掛井酒店

純米酒(日本酒)の話題を中心に、ドイツビールやワインなどの入荷情報、日々の出来事を発信します。

ひやおろしを販売する前に・・・

2011-09-09 14:40:48 | 独り言
そもそも、冷おろしとは何ぞや・・・・いつもこの時期に成ると毎年のように考えさせられます。
 この季節に成り、多くの蔵元さんから「冷おろし」の商品の案内を頂いたり、デパート・酒販店・飲食店これ見よがしに沢山の種類の「冷おろし」が並んでいると、少しげんなりしてしまいますこういった状態を私はいつも、これでいいのかと考えさせられます。
 だからといって、頭から冷おろしのすべてを否定する気は毛頭ない。当店でも勿論、扱いますから・・・なんじゃそりゃ~
憂慮しているのは、近年「冷おろし」というもの自体が全く変わった解釈のものに成っていると言う事なのだ。 
 そもそも、冷おろしはとは、春に搾ったお酒を火入れ(熱殺菌)を行い、貯蔵されます。その後夏を過ぎ程よい熟度に成り、蔵温度と外気温があまり変わらなく成った10月後半頃に出荷されるお酒です。その際、通常のお酒は貯蔵されていたお酒を、出荷前に再度火入れを行い出荷しますが、その作業を行わずそのまま出荷される事から、冷で卸す・・・ということから「冷おろし」と呼ばれています。
「冷おろし」という名前から、冷で飲む専用の酒などと考えられやすく誤解されていますが、寧ろお燗で楽しめるお酒に仕上がっています。勿論嗜好品なので温度帯は自由ですがね…(笑) 
では、今現在の有りがちの「冷おろし」とは・・・
前項で話したものと、少し様相が違います。先ず、断然出荷時期が早い・・・というより早すぎる。早い所では8月末には出荷に成っている蔵元も有ります。暦の上では秋だが、気候的には、ほぼ真夏に近い。原因は色々な事が考えられるが、やはり9月を境にし酒販店や飲食店の秋の季節商材が欲しい・・・という要望があり、それに応える形と、またそれを受け「秋の看板商品に成る」と判断したで蔵元も競って早めに出荷された結果・・・と考えられます。
 その為、熟成期間はかなり短くなり、程よい熟成とは程遠く、はっきり言っで若さが目立ち、酒質は硬いカチカチのものが多く、本来の意図したところとは違う状況に成っています。
 他にも熟成の遅さの原因一つとして、蔵元さんの貯蔵方法にも要因が有ります。一昔前は一般的であった蔵内温度(常温)の貯蔵ではなく、品質管理という観点から貯蔵タンクごと低温で貯蔵したり、大型定温倉庫(温度の低い)に貯蔵タンクごと保存しているため、熟成が掛かりにくいという事も有ります。
もう少し長期間の熟成期間を掛ければこういった貯蔵法も有りなのでしょうが、冷おろしの様なお酒を過度に低温で貯蔵するのもどうなのか・・・しかも先ほど申し上げた通り熟成期間も半年も経っていない様な状態で出荷するのであれば、尚更です。勿論、蔵内の常温で貯蔵している所もまだまだあります。
このように熟成具合が未熟な状態で、市場に出てたされ、飲み手に判断されるのは、大変残念に思います。「いやいや未熟でもいいのよ・・春に搾ったお酒がこんなふうになったよ。という季節の挨拶な様なものだから・・・」とか言われると身も蓋も有りませんが・・・ま~それも本来の「冷おろし」の意味合いからすると、いかがなものかと思いますがね(笑)。
 誤解されてはいけないので、申し上げますが、すべての蔵元さんの「冷おろし」が、こういうふうな製法で造っている訳では有りません。
 しかしながら、現在硬い酒質の「冷おろし」が溢れている状況を、良しとしない酒販店や飲食店の中には、自分の仕入れた冷おろしを季節を度外視して、お酒の本来の旨味が出るまで手元において、その後、店頭並べたりお客様に提供したりしているお店も見かけるようになりました。
近年では、蔵元さんの中には「二夏越し冷おろし」と称し、もう一年熟成させ出荷するといったところも出て来始めました。 
 そうなってくると、いよいよいったい「冷おろし」って何・・・・という感じに成って来ます。一層「冷おろし」の看板を下ろし生詰(本文下の説明を参照下さい)表示にして醸造年度を入れた方が分かりやすいのに・・・と思いますが。
 「冷おろし」という視点を変えると、この時期にしかあまり出荷されない生詰のお酒を、自分で飲みごろが来るまで置いて楽しむ方法も有りかと思いますが・・・(笑)
 いずれにせよ個人的には、本来の意味での「冷おろし」の在り様を、もう一度考え直した方が良いのではないかと思います。
硬い酒質で青っぽい若さの苦・渋を残したお酒は、山菜などと合い春のイメージです。
一方、ちゃんと熟成し飲み頃に成った日本酒を、豊富な秋の食材お料理と、少し夜風が冷たくなった時期にお燗で頂くのが、本来の季節の醍醐味の様な気がしますが・・・・。


【お酒の火入れによる名称説明】
生  酒:搾ったお酒を全く火入れを行わないお酒
生貯蔵酒:お酒を搾った後、生酒の状態で貯蔵し、出荷前に火入されるお酒。
生  詰:冷おろしの様に、搾ったお酒を火入れ貯蔵し、出荷の時には火入れを行わないお酒。
通常の(火入れ)お酒:搾ったお酒を火入れ貯蔵し、出荷時にもう一度火入れを行い、二度の火入れ作業をして出荷されるお酒。