何だか、私だけが忙しまくっている1日でした。
実際、私の周囲だけ、異常に早く時間が流れている感じです。
これにはアインシュタイン博士も、相対性理論が適用出来ないと嘆くのでしょうか?
という戯言はともかく、人生を擦り減らしているような……。
ということで、本日はベテランも古いばかりではないという、これを――
■Hawkins! Alive! At The Village Gate / Coleman Hawkins (Verve)
ジャズを聴き始めた頃の私には、コールマン・ホーキンスとは古臭い人というイメージしかありませんでした。しかも全く聴いたことが無いうちから、そう思いこんでいたのです。
しかしコールマン・ホーキンスは、実は革新の塊のような人で、ジャズの世界ではリズム的なフレーズを吹くためにあったテナーサックスという楽器を、堂々とアドリブメロディを吹く楽器に変えてしまったのです。
それはもちろん、ルイ・アームストロング(tp) というジャズの革新者の影響が大きいのですが、次の革新者たるチャーリー・パーカー(as) が創出したビバップにおいても、すぐさま、それを自分なりに会得して演奏していたという、およそ老け込むことの無い姿勢は、今日鑑みても凄いものがあります。
しかし、そんな偉人を聴く機会が、私の周囲にはありませんでした。
ただ、ソニー・ロリンズのアルバム解説書なんかに、コールマン・ホーキンスの影響云々とあったので、大御所という認識はありましたが、まさか超モダンな演奏をやっている人とは思えなかったのです。
で、このアルバムは新宿の「ビザール」という駅前のジャズ喫茶で初めて聴き、そのド迫力で楽しい演奏に一発でシビレ、帰りに西口の「オザワレコード」で即ゲットした1枚です。
録音は1962年8月13&15日、ニューヨークのクラブ「ヴィレッジ・ゲイト」でのライブセッションで、メンバーはコールマン・ホーキンス(ts)、トミー・フラナガン(p)、メジャー・ホリー(b)、エディ・ロック(ds) となっています――
A-1 All The Things You Are
モダンジャズでは定番のスタンダード曲で、コード進行がとても難しい反面、面白いアドリブが出来るとされています。つまり演奏者の技量と感性がモロに出てしまうわけですが、コールマン・ホーキンスにとっては十八番とあって、モリモリと吹きまくる豪快な仕上がりになっています。
リズム隊はトミー・フラナガンが入っているので、なかなかモダンなノリなんですが、ドラムスのエディ・ロックが、やや中間派というシンバルワークなので、新旧入り混じった妙な和み感覚が素敵です。
演奏は全体的にグイノリ傾向で、こういう雰囲気はハードバップでは聴くことの出来ない痛快さがありますねぇ~♪ 後半のコールマン・ホーキンスのウネリ、またバックで煽るエディ・ロックの楽しいドラムスが、ジャズの醍醐味だと思います。
A-2 Joshua Fit The Battle Of Jericho / ジェリコの戦い
このアルバムの超目玉演奏が、これです♪
曲は黒人霊歌としてお馴染みのメロディなので、つい一緒にテーマを口ずさんでしまう楽しさから、アクセントが強烈なメジャー・ホリーのベース、忠実な伴奏に撤するトミー・フラナガンが流石の名手ぶりです。
もちろんアドリブパートでは素敵なトミフラ節の大放出♪ いかにもライブらしい荒っぽさも、楽しさのひとつでしょう。
そしてこの演奏のもうひとりの主役が、ベースのメジャー・ホリーです。その演じるアルコ弾きとスキャットの二重奏は魅力たっぷり♪ つまり口で呻いたスキャットメロディとアルコ弾きのベースソロが一緒という、スラム・スチュアートが十八番としていた名人芸に果敢に挑戦し、見事に薬籠中のものとした名演になっているのです。
あぁ、これが聴きたくて、このアルバムを聴く人が多いと♪
肝心のコールマン・ホーキンスは、かなりアグレッシブなフレーズを多用していますが、この演奏当時の1962年を考慮すれば、こういうフリーな姿勢も許容範囲です。なにしろテーマ解釈が抜群ですから、その反動として、やってしまった……! と思う他ないのです。痛快ですよ♪
B-1 Mack The Knife
さて、もうひとつの目玉が、この演奏です。
なにしろ演目が、ソニー・ロリンズの決定的名演が残されている人気曲ですし、ご存知のとおり、コールマン・ホーキンスはソニー・ロリンズに多大な影響を与えた張本人! さらにトミー・フラナガンが、その両方で脇役を務めているという因縁も興味深いところです。
で、肝心の演奏は、コールマン・ホーキンスの悠々自適な世界が存分に披露された、もうひとつの決定的なバージョンに仕上がっています。
またドラムスとベースも力強く、特にメジャー・ホリーのピチカート弾きは、ビート感も満点の素晴らしさ♪ 歌心も流石だと思います。
B-2 It's The Talk Of The Town
アルバムの締め括りは、スローな展開で男気に満ちた演奏を聞かせるコールマン・ホーキンスが、もう、最高という出来です。
当にテナーサックスの魅力が全開した魅惑の響き、歌心、サブトーンの余韻、力強く優しい叙情的なアドリブは、今の今まで、誰も乗り越えられない永遠の名演だと思います。
またトミー・フラナガンが伴奏に、アドリブソロに絶好調♪ メジャー・ホリーもスキャット&アルコ弾きの至芸を堪能させてくれます。
そしてラストテーマに入るコールマン・ホーキンスは、前衛派も顔色無しの過激フレーズまで用いたかと思えば、次の瞬間、王道のサブトーンを駆使して、本物のジャズを聴かせてくれるのでした。
ということで、これは古いとかモダンだとか云々を言う前に、コールマン・ホーキンスというジャンルを聴くぺき作品だと思います。それは間違いなくジャズの真髄であり、また同時代のジョン・コルトレーンやソニー・ロリンズ、あるいはスタン・ゲッツといった偉人に何ら遜色の無い存在感だと、私は初めて聴いた瞬間、驚愕させられました。
古いと思い込んで、聴かず嫌いしていた自分は、とんだ思い違いをしていたのです。
そして、こういう事があるから、ジャズは止められないのでした♪