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随筆紹介  おやじポスト    文科系

2015年09月07日 08時15分21秒 | 文芸作品
  おやじポスト  H・Sさんの作品
  
 赤ちやんポストがあるのに、どうしておやじポストはないの? この、おやじポスト発言は、T新聞の「つれあいに物申す」という読者欄の投稿発言だ。

 定年退職後の連れ合いと、四六時中一緒に暮らすおばさんの心は、連れ合いに対する不満が渦巻いている。名古屋のおばさん発言は「いらん物は、コメ兵に売ろう」のコマーシャル発想で面白いと、おばさんと同世代のわたしは受け止めている。この投稿は.おやじの関心を呼び寄せたようで、おやじも、おばさんに負けてはいなかった。
「俺は、もてる男だから、俺を捨てたら後悔するぞ」と、逆襲。投稿者の90%は女性だと言われている投稿欄に、この様な男性の投稿は珍しい。おやじが一矢報いたといえよう。
おばさんたちの言い分は、おやじが昼寝をする姿がトドそっくりで醜い。一日中家に居て行くところがない、炊事が出来ない。会話は、あいうえお、この五つですませてしまう。おばさんたちはこの様な男を「あいうえお」おやじと名をづけてからかう。その中身を解説してみよう。何か欲しい時は「あれ。あれ。あれをくれ」。自分の意に添わないときは、「いや」と首をふる。新聞を読みながらおばさんの言い分をきちんと聞かないで「うん」と生返事。不都合なことが起こると「え、えー聞いとらんぞ」とおっかなびっくりで不満をぶちまける。おばさんに用事がある時は「おい」と呼びつける。これで、すべての日常用語が賄えてしまう。

 おばさんは、自分の連れ合いを細かく観察。的確に描写が出来ているので笑いを誘う。
 お互いに、命に係わることではなく、文句を言いながら一諸に暮らしているのだから、こういう悩みは、明るい悩みと言えよう。
 つらつら考えると、新聞という公器を使い、一組の夫婦が辛辣な意見を戦わせ、不満を堂々と述べ合うなんて、ごく最近の傾向ではないかと、わたしは見ている。必死に育てた子供は一人前になり、独立して家を去る。一昔前なら、老いが特急で押し寄せ、命の方が尽きていたので、こういう悩みはなかった。現在、六十歳の人が九十歳まで生きる確率は60%と言われている、六十歳で退職。リタイヤしたおやじには、三十年も生きそうな命が残されている。おばさんの方はもっと元気だ。目の前に展開するであろう、人生百年時代の最初の世代となる私たち。長い老後を無事に乗り切るため、連れ合いには少しは気づき、自分改造を心がけてほしいという、おばさんの切なるお願いが見えてくる。

 年月とは恐ろしいもので、長年つみあげたやり方を、易しく変えることはできない。トドおやじも「あいうえお」おやじも、今後も変わり映えはしないと思うよ。ましてや、保護する対象ではないおやじのための、おやじポストは造られることはない。が絶望することもない。毎日おばさんに付きまとうトドおやじ。「あいうえお」おやじは、おばさんが、命の危険にさらされた時は、大慌てで救急車を呼び、病院の手配はしてくれるよ。おばさんに死なれたら、自分が困るという下心があったとしてもいいじゃないの。どんなに可愛がっても、ペットの子犬は役には立たない。時間をかけて、投稿で啓蒙しながら、気長におやじを改造しようではありませんか。
 おばさん読者からのメッセージでございます。

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1 コメント

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暖かい (文科系)
2015-09-10 18:59:51
 どこか暖かい内容。
 単に濡れ落ち葉という終わり方ではなく、こう締めているところが。
『おばさんが、命の危険にさらされた時は、大慌てで救急車を呼び、病院の手配はしてくれるよ。おばさんに死なれたら、自分が困るという下心があったとしてもいいじゃないの。どんなに可愛がっても、ペットの子犬は役には立たない』
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