■A Possible Projection Of The Future / Childhood's End
/ Al Kooper (Columbia)
最近の我国を震撼させた高齢者の長期行方不明事件!?
もう、正直、こんな事態が全国的に多数明らかにされようとは、思ってもみませんでした。なにしろサイケおやじが子供の頃は、長生き=幸せという未来が堂々と提示されていたわけですし、それが最近では長生きが決して幸せでは無いという現実に直面はしていたものの、それにしても……。
なんか、こう、胸が潰れる気分で思い出したのが、本日ご紹介のアルバムです。
まずは老人がエレキギターに縋っているジャケ写が、強烈でしょう。
これは1972年に発売されたアル・クーパーのリーダー盤で、もちろん写っている老人は特殊メイクを施されたアル・クーパー本人!? 既にご推察のとおり、これは年老いたロックスタアが自分の歩んできた道を振り返り、懐かしさと悔悟の念に自らの存在感を確かめるといったトータルアルバムという解釈が一般的です。
つまり音楽の世界だけでも、実に多様で重要な活動を繰り広げてきたアル・クーパーの回顧録的な意味合いも強いのですが、しかし当時のアル・クーパーは未だ30歳前だったのですから、邦題「早すぎた自叙伝」は、まさにそのものズバリ!
A-1 A Possible Projection Of The Future
A-2 The Man In Me
A-3 Fly On
A-4 Please Tell Me Why
A-5 The Monkey Time
B-1 Let Your Love Shine
B-2 Swept For Your Baby
B-3 Bended Knees (Please Don't Leave Me Now)
B-4 Love Trap
B-5 Childhood's End
常にリスナーを驚かせるクセが抜けないアル・クーパーらしく、今回も冒頭から雷鳴轟くSEや様々に雑音みたいなシンセが唸るイントロを経て、如何にも「らしい」ゴスペルロックの泣き節がスタートする「A Possible Projection Of The Future」こそ、このアルバムの幕開けに相応しいとしか言えません。
そこにはブルースプロジェクトやBS&Tをやってきた自らの成功の道と落ちぶれてしまった老境の姿を赤裸々に歌い、さらに神様の非情を恨みつつ、救いを求めずにはいられない刹那の境地が、ジャズブルースなピアノを根底に置き、不気味なシンセやヘヴィなリズム隊の躍動を従えて、滔々と繰り広げられているです。
そして続く「The Man In Me」はボブ・ディランが当時の新作だった「新しい夜明け」で発表した隠れ名曲なんですが、作者とは因縁浅からぬアル・クーパーが、これを壮大なバック演奏を従えて、実に女々しく、負け惜しみ満点に歌うという趣向が、ずっしりと心に響いてまいります。
あぁ、初っ端からの二連発だけで、このアルバムは間違いない!
そう確信する他はないのですが、そうしたサウンドを作り出したのは1曲を除いてハービー・フラワーズ(b)、バリー・モーガン(ds,per) を核とするブリティッシュなリズム隊であり、アル・クーパー自らもピアノ、オルガン、シンセ等々の各種キーボードとギター全般を演じる大奮闘! さらにコーラスにはリンダ・ルイス、クラウディ・キング、バネッサ・フィールズ、ロバート・ジョンといった有名人が参加し、レコーディングそのものも基本はイギリスで行われています。
結論から言えば、その所為でしょうか、あくまでも個人的な感想ではありますが、アルバム全篇から滲み出るキーボードロック系のプログレ風味が否定出来ず、このあたりは常に時代の流行に敏感なアル・クーパーの仕掛けの早さと言うべきかもしれません。
しかし決して自分を見失わないのも、またアル・クーパーの魅力のひとつで、そのジコチュウな曲調とサウンド作りの妙は、冒頭から痛快にオルガンが唸り、ノーザンピート直系のR&Bと泣きのメロディがジャストミートした「Fly On」に顕著! あぁ、せつないばかりの楽しさが憎たらしくなるほどですよ♪♪~♪
う~ん、このあたりは近年、フリーソウルなんていう言葉を言い訳にしては古い歌や演奏を鳴らすDJ達に再発見されるのも、ムペなるかな!
