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アジアと小松

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小松基地問題研究会

『アラブ革命はなぜ起きたか』を読む

2012年03月29日 | 読書
『アラブ革命はなぜ起きたか』(エマニエル・トッド著 2011.12)を読む

 著者のトッドはフランスの歴史人類学者・家族人類学者である。トッドの処女作『最後の転落』では、「幼児死亡率からソ連の崩壊を予告した」といわれている。本書の巻末広告を見ると、何冊もの本が翻訳されて読まれている。『文明の接近』(2007年)、『世界の多様性』(2008年)、『デモクラシー以後』(2008年)、『自由貿易は民主主義を滅ぼす』(2010年)などである。
 注目すべき学問なのかどうか、『アラブ革命はなぜ起きたか』を一読してみることにした。

 本書のテーマは書名にもなっている「アラブ革命はなぜ起きたのか」である。トッドが歴史(社会革命)を見るとき、「識字率(化)」を最重要の変数と考えている。その他、「出生率の低下」「内婚(いとこ同士の結婚)率」等を上げているが、経済システムは副次的変数であるとして、経済関係を軽視し、経済学には興味を示していない。
 トッドは「経済は家族構造や教育水準の上昇に比べて決定的な要因としての力は劣る」と明快に述べている。

 チュニジア革命の突破口が青年の失業と貧困であったにもかかわらず、経済問題を副次的変数とするトッドに違和感を持たざるを得ない。

 まず、識字化について確認しておこう。トッドは20~24歳の青年の識字率が50%を超えたかどうかをメルクマールにしている。34ページには一覧表があり、それによると下記のようなっている。
 日本では、 男性1850年、女性1900年
 イタリアでは、 男性1862年、女性1882年
 朝鮮では、 男性1895年、女性1940年
 ロシアでは、 男性1900年、女性1920年
 チュニジアでは、男性1960年、女性1975年
 エジプトでは、 男性1960年、女性1988年
 イランでは、 男性1964年、女性1981年

 識字率が高くなる(教育水準が上昇)と、家族内に、「息子は読めるが父は読めない」という状況が生まれ、家族内の権威関係が破綻する。それは社会全体に波及する。教育水準が上昇した若者の社会的発言力が高まり、従来の権威者である親の世代の権威が失墜し、青年が社会を変革する勢力へと成長し、社会革命の基礎を形成する。
 フランス(1979年)、ロシア(1917年)、イラン(1979年)でも、識字率の上昇が政治革命をもたらしたという。

 また、教育水準(識字率)の上昇は、結果的に出生率の低下をもたらし、社会が老齢化する。中央値年齢を見ると、チュニジアは29歳、エジプトは24歳、フランスは40歳、ドイツは44歳である(ロシアは37.9歳、日本は44.7歳-インターネット検索)。教育水準が低い(識字率が低い)社会ほど、出生率が高く、中央値年齢は低く、青年層が厚い。すなわち、識字率が低い国々は青年層が厚く、識字率の高い国々は老齢化している。

 トッドは老齢化した社会(中央値年齢の高い社会)は非革命的になるといっている。その理由は老人は危機に遭遇しても、街頭に出ないし、若者は体制を転覆させることのできる勢力を持つことができないからだという。
 トッドによれば、チュニジアはすでに識字率が90%を超え、中央値年齢は29歳と低く青年が多数だから、すなわち老齢化社会ではないから、革命が起きたということになる。トッドはチュニジアやエジプトでは社会革命の条件が揃っていたと主張している。

 このように、トッドの論理展開を見てきたが、どうも表層的で、本質的な議論ではないように感じる。確かに、チュニジアやエジプトは識字率が上昇し、中央値年齢が低いという事実は適合しているが、だからといって、「なぜ」の答になるのかどうか疑わしい。

 日本の中央値年齢は44.7歳(世界最高)なので、トッドの論理に従えば、このまま安定的に推移して、革命は起きないということになる。経済問題を無視すれば、このような結論に達するが、現実は資本の矛盾を労働者階級に転嫁し、労働者は呻吟している。トッドの「老人は決起しない」という神話は、私たち老人の手で打ち砕かれるであろう。

 その他、イラン革命に関する叙述には注目したい。
 「現在のイランは革命後の時期で、動揺しているが正常の範囲内である。外国の攻撃(介入)が平穏化の最終過程にブレーキをかけている。イラン人は民主的気質を持っているので、そっとしておかれたらイランは中東で最初の民主主義大国になっていたでしょう」「イスラム教は多様性を抱えた宗教である。たとえば、インドネシアのイスラムは母系制であるし、マホメットは遺産相続については、女性に半分の取り分を与えるもので、従来の父系的システムを否定していた」などと述べている。

 また、婚姻関係についても、「アラブの内婚制社会は女性を保護し、ロシア、中国などの外婚制は、嫁が見ず知らずの家族の中に送り込まれ、子を産んでやっと認められるという権威主義家族のシステムである。アラブの家族では、父親は束縛的ではない偽の権威しか持っていない」と分析し、評価している。

 突然ですが、トッドが「ドイツと日本は本物の民主主義国」というに至っては、眉唾もいいところだろう。
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