■Matching Mole (CBS)
なんとも愛らしいモグラのご対面♪♪~♪
もう、このジャケットデザインだけで和んでしまいますが、中身は極めてロックジャズな英国流プログレなんですから、たまりません。
と言っても、それは決してギスギスしたものではなく、ジャケットどおりのホノボノフィーリングもありますし、湿っぽくて幽玄なブリティッシュロックの味わい、さらに妥協を許さない緊張感が見事な化学変化を聴かせてくれる秀作だと思います。
メンバーはロバート・ワイアット(vo,ds,key)、デイヴ・シンクレア(key)、フィル・ミラー(g)、ビル・マコーミック(b,g,etc)、デイヴ・マクレア(key) という顔ぶれからも皆様ご推察のように、マッチング・モウルというグループは当時、イギリスのロックジャズバンドでは確固たる地位を確立していたソフト・マシーンに在籍していたロバート・ワイアットのソロプロジェクトが、そのスタートでした。
ご存じのようにソフト・マシーンは1960年代中頃から活動している老舗であり、ジミヘンのアメリカ巡業に前座同行してブレイクを果たしながら、悪いクスリや仲間割れ等々が重なり……。その音楽性はサイケデリックをベースにした浮遊感ロックからフリージャズまでも包括した、実に奥深いものでした。しかも独得のポップなフィーリングを持ち合わせていたのですから、リアルタイムで作り出されたアルバムは、なかなか高評価だったのです。
しかし前述のような経緯からオリジナルメンバーのロバート・ワイアットが、ついに独立を画策し、まずは1970年に最初のソロアルバムを発表し、その流れからソフト・マシーン脱退後の1972年に結成したのが、このマッチング・モウルだったようです。
ちなみにマッチング・モウルとは、ソフト・マシーンのフランス語発音をそのまんま、英語に置き換えたと言われていますが、こうした稚気も憎めませんねぇ~♪
A-1 O Caroline
A-2 Instant Pussy
A-3 Signed Curtain
A-4 Part Of The Dance
B-1 Instant Kitten
B-2 Dedicated To Hugh, But You Weren't Listening
B-3 Beer As In Braindeer
B-4 Immediate Curtain
まず、何んと言っても冒頭「O Caroline」の和みのメロディ、ホノボノとしたサウンドの妙にグッと惹きつけられます♪♪~♪ フワフワしながらハートウォームなロバート・ワイアットのボーカルと多分、メロトロンで作り出したであろうフルートの響きがジャストミートの良い感じ♪♪~♪
既に述べたように、ロバート・ワイアット=ソフト・マシーンというフリージャズな先入観からは、全く正反対のイメージなんですが、実はロバート・ワイアットはソフト・マシーン在籍時から、こうした美メロ&和みのポップスフィーリングの源になっていた存在だった事を後に知るほど、「O Caroline」がますます好きになるのです。
そしてここから続く「Instant Pussy」におけるフィールソーグッドなフュージョン趣味、そして「Signed Curtain」の美しくもせつないメロディ展開の心地良さは、決して気抜けのビールではありません。
ロバート・ワイアットの変幻自在なドラミング、デイヴ・シンクレアのキーボードは素直なアコースティックピアノも含めて、これ以上無い味わいを醸し出し、ついにハードで幽玄な「Part Of The Dance」へと見事な流れを構成していくのです。
もちろんそれはキング・クリムゾンやイエス、あるいはピンクフロイドあたりとは完全に異質な世界であり、特に「Part Of The Dance」で強靭に蠢くエレキベースは如何にもジャズっぽく、ですからギターやキーボードのアドリブと演奏全体の雰囲気が同時期のウェザーリポートに近くなるのも当然が必然でしょうか。
あぁ、それにしてもこのA面は何度聴いてもテンションが高いですねぇ~♪
冒頭のホノボノフィーリングを最後のクライマックスでここまで過激に変質させてしまうなんてっ!?!?!
こういうものは絶対にLP片面毎の構成が必要だったアナログ盤で楽しむべきでしょうねぇ。そしてCD鑑賞だったら、この4曲を聴き終えたところで、プレイヤーを一端は止めるべきだと思います。
そうでないとB面冒頭からフェードイン気味に始まる、「Part Of The Dance」の続篇的な演奏の「Instant Kitten」が、単なる勿体ぶった儀式にしか感じられないでしょう。
う~ん、このあたりのメロトロンやファズオルガンとでも形容するしかないキーボードの多重層的絡み合いは、イアン・マクドナルド在籍時のキング・クリムゾンに匹敵する濃密さが感じられると思います。そして同時に切れ目なく続いて行く「Dedicated To Hugh, But You Weren't Listening」におけるフリージャズ指向が強い導入部から、熱いロックジャズのアドリブ合戦と集団即興演奏の凄みは流石の一言!
ちなみにこの曲はソフト・マシーンで同僚だったヒュー・ホッパーに捧げられたことが、そのタイトルの皮肉っぽさからも明らかですが、それは無暗矢鱈にフリージャズへと猛進していたと言われる当該人物への問題提起だとしたら、それはあまりにも尊大でイヤミじゃないでしょうか?
とにかく、危険極まりない演奏ですよ。
ですから、これも切れ目なく続いていく「Beer As In Braindeer」が、完全なる電子フリージャズに聞こえたとしても、それはそれでロバート・ワイアットの思惑に捕らえられたと、まさに自業自得の悪因悪果!?
そしてついにオーラスの「Immediate Curtain」で明らかになるのは、ここまでのB面の連続演奏が、全てはこの幽玄な世界に辿りつくための一本道だったという真相でしょう。おそらくはロバート・ワイアットが弾いているとされるメロトロンの響きが、如何にも当時のプログレど真ん中♪♪~♪
もう、ここまで来ると、身も心も疲れ果てることが否定出来ない雰囲気になるんですが、それは当然、心地良い疲労感だと思います。すうぅぅぅ~っと何がが消えていくような最後のフェードアウトが絶妙ですよ。
ということで、親しみ易いA面にアヴァンギャルドなB面の構成も考え抜かれた名盤だと思います。尤も「名盤」とするには、あまり売れたとは言い難いかもしれませんね。
それでも我が国では通称「そっくりもぐら」と呼ばれるほど、一部では親しまれているんですよ。サイケおやじにしても、初めてこれを聴いたのはプログレ系のロック喫茶で、それは1975年のことだったんですが、その時には既に人気盤の仲間入りを果たしていたほどです。
ちなみに当時の我国では「プログレ」というジャンルが、ハードロックと並ぶほど人気が高く、レコードも相当にマイナーなバンドまで日本盤が出るという状況になりつつありましたから、ロック喫茶では専門店のようなところもあったのです。
そしてサイケおやじが忽ち夢中になったのは言わずもがな、ソフト・マシーンは知っていたものの、このアルバムセッションで大活躍のデイヴ・シンクレアというキーボード奏者が、同じイギリスでキャラヴァンというロックジャズバンドをやっていたことを知り、ますます深みに……。
今日では、こうした一派を「カンタベリー」と称しているようですが、もちろんそれは後の造語でしょう。少なくとも1970年代の日本では、ソフト・マシーンをキーワードに聴かれていたと思いますし、それは「プログレ」で括られていたように記憶しています。
またレコードの発売状況は、珍しい作品も出るには出ていたのですが、基本的に売れていないので中古も出ないという悪循環……。結局、ここでも経済的な事情に圧迫され、どうしても聴きたければ新譜での発売時期にリアルタイムで買うか、執拗に中古盤屋を巡るかという二者択一だったように感じています。
しかし、そうやって蒐集していくレコードって、けっこう何時までも愛着が離れないんですよねぇ~♪
このアルバムも個人的には棺桶に入れて欲しい1枚になっているのでした。