その意味でアル・クーパー自らの嗜好を吐露した「The Monkey Time」や「Swept For Your Baby」という、R&Bの有名曲カパーも最高♪♪~♪
特に乾いたリズムが独得の気持良さを作り出す「The Monkey Time」のウキウキ感は、今となっては当たり前のカッコ良さかもしれませんが、発売された当時の1970年代前半では、なかなか温故知新でしたねぇ~♪ このあたりにもイギリスのリズム隊を起用した狙いがあったのかもしれません。下世話なコーラスも良い味出しまくりですよ♪♪~♪
しかし一方、スモーキー・ロビンソンが書いた泣きのソウルパラード「Swept For Your Baby」は、実はこの演奏だけがアメリカ録音で、メンバーはボブ・ウェスト(b)、ポール・ハンフリー(ds)、ポビー・ホール(per) というお馴染みの名手が参加していることもあり、なかなか王道のソウルグルーヴが、たまりません。しかもメロウ&ゴスペルとでも申しましょうか、既に流行していた黒人ニューソウルの白人的解釈が、流石はアル・クーパーと納得されるでしょう。
ですから、これもカパー曲でジミー・クリフが書いたらしい「Please Tell Me Why」が、なんと同時期から続く昭和歌謡ポップスのアレンジに近くなっているのは、些か面映ゆい感じなんですが、ここで聴かれる様々な要素が実際、しっかりとパクられていたのは驚くべきことだと思います。
つまりそれだけ、このアルバムが玄人にも影響を与えていたんでしょうねぇ~♪
まあ、そのあたりをアル・クーパー本人が知っているか否かは別問題として、アルバム後半に集中する自身のオリジナル曲にしても、ウエストコーストロック&ハリウッドホップス味が強い「Let Your Love Shine」、十八番のゴスペルロック系泣き節が全開する「Bended Knees」、さらにモータウンサウンドの英国プログレ風展開という「Love Trap」は、まさにアル・クーパーでなければ書けない曲調とサウンド作りが圧巻! 特に「Love Trap」は絶対にフィル・コリンズが好きなはずと確信するほどですよ。
そしてオーラスの「Childhood's End」は、ホロ苦くてやっぱり甘い若き日々に分かれを告げ、絶望の中に未来への一抹の希望を漂わせる曲メロと詩の内容ですから、このアルバムは本当に計算されつくしていると思います。
アル・クーパーの作り出す曲は、平易なメロディラインを基本にし、そこへ凝ったアレンジによる的確な演奏と泣き節主体のしつこい歌いっぷりで仕上げられるものがほとんどです。
特にボーカルの味わいは好き嫌いがはっきり出るスタイルでしょう。
しかしその背後には、例えば痛快に唸るオルガンや泣きまくりのギター、せつなさを増幅させるコーラスや重厚なアレンジメント等々のキモが、必ずあるのです。
今回のアルバムでは、そのあたりの多くの部分をシンセやメロトロンといった、当時の最新キーボード類で作り出していますが、それは決して無機質ではなく、非常に人間的で下世話な味わいが強く出ています。
そして既に述べたように、アル・クーパー自らがひとつの総決算を狙ったような意味合いも否定出来ませんから、取っつきは悪いかもしれませんが、なかなか飽きない魅力があるんですよねぇ~♪
皆様がご存じのとおり、アル・クーパーはいよいよ次に、大傑作の人気アルバム「赤心の歌 / Naked Songs」を出すわけですが、それだって本盤があればこその結果じゃないでしょうか?
しかしアル・クーパーは本当に幸せなミュージャンです。
なにせ三十路前で自叙伝を出し、次には不滅の傑作を生み出し、さらに若き日々から続けていた裏方の仕事でも以降、大輪の花を咲かせ、今日でも気になる活動を続けているのですからっ!
全く羨ましい生き様だと思います。
もちろんサイケおやじには、アル・クーパーのような素質もなく、また努力も足りていないわけですから自業自得と諦めざるを得ないのが現在の自分です。
ただし、それでも今後、少しはマシな老年期を迎えられるように前向きな気持は捨てたくないなぁ~、と自分に言い聞かせるたくなるのが、このアルバムを聴く度に思う現在の心境です。
そして当然ながら、それは若い頃には思うことすらなかった気持ちですから、初めて聴いた時から三十数年を経て、完全にアル・クーパーの手中に落ちたというわけなんでしょうねぇ。
あぁ、自分も齢をとってしまった……。