OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

アル・クーパーの全部、持ってけっ!

2010-03-18 16:03:24 | Rock

Easy Does It / Al Kooper (Columbia)

果てしなく進化し続けた1960年代の音楽状況が、その極点に達して多様化した1970年年代、その端境期に、ど~ん、と纏めて面倒をみたのがアル・クーパーでした。

と書いたのも、当時のアル・クーパーは米国コロムビアレコードの雇われプロデューサーとして辣腕を振るいながら、案外と自由気儘に活動していた印象もあって、そういう裏事情を知らなくても、例の「スーパーセッション」や「フィルモアの奇蹟」等々のブルースロック系ジャムセッション作品、またはゾンビーズの「ふたりのシーズン」事件、ストーンズの「レット・イット・ブリード」セッションでの暗躍、ボブ・ディランやジミヘンとの共演レコーディング、さらには好き勝手に作っていたリーダーアルバムの充実度からして、まさに時代の寵児のひとりといって過言ではなかったでしょう。

当然ながら、我国の洋楽マスコミや評論家の先生方も、アル・クーパーは無視出来ないという扱い方でした。

さて、本日ご紹介のアルバムは、そんなアル・クーパーが時代の空気と状況を全く自己流に総括してしまった2枚組の大作LPとして、1970年秋に発表したものです。

 A-1 Brand New Day
 A-2 Piano Solo Introduction
 A-3 I Got A Woman
 A-4 Country Road
 A-5 I Bought You The Shoes
 B-1 Introduction
 B-2 Easy Does It
 B-3 Buckskin Boy
 B-4 Love Theme From The Landlord'
 C-1 Sad, Sad Sunshine
 C-2 Let The Duchess No
 C-3 She Gets Me Where I Live
 C-4 A Rose And A Baby Ruth
 D-1 Baby Pleade Don't Go
 D-2 God Shed His Grace On Thee

上記の演目はそれぞれに独立していながら、LP片面の流れの中では連続性が大切にされ、しかもアル・クーパー流儀のポップスはもちろんのこと、ジャズ、ブルースロック、カントリーロック、R&Bやソウル、さらに流行し始めたシンガーソングライター的な味わいやスワンプロックの先駆けのような歌と演奏がぎっしり♪♪~♪

そしてアル・クーパーは独得の「泣き節」を存分に披露する歌いっぷりに加え、ピアノや各種キーボード、ギター、シタール等々を操ってのワンマンショウながら、サポートメンバーのリック・マロッタ(ds)、スチュ・ウッド(b)、ジョー・オズボーン(b) 等々への全幅の信頼もあって、実に完成度の高い仕上がりだと思います。

まず初っ端に収められた「Brand New Day」は、これぞっ、アル・クーパーならではの熱いポップソングで、ブラスも大胆に使った躍動的な曲展開と熱血のボーカル、さらに泣きのギターとアレンジの妙はニューヨーク派の醍醐味でしょう。

さらにその終了間際から、一瞬の静寂を繋ぐ気分はロンリーのソロピアノ「Piano Solo Introduction」、そしてレイ・チャールズでお馴染みのR&B「I Got A Woman」を、最高にお洒落な雰囲気ジャズに変換した流れの良さは素晴らしい限りですよっ! この甘い雰囲気を聞かされたレイ・チャールズ御大の気持は如何ばかりか!? そんな不遜なことまで思ってしまうんですよねぇ~♪ しかも、そこにはちゃ~んと、アル・クーパー流儀のソウルフルな表現が、本当にたまりません。ちなみにアルトサックスのアドリブソロはBS&Tで同僚だったフレッド・リプシウスなのも、泣けます。

こういう自己流儀の焼き直しの妙は、ジェームス・テイラーの代表曲「Country Road」やジョン・ラウダーミルクが書いた「A Rose And A Baby Rut」でも冴えまくり♪♪~♪ 何れもオリジナルバージョンの味わいを拡大解釈したメロディ優先主義ながら、ゴスペルロックやカントリーロックといった時代の流行を先駆けているのは流石だと思いますし、アル・クーパーがそうした意匠を自ら表現した「I Bought You The Shoes」は、ストライクゾーンのど真ん中♪♪~♪

