アジアと小松

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小松基地問題研究会

戦時強制連行(徴用)被害者に未払い金を支払え(つづき)

2017年08月23日 | 戦後補償(特に不二越強制連行)
戦時強制連行(徴用)被害者に未払い金を支払え(つづき)

 前便で報告したように、日本政府は、日韓請求権協定によっても「徴用工」などの個人請求権は残されているとしているにもかかわらず、8月21日に文在寅大統領と会談した額賀福志郎(自民党)は「日韓請求権協定により、日本の植民地支配下での徴用工への賠償請求権問題は解決済みだという日本の見解」(8/22「北陸中日新聞」)を説明したという。また、「北陸中日新聞」のインタビューに、河野太郎外相は「徴用工問題も(1965年の日韓請求権協定で)解決済みだ」(8/22付)と答えている。
 政府・自民党のウソ(マスコミ報道も)がまかり通っているのは、日本政府の「ずるさ」と私たちの無関心にあることを肝に銘じ、もっともっと声を上げなければならない。さて、最近開示された「経済協力韓国108(108版とする)」(「帰還朝鮮人に対する未払い賃金債務等に関する調査集計」)の概略を報告する。

徴用関係資料から
 2017年、強制動員真相究明ネットの請求で、「経済協力韓国108」(「帰還朝鮮人に対する未払い賃金債務等に関する調査集計」)が開示された。
 2008年に、「経済協力韓国105(105版とする)」が開示されていて、竹内康人さんが『戦時朝鮮人強制労働調査資料集2』(2010年)のなかで、<供託分、未供託分、第3者引渡分>を一括して「表2₋1朝鮮人未払金事業所一覧」を作成しているが、他の6資料も加え、並べ方も50音順に変更してあり、純粋な意味での「経済協力韓国105」の復元資料ではない。
 2008年に開示された「105版」と2017年に開示された「108」版は並び順、金額、人数の違いはあるが、対象企業は全く同じである。今回の「108版」の開示によって、「105版」ではうかがい知ることが出来なかった新たな情報も明らかにされ、朝鮮人強制連行・強制労働(徴用)に関する認識を深化出来るのではないかと期待している。

(1)「105版」と「108版」の違い
 2017年に開示された「108版」は、表紙には「帰還朝鮮人に対する未払賃金債務等に関する調査集計(供託分、未供託分、第3者に対する引渡分)」と書かれていて、背表紙には「未払賃金債務等(朝鮮人に対する)調」と書かれている。作成・発表時期は不明である。
 2008年に開示された「105版」は、表紙には「労働省調査 朝鮮人労務者に対する賃金未払債務調」と書かれ、背表紙には「朝鮮人労務者に対する賃金未払債務調 労働省調(昭25.10.6)」と書かれている。1950年に作成され、日本政府・大蔵省が1953年に発表した綴りである。
 「105版」の供託名簿の「古河鉱業」の項には、[1.085.204.00]に訂正線を引いて、[貯金72.412.00][現金10.787.00][●●●25.360.67][(合計)108.525.67]と記載されている。「108版」には[1.085.204.00]と記載されており、したがって、「108版」は「105版」よりも先に作成され、訂正版として「105版」が作成されたが、「108版」がいつ作成されたのかは判らない。

(2)供託関係金額と人数について
 「105版」「108版」ともに「供託済」「未供託分」「第3者引渡」に分けられている。
 「105版」についてみると、[供託済=10.005.537円70銭 未供託分=4.354.870円75銭 第3者引渡=2.963.878円19銭 合計=17.324.268円64銭(約1730万円)]であり、「108版」では、[供託済=10.982.115円55銭 未供託分=4.549.331円84銭 第3者引渡=2.963.777円32銭 合計=18.495.224円71銭(約1850万円)]となっている。
 供託件数(人数)を見ると、「105版」では14万9553人であり、「108版」では14万2251人である。
 すなわち、合計人数は「105版」の方が7302人多いが、合計金額では「105版」の方が1.170.956 円7銭(約120万円)少なくなっている。
 各県別の供託済、未供託、第3者引渡金額の一覧表を末尾に添付した。

(3)「108版」からわかること
 第1に「108版」が先に作成され、その後「105版」が1950年に作成され、1953年に発表された。第2に、一覧表の形式(項目設定)が変更されている。特に、「未供託分」一覧表に関しては、「108版」には「未供託理由」が項目としてあるが、「105版」にはない。第3に、供託対象金額(合計)も供託対象人数(全体)も「105版」のほうが少なくなっている。
 したがって、「108版」の後に作成された「105版」に一定の「作為」が働いているのではないか。特に、未供託理由をカットすることによって、朝鮮人強制労働(徴用)の実態と会社側の不誠実な対応を抹消する役割を果たしているようだ。
 では、「未供託理由」欄の「逃亡」の実態を摘記しておきたい。
 興国鋼線索(東京)「無届け退社により本人の住所が不明」/熊谷組平岡作業所(長野)「全員逃亡した為」/雄別砿業所(北海道)「主として無断退出及終戦時の混雑」/三井鉱山新美唄鉱業所(北海道)「逃亡により引渡不能」/久保田鉄工所武庫川工場(兵庫)「本人帰還送金不能」/播磨造船所(兵庫)「逃亡等のため」/日本ダシャップ護謨(兵庫)「全部無届け退社しその後の所在不明」/日本鉱業岩美鉱業所(鳥取)「戦時中集団移入した朝鮮人労務者35名中17名が契約期間内に個別に逐次逃亡して所在不明」/森本組日登出張所(島根)「朝鮮人逃亡のため」/横浜護謨製造三重工場(三重)「朝鮮人労務者を約100名使用していたが/約33名が逃亡」/日本通運柳ヶ浦支店(大分)「崔本在容の賃金なるも…逃走後行方不明」/豊国セメント(福岡)「所在不明」/電気化学大牟田工場(福岡)「戦時中の逃亡者」/船越吉嗣(福岡)「2名は無断工場より逃亡、1名は帰鮮(ママ)後無断帰場せず」。
 供託分の「摘要」欄にも「逃亡」について記載されている。日本セメント大森工場(東京)「逃亡した者」/三井鉱山新美唄鉱業所(北海道)「逃亡にして引渡不能」。
 強制連行(徴用)されてきた朝鮮人が日本の敗戦を待たずに、命からがら、次々と事業場から脱出したことがこの資料から判る。給料よりも命を守らねばならないというセッパ詰まった状況が読み取れる。
 右写真の「108版」の鳥取、島根の項を見ると、「逃亡」という文字が2個所確認出来る。「105版」には「理由」欄はない。



(4)「逃亡」の実態
 2015年に発行された竹内康人著『戦時朝鮮人強制労働調査資料集(増補改訂版)』によれば、「日本などへの労務動員で80万人、軍務では36万人が連行され」「韓国内での労働力動員を加えれば、この数倍の朝鮮人が戦時期に強制労働された」と報告している。
 そして逃亡に関しては、「益山郡から100人連行しようとしたが、出発地には51人しか集まらず、朝鮮内で2人、日本で7人が逃亡」、「遂安郡から90人が出発したが、朝鮮内で47人が逃亡」、「瑞山郡では102人が集合したが、引継ぎの段階で86人になり、さらに朝鮮内で26人が逃亡した」と具体的に述べている。
 数万人の朝鮮人を強制連行・強制労働させていた北海道炭砿汽船に関してみると、割当て人員のうち、1943年度第4期は75%、1944年度第1期は62%、第2期は56%しか到着していないという(官斡旋の時期)。そして1944年9月には徴用による強制連行へと移行していった。

(5)悪質極まりない企業
 そもそも供託制度とは会社に支払いの意志はあるが、何らかの理由(住所不明など)で本人に渡せないから、国家機関に預けるという制度である。しかるに、ここでは労働者本人に渡すことが出来ないという理由で供託しておらず、本末転倒、余りにも悪質ではないか。
 また、未供託理由欄のなかに、大平鉱業明延鉱業所(兵庫)は「終戦後の資金繰り頗る困難を来したるため」と記入している。強制的に引っ張ってきて、逃亡防止のために強制的に「貯金」させ、まさにただ働きさせた上に、資金繰りの困難を理由に供託すらしないという悪徳企業である。東洋工業(広島)は「措置を忘れていたため」という信じられない理由が書き込まれている。
 命がけで働いていた朝鮮人の賃金を渡すために、全力を尽くして本人を探し出し、優先的に支払わねばならないのに、「金融至難」「資金繰り困難」などといって、賃金債権を踏み倒していた。また、「法の不知」「忘れていた」などと、日本人労働者には絶対にしないであろう差別的対処が見てとれる。


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