OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

運命という至上のエレキ

2009-07-14 09:49:51 | 日本のロック

運命 / 寺内タケシとバニーズ (キングレコード)

渡辺香津美や高中正義、あるいはチャーがどんなに凄くても、寺内タケシには絶対に敵いません!

もちろんリッチー・ブラックモアやヴァン・ヘイレンでさえも、寺内タケシには敵ではないのです!

寺内タケシはエレキの神様!

なにしろ戦前の子供時代からエレキギターを自作し、空襲警報用のスピーカーで鳴らしていたという伝説さえ残されているのです。

生家が電気屋で、ご母堂が三味線の師匠だったという家庭環境もあったかもしれませんが、寺内タケシはギターとマンドリンに幼少の頃から天賦の才を発揮していたそうですし、学生時代からマンドリンにかけては古賀正男を感心させる腕前であったとか!

そして時代の流れでカントリー&ウェスタンやロカビリーのバンドでギターの凄腕を披露し、忽ち最高の人気を得るのですが、それが全開したのは、やはり昭和40年からのエレキブームでした。アストロノウツベンチャーズという本場アメリカのバンドと互角の、時にはそれ以上の演奏を聞かせるテクニックとエレキ魂は、今でも驚嘆の記憶になっているほどです。

しかし人気絶頂だった寺内タケシが、様々な事情と自らの病気の所為でブルージーンズを脱退したのは、当時の芸能ニュースでも大きく報道され、一時は再起不能という噂まであったところから見事に復活し、さらに大きく飛躍したのが、新バンドのバニーズを率いてからの活動です。

それは昭和41(1966)年の事でしたが、既に世間は「エレキは不良」の大合唱! しかし当時の若者はエレキにシビれ、ロックのビートで踊るのが青春の構図でしたから、寺内タケシが本当に凄いのは、そこでエレキギターを弾くだけでなく、実際に無理解な教育関係者に面談し、青少年の育成に真っ向からエレキを活かそうとしていたことかもしれません。

このあたりの活動は後に高校を巡るコンサート活動に継続され、国からも表彰されるほどの成果をあげるのですが、そんな最中に生み出されたのが、クラシックの名曲を見事にエレキ化した傑作アルバム「レッツゴー運命」でした。

このアルバムは昭和42年というGSブームの真っ只中、まさに日本のロックの全盛期に発売され、アッという間に大ベストセラーとなり、レコード大賞の編曲賞も獲得し、海外でも高く評価されるほどの大名盤になっています。

そして本日ご紹介は、そこからのシングルカットで、同年の秋に発売されたヒット盤!

A面曲はご存じ、誰もが知っているベートーヴェンのシンフォニー第五番ですが、寺内タケシのアレンジは分かり易く、さらにロックのビートを極限まで活かした痛快感が不滅ですし、なによりも本人のギターが物凄いピッキングと早弾きフレーズの大洪水! その恐ろしさゆえにバンドの纏まりが危なくなるギリギリのところまで、とにかく行ってしまおう! という勢いはロック魂究極の姿じゃないでしょうか。

ちなみに当時のバニーズのメンバーは寺内タケシ(g)、黒沢博(g)、鈴木義之(g)、荻野達也(key)、小野肇(b)、井上正(ds,per) という精鋭揃いながら、もちろん寺内タケシの厳しい指導と薫陶があっての成功でした。

寺内タケシのギタースタイルは、今の若い皆様からは古臭く感じられるという気持は私も理解出来ます。しかし、その個性は海外において「Terry-sh」と呼ばれるほどに崇められ、後追いするギタリストが今もって続出しているほどです。例えば、この「運命」で聞かれる早弾きのフレーズは、リッチー・ブラックモアが大いに影響を受けたとして既定の事実になっています。

それは体操のウルトラ級の大技が、それを個人技とした演技者の名前を付けられるのと同じほどの名誉として、まさに名人の証なんですねぇ~♪ そういうギタリストは寺内タケシの他に、我が国では存在していません。流石、レス・ポールやチェット・アトキンスと並び称される三大ギタリストのひとりだと、強く納得する他はないのです。

そして寺内タケシの凄さの、もうひとつの先進性として、バンドで使う機材の開発を自分でやってしまうことがあげられます。例えば独自開発のエレクトーンやPAシステムがあればこそ、昭和40年代から実演ライブの現場では他バンドを圧倒する音の迫力が強烈でした。もちろんバンドメンバー各々のテクニックの健実さも、それがあればこそ、尚更に輝くのです。

その強烈な印象は、実際にライブを体験するのが一番なんですが、そうした迫力を見事にスタジオでレコードに封じ込めた録音の確かさが、このレコードの魅力のひとつでもあります。特にB面収録のロック化されたシューベルトの「未完成」では、火の出るような寺内タケシのエレキのアドリブとパンキッシュな鳴り、そしてバンドアンサンブルを構成する楽器のひとつひとつが、クッキリと鮮やかに楽しめます。

それはシングル盤でありながら、「STEREO」仕様として発売されたのもムベなるかな! これは当時としても画期的なことでした。

う~ん、それにしても寺内タケシのギターは凄すぎますねぇ~~~♪

ちなみに、このシングル曲が収められた前述のアルバム「レッツゴー運命」を私は直ぐに買うことが出来ず、そこでシングル盤となったわけですが、当時の寺内タケシとバニーズはテレビでも「運命」を演奏することが多く、それでいてレコード化が遅れていた事情も鑑みれば、如何にアルバムセッションが綿密に企画進行されていたかが推察出来ます。

もちろん当時の寺内タケシは東宝映画「エレキの若大将」にも出演し、ベンチャーズとの共演ステージを筆頭に人気が大爆発した過密なスケジュールだったと思われますから、ここまで完成度の高い演奏が作られていたことは、全人類にとっての至福でしょう。

私は結局、翌年の正月にお年玉でアルバム「レッツゴー運命」を手に入れていますが、そこには当然ながら、この「運命」のシングル盤と同等の凄い演奏がぎっしり収められていました。

その感激は今も忘れていません。

クラシックの名曲をエレキで演じる企画について、リアルタイムでエレキは不良という間違った認識に対する反抗精神、だったかどうかは知る由もありませんが、とにかく痛快無比な演奏は寺内タケシの凄さの証明として、ぜひとも、お楽しみくださいませ。

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