ということで、A面はアル・クーパーのポップな資質が全開でした。

それがB面に入ると、いきなりブルースロックに強く拘ったアルバムタイトル曲「Easy Does It」が、狂おしいアル・クーパー自身のボーカルとギターソロが圧倒的! 十八番のブラスアレンジも常套手段の連続ですが、こういう全て分かっている楽しみを堂々と演じてしまうあたりが、アル・クーパーの憎めなさかもしれません。個人的にも、ここで披露されるギターフレーズや音の使い方をコピーに勤しんだ過去の悪行から、何時聴いても血が騒ぎますねぇ~♪

さらに自己流ニューロックの「Buckskin Boy」から映画のサントラ音源らしき「Love Theme From The Landlord'」へと続く流れは、明らかにお気に入りだったゾンビーズっぽい溌剌と幻想が巧みにミックスされています。特に後者は幽玄のストリングに彩られた哀しみの曲メロと刹那の歌いまわしが実に良いですねぇ~♪ 歪んだ管楽器のようなシンセかギターで作られるオーケストラサウンドは、ちょいと初期のキングクリムゾンしています。

そうしたサイケデリックな味わいがニクイばかりに開花したのが、C面トップの「Sad, Sad Sunshine」でしょう。生ギターに導かれる思わせぶりなイントロからシタールやインド系打楽器がしなやかにビートを作り出せば、妖しいストリングと浮遊感に満ちた美メロがジワジワと空間に満ちていくんですから、もう最高♪♪~♪ ジョージ・ハリスンとポール・サイモンが共作したような感じとでも申しましょうか、アル・クーパーのひとり多重コーラスもジャストミートの名曲名唱ですよ。

あぁ、これを聴かずして、サイケデリックポップスは語れずと断言したいほどですが、もろちん時代は既に1970年とあって、これもアル・クーパーならではの確信犯的パロディかもしれませんね。

そのあたりは「Let The Duchess No」や「She Gets Me Where I Live」での軽いジャズフィーリング、あるいはゴスペル風味の大衆歌を些か凝り過ぎのアレンジで、さらりと歌うという十八番の披露にも共通しているのかもしれませんが、その細部にまで練り上げられたモザイク的なアレンジと演奏の緻密さは凄いと思います。

こうして迎える最終のD面は、なんとブルースの定番曲を素材に、12分を超えるロックジャズを演じる「Baby Pleade Don't Go」ですが、あくまでも演奏をリードしていくのはアル・クーパーのピアノであり、それを彩るアープシンセやオルガンで作り出される疑似ホーンセクションと本物の合成、さらに躍動的で空間の美学を大切するドラムスとベースの活躍でしょう。実際、アル・クーパーのアドリブには予め考えていたと思われるフレーズもありますし、脱力感さえ感じられるボーカルは、当時としては新しかったと思いますねぇ。

それでも饒舌がイヤミになっていないのは、この長尺演奏が意外にも飽きないからで、見事にポップなオーラスの「God Shed His Grace On Thee」が浮いてしまうほどです。

結論としては、よくもまあ、こんなバラエティに満ちた歌と演奏ばかり、それも極めて完成度の高いトラックだけを集めたもんだっ!?!

そう思うほかはありません。

こういう遣り口は、例えばビートルズの「ホワイトアルバム」に代表されるところですが、それを独りでやってしまったところにアル・クーパーの面目躍如たる存在感があるのでしょう。なにしろジャケ写からして、しっかりとリスナーを見つめているのですから!?!

2枚組ということで、リアルタイムでも後追いでも、ちょいと敷居の高いアルバムかもしれませんが、アル・クーパーを何か聴きたいと思っている皆様には、これがオススメ致します。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする