新国立劇場の新制作、ヴェルディの「ナブッコ」を見に行きました(初日)。ヴェルディのオペラは結構見ているのですが、「ナブッコ」は初めてです。有名な「行けわが想いよ黄金の翼に乗って」をナマで聴けると思い、高揚した気分で新国立劇場へ。ホワイエは、初日ならではのドレスアップした男女がグラスを傾ける初日の華やいだ雰囲気の中で、ヴィックの新演出はどのようなものかという期待と不安が入り混じったような空気が流れてました。
演出の奇抜性はひとまず置いておいて、公演は、オケ・独唱陣・コーラスが素晴らしく、緊張感あふれる舞台でした。私としては、失礼ながらオーケストラの演奏がサプライズ。指揮のパオロ・カリニャーニはメリハリのあるキレの良い運びで、スケール感一杯に音楽を作ります。東フィルも精一杯応えて、金管の咆哮、優美な弦が絶妙にマッチした素晴らしいアンサンブル。オーボエ、チェロなどのソロも美しく、うっとりさせる秀逸な演奏に「これぞ、ヴェルディ!」と膝を叩きたくなるほどです。それだけに、カリニャーニがカーテンコールでオケを立たせなかったことには大いに不満。オケのメンバーもちょっとがっかりだったのでは?
独唱陣も素晴らしかった。終始舞台を支配したのは、アビガイッレ役のマリアンネ・コルネッティ。声質には好き嫌いが分かれるかもしれませんが、とにかく声量が圧倒的。この肉食系パワーには草食日本人はとうてい敵いませんね。私の4階席までビンビンに響いてきました。役柄にもはまった演技で、カーテンコールでも一番大きな拍手を受けました。私の期待のガッロは、前半はちょっと存在感が薄いなあと思ったのですが、後半は柔らかなバリトンに彼らしい内面深い演技が加わって、タイトルロールに相応しい役つくりでした。日本人歌手のイズマエーレ役 樋口 達哉さん、フェネーナ役の谷口 睦美も脇をしっかり締める良い仕事ぶりです。
コーラスも良かったですね。冒頭はちょっと硬くて、一本調子かなあと思ったのですが、直ぐにこれは私の耳の迷いと気づきました。大人数での、迫力あふれかつ綺麗に整ったハーモニーはオペラの楽しさを満喫させてくれます。「行けわが想いよ黄金の翼に乗って」は透明感あふれる歌唱の中、ヘブライの民の思いが伝わる大熱唱。イタリア人が第2の国歌として思いを寄せる気持ちがわかります。
こうした素晴らしい演奏、歌唱の中、賛否両論はヴィックの現代風の読み替えプロダクションです。ヴィックのプロダクションはロイヤルオペラで、『ニュルンベルクのマイスタージンガー』と『タメルラーノ』を観ていて、美しいプロダクションに魅せられましたので、とても期待していました。今回は、舞台を高級ショッピング・モールに仕立て、ヘブライ人がモールで買い物をする現代人、侵攻するバビロニア人がテロリスト(?)という設定です。この演出の狙いはプログラムに書かれているようですが(私は未購入なので未読)、『ナブッコ』初体験の私には、他のプロダクションとの比較もできず良く分からずじまいでした。現代ものの読み替え演出はロイヤルオペラでもたまにあったし、イングリッシュ・ナショナル・オペラではいつもの事でしたので、演出そのものに違和感を感じませんでしたし、出演者の意味不明の動きや偶像がキューピーのような人形だったりで、それなりに楽しんで観ることはできました。ただ、こうした設定にする必然性までは理解不能で、観客席からはブーイングも聞こえてきました。
とにかく、全体として素晴らしいパフォーマンスで、大満足。ホントならもう一度行きたいところですが、お金とスケジュール的には無理っぽいです。なので、少しでも多くの人が新国立に足を運ぶことをお勧めしたいと思います。
※この日あまりにもあきれたことがあったので、蛇足ながら一筆。今回の私のチケットは、C席8400円。これでも決して安くはないが、まあ、適正価格と思いたい。それに比べて、劇場入口でもらったミラノ・スカラ座の来日公演チラシにS席62000円、D席29000円と冗談のような価格が設定されているのを見て驚愕した。そして、日本人が如何にバカにされているかを感じ、本当に悲しかった。はっきり言おう、62000円~29000円出して、行くお金があったら、このナブッコに行くべきだ。NHKホールでスカラ座見たって、スカラ座の良さは半分も味わえないし、スカラ座のメンバーによる公演が新国立劇場より良いとは全く限らない。貧乏人の僻みではなく、あまりにもバカにしている。もちろんお金の価値感は人それぞれだし、価格はあくまで需要と供給の関係で決まるものだから良い悪いはないのかもしれないが、NHKホールで行われるミラノ・スカラ座の公演が62000~29000円というのは余りにも酷い。どんな人が訪れれるのかを見に行きたい気はするが、そんなお金があったら、震災復興に寄付する。たとえ私がお金に不自由していなくても、こんな馬鹿げた公演には絶対に行かないぞ。
指揮:パオロ・カリニャーニ
Conductor:Paolo Carignani
演出:グラハム・ヴィック
Production:Graham Vick
ナブッコ: ルチオ・ガッロ
Nabucco:Lucio Gallo
アビガイッレ:マリアンネ・コルネッティ
Abigaille:Marianne Cornetti
ザッカリーア:コンスタンティン・ゴルニー
Zaccaria:Konstantin Gorny
イズマエーレ:樋口 達哉
Ismaele:Higuchi Tatsuya
フェネーナ: 谷口 睦美
Fenena:Taniguchi Mutsumi
ベルの祭司長: 妻屋 秀和
Gran Sacerdote di Belo:Tsumaya Hidekazu
アンナ: 安藤 赴美子
Anna:Ando Fumiko
アブダッロ: 内山 信吾
Abdallo:Uchiyama Shingo
美術・衣裳: ポール・ブラウン
Scenery and Costume Design:Paul Brown
照明: ヴォルフガング・ゲッベル
Lighting Design:Wolfgang Göbbel
振付: ロン・ハウエル
Choreographer:Ron Howell
舞台監督: 斉藤 美穂
Stage Manager:Saito Miho
芸術監督: 尾高 忠明
Artistic Director:Otaka Tadaaki
合唱指揮: 三澤 洋史
Chorus Master:Misawa Hirofumi
合唱: 新国立劇場合唱団
Chorus:New National Theatre Chorus
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
Orchestra:Tokyo Philharmonic Orchestra