美しさ、楽しさが良く表現されています。音楽を聴いているだけでも、嬉しくなってくるのがホフマン物語。
 
 主だったところに配役された外国人歌手陣は「さすが外人、こらゃぁ〜敵わねえ〜」と唸るほど抜けた人はいませんでした。が、それぞれ安定した仕事っプリ。ホフマン役のメキシコ人アルトゥーロ・チャコン=クルス君は、雰囲気が私のイメージのホフマンに近くいい感じ。歌の方は、大声量のテノールなのですが、声にもう少し潤いがあると表現が豊かになるろうなあ〜と思ったりしました。今後に期待しましょう。リンドルフなどの悪役全てを引き受けるドスさんが、ドスの効いたバリトンで、しっかり舞台を締めてました。ニクラウス役のアンジェラ・ブラウアーさんはズボン役がとっても良くお似合いです。

 が、歌に関して言えば、むしろ、日本人の3人の歌姫さんが外国人歌手を相手にしっかり四つに組んだ存在感を発揮していたのが印象的でした。特に、オランピアの幸田浩子さんのソロは素晴らしかった。アリア「生垣には、小鳥たち」は、いつもドキドキ、ハラハラしながら聞くのですが、幸田さんのソプラノは安定していて、何とも美しい。機械仕掛けの人形の演技もチャーミングでした。

 フィリップ・アルロー氏の舞台(演出・美術・照明を担当)は、蛍光色を使った現代風の舞台。脇役陣にはピノキオみたいな長い鼻をつけるなどパロディチックなところもあり、色彩も華やかなものですが、ちょっと私の好みとはずれてました。第1幕は美術と照明の使い方が綺麗だなあと思いましたが、第4幕は登場人物は多く、ごちゃごちゃしていて、どこで何が起こっているのか良く分からない。決して悪いプロダクションとは思いませんが、私にはあまり訴えるものが無かったなあ。

 いずれにしても、12月最初の日曜日に、今年最後の舞台形式オペラを「ホフマン物語」で締める。私にとっては自分への最高のクリスマスプレセントでした。


≪今日は4階の最後列≫


≪ホワイエのクリスマスツリー≫


2013/2014シーズン

12月1日(日)14:00

Jacqus Offenbach : Les Contes d'Hoffmann
ジャック・オッフェンバック/全5幕
【フランス語上演/字幕付】

【指揮】フレデリック・シャスラン(インタビュー記事)
【演出・美術・照明】フィリップ・アルロー
【衣裳】アンドレア・ウーマン
【振付】上田 遙

【ホフマン】アルトゥーロ・チャコン=クルス
【ニクラウス/ミューズ】アンジェラ・ブラウアー
【オランピア】幸田浩子
【アントニア】浜田理恵
【ジュリエッタ】横山恵子
【リンドルフ/コッペリウス/ミラクル博士/ダペルトゥット】マーク・S・ドス
【アンドレ/コシュニーユ/フランツ/ピティキナッチョ】高橋 淳
【ルーテル/クレスペル】大澤 建
【ヘルマン】塩入功司
【ナタナエル】渡辺文智
【スパランツァーニ】柴山昌宣
【シュレーミル】青山 貴
【アントニアの母の声/ステッラ】山下牧子
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【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団


Jacqus Offenbach: Les Contes d'Hoffmann
Jacques Offenbach / all five acts
[French staged / subtitles]

【Command】Frédéric Chaslin
【Performance · Art · Lighting】Philippe Arlaud
【Clothes】Andrea Woman
【Choreography】Ueda much

【Hoffman】Arturo Chacón-Cruz
【Nicklaus / Muse】Angela Brower
【Olympia】Hiroko Koda
【Antonia】Hamada Rie
【Julieta】Keiko Yokoyama
【Rindorufu / Kopperiusu / Miracle Doctor / Daperuto~utto】Mark S. Doss
【Andre / Koshuniyu / Franz / Pitikinatcho】Atsushi Takahashi
【Lutheran / Crespelle】Osawa built
【Hermann】Shioiri IsaoTsukasa
【Nathanael】Watanabe Man Chi
【Spallanzani】Masanobu Shibayama
【Shuremiru】The Castle
【Voice / Stella mother of Antonia】Makiko Yamashita
コメント